世界をとめて

makikasuga

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神様がくれた保留連

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「高橋の奴、片づけてなかったのかよ」
 ベッドは整えられ、椅子の上には洗濯したであろう服やタオルが折りたたんで置かれている。この部屋で暮らしていたことがわかるように。
「どうせここに住むんだし、また着ればいいじゃない」
「仕事中はスーツ着ろって言われてっから」
「でも、ずっと仕事ってわけじゃないでしょ?」
 麻百合は何の気なしに言ったのだが、コウは少しばかり困ったような顔になった。
「ずっと仕事だよ。交代要員なんかいねえから」
「だったら、いつ休むわけ?」
「おまえが寝てるとき? いや、そん時狙われたらマズいか」
「ダメだよ、そんなの、倒れちゃう!」
 麻百合は真剣に訴えたが、何がおかしいのか、コウはクスクスと笑い出す。
「ちょっと、笑ってる場合じゃないよ」
「いや、俺、いつ休めばいいんだろうなって。そういうの、全然言われてなかったからさ」
「大事なことなのに、どうして聞いておかなかったのよ」
「確かにそうだな。つーわけだから、寝るときは俺と一緒な」
 わかったと返事をしようとして、麻百合は我に返った。
「ちょっと待って、今なんて言った?」
「寝るときは俺と一緒。そしたら、なんかあっても護れるし、俺も眠れる。一石二鳥だろ」
 我ながら名案だなと呟き、コウは腕組みをして何度も頷いた。
「いや待って、そんなの、いきなり無理だってば!?」
 コウは男で、麻百合は女で。大人の男女が一緒に寝るという意味がわからない麻百合ではない。
「なんで?」
「なんでって、子供じゃないんだから、無理に決まってるじゃない!」
 麻百合は顔を真っ赤にして後退り。そんな様子に気を良くしたのか、コウは麻百合の腕を取って引き寄せ、優しく抱きしめた。
「そうだな。ガキじゃねえから、ただ寝るだけじゃ済まねえかもな」
「昨日のことは忘れろって、そっちが言ったんじゃない!?」
 勢いで告白して、コウからも好きだと言われたのに、程なくして、やっぱり忘れろと言われた。麻百合の片思いなのか、そうでないのか、結局わからないままである。
「うん、確かに言ったな。つーか、レイと一緒にいたおまえ、一瞬誰だかわからなくて、びっくりしたよ」
 肯定しておきながら、コウはなぜか話をそらす。
「そうだよね、似合ってないよね、この服。早く着替えたいよ」
 コウに言われ、ますます居心地の悪さを痛感して、麻百合は大きな溜息をついた。
「はあ? 誰がそんなこと言ったよ」
 コウは、麻百合の右手を取り、手の甲にそっとキスをした。
「綺麗で可愛くて、ますます目が離せなくなった。仕事じゃなきゃ、このままベッドに押し倒して、俺のものにするんだけどな」
 天然かつ無自覚な気障男は、今日も健在のようだった。
「ちょっと、待って、いきなり何言い出すのよ!?」
「そのドレス、後で脱がせていいか?」
「やだ、もう、何言ってるか、全然わかんない!?」
 歯の浮くような台詞を至近距離かつ真顔で言われ、麻百合はパニックになった。逃げようともがいても、コウはそれを許してくれない。それどころか、自分のものだと言わんばかりに、強く抱きしめられてしまった。
「麻百合が思う幸せってさ、どういうもの?」
 淡々とした口調で話しているが、コウの胸の鼓動はやけに早かった。ひどく緊張しているかのように。
「昨日も言ったけど、俺、麻百合のことが好きだ。でも俺はこんな状態だし、普通につきあうとか結婚とか無理だろ。だから忘れてくれって言った」
 そこまで話して、コウは麻百合を離した。恐る恐る顔を上げてみれば、目の前でコウは笑っていた、とても穏やかな表情で。
「でも、あの後マキに言われたんだ。幸せの形は人それぞれ、一緒にいるだけで幸せだったりするって」
 レイや高橋と食事を終えた後、麻百合は別の部屋へ案内され、コウと会うことは出来ずにいた。
「確かにそうだなって、今のおまえを見て気づいた。休みなんかなくても、眠れなくても、麻百合と一緒にいられたら、俺は幸せなんだよ」
 そう言って、コウは麻百合の額にそっとキスをした。
「麻百合もさ、今すぐじゃなくていいから、自分が幸せだと思うことを見つけてくれよ。勿論それは俺じゃなくてもいい。だからといって、おまえを護ることをやめたりしないから」
 麻百合の心臓が、これでもかと言わんばかりに騒がしくなった。
 同時に、全てを悟りきったようなコウに不安を覚えた。
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