西園寺家の末娘

明衣令央

文字の大きさ
95 / 115
第5章:闇

37・告白

しおりを挟む


「小花は、優しいな……」

 体を起こした大樹さんは、持っていた刀を支えにして、ゆっくりと立ち上がった。
 着ている服が赤く染まっている……だけど、他のみんなに比べれば、まだ軽傷なのかもしれなかった。

「小花は優しいから、いろいろ考えて、迷ったんだ。だけど迷わなくていい。俺の声を聞いて、俺の言葉を信じてくれればいい」

 そう言った大樹さんは、優しく瞳を細めると、私を見つめて信じられないような事を言った。

「小花、俺はお前が好きだ。愛している」

「え?」

「俺は、お前の事が好きだから、愛しているから、妖魔の元になんて行かないでほしいんだ。必ずお前を助けるから、俺を、信じてほしい」

「だ、大樹さんっ」

 こんな大変な状況だというのに、ものすごく嬉しくなってしまった。
 顔が熱くなって、それからにやけそうになる。
 今の私の顔を見たら、また真紀ちゃんがいろいろと言いそうだけど、私は大樹さんの告白が心から嬉しかった。

「小花、もう一度言う。俺を信じろ。それから、今の告白の返事は、後からゆっくり聞かせてくれ」

「う、うんっ! 信じる! 信じるよ!」

 そして、大樹さんの告白への返事をするんだ。

「私は絶対に、妖魔王の所になんか行かない!」

 決意と共にそう叫ぶと、

『では、全員殺すとしよう。そうすれば、邪魔者は居なくなるからな』

 と、私を捕まえている妖魔が、楽しそうに言った。
 そして、私を捕まえている腕とは別の腕を前に突き出す。
 先程のように、またみんなを触手で攻撃するつもりなのだ。

「全員殺す? そんな事、させるか。それに、そんな触手は、俺には効かんぞ」

 大樹さんに続き、将成さんもゆっくりと立ち上がった。
 将成さんも血だらけだったけれど、まだ軽傷なのかもしれなかった。
 彼の言葉通り、みんなに襲い掛かった妖魔の触手は、将成さんの鍛え上げられた体には効かないのかもしれない。

『なら、今度こそその体貫いて、殺してやろうっ!』

 妖魔はそう叫ぶと、先程のようにみんなへと触手を伸ばす。

「行くぞ、大樹! 俺が盾になってやる!」

「大樹さん! 将成さん! 私が援護します! 行ってくださいっ!」

 床に倒れていた蘭華さんがそう叫び、一瞬だけ体を起こすと同時に弓を引き、天井に向かって炎の矢を放った。
 だけどその後は悲鳴を上げて、再び倒れてしまう。
 蘭華さんは起き上がる事ができないくらい、怪我がひどいのかもしれない。
 いや、そうに決まってる。
 大樹さんと将成さんは立ち上がる事ができたけど、蘭華さんはやちい兄、俊秀さんは起き上がる事ができない。
 分家のみんなも倒れたままだし、やっぱりみんな重傷なんだ。

「小花! 今行くっ!」

 炎の矢が降り注ぐ中、大樹さんと将成さんが走り出す。
 将成さんは大樹さんの前に走り出て、その言葉の通り、大樹さんの動く盾になっていた。
 妖魔の触手が二人を――将成さんを何度も襲うけれど、鍛え上げられた将成さんの体を簡単に貫く事ができずに、弾かれる。
 その事に妖魔自身も驚いたようで、焦りが見え始めた。

『そんな……どうしてっ……』

「俺は、そんなやわな鍛え方をしてねぇんだよっ!」

 伸ばされた触手を掴み、引っ張る将成さん。
 引っ張られた妖魔はバランスを崩し、私を拘束している腕の力が緩む。
 私はそのチャンスを見逃さなかった。

「小花っ!」

 将成さんの影から現れた大樹さんが、私へと腕を伸ばす。
 私は妖魔の腕を振り払うと、私のために伸ばされた腕の中に、迷わずに飛び込んだ。

「大樹さんっ!」

 強く抱きしめられ、私も大樹さんの体を強く抱き返した。
 大樹さんを信じて良かった。
 大樹さんは本当に、私を助けてくれた。
 だけど――。

『その娘、手に入らぬなら、殺してしまうか』

 という声が聞こえてきた。
 振り返ると、さっきまで私を拘束していた腕から触手が伸ばされ、私を狙っていた。
 やられる――そう思った。
 だけどその瞬間、私は力強い腕に突き飛ばされていて。

「大樹さんっ!」

 私を狙っていた触手が貫いたのは、大樹さんの体だった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...