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第1章:西園寺家のいらない娘
7・家のごはん
しおりを挟む「あぁ、久しぶりの再会で、小花の前ではカッコいい兄ちゃんぶれたけど、じいちゃんやばあちゃんの顔を見た瞬間、駄目だったぁ」
泣き止んだちい兄は、まだ少し赤い目元を擦りながら、少し不貞腐れたように言った。
「気にするな、千隼。気が緩んだんだろう。ほれ、食え食え」
ちい兄の前には、から揚げ、エビフライ、豚の生姜焼き、てんぷらと、大盛りのごはんとお味噌汁。
今日は全員一致で、もう店を閉める事にした。ちい兄が戻ってきてくれたから、何年振りかの家族団らんを楽しみたかったのだ。
「千隼、食いたいものがあったら、何でも言えよ。じいちゃんが、何でも作ってやるからな」
「あぁ、サンキューな、じいちゃん」
へへへ、と照れくさそうに笑うちい兄は、とても嬉しそうだった。
割りばしを手にして、いただきます、と言うと、お皿にのったから揚げの中で一番大きなから揚げを、口の中に放り込んで頬張る。
「あぁ、この味……ずっと食いたかったんだぁ~」
から揚げを食べて、しみじみと言ったちい兄は、わかめのお味噌汁を口にし、えへへ、と嬉しそうに笑う。
「やべぇ、やっぱ、なんでも美味いなぁ。じいちゃん、俺、じいちゃんのだし巻き卵食いてぇ。あと、カレー」
「わかった。カレーは、カツがあるからカツカレーにしてやろうか?」
「うわ、最高。それでお願い」
「わかった。任せろ」
ちい兄にブイサインをして、おじいちゃんは厨房に向かう。その背中を嬉しそうに眺めていたちい兄は、
「あのさぁ、多分、いろいろと俺に聞きたい事があると思うんだけど……とりあえず食っていいか?」
と私に聞いてきた。もちろんオッケーと返すと、
「ありがとうな、小花」
って言って笑って、ちい兄は再びから揚げを頬張った。
美味しそうにもりもりと食べるちい兄を見つめ、嬉しいなぁと思いながらも、私は西園寺家に引き取られてからの、ちい兄の食生活が気になった。
「ちい兄、一つだけ聞きたいんだけど……まさか、西園寺の家では、ごはんを貰えていないわけじゃないよね?」
ほうじ茶を淹れてあげながら尋ねると、ほっぺをリスみたいに膨らませたまま、ちい兄は頷いた。それから口の中に入れたものをしっかりと咀嚼し飲み込むと、言う。
「もちろん、ちゃんと食ってはいる。西園寺のジジイの命令で、食事は毎日栄養バランスが取れたものが出てくるし、西園寺家で雇ってるコックのおっちゃんが作ってくれるから、美味い。ただ……」
「ただ?」
「ただ、俺にとっての本当に美味い飯っていったら、やっぱ、じいちゃんやばあちゃん、それから叔父さんが作ってくれたものなんだよ。それに、あっちの家じゃ、マナーがどうのとか言って無言で食わなきゃいけなくて、みんなでワイワイ話しながら食ったりしねぇの。俺はさ、みんなでワイワイ言って食ったり、食ってるところを誰かが見ててくれたりとか、そういうのが好きなんだよ。まぁ、もう慣れたけどさ」
ちい兄はそう言ったが、その話を聞いた私は、思わず涙ぐんでしまった。
ちい兄は、十二歳まで私と一緒に真中家で育った。
だけどその後は、お父さんに連れて行かれて、西園寺の家でずっと寂しい想いをしていたのだ。
私は、自分だけがお父さんに連れて行ってもらえなかった事が、辛くて悲しかったけれど、それは間違いだったみたいだ。
おじいちゃんとおばあちゃん、そして叔父さん夫婦のそばに居られた事の方が、本当のお父さんの元に居るよりも、とても幸せな事だったのだ。
「ち、ちい兄、いっぱい食べてね。私、お茶、いっぱい淹れてあげるから」
私がそう言うと、
「お茶かよ」
って、ちい兄は吹き出したけど、幸せそうにから揚げを頬張った。
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