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第5章:闇
23・家族
しおりを挟む「小花ちゃんが優しい子で、僕は本当に嬉しい。真中のおじいちゃんやおばあちゃん、それから叔父さんは、小花ちゃんをこんなにいい子に育ててくれたんだね。後からお礼を言わないと」
感動屋さんなゆう兄は、そう言うと涙ぐんでしまった。
私がそっとティッシュペーパーを渡すと、軽く目元を押さえ、それからちーんと鼻をかむ。
「ゆう兄、西園寺家での生活って、辛くないの? ゆう兄、優しいから、心配だよ」
「ありがとう、小花ちゃん。でもね、もう慣れちゃったかなぁ。厳しい西園寺家は、僕の中ではもうそれが普通になってるんだ。お母さんが死んじゃった時は、お父さんも居なくなっちゃって辛かったけど……」
「あのね、ゆう兄……お父さんって、自分の子供を放って、西園寺家から自分だけ逃げたんじゃないの? ゆう兄、お父さんの事、許せないとか思わないの?」
私がそう聞くと、ゆう兄は少し考え込んで、確かに逃げたのかもしれないね、と言った。
「でもね、小花ちゃん。僕は、お父さんがあの時逃げたのだとしても、それは仕方ないって思うんだ。だってお父さんは、お母さんの事が、本当に大好きだったんだから……今から思えば、逃げるだけで済んで良かったんだよ。生きていてくれたんだから……」
「え?」
生きていてくれた? これ、どういう事なんだろう?
気にはなったものの、私はそれをゆう兄に聞く事ができなかった。
「確かにお父さんは、西園寺家から逃げたのかもしれない。麗華も千隼も、そう思っていると思う。だけど、西園寺の本家で一緒には住んでいないだけで、今のお父さんは立派に西園寺グループの社長をやっているし、僕はお父さんの事、大好きだよ。尊敬しているんだ。すごくカッコいい人だよ」
大好きだ、尊敬している、カッコいい、とゆう兄は言い切った。
私は麗華さんやちい兄のように、お父さんは西園寺家から逃げたとしか思えないんだけど。
「小花ちゃんは僕の事を心配してくれているから、僕が西園寺の家族の事をどう思っているかを説明するね。僕は、みんなの事が大好きだよ」
西園寺のおじいさんの事も、お父さんの事も、大好きなのだとゆう兄は繰り返した。
「麗華の事も、もちろん大好きだよ。生意気だけど、やっぱり可愛い。僕と麗華は双子だから、僕は麗華の事を、もう一人の自分なんだって思っている。麗華の方は、僕の事を本当に情けない兄だって言って冷たい目で見るんだけど、そんな事を言われても、僕はやっぱり麗華の事を可愛い妹だって思うんだ」
麗華さんなら、ゆう兄の事を情けないお兄ちゃんって言いかねないなぁと私は思った。
それでも、ゆう兄は麗華さんの事が大好きで可愛いのだと言う。
「千隼の事だって、大好きだ。僕よりも二つ年下なのに、努力家で、ものすごく頑張っているよね。昔はあんなに小さかったのに、ものすごく立派になって……僕は千隼の事を、誇りに思っているよ。僕はもっと千隼と仲良くしたいけど、千隼も麗華と同じように、僕の事を情けないお兄ちゃんって思っているみたいだから、仲良くできないかもしれないけど」
確かにちい兄は、ゆう兄と麗華さんの事を情けない兄と姉って言っていたような気がする。
会話はほとんどないって言っていたし、この間麗華さんが妖滅フロアに現れた時は、喧嘩になりかけていた。
だけどゆう兄は麗華さんの事もちい兄の事も、大好きだって言う。
この人は名前の通り、本当に優しくて、それから強い人だ。
情けない人なんかじゃない。
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