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第5章:闇
37・告白
しおりを挟む「小花は、優しいな……」
体を起こした大樹さんは、持っていた刀を支えにして、ゆっくりと立ち上がった。
着ている服が赤く染まっている……だけど、他のみんなに比べれば、まだ軽傷なのかもしれなかった。
「小花は優しいから、いろいろ考えて、迷ったんだ。だけど迷わなくていい。俺の声を聞いて、俺の言葉を信じてくれればいい」
そう言った大樹さんは、優しく瞳を細めると、私を見つめて信じられないような事を言った。
「小花、俺はお前が好きだ。愛している」
「え?」
「俺は、お前の事が好きだから、愛しているから、妖魔の元になんて行かないでほしいんだ。必ずお前を助けるから、俺を、信じてほしい」
「だ、大樹さんっ」
こんな大変な状況だというのに、ものすごく嬉しくなってしまった。
顔が熱くなって、それからにやけそうになる。
今の私の顔を見たら、また真紀ちゃんがいろいろと言いそうだけど、私は大樹さんの告白が心から嬉しかった。
「小花、もう一度言う。俺を信じろ。それから、今の告白の返事は、後からゆっくり聞かせてくれ」
「う、うんっ! 信じる! 信じるよ!」
そして、大樹さんの告白への返事をするんだ。
「私は絶対に、妖魔王の所になんか行かない!」
決意と共にそう叫ぶと、
『では、全員殺すとしよう。そうすれば、邪魔者は居なくなるからな』
と、私を捕まえている妖魔が、楽しそうに言った。
そして、私を捕まえている腕とは別の腕を前に突き出す。
先程のように、またみんなを触手で攻撃するつもりなのだ。
「全員殺す? そんな事、させるか。それに、そんな触手は、俺には効かんぞ」
大樹さんに続き、将成さんもゆっくりと立ち上がった。
将成さんも血だらけだったけれど、まだ軽傷なのかもしれなかった。
彼の言葉通り、みんなに襲い掛かった妖魔の触手は、将成さんの鍛え上げられた体には効かないのかもしれない。
『なら、今度こそその体貫いて、殺してやろうっ!』
妖魔はそう叫ぶと、先程のようにみんなへと触手を伸ばす。
「行くぞ、大樹! 俺が盾になってやる!」
「大樹さん! 将成さん! 私が援護します! 行ってくださいっ!」
床に倒れていた蘭華さんがそう叫び、一瞬だけ体を起こすと同時に弓を引き、天井に向かって炎の矢を放った。
だけどその後は悲鳴を上げて、再び倒れてしまう。
蘭華さんは起き上がる事ができないくらい、怪我がひどいのかもしれない。
いや、そうに決まってる。
大樹さんと将成さんは立ち上がる事ができたけど、蘭華さんはやちい兄、俊秀さんは起き上がる事ができない。
分家のみんなも倒れたままだし、やっぱりみんな重傷なんだ。
「小花! 今行くっ!」
炎の矢が降り注ぐ中、大樹さんと将成さんが走り出す。
将成さんは大樹さんの前に走り出て、その言葉の通り、大樹さんの動く盾になっていた。
妖魔の触手が二人を――将成さんを何度も襲うけれど、鍛え上げられた将成さんの体を簡単に貫く事ができずに、弾かれる。
その事に妖魔自身も驚いたようで、焦りが見え始めた。
『そんな……どうしてっ……』
「俺は、そんなやわな鍛え方をしてねぇんだよっ!」
伸ばされた触手を掴み、引っ張る将成さん。
引っ張られた妖魔はバランスを崩し、私を拘束している腕の力が緩む。
私はそのチャンスを見逃さなかった。
「小花っ!」
将成さんの影から現れた大樹さんが、私へと腕を伸ばす。
私は妖魔の腕を振り払うと、私のために伸ばされた腕の中に、迷わずに飛び込んだ。
「大樹さんっ!」
強く抱きしめられ、私も大樹さんの体を強く抱き返した。
大樹さんを信じて良かった。
大樹さんは本当に、私を助けてくれた。
だけど――。
『その娘、手に入らぬなら、殺してしまうか』
という声が聞こえてきた。
振り返ると、さっきまで私を拘束していた腕から触手が伸ばされ、私を狙っていた。
やられる――そう思った。
だけどその瞬間、私は力強い腕に突き飛ばされていて。
「大樹さんっ!」
私を狙っていた触手が貫いたのは、大樹さんの体だった。
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