西園寺家の末娘

明衣令央

文字の大きさ
7 / 115
第1章:西園寺家のいらない娘

7・家のごはん

しおりを挟む


「あぁ、久しぶりの再会で、小花の前ではカッコいい兄ちゃんぶれたけど、じいちゃんやばあちゃんの顔を見た瞬間、駄目だったぁ」

 泣き止んだちい兄は、まだ少し赤い目元を擦りながら、少し不貞腐れたように言った。

「気にするな、千隼。気が緩んだんだろう。ほれ、食え食え」

 ちい兄の前には、から揚げ、エビフライ、豚の生姜焼き、てんぷらと、大盛りのごはんとお味噌汁。
 今日は全員一致で、もう店を閉める事にした。ちい兄が戻ってきてくれたから、何年振りかの家族団らんを楽しみたかったのだ。

「千隼、食いたいものがあったら、何でも言えよ。じいちゃんが、何でも作ってやるからな」

「あぁ、サンキューな、じいちゃん」

 へへへ、と照れくさそうに笑うちい兄は、とても嬉しそうだった。
 割りばしを手にして、いただきます、と言うと、お皿にのったから揚げの中で一番大きなから揚げを、口の中に放り込んで頬張る。

「あぁ、この味……ずっと食いたかったんだぁ~」

 から揚げを食べて、しみじみと言ったちい兄は、わかめのお味噌汁を口にし、えへへ、と嬉しそうに笑う。

「やべぇ、やっぱ、なんでも美味いなぁ。じいちゃん、俺、じいちゃんのだし巻き卵食いてぇ。あと、カレー」

「わかった。カレーは、カツがあるからカツカレーにしてやろうか?」

「うわ、最高。それでお願い」

「わかった。任せろ」

 ちい兄にブイサインをして、おじいちゃんは厨房に向かう。その背中を嬉しそうに眺めていたちい兄は、

「あのさぁ、多分、いろいろと俺に聞きたい事があると思うんだけど……とりあえず食っていいか?」

 と私に聞いてきた。もちろんオッケーと返すと、

「ありがとうな、小花」

 って言って笑って、ちい兄は再びから揚げを頬張った。
 美味しそうにもりもりと食べるちい兄を見つめ、嬉しいなぁと思いながらも、私は西園寺家に引き取られてからの、ちい兄の食生活が気になった。

「ちい兄、一つだけ聞きたいんだけど……まさか、西園寺の家では、ごはんを貰えていないわけじゃないよね?」

 ほうじ茶を淹れてあげながら尋ねると、ほっぺをリスみたいに膨らませたまま、ちい兄は頷いた。それから口の中に入れたものをしっかりと咀嚼し飲み込むと、言う。

「もちろん、ちゃんと食ってはいる。西園寺のジジイの命令で、食事は毎日栄養バランスが取れたものが出てくるし、西園寺家で雇ってるコックのおっちゃんが作ってくれるから、美味い。ただ……」

「ただ?」

「ただ、俺にとっての本当に美味い飯っていったら、やっぱ、じいちゃんやばあちゃん、それから叔父さんが作ってくれたものなんだよ。それに、あっちの家じゃ、マナーがどうのとか言って無言で食わなきゃいけなくて、みんなでワイワイ話しながら食ったりしねぇの。俺はさ、みんなでワイワイ言って食ったり、食ってるところを誰かが見ててくれたりとか、そういうのが好きなんだよ。まぁ、もう慣れたけどさ」

 ちい兄はそう言ったが、その話を聞いた私は、思わず涙ぐんでしまった。
 ちい兄は、十二歳まで私と一緒に真中家で育った。
 だけどその後は、お父さんに連れて行かれて、西園寺の家でずっと寂しい想いをしていたのだ。
 私は、自分だけがお父さんに連れて行ってもらえなかった事が、辛くて悲しかったけれど、それは間違いだったみたいだ。
 おじいちゃんとおばあちゃん、そして叔父さん夫婦のそばに居られた事の方が、本当のお父さんの元に居るよりも、とても幸せな事だったのだ。

「ち、ちい兄、いっぱい食べてね。私、お茶、いっぱい淹れてあげるから」

 私がそう言うと、

「お茶かよ」

 って、ちい兄は吹き出したけど、幸せそうにから揚げを頬張った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...