25 / 60
第25恐怖「降車ボタン」
しおりを挟む高校生のMさんが、友達と東京へ遊びに行った帰りのことだ。
地元の駅に到着した時、すでに辺りは暗くなり始め、冷たい風が吹いていた。
駅舎から出ると、ロータリーに友達の親御さんの車が待機していた。Mさんは自転車だったため、そこで別れの挨拶を交わし、友達は車に乗り込んだ。
車が出ていくのを見送ってから駅を離れ、Mさんは自転車を停めた駐輪場まで歩いた。
ところが、駐輪場に自分の自転車が見当たらない。
付近も含めてよく確認するも、やっぱりない。鍵はかけていたが、盗まれたに違いない。
Mさんはどうしようかと考えた。
歩いて帰ると、この寒空の下で一時間近くかかる。親はこういうときに迎えにきてくれるタイプじゃない。
仕方ない、バスを使おう。
わりと近所まで行けるし、確かこの時間帯なら少し待てばやって来るはずだ。
Mさんはロータリーに戻ってバスを待った。
十分ほどでバスがきた。
乗り込むと暖房が効いておりホッとした。車内には五、六人ほどしかおらず、問題なく座席に落ち着けた。Mさんは前の方の席に座った。
それから五分ぐらいで、あっという間に他の人たちは降車し、車内は貸し切り状態になった。
あと数カ所のバス停を過ぎれば最寄りに到着する。
と、最寄りから二つ前のバス停に差し掛かった時、突然、ビーッと車内にブザーが響き渡った。
あれ、とMさんは思った。自分は押してないのに、降車ボタンが点灯したのだ。
後ろを振り返り車内を確認するが、誰もいない。
どういうことだろうか。
バス停に到着すると、扉が開いた。だが降りる人はいないし、バス停にも誰もいない。であれば止まることなく通過するはずなのだが。
誰も乗り降りせず、扉が閉まった。バスは発進する。次の停留所がアナウンスされる。と、またもや、Mさんが押していないにも関わらず、ブザーが鳴り、降車ボタンが点灯した。
そして同じように、誰も乗り降りしないのにバス停に止まった。
おもわず、運転手さんの横顔をちらりと覗き込んだ。もし自分がイタズラをしていると思われたら嫌だった。だが、運転手さんは何食わぬ顔だった。Mさんはなんだかソワソワした。
扉が閉まり、やっと最寄りのバス停がアナウンスされる。
反射的に、Mさんは素早く降車ボタンに手を伸ばした。
が、しかし。
Mさんが押すより一瞬早く、ビーッとブザーが鳴り、ボタンが点灯する。
全身に鳥肌が立った。何が起こっているのか……なんだか気持ちが悪い。
改めて車内を見渡すが、もちろん誰もいない。まさか子どもが座席に身を潜めていてイタズラでもしているのではと思ったが、その気配はまったくない。
とすると、単なる故障なのだろうか。
考えを巡らせているうち、最寄りに到着した。
Mさんは前方の扉から降りる際、運転手さんに声をかけた。
「あのう、このボタン、壊れてませんか?」
運転手さんは無言で、怪訝な顔をMさんに向ける。
「誰も押してないのに、このボタン、勝手についてたんですよ」
しかし、やはり運転手さんは眉をひそめるばかり。
と、そのときだった。
すぐ後ろから女性の声がした。
「早くして」
バッと振り返る。だが、そこには誰もいない。
怖くなって、Mさんは慌ててバスから降りた。
Mさんのあとには誰も降りてこない。
バスは何事もなく発進し、すぐに見えなくなった。
Mさんはあまりの恐怖でしばらくそこで立ち尽くしてしまった。
あのバスには、何か得体の知れないものが乗っている。それも、一人ではないのでは。
それからというもの、Mさんは人の少ない乗り物を怖がるようになったという。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる