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55:白い花(sideレティシア)
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ギルバートが帰国してどのくらいの時間が経ったのだろうか。
文箱の中にしまわれた手紙は日に日に増えていく。
「姫さま、どうかなさいましたか? 最近、元気がないみたいですが」
侍女のアンが心配そうに声をかけてきた。
それほどまで態度に出ていたのだろうかと、あわてて笑みをみせる。
「そんなことないわ。ただ、アンはジニーともうじき婚約するでしょ。そうしたら、会えなくなって寂しいなって思って」
「嘘でも、そんなことを思ってくださっているなんて嬉しいです。けれど、本当はギルバート大公子のことを考えていのでしょう」
アンには敵わないなと苦笑する。
幼いころに歳の近い遊び相手として乳母と騎士団長の間の娘が選ばれた。だからアンとは長い付き合いであり、隠し事は見抜かれてしまう。
「大公子さまとの婚約で悩んでいるんですよね。あの人がお嫌いですか?」
「まさか! す、好きよ。うん、大好き」
「うちのお姫さまにこんな表情をさせるなんて、ちょっと憎らしい!」
口に出すと異様に恥ずかしくて、顔があつくなる。手元にあった扇子でパタパタとあおぐ。
「それじゃあ、何でお悩みなんですか? こんな事を言うのもあれですが、優良物件ですよ。顔も家柄も申し分ない。これほどまでに姫さまに尽くしていますし。手紙もまめに送ってくれて。甲斐性のある男だと思いますけど」
アンは部屋にある、アクセサリーやドレスをさして言った。
「うぅ。だからよ。私なんかがギルバート様のお相手だなんて不相応よ」
「姫さまはどうして、時折自分を卑下なさるんですか! 大公子に姫さまは勿体無いことはあっても、その逆はないです!」
「そんなこと言われても」
彼のことは昔から、レティシアではない時から好きだったのだ。そんな彼と婚約するとなると、不安や緊張で気持ちが滅入ってしまう。
「お相手のことが好きなんですよね? どうして拒む必要があるんですか」
「だって、彼が婚約するのは政治的理由があるからよ。私の一方的な想いで、きっと困らせるわ。あの人を幸せにできるか不安だし、もし、彼に他に好きな人ができたら? こんなに早く決めてしまっていいの? 」
アンは私の言葉にあきれたようにため息をついた。
「いいですか。あなたのそれはただのマリッジブルーです。大公子はどう考えても姫さまのことがお好きですよ。それと、あなたは幸せにするのではなく、幸せになるほうです。そこは能動ではなく、受動でいてください」
「表面上は私のことを好きだと誰でも言うわ」
「ひねくれたことを言わないでください。あなたはもっと狡くなるべきですよ。政治的な理由であれ、婚約するんですから、それを利用して正真正銘あなたのものにすればいい」
アンは強い子だ。
彼女の激励にありがとうと言っても、やはり不安はぬぐえない。
「姫君、トニーです」
扉を叩いて、ギルバートが置いていってくれた彼の部下が声をかけてきた。
「我が主がもうじき到着するようです」
トニーの言葉に私は複雑な表情をした。
嬉しいはずなのに、どんな顔をしたらいいかわからない。手紙は楽だった。顔をみせずに、ただその時あった出来事を書けばよかったから。
せっかくトニーが知らせてくれたのに、心の準備が終わる前に彼は私の前に戻ってきた。
「ティジ。約束通り戻ってきました」
満面の笑みが眩しくて目が痛い。
彼が花束を抱えながら寄ってくる姿に、耳としっぽがはえている幻覚すらみえるほど、目にダメージをおったようだ。
「花、気に入りませんでしたか?」
「いいえ。嬉しいわ」
花束を受け取ると、ギルバートは嬉しそうに笑った。
彼はこうやって花を贈ってくれることがよくある。季節の花々や珍しい品種など様々だが、その中には白い花は一輪もない。
彼にとって白い花は特別なのだ。
それはヒロインから初めてもらった思い出の花であり、彼がヒロインと再会し愛と忠誠を誓う花畑に咲く花。名前も知らない、おそらくゲームオリジナルの花。
私はその花を貰うことはできない。
カラフルな花束を抱いて私は微笑んだ。
「ありがとう」
文箱の中にしまわれた手紙は日に日に増えていく。
「姫さま、どうかなさいましたか? 最近、元気がないみたいですが」
侍女のアンが心配そうに声をかけてきた。
それほどまで態度に出ていたのだろうかと、あわてて笑みをみせる。
「そんなことないわ。ただ、アンはジニーともうじき婚約するでしょ。そうしたら、会えなくなって寂しいなって思って」
「嘘でも、そんなことを思ってくださっているなんて嬉しいです。けれど、本当はギルバート大公子のことを考えていのでしょう」
アンには敵わないなと苦笑する。
幼いころに歳の近い遊び相手として乳母と騎士団長の間の娘が選ばれた。だからアンとは長い付き合いであり、隠し事は見抜かれてしまう。
「大公子さまとの婚約で悩んでいるんですよね。あの人がお嫌いですか?」
「まさか! す、好きよ。うん、大好き」
「うちのお姫さまにこんな表情をさせるなんて、ちょっと憎らしい!」
口に出すと異様に恥ずかしくて、顔があつくなる。手元にあった扇子でパタパタとあおぐ。
「それじゃあ、何でお悩みなんですか? こんな事を言うのもあれですが、優良物件ですよ。顔も家柄も申し分ない。これほどまでに姫さまに尽くしていますし。手紙もまめに送ってくれて。甲斐性のある男だと思いますけど」
アンは部屋にある、アクセサリーやドレスをさして言った。
「うぅ。だからよ。私なんかがギルバート様のお相手だなんて不相応よ」
「姫さまはどうして、時折自分を卑下なさるんですか! 大公子に姫さまは勿体無いことはあっても、その逆はないです!」
「そんなこと言われても」
彼のことは昔から、レティシアではない時から好きだったのだ。そんな彼と婚約するとなると、不安や緊張で気持ちが滅入ってしまう。
「お相手のことが好きなんですよね? どうして拒む必要があるんですか」
「だって、彼が婚約するのは政治的理由があるからよ。私の一方的な想いで、きっと困らせるわ。あの人を幸せにできるか不安だし、もし、彼に他に好きな人ができたら? こんなに早く決めてしまっていいの? 」
アンは私の言葉にあきれたようにため息をついた。
「いいですか。あなたのそれはただのマリッジブルーです。大公子はどう考えても姫さまのことがお好きですよ。それと、あなたは幸せにするのではなく、幸せになるほうです。そこは能動ではなく、受動でいてください」
「表面上は私のことを好きだと誰でも言うわ」
「ひねくれたことを言わないでください。あなたはもっと狡くなるべきですよ。政治的な理由であれ、婚約するんですから、それを利用して正真正銘あなたのものにすればいい」
アンは強い子だ。
彼女の激励にありがとうと言っても、やはり不安はぬぐえない。
「姫君、トニーです」
扉を叩いて、ギルバートが置いていってくれた彼の部下が声をかけてきた。
「我が主がもうじき到着するようです」
トニーの言葉に私は複雑な表情をした。
嬉しいはずなのに、どんな顔をしたらいいかわからない。手紙は楽だった。顔をみせずに、ただその時あった出来事を書けばよかったから。
せっかくトニーが知らせてくれたのに、心の準備が終わる前に彼は私の前に戻ってきた。
「ティジ。約束通り戻ってきました」
満面の笑みが眩しくて目が痛い。
彼が花束を抱えながら寄ってくる姿に、耳としっぽがはえている幻覚すらみえるほど、目にダメージをおったようだ。
「花、気に入りませんでしたか?」
「いいえ。嬉しいわ」
花束を受け取ると、ギルバートは嬉しそうに笑った。
彼はこうやって花を贈ってくれることがよくある。季節の花々や珍しい品種など様々だが、その中には白い花は一輪もない。
彼にとって白い花は特別なのだ。
それはヒロインから初めてもらった思い出の花であり、彼がヒロインと再会し愛と忠誠を誓う花畑に咲く花。名前も知らない、おそらくゲームオリジナルの花。
私はその花を貰うことはできない。
カラフルな花束を抱いて私は微笑んだ。
「ありがとう」
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