Fの真実

makikasuga

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過去~Fの正体~

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「確かに。バラした方が口封じになるしね」
 通信が切れて以降、マキは蓮見の机に突っ伏していた。怒りが冷めて暇になったのか、話に割り込んできた。
「殺すつもりの相手を生かす理由ってなんだと思う?」
 殺しを仕事としているマキに聞くのは間違っているが、どうにも気になって、直人は訊ねた。
「そんなのわかんないよ。僕はレイに言われたことをしているだけだから」
「そういう状況のとき、レイならきちんと説明するだろ。殺したい程憎んでいる相手を殺さない理由ってやつを」
 レイの名前を出したからか、マキはうーんと唸った。
「利用価値があるからとか、後でバラした方が都合がいいとか? ほとんどないことだけど、情に絆されたとか?」
「ほとんどってことは、情に絆されたことがあるんだな」
 蓮見が口を挟んだ。マキはあるよと言って、直人を見て笑う。
「ナオを助けてってレイにお願いした。サカさんには嫌味言われたけど、レイは僕のわがままを聞いてくれたんだ」
 まさか自分の話になるとは思わず、直人は焦った。
「あのときのナオは、自分が死ぬことを恐れてなかったし、すぐ受け入れた。人ってさ、死が怖いのが普通なんだよ。病気とかで判断がつかなくなってる以外、どれだけ死にたいと思っていても、死を前にすれば、生きたいと願うのが当たり前。僕らのように、常に死と隣り合わせにいる人間以外は」
 マキはそこで言葉を切ると、直人を心配そうに見つめてきた。
「僕が言うのもなんだけどさ、ナオはどんどんこちら側に足を突っ込んできているよ。それがどういうことか、よく考えてよね」
 マキに真顔で諭されるとは思わず、直人はますます焦った。
「なので、ハスミン、ちゃんとナオをつなぎ止めておいてよ」
「そうだな。桜井君がいなくなったら、俺は失業だし」
 なぜか通じ合うマキと蓮見。飲み仲間ということもあってか、息ぴったりである。
「なんで俺の話になってんだよ。藤井さんの話をしてたのに」
 二人に諭されたことで、直人は不服を訴える。別に死にたがっているわけではない。運命に抗うのを止めただけなのだ。
「案外、藤井も同じかもしれねえな。草薙さんを殺す程憎んでいたが、いざ本人を前にしたら情が湧いたとか」
「ですが、脅迫文には、次は手加減しないと書いてありましたよ」
 あれが手加減だとすれば、次は殺すということになる。
「ねえ、脅迫文ってなに?」
 その場に居なかったマキが聞いてきた。
「草薙さんが持っていたんだ。おまえの罪は、おまえの死を持ってしか償えない。今度は手加減しない。Fの無念を晴らすためにもって書いてあった」
「えー、それ、なんか変」
 マキはのろのろと立ち上がり、大きく伸びをする。全ての動作が猫っぽくみえて仕方ない。
「死んでも罪なんて消えっこないじゃん。それにさ、無念を晴らしたところで、その人はもう死んでるし」
 言われてみれば、その通りである。
「だいたいさ、無念ってなに? レイに聞いたけど、そのFって人はボスと草薙の友達なんでしょ。友達だったら恨んだりしないんじゃないの?」
 マキが事件に対して饒舌なこと、何より彼の考え方が新鮮だったことで、直人は思わず食いついた。
「それで!?」
「それでって、それだけ」
「他に思いついたことないか? なんでもいいから言ってくれ!」
「そうだなぁ、これって、草薙が持ってた脅迫文なんだよね?」
 そうだと言わんばかりに直人が頷けば、マキはこんな言葉を漏らした。
「もし、ボスが持ってたら、僕達がスクランブルかけるなーって思った」
「スクランブルってなんだ?」
 またまた蓮見が口を挟んだ。
「手加減無しってことかなぁ。これやると、派手になるから後が大変なんだよねぇ」
 直人は、脅迫文の文章を改めて思い返した。

 おまえの罪は、おまえの死を持ってしか償えない。今度は手加減しない。Fの無念を晴らすためにも。

(おまえ、まだ庇うつもりなのか?)

 脅迫文の存在を明らかにした際、花村は草薙に向かってこう言い放った。この言葉からして、花村は藤井慶の存在を以前から知っていたことになる。
「あ、もう一つ思いついた。そのFって人、ハナムラの人間にバラされたんだよねえ。真相知ったらさ、草薙だけじゃなくボスも恨むかもね」
「それ、それだよ!?」
 直人は立ち上がり、マキに詰め寄った。
「マキ、俺を花村さんのところへ連れて行ってくれ!」
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