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第541話:本当のカリスマ
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「そいつはあんまりじゃないですか? セルゲイさん」
「マミヤ君…」
俺に肩を引かれた、むっつり顔のセルゲイさん。
相談もなしに勝手にそんなこと決められちゃ、こっちも困るんですよ。
「今日、俺とイザークは〝反対派〟の悲願を背負って臨んでいます。
あなたが族長の座を降りるんじゃ、打倒すべき目標を立てられないじゃないですか」
「なるほどそのことか…。心配は無用だ。
族員を捕縛したのち、改めて族会を開く。
そこで〝反対派〟の要求をできる限り叶えよう」
「「「ええええ!?」」」
「親父、本気か!? 村はどうすんだ!?
彼らとの対立試合は!? ふざけんな!」
さらなる爆弾発言でこの場に衝撃が走った。
エドウィンがセルゲイさんの胸ぐらを掴みあげる。
彼が怒るのも当然だ。
職務と勝負を放棄しますなんて、みんなの前で堂々と言い放ったんだから。
カッコ悪いにもほどがあるぜ。
「セルゲイ。族員たちがオイタしたことに責任があるってんなら、そいつはアンタじゃなくてアタシじゃないのかぁ?」
「…!? ユ、ユニファ様…!
いえ、決してそのようなことは!」
と、そこでユニファが口を挟んできた。
さすがに厳格なセルゲイさんといえども、ご先祖さまの言葉は無視できないようだ。
「ユニ…ファ? えっ、あのちっこい子って…?」
「我らドノヴァン人の『母』の名では?」
「あっ!? 族長、あの子に頭下げてるよ!?」
「まさか…」
あっ、村人たちにユニファを晒しちまった。
一気に注目の的になった彼女…。
しかし、ユニファは毛ほども意に介さず、セルゲイさんの目線に合うように身体を浮かせた。
「ホラ。こっちを見ろい、セルゲイ。
アンタの目の前にいるのが、きかん坊の族員を生み出した張本人だぜぃ?
あたしに文句のひとつやふたつ、言いたくなるだろ~?」
「な、何をおっしゃるか! はるか昔より何十世代にも渡って、我々を見守ってくださった貴方様に感謝こそすれ、恨みなど毛頭ございません!
ユニファ様がドノヴァンを興されたからこそ、現世代の我々は健やかに生を育むことができる!」
「うんうん、アンタがガキのころから先祖想いだってのは、よーく分かってるぜぃ。
けどさぁ、今言った言葉…同じような想いを、ここにいるおりこうさんたちはアンタに抱いてるんだぜぃ?」
「…っ!」
セルゲイさんはハッと、連絡台の下にいる村人たちを見回す。
子供や青年、夫婦にお年寄り…誰一人として、彼に胡乱な目を向ける者はいない。
そして…そこには、先ほどまで苦しんでいた〝反対派〟の戦士たちも含まれていた。
「先週、族長の聡明な指揮があったからこそ、俺たちは魔族と相対することができました。
みんな震え上がっていたってのに、あの時…族長の言葉のおかげで、闘う勇気を得られた」
「ああ、そうだ。アルテムの言う通りです。
それに闘いだけじゃない…外の世界の人々の記憶から忘れ去られかけたこのドノヴァンを、観光名所として、再び繋いでくれた」
「そのおかげで、僕らは外の世界の文化に触れることができ、生きる目標ができました。
ドノヴァンを築いた者がご先祖さまだというのなら、〝今の〟ドノヴァンを作り上げた者は貴方だ」
セルゲイさんは目を瞬かせもせず、ただただ…呆気にとられていた。
「そうだ! 責任を負うのなら、みんなが納得するその時まで『族長』を務めてくださいよ!」
「それに族員に逆らえなかった私達もいけない。
『お前のいうことなんか聞かない』って、反抗の意思を示すべきだったのよ!」
「ああ、その通りだぜ! 族長、族員のジジイどもを懲らしめる役目…どうか俺たちにもやらせてください!」
〝反対派〟に続くように、〝暫定派〟…いや、ここにいる全てのドノヴァン人たちが次々と声をかけ続けた。
これが…族長。人の上に立つ男か。
ザベっさんにはカリスマとして村を助けてくれなんて言われたけど、本当のカリスマってのは、こういう人を指すんじゃないのかな?
「すまんマミヤ君。先ほどの発言は撤回しよう。
族員へしかるべき対応を行なったのち、改めて族会…ひいては対立試合を開催する。
『族長』として、私の持つ全力をぶつけると約束しよう」
「セルゲイさん…ええ、楽しみにしてますよ!」
「親父…! まったく、脅かすなよな!」
「グス…それでこそ、私の夫よ!」
「母様、涙ぐむのは結構なのですが、私の袖ではなくハンカチをお使いください」
ふふん、そうこなくちゃな!
それでこそ倒しがいがあるってもんだ。
…って、相手すんのはイザークだが。
「そして、皆の者ももう一度聞いてくれ。
今期の試合は、必ず村人全員が道場へ出席し、結末を見届けるものする!
いかなる理由があろうと、欠席は許さん!
此度は必ず出席するように!!!」
「「「はい!!」」」
ドノヴァン山のてっぺんにまでに届くような、セルゲイさんの力強い号令。
彼の言う全員に、攫われたミアたちも含まれていることは、ここにいる誰もが承知している。
無事で待ってろよ、看板ムスメ。
俺たちがすぐに助け出してやるからな!
「マミヤ君…」
俺に肩を引かれた、むっつり顔のセルゲイさん。
相談もなしに勝手にそんなこと決められちゃ、こっちも困るんですよ。
「今日、俺とイザークは〝反対派〟の悲願を背負って臨んでいます。
あなたが族長の座を降りるんじゃ、打倒すべき目標を立てられないじゃないですか」
「なるほどそのことか…。心配は無用だ。
族員を捕縛したのち、改めて族会を開く。
そこで〝反対派〟の要求をできる限り叶えよう」
「「「ええええ!?」」」
「親父、本気か!? 村はどうすんだ!?
彼らとの対立試合は!? ふざけんな!」
さらなる爆弾発言でこの場に衝撃が走った。
エドウィンがセルゲイさんの胸ぐらを掴みあげる。
彼が怒るのも当然だ。
職務と勝負を放棄しますなんて、みんなの前で堂々と言い放ったんだから。
カッコ悪いにもほどがあるぜ。
「セルゲイ。族員たちがオイタしたことに責任があるってんなら、そいつはアンタじゃなくてアタシじゃないのかぁ?」
「…!? ユ、ユニファ様…!
いえ、決してそのようなことは!」
と、そこでユニファが口を挟んできた。
さすがに厳格なセルゲイさんといえども、ご先祖さまの言葉は無視できないようだ。
「ユニ…ファ? えっ、あのちっこい子って…?」
「我らドノヴァン人の『母』の名では?」
「あっ!? 族長、あの子に頭下げてるよ!?」
「まさか…」
あっ、村人たちにユニファを晒しちまった。
一気に注目の的になった彼女…。
しかし、ユニファは毛ほども意に介さず、セルゲイさんの目線に合うように身体を浮かせた。
「ホラ。こっちを見ろい、セルゲイ。
アンタの目の前にいるのが、きかん坊の族員を生み出した張本人だぜぃ?
あたしに文句のひとつやふたつ、言いたくなるだろ~?」
「な、何をおっしゃるか! はるか昔より何十世代にも渡って、我々を見守ってくださった貴方様に感謝こそすれ、恨みなど毛頭ございません!
ユニファ様がドノヴァンを興されたからこそ、現世代の我々は健やかに生を育むことができる!」
「うんうん、アンタがガキのころから先祖想いだってのは、よーく分かってるぜぃ。
けどさぁ、今言った言葉…同じような想いを、ここにいるおりこうさんたちはアンタに抱いてるんだぜぃ?」
「…っ!」
セルゲイさんはハッと、連絡台の下にいる村人たちを見回す。
子供や青年、夫婦にお年寄り…誰一人として、彼に胡乱な目を向ける者はいない。
そして…そこには、先ほどまで苦しんでいた〝反対派〟の戦士たちも含まれていた。
「先週、族長の聡明な指揮があったからこそ、俺たちは魔族と相対することができました。
みんな震え上がっていたってのに、あの時…族長の言葉のおかげで、闘う勇気を得られた」
「ああ、そうだ。アルテムの言う通りです。
それに闘いだけじゃない…外の世界の人々の記憶から忘れ去られかけたこのドノヴァンを、観光名所として、再び繋いでくれた」
「そのおかげで、僕らは外の世界の文化に触れることができ、生きる目標ができました。
ドノヴァンを築いた者がご先祖さまだというのなら、〝今の〟ドノヴァンを作り上げた者は貴方だ」
セルゲイさんは目を瞬かせもせず、ただただ…呆気にとられていた。
「そうだ! 責任を負うのなら、みんなが納得するその時まで『族長』を務めてくださいよ!」
「それに族員に逆らえなかった私達もいけない。
『お前のいうことなんか聞かない』って、反抗の意思を示すべきだったのよ!」
「ああ、その通りだぜ! 族長、族員のジジイどもを懲らしめる役目…どうか俺たちにもやらせてください!」
〝反対派〟に続くように、〝暫定派〟…いや、ここにいる全てのドノヴァン人たちが次々と声をかけ続けた。
これが…族長。人の上に立つ男か。
ザベっさんにはカリスマとして村を助けてくれなんて言われたけど、本当のカリスマってのは、こういう人を指すんじゃないのかな?
「すまんマミヤ君。先ほどの発言は撤回しよう。
族員へしかるべき対応を行なったのち、改めて族会…ひいては対立試合を開催する。
『族長』として、私の持つ全力をぶつけると約束しよう」
「セルゲイさん…ええ、楽しみにしてますよ!」
「親父…! まったく、脅かすなよな!」
「グス…それでこそ、私の夫よ!」
「母様、涙ぐむのは結構なのですが、私の袖ではなくハンカチをお使いください」
ふふん、そうこなくちゃな!
それでこそ倒しがいがあるってもんだ。
…って、相手すんのはイザークだが。
「そして、皆の者ももう一度聞いてくれ。
今期の試合は、必ず村人全員が道場へ出席し、結末を見届けるものする!
いかなる理由があろうと、欠席は許さん!
此度は必ず出席するように!!!」
「「「はい!!」」」
ドノヴァン山のてっぺんにまでに届くような、セルゲイさんの力強い号令。
彼の言う全員に、攫われたミアたちも含まれていることは、ここにいる誰もが承知している。
無事で待ってろよ、看板ムスメ。
俺たちがすぐに助け出してやるからな!
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