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第5章:闇
8・姉VS弟
しおりを挟む「おい、麗華! 賢ちゃんに迷惑かけんなよ! ただでさえ西は、他家に迷惑をかけてるんだ! これ以上の迷惑をかけるんじゃねぇっ!」
ちい兄が麗華さんに手を伸ばし、賢さんにしがみついている麗華さんを引き離そうとしたんだけど、麗華さんは伸ばしたちい兄の手を払いのけた。
「千隼、あんた、何様のつもり?」
「は?」
「いい気になるんじゃないわよ、千隼……。西園寺家は、私が継ぐんだから!」
ちい兄を睨みつけ、麗華さんが言う。
さっきも言っていたけど、ちい兄って、西園寺家の跡継ぎなの?
上にお兄さんとお姉さん――麗華さんが居るのに、ちい兄が西園寺家を継ぐの?
「は? お前、今さら、何言ってんだ……」
麗華さんの態度に、ちい兄はイラっとしたようで、きつい目つきで麗華さんを睨みつける。
「大体、お前らが情けないから、俺が西園寺家に呼ばれたんじゃねぇかよ! こちとら、あんな家の跡継ぎになんか、なりたくねぇってのによ!」
「じゃあ、そう言って、さっさと辞退してよ! そして私が西園寺家の跡取りになるわ! そうしたら私は、北御門家になんか行かずにすむもの!」
「馬鹿か、お前は! 西園寺のじいさんが、お前らユーレイに愛想をつかさなけりゃ、俺を跡継ぎになんて事になんねぇんだよ! お前が西園寺家の跡取りだって? なれるもんなら、なってみろよ! むしろなって、俺を自由にしてくれ! けどな、あのじいさんがそれを許すはずがないだろ! 役目もろくに果たせねぇ奴が、偉そうな事を言うんじゃねぇよっ!」
激しく言い争う、ちい兄と麗華さん。
一体何がどうなっているのか、さっぱりわからなくて、私はおろおろするばかりだった。
姉である麗華さんとの初対面から、麗華さんと賢さんと将成さんの謎の関係……そして、西園寺家の跡取り問題。
いろんな事が一度に押し寄せて、混乱する。
とりあえず姉と弟なんだからケンカを止めてほしいと思って、
「ちょっと、ちい兄、落ち着いて!」
と、私はちい兄の腕を引っ張った。
「なんだよ、小花っ!」
「とりあえず、落ち着いてよっ! なんでケンカするの!」
「なんでって……それは……」
ちい兄はまた麗華さんを睨みつけ、言う。
「こいつが、情けなくて自分勝手な、姉貴だからだよ」
「私は、あんたみたいな弟、いらなかったわ」
「ちょっと、やめっ……やめてくださいっ」
ケンカするほど仲が良いっていう言葉もあるけど、今の麗華さんとちい兄はそういうのじゃなくて、まるで憎み合っているみたいだ。
最近、仲が良い兄弟姉妹を見ていたから、自分の兄姉がこんなケンカをしているのに、ショックを受けてしまう。
「あんた、小花だっけ?」
「は、はいっ」
麗華さんに名前を呼ばれて、どきん、と大きく胸が鳴った。
麗華さん、私の名前、知ってたんだ……。
私が麗華さんやもう一人のお兄さんの事が気になりだしたみたいに、麗華さんも私の事が気になっていたんだろうかと、そんな事を思ったけれど、それは間違いだとすぐに思い知らされた。
「あんたの事だって、妹だなんて思ってないからっ! 私は、あんたなんて、この世に生まれてこなければ良かったのにって、思ってるから!」
「え?」
妹だなんて思っていない?
生まれてこなければ良かったのに?
きつい眼差しと共に叫ぶように言われた言葉に、心臓がぎゅっと鷲掴みにされたようで、息ができなくなるようだった。
「麗華、てめぇっ、なんて事をっ!」
「本当の事を言っただけよ! だって、この子が居なかったら、今もお母さんは私のそばに居てくれたはずだもの! お母さんが死んだのは、この子が生まれたからじゃない!」
「麗華ぁ! 許さねぇっ!」
ちい兄が拳を握りしめ、麗華さんに殴りかかったけれど、その拳は麗華さんには届かなかった。
麗華さんは賢さんから離れると、ちい兄の拳からするりと逃れたのだ。
「だって、本当の事だもの。この子が生まれなければ、きっとお母さんは生きていた……私と優介よりも、この子の方が生まれてこなければ良かったのよ」
麗華さんはそう言うと走り去り、七海さんと渚ちゃんが後を追いかけていった。
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