スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第573話:お婆ちゃんっ子

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「『無兵オメガ』…ふむ。魔法陣自体は、この老いぼれでも組み上げられる構成ですね」


 グスタフから本を受け取り、私も記載された内容を確認した。
 率直に述べた最初の感想を聞いた孫は、嬉しそうに目を輝かせる。


「じゃ、じゃあ…!」

「しかし、書いてある効果のほどがまだよく知れません。迂闊に『滅霊シャード』の魔法を使用しては危険です」

「ええ!?」


 つい最近、何十年かぶりに新たな能力を習得したばかりだ。
 老いたこの身では、ひとつ魔法を使用するだけでかなりの体力を減らしてしまう。

 また、暴走した『妖魂アニマ』の一件もある。
 余計な魔法を放って、騒ぎをこれ以上大きくしたくないという気持ちもあった。

 なにより…これはだ。
 どうしてこのような物騒な魔法を、愛しい我が孫に掛けられようか。


「フン、先ほどの威勢のいい啖呵はどうした?
 アナタシア。貴様は己の生涯をドノヴァンに捧げ、御先祖に忠義を尽くすのではなかったのか?」

「現在、我らは追い詰められている立場であることを忘れてはいまいな?
 持てる手段をすべて用い、マミヤ一派をこの地より撃退せねばならんのじゃぞ」

「お前の孫の勇敢な心を踏みにじるな。
 元を辿れば、グスタフ君に『妖魂アニマ』を継がせる予定だったではないか。
 それにこちらは究極ではなく戦闘…なんの問題がある?」


 私以外の族員たちは、全員グスタフの意見に賛成のようだ。

 …他人事だ。なんとでも口は回せる。
 自らが生き残りたいがために、なんと身勝手な男どもだ。


「…ならば、ひとつ皆に問いましょう。
 貴方がたはグスタフと共に『滅霊無兵シャード・オメガ』を受ける覚悟はあるのですか?」

「「「!?」」」

「当然、引き受けてくれるでしょう?
 この本に書かれている内容が安全と知れば、私も記された戦闘魔法を遠慮なく使える」

「そ、それは…」

「なに、断ると? それはこう言いたいのか。
 荒事や面倒事は我らに任せ、自らは腰を落ち着け高見をしたい」

「「「………」」」

「愚かな…いつからお前たちはこの私に命令できる立場になったのです?」


 睨みを利かせた眼差しをグスタフ以外に送ると、全員の額に脂汗が滲み出てきた。

 この時は全く気付いていなかったが、無意識のうちに『滅霊シャード』まで出していたそうだ。

 ジリ…と歩みを進めると、グスタフが慌てて間に入ってきた。


「待ってくれ、婆ちゃん! 俺なら大丈夫だ!」

「何を言ってるのです。お前は…」

「俺、ガキん頃から婆ちゃんによく魔法とか勉強とか教えてもらっただろ?
 けど俺、頭悪くてあんま覚えらんなくて…だからせめて、今日くらいは婆ちゃんの役に立ちてえんだ!」

「グスタフ…」


 グスタフは胸に手を当て、訴えるような口調で私の前に立ち塞がった。
 そして、孫の抗議は続けられる。


「婆ちゃん、命短くなっちまったんだろ…?
 だったらよぉ、なおさら俺にやらせてくれよ。
 婆ちゃんが元気なうちに、最後にデカい花火…この手で見せてやりてえんだ」

「……!」


 なんと、健気な孫だろうか。

 本当に愚かな人間は、私だった。
 この子を案じるあまり、この子に劣等感を抱かせてしまっていたとは。

 だが…知らぬ間に、お前は祖母想いの素晴らしい青年に育っていたのですね。

 ならば私も、その想いに応えなくては。


「誇り高きドノヴァンのもののふよ。
 お前の覚悟、しかと受け取りました。
 何としても今日中に…『滅霊シャード』の加護を、この婆が授けます!」


 ☆☆☆


 グスタフが見つけた本には、『滅霊シャード』を使ったあらゆる戦闘魔法、そして『妖魂アニマ』を用いた数々の技が記載されていた。

 だが…どれもこれも、胡乱な技ばかり。
妖魂アニマ』単体のみでも充分強力だ。

 私がそう思えるのには、〝戒め〟の水晶玉を手にし、最初に『滅霊シャード』の力に目覚めたときにある。

 幻霊ファントムで使えた多くの戦闘魔法は、この滅霊シャードでも使用可能だった。

 加えて、発現した人型のナニカに身を委ねた瞬間、『アニマ』とはどんなモノなのか、一瞬にして理解できた。

 抑圧されたもうひとりの己を引き出し、秘めた力を解放する…。

 そしてこの水晶玉には、それらを統率する力がある。
 うまく利用すれば、騒がしい今のドノヴァンをひとつにまとめることも夢ではない。


「彼の者を冷酷なるつわものへと変えよ。『滅霊無兵シャード・オメガ』!」


 …それが私に芽生えた、間違えた『欲』。

 既に私は、妖魂アニマに意識を支配されていたのかもしれない。

 理性で考える頭がありながら、私は…得体の知れない魔法を孫に使用してしまったのだ。


「おおっ! 成功したようじゃぞアナタシア!」

「よくやった! 彼の霊力エーテルが先ほどとは比べ物とならん!」

「フン、ようやくこれで打って出られるか」


 年甲斐なく沸き立つ老いたハイエルフ。
 彼らとは対照的に、私と孫のグスタフは口を結んでいた。


「…………」

「グスタフ…? どうしましたか?」


滅霊無兵シャード・オメガ』を掛けられた孫は、目の焦点を合わせず、ぼうっと立ち尽くしているのみ。

 …イザーク達を操った時となにかが違う。
 そびえる樹木の如く、気配が静か。

 しかし、グスタフの変貌ぶりはそれだけに治まらなかった。


「命令を。マスター」

「「「!?」」」


 表情をそのままに、私に頭を垂れてきたのだ。

 いくら私を敬愛していると言っても、実の祖母相手になんという行動だ。

 孫は…私の知るグスタフではなくなっていた。


「これは…! ア、アナタシア!
 今の状態の彼ならば〝戒め〟を制御できるやもしれんぞ!」

「なに…?」

「水晶玉をよこせ! 貴様の孫に持たせてみろ!」


 呆ける私から水晶玉を奪い取り、グスタフへ持たせる族員たち。
 グスタフから溢れ、漂う霊力エーテルは、すべて水晶玉へと吸い込まれていく。


「………」

「グ、グスタフ! 『妖魂アニマ』を制御なさい!」


 先日の事故が頭に焼き付いているゆえか、私はそんな言葉を咄嗟に叫んでいた。


「了解。命令を実行する」


 グスタフは首を下に向け、霊力エーテルの調整を始めた。

 強すぎた出力を抑え、完璧な塩梅を実現させる。
 そして、私よりも遥かに早く…『妖魂アニマ』の制御を為した。


「す…素晴らしい。素晴らしいぞアナタシア!
 ようやくお前以外で〝戒め〟を手懐けた者が生まれたぞ!」

「おい、その本をもっとよく調べろ!
 他にも使える魔法があるやもしれん!」

「はっはははは! いよいよ儂らにもツキが回ってきたわい!」


 歓声をあげる年寄りどもを横目に、私はただ、目の前の…孫の変わりようを受け入れようと努力していた。

 小さき頃より、『婆ちゃん婆ちゃん』と私に懐いてきていた、可愛いグスタフ。

 そんな純粋な子を…私がこの手で、しまったのか?


―ソレハ違イマス。アノ子ハ在ルベキ姿ヘト〝進化〟シタダケ―

「…!」


 胸の中が、狂ったように渦巻いている。
 何者かの幻聴が聴こえてきた。

 いや…私はこの者を知っている。
 知っていて、ずっと見ぬふりをしていた。


霊力エーテルガ尽キル、ソノ最後ノ一瞬マデ、奴ラヲ導キナサイ〝アナタシア〟。コレハ、オ前ガ引キ起コシタナノダカラ―






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