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第22恐怖「故障中」
しおりを挟む加藤さんという男性が都内のマンションに住んでいたときの話。
ある日の夜、加藤さんは小腹が空いたのでコンビニへ行くことにした。四階の自室を出て外廊下を進み、エレベーターに乗り込む。
そのエレベーターはずいぶん古びており、加藤さんはあまり好きではなかった。年季が入っているだけでなく、狭いし、蛍光灯は弱い。全体的に雰囲気が暗いのだ。
加藤さんが操作盤のボタンを押すと、ドアがガタつきながらもゆっくりと閉まり始めた。いつものことだが、少々不安がよぎる。昇降途中で停止するなんてことがあってもおかしくないのではなかろうか。
と、不意にドアが静止した。閉まりきる前だった。
一瞬焦ったが、ドアは次の瞬間には開き始めていた。誰かが乗ってくるのだろう。
しかし、ドアが開ききったとき、エレベーターの前には誰もいなかった。
加藤さんは廊下を見渡して辺りを確認し、首をひねった。誰もいないのに、なぜドアが開いたのだろうか。
ふたたび、ボタンを押してドアを閉める。ドアはゆっくり閉まっていく。
と、またもやドアが途中で静止し、一瞬の間を置いてから開き始めた。
なんだというのか。
もう一度廊下を確認するが、誰もいない。ピンポンダッシュのような遊びをしている人物がいるとは思えない。
閉まるのボタンを連打する。ドアはいつもの調子で動くには動く。だが、三度、途中で開き始めてしまった。
「なんだってんだよ、くそ」
加藤さんはエレベーターから降り、階段を使った。
たぶん、故障だろう。やはりガタがきていたのだ。
一階まで降りて、コンビニへ向かう前に、管理人室の窓を覗いた。人の姿はなかった。
加藤さんは管理人に連絡し、エレベーターの一件を伝えた。
翌日の夕方ごろ、加藤さんが仕事から帰ると、エレベーターには故障中という張り紙がされ、足元にバリケードが置いてあった。縦長の窓の奥には、作業員の姿が見える。
ついでに蛍光灯も変えてはくれないだろうか。この際LEDにするべきだ。
そんなことを思いながら加藤さんは階段を四階まで上がった。
その夜、インターネット決済の支払いをするため、加藤さんはコンビニへ行こうとした。
エレベーターを確認すると、張り紙もバリケードもなかった。すっかり作業が終わったらしい。
加藤さんは点検がてらエレベーターに乗り込んだ。相変わらず蛍光灯は暗いままだったが、ドアは幾分かスムーズになった気がする。
乗り込んだあとも異常なくドアが閉まり、加藤さんはほっとした。
だが、問題はそのあとだった。ドアが完全に閉まっても、エレベーターが動かないのだ。
おやっと思い、もう一度、一階のボタンを押した。ボタンは点灯しているものの、シャフトはじっと沈黙したままだ。
焦って、一階のボタンを連打した。
とそのとき、最上階である五階のボタンが点灯した。なんでだろうと思う暇もなく、続けざま、四階、三階、二階と、すべてのボタンが点灯する。
しかし、エレベーターは動かない。
慌てて、開閉ボタンを押す。冗談じゃない。お願いだから、開いてくれ。
問題なく、ドアが開いた。
開ききらないうちに、加藤さんはエレベーターから飛び出した。
振り返ると、エレベーターは勝手に閉まり、スーッと下降していった。
直っていないばかりか、悪化しているじゃないか……まるでからかわれているみたいだ。
加藤さんはそう思い、管理人に苦情を入れた。もちろん悪いのは管理人ではなく修理を担当した業者だが、閉じ込められそうになった体験のあとでは、冷静でいられなかった。
それから数日の間、エレベーターは故障中の張り紙とバリケードによって封鎖された。
作業が長引いているのは誰の目にも明らかだった。
結局、バリケードは撤去されたが、張り紙がされたまま、一週間以上が過ぎた。
ある夜、加藤さんがコンビニへ向かおうとすると、エレベーターの前に管理人がいた。
「こんばんは」
加藤さんが声をかけると、管理人は苦い顔を浮かべて会釈した。気になってエレベーターに近づくと、管理人は「作業中ですので」と加藤さんを止めようとした。
ひょいと身をかわしてエレベーターを覗き込む。
エレベーターの中には、和服姿の男性が、白い紙の束のついた棒を振っていた。
お祓いだ。
加藤さんはゾッとして、管理人のほうを見た。
管理人は「すみませんね」とボソボソ謝った。
翌日、エレベーターは問題なく使用できるようになっていたという。
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