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第6章:不和
17・千隼の葛藤
しおりを挟む「ひどい、ひどいよ! ちい兄の気持ちや頑張りはどうなっちゃうの! それに、蘭華さんだって!」
蘭華さんに目を向けると、彼女は淡々と「仕方がないことですわ」と言った。
家の決定には逆らえないということかもしれないけど、私はやっぱりひどいとしか思えなかった。
西園寺家って……ううん、四家って、人の気持ちを何だと思っているんだろう?
そんなに家の決定が大切なものなの?
「なり、こはなをいじめるな!」
取り乱した私の様子を見て、将成さんが私をいじめたと思ったのか、昌央が将成さんの髪の毛を鷲掴みにして引っ張る。
「昌央様、お止めください、ハゲができてしまうでしょうっ!」
申し訳ないけれど、昌央に髪の毛を引き抜かれて慌てる将成さんを見て笑ってしまい、それからちょっとだけ冷静にもなれた。
昌央が居ると、真面目な話がゆっくりできないね。
「こら、昌央! 将成くんに何をしとるんじゃ! 尻叩くぞ!」
「いやぁ!」
見かねたおじいちゃんが厨房から出てきて昌央を叱ってくれて、将成さんが昌央を降ろすと、すぐに北と南の分家のみんなが駆け寄ってきて、昌央を連れて行ってくれた。
将成さんからは引き離されたけれど、分家のみんなに遊んでもらえて、昌央は満足そうだ。
「では、話の続きをゆっくり聞こうか」
でも、今度はおじいちゃんが話に入ろうとしてきた。
驚く将成さんと蘭華さんの前で、わしだってまだいろいろと知らないことが多いのだ、とおじいちゃんは続ける。
おじいちゃんはゆう兄やちい兄、そして麗華さんのことが心配なのだろう。
将成さんと蘭華さんは困ったように顔を見合わせたけど、真中の現当主には逆らうことができないと諦めたようで、話を続けた。
「他家のことは正確にはわかりませんし、口を出せることではありません。それを前提に話を続けます。西園寺の跡取りの変更は、あり得ない話ではないと思われます。それと同時に、南京極家への婿入りの話も……。北御門家は、麗華との婚約を破棄しましたが」
将成さんの言葉に、おじいちゃんは暗い声で、そうか、と言っただけだった。
今の私には、家同士が決めた結婚を、おじいちゃんがどう思っているのかわからなかった。
「あと千隼ですが、馬鹿にしていた兄貴が実はとんでもない実力者だったことを知って、相当なショックを受けているはずです。今まで自分が必死に積み上げてきたものが、全て崩れてしまったような気持ちになっているでしょう。あいつは努力家だから、余計に……」
この間会ったちい兄は、自分には何もできなかったって言って、ものすごく落ち込んでいた。
あの落ち込みようは、私が死にかけたことだけが原因じゃなくて、ゆう兄の本当の実力を知ってしまったからでもあったんだね。
今のちい兄に、私は何をしてあげられるだろう?
俯いて考えこんだ私の頭に、ぽんと大きな手が乗せられたが。
顔を上げると将成さんが笑っていて、大丈夫だと続ける。
「だが、落ち込んでいると言っても、千隼はまた這い上がってくるはずだ。だから小花は、そんなに気に病むことはない」
「でも……」
「大丈夫だ。千隼には今、偉大な兄を毎日必死に追いかけているがその差を埋められず、それでもめげずに前を向いて追いかけてくる、根性のある男が付き添っているからな。千隼も落ち込むだけ落ち込んだら、自分を取り戻して前を向くだろう」
ちい兄に付き添っている、偉大な兄を毎日必死に追いかけている根性のある人っていうのは、きっと将成さんの弟さんである俊秀さんのことだよね。
というか、自分のことを偉大な兄って言っちゃう将成さん自身も、落ち込むだけ落ち込んで、自分を取り戻し始めたのかもしれない。
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