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ガンタンの想い【3】
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「そもそも、亜人はなぜ差別を受けているんだい?」
これまた直球だ。私は、言葉を選びつつ答える。
「非常に難しい問題だ。例えば君たちの世界にも“移民”という存在があり、同じ人間同士であるにも関わらず差別をされていると聞く。 同じ人間同士ですら、差別行為があるのだから、違う種族であればより大きな差別に繋がってしまうことは想像に難くないだろ?人口比率的にも、輩《ヤカラ》は約90%。亜人が7%で我々が3%程度だ。そうした数の論理と、長年の積み重ねが差別の温床になっているわけだ。もちろん、各層同士での戦争の歴史もある。その歴史を語ることはやぶさかではないが、また時間がある時に、いくらでも教えるよ」
“愚かなるマジョリティ”を指す言葉が、すでに“輩《ヤカラ》”という言い方になってしまっていることに途中で気づいてはいたが、もうよかろう。彼に隠すようなことでも無いし。
「亜人が逃げ出すことは珍しくはないが、逃げおおせた事例は多くはない。やはり、“逃げ出して捕まる”ことが高リスクであるからこそ、逃げ出すことへの抑止力になっているのだ。だからエルフの彼女が捕まらなかったのは、君がいたからという理由が大きいよ」と、私は事実を伝えた。
私が向こうの世界の住民たちから集めた情報では、奴隷を所有するという考え方は前時代的だが、“保護する”という名目で、実際は奴隷のように支配することは、彼らの歴史とイコールだったはずだ。極めて不平等な条約が結ばれ、一方の国の人権を蹂躙したり、不利な貿易をさせられたりと寄生する行為そのものは人類史上において枚挙にいとまがない。時には麻薬がバラまかれたさえあったと聞く。そうした野蛮な歴史を彼らは持っており、我々のことをどうこう言えるほど、清廉潔白ではないことを、私は知っていた。
そもそも、道徳律と法律では、道徳律の方が上位に位置するものであるが、彼らの世界では“法律”を重んじる風潮があるという。法の下の道徳とは極めて滑稽な概念だ。
彼らの歴史や思想はともかくとして、私は翔という人物をとても気に入った。話を聞くと、翔も元々は経済ジャーナリストだったようだ。ようは“同じ穴のムジナ”であるので、話題が合うのは当然ではあったが、それ以上に私は彼を信用しても良い人間だという所感を持った。今の所、この勘だけは外れたことが無いのだ。
情報で食っている人間なら、肌感覚で理解していることだが、取材の本質は決してテクニカルなことに終始しない。むしろ、人間同士の“信頼関係”において成り立っているのだ。敬意を払える人間に対して、こちらも胸襟を開くことで、信頼が構築される。
今回は、向こうもプロだが私もプロだ。プロ同士の場合、言葉の端々からの探り合いも入るのでスリリングであり、それが楽しい醍醐味でもある。行間ならぬ言葉の間隔の意図を読み取り、的確に把握しつつ、質問を新たにぶつけていく。才能×努力の世界だと、私は思っているし、この仕事を選んだ理由の一つでもある。
何かのタイミングで「ネットで拾ってきた情報だけで、薄っぺらい“記事モドキ”を書いてる連中が、ジャーナリズムを語るのは反吐《へど》がでる」と、翔が吐き捨てるように言ったのは、非常に印象的だった。彼は感情を表に出すのではなく。むしろ抑制しながらロジックを展開する話法を重んじるタイプだからだ。
何はともあれ、私にとって“同じ匂い”を感じさせる翔との出会いは僥倖であった。
これまた直球だ。私は、言葉を選びつつ答える。
「非常に難しい問題だ。例えば君たちの世界にも“移民”という存在があり、同じ人間同士であるにも関わらず差別をされていると聞く。 同じ人間同士ですら、差別行為があるのだから、違う種族であればより大きな差別に繋がってしまうことは想像に難くないだろ?人口比率的にも、輩《ヤカラ》は約90%。亜人が7%で我々が3%程度だ。そうした数の論理と、長年の積み重ねが差別の温床になっているわけだ。もちろん、各層同士での戦争の歴史もある。その歴史を語ることはやぶさかではないが、また時間がある時に、いくらでも教えるよ」
“愚かなるマジョリティ”を指す言葉が、すでに“輩《ヤカラ》”という言い方になってしまっていることに途中で気づいてはいたが、もうよかろう。彼に隠すようなことでも無いし。
「亜人が逃げ出すことは珍しくはないが、逃げおおせた事例は多くはない。やはり、“逃げ出して捕まる”ことが高リスクであるからこそ、逃げ出すことへの抑止力になっているのだ。だからエルフの彼女が捕まらなかったのは、君がいたからという理由が大きいよ」と、私は事実を伝えた。
私が向こうの世界の住民たちから集めた情報では、奴隷を所有するという考え方は前時代的だが、“保護する”という名目で、実際は奴隷のように支配することは、彼らの歴史とイコールだったはずだ。極めて不平等な条約が結ばれ、一方の国の人権を蹂躙したり、不利な貿易をさせられたりと寄生する行為そのものは人類史上において枚挙にいとまがない。時には麻薬がバラまかれたさえあったと聞く。そうした野蛮な歴史を彼らは持っており、我々のことをどうこう言えるほど、清廉潔白ではないことを、私は知っていた。
そもそも、道徳律と法律では、道徳律の方が上位に位置するものであるが、彼らの世界では“法律”を重んじる風潮があるという。法の下の道徳とは極めて滑稽な概念だ。
彼らの歴史や思想はともかくとして、私は翔という人物をとても気に入った。話を聞くと、翔も元々は経済ジャーナリストだったようだ。ようは“同じ穴のムジナ”であるので、話題が合うのは当然ではあったが、それ以上に私は彼を信用しても良い人間だという所感を持った。今の所、この勘だけは外れたことが無いのだ。
情報で食っている人間なら、肌感覚で理解していることだが、取材の本質は決してテクニカルなことに終始しない。むしろ、人間同士の“信頼関係”において成り立っているのだ。敬意を払える人間に対して、こちらも胸襟を開くことで、信頼が構築される。
今回は、向こうもプロだが私もプロだ。プロ同士の場合、言葉の端々からの探り合いも入るのでスリリングであり、それが楽しい醍醐味でもある。行間ならぬ言葉の間隔の意図を読み取り、的確に把握しつつ、質問を新たにぶつけていく。才能×努力の世界だと、私は思っているし、この仕事を選んだ理由の一つでもある。
何かのタイミングで「ネットで拾ってきた情報だけで、薄っぺらい“記事モドキ”を書いてる連中が、ジャーナリズムを語るのは反吐《へど》がでる」と、翔が吐き捨てるように言ったのは、非常に印象的だった。彼は感情を表に出すのではなく。むしろ抑制しながらロジックを展開する話法を重んじるタイプだからだ。
何はともあれ、私にとって“同じ匂い”を感じさせる翔との出会いは僥倖であった。
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