世界をとめて

makikasuga

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アタッカーが開くとき

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「最近調子がいいようだね、花梨」
 その頃、花梨は養父であり主治医でもある相次郎の診察を受けていた。
「今度のお薬はよく効いたみたいよ、お父様」
「そうか。それならよかった」
 投薬自体は何も変わっていない。花梨にとって、麻百合と会えたことが一番の薬になっていた。
「お父様、お願いがあるんだけど」
「おまえの頼みなら、出来る限り叶えてあげるよ。どうしたいんだい?」
「麻百合には私の分も生きてほしい。だから、私が持っているもの全てを、委ねるつもりでいるの」
 全てを委ねるということが何を意味しているのか、相次郎にはわかっていた。
「おまえがそうしたいなら、私はかまわないよ」 
「本当にいいの?」
「私以外の人間がどういう反応をするか、気掛かりなところではあるがね」
「迷惑がかからないように、高橋に準備してもらってるの。公的な書類があれば、あの人達も文句は言わないと思うし」
 公的な書類を揃えたとしても、覆されれば終わりだ。浅田の人間は欲深い。花梨を養女にすると言った際も散々反対され、宥めるのに相当な時間と金を必要とした。
「私がいなくなっても、麻百合とコウちゃんを見捨てたりしないで。お願いよ、お父様」
 物心ついた頃から、自分がどう立ち回ればいいかを花梨はわかっていた。見た目の儚さとは裏腹にとても芯の強い子なのだ。
「わかった。約束しよう。その代わり、一日でも長く生きてくれ。私の娘として側にいてくれ」
「ありがとう。私、お父様の娘で本当によかった」
「それは私も同じだよ、花梨。おまえは私の自慢の娘だからね」
 目の前で微笑む花梨を見て、相次郎は心に誓った。
 娘の願いとあらば、どんな手を使っても叶えてやるだけだ、と。

「高橋、連絡を取ってほしい相手がいる」
 相次郎は花梨の部屋を出ると、外で待機していた高橋に言った。
花村謙三はなむらけんぞう氏ですね」
「そうだ。悪いが、君の父上からということにしてほしい」
「その方がよろしいかと思われます。他の者が既に手を回している可能性がありますから」
「そうだな。浅田の動きも探ってくれ。どんな小さなことでもいい。動きがあれば伝えてくれ」
「かしこまりました」
 高橋は顔色ひとつ変えずに返事をした後、相次郎に一礼した。
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