Fの真実

makikasuga

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真相~Fの言霊~

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「マキは一緒じゃねえのかよ」
『近くで待機しているんじゃないかしら。彼、マキの商売道具を持っていたようだし』
 花村の室内には、不審者を入れないように数々の仕掛けを施している。シラサカやマキが使う拳銃は予め登録してあるが、それでも武器を持った人間が入室すれば、センサーでわかるようになっている。
『そうそう、死体といえば、ウチの人間を貸してほしいって話はあったわよ』
「掃除屋のレンタルなんて聞いたことねえぞ。断ったんだろうな!」
『勿論よ。レイを通じてしか仕事を請けるなって、花村からキツく言われてるから。但し、私の命令を聞かないバカが突っ走ったのなら、話は別だけど』
 サユリもレイと同じ可能性を思いついたようだ。
「やっぱりあの新人か」
『そうね。まだ、浅田のことをきちんと教えていないから』
 サユリの口から浅田という名前が出てきた。旧財閥浅田家は、花村の血族だ。財閥解体で表舞台から姿は消したものの、大昔から裏社会を牛耳ってきた。
「浅田の人間が、掃除屋のレンタルを依頼してきたのかよ」
 これが始末屋ならわからないでもないのだが、掃除屋だけに接触するのは不可解である。
『そうよ。メールだったから悪戯かもしれないけどね』
「メール? 送り主は誰だ?」
『確か、アサダフユツキって書いてあったわ』
 その名前を聞いて、レイは驚愕した。
 浅田家の現在の当主は浅田相次郎あさだそうじろう。医師である相次郎が当主になったのは、世間体を考えてのことであったが、それを押し進めたのが、彼の父親であり相次郎の以前に当主であったが、浅田冬月あさだふゆつきである。
 その上で、草薙が持っていた脅迫状の文面を思い起こした。

 おまえの罪は、おまえの死を持ってしか償えない。今度は手加減しない。Fの無念を晴らすためにも。

 脅迫状は、藤井が草薙に出したものだと思い込んでいた。だからこそFは藤井英介だと思っていた。だが、藤井のFではなく、冬月のFだとしたら……!?

『ねえ、もういいかしら。私、忙しいの。受付からまた急な来客の問合せがあってね。花村は今モルモット君と一緒だし、ホント困っちゃう』
 サユリの声で、レイは我に返った。花村は事前にアポイントを入れた人物としか会わない。そうでない来客は、サユリが対処することになっているのだ。
「来客って誰だよ」
『モルモット君の親戚みたいなところね。警察庁警備局警備企画課の蓮見って人』
 それは蓮見の以前の肩書きである。誰かが蓮見の肩書を使って、強引に花村に会おうとしているのだ。
「サユリ、そいつは別人だ。蓮見さんはナオの同僚で警視庁の人間、肩書を偽って訪ねるなんて有り得ねえとボスに伝えろ。今すぐそっちに行く!」
『ふーん。面白い事が始まりそうね』
「相手は刑事をバラして平気でいられる奴だ。念のため、一般人を避難させとけ」
『避難って、そんなの私の一存じゃ──』
 サユリの言い分を聞くことなく、レイは電話を切った。その後振り返り、シラサカにこう言い放つ。
「シラサカ、拳銃を持ってこい。それから、カナリアにすぐ車を出せるように言っとけ」
「オーケー、オーケー。ドンパチに備えろってことだな。面白くなってきやがった」
「面白くもなんともねえよ。俺達は、ボスと草薙に振り回されただけだからな」
 冬月は花村の実の父親でもある。彼が浅田の姓を名乗らないのは、愛人に産ませた子供だから。それでも浅田の血族であるということから、花村の姓を名乗らせたという話だった。
「ボスと草薙に振り回されたって、どういう意味だ?」
 シラサカの問いかけを無視し、レイは部屋を出て、藤井の側に佇む藤堂の元へ向かった。
「藤井の死を公にするか、俺達と一緒にくるか、今すぐ選べ」
 藤堂は立ち上がり、レイを睨みつけた。
「もし表沙汰にするというのなら、おまえをここでバラす」
「選択肢は一つしかねえってことかよ」
「そうだ。おまえは知りすぎている。俺達側につけないなら、草薙の息子であっても、生かしておけない」
「藤井さんの死を、無かったことにしろって言うのかよ!?」
「草薙が殺人犯になってもいいのか?」
 レイが発した殺人犯になるという言葉に、藤堂は動揺を見せた。
「部屋の主であるナオのアリバイは証明出来る。だが、ここで療養していた草薙はどこへ行った? 藤井を殺害して逃亡したと思われても仕方のない状況だぞ」
 だからこそ、瀕死の藤井ひとりをここに残した。藤堂がここを嗅ぎつけて訪ねてくることを想定して。
「こんな酷い殺され方をしても、黙ってろって言うのかよ!?」
「おそらくこれは草薙の失脚を狙ってのこと。警察内部にも内通者がいる」
 ゼロの肩書を使って蓮見になりすましたことが、それを示している。
「心配するな。仇は取ってやる。もっとも俺達じゃなく、ボスと草薙がやることになるだろうけど」
「あんたらのボスと総監が?」

(レイ、Fの真実を知れ。そうすれば、我々が存在する意義がわかる)

 ヤスオカの自宅近くで会った際、花村が放った言葉の意味がようやくわかった。
「二人は全てを捨てる気でいる。そんなことさせるか。ハナムラはこの世界に存在しなければならない必要悪だからな!」
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