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放課後の校門前は、帰宅する生徒たちの声で賑やかだった。
そんな中、ヒルデガルドはいつものように、侯爵家からの迎えの馬車が到着するのを待っていた。
「あ……」
ふと視線を校門の向こうにある噴水のあたりに、見慣れた姿を見つけた。
「……ダミアン?」
思わず小さく呟く。
ここ数日、彼は学園を休んでいた。
もしも自分のせいで彼が学園を休んでいるのだとしたら、気にしなくてもいいと伝えたかった。
その一心で、ヒルデガルドは一歩踏み出す。
だが、その腕をそっと掴む手があった。
「ヒルデガルド嬢、行かない方がいい……」
「え?」
振り返ると、同級生のペース伯爵子息であるカーチスが真剣な表情で立っていた。
「カーチス様……?」
「追いかけたら、もっと辛くなる。だから……」
その言葉に戸惑いながらも、ヒルデガルドは再びダミアンの方へ視線を向け――息を呑む。
ダミアンの隣には、年上の女性が寄り添っていた。
胸元の大きく開いた派手なドレス。
艶やかな笑み。
その姿は、ヒルデガルドの母と同じくらいの年齢に見える。
「あの人が……ダミアンの、好きな人……?」
信じられない気持ちと、理解したくない気持ちが胸の奥で絡まる。
けれど、二人が親しげに腕を組んで街の方へ歩いていく姿を見て、 ヒルデガルドはようやく悟った。
もうダミアンは、自分の知らない人になってしまったのだ、と。
「ごめん……。さっき噂をしていたとき、君がそばにいたことに気づかなかった」
カーチスが申し訳なさそうに言う。
「ダミアンは……あの女性のことが好きなのね」
「うん……そうみたいだね……」
「結婚したいって思っているのかしら?」
「そう、みたいだよ。できるかどうかはわからないけど、ね」
「そう……」
ヒルデガルドは小さく息を吸った。
理解はしている。
でも、心が追いつかない。
「ヒルデガルド嬢……君はもう、ダミアンを忘れたほうがいい。ただの同級生くらいに思ったほうが」
カーチスが言いかけたそのとき。
「そうだぞ。もうあんな奴のことは忘れたほうがいい」
重なるように、低い声が響いた。
振り向くと、そこに立っていたのはダミアンの父、クサール伯爵であるルドルフだった。
「ルドルフおじ様……お久しぶりです」
「クサール伯爵、お久しぶりです」
ヒルデガルドとカーチスは慌てて挨拶をする。
ルドルフも軽く会釈し、そしてヒルデガルドを見つめた。
「……すまなかった、ヒルデガルド嬢」
その一言に、ヒルデガルドの胸がきゅっと締めつけられる。
「本当は……お前に、うちの娘になってほしかった。だが、息子がどうしても別の女と結婚したいと言い出してな。本当に申し訳ない……。親として、息子の望みを叶えてやるべきだと思ったんだ」
ルドルフは苦い顔をして続ける。
「そのせいで、君の家とも疎遠になってしまった。本当に……すまなかった」
深々と頭を下げるルドルフに、ヒルデガルドはただ首を振るしかなかった。
「クサール伯爵、今日は……どうされたのですか?」
カーチスが尋ねる。
「今日は、学園の教師に呼び出されたんだ。最近ダミアンが学園に行っていなかったことも、俺は知らなかった」
「おじ様……」
「実は、あの日以来、ダミアンと喧嘩をしたままなんだ。ダミアンは現在……家出中なんだ」
ルドルフはため息をついた。
あの日というのは、ヒルデガルドがダミアンから許嫁の話を終わらせたいと言われた日のことだろう。
「だが、やはり俺はダミアンの親として、あいつを支えねばならん。まずは仲直りをして学園に通わせ、卒業させるつもりだ。そして……好きな女がいるなら、ちゃんと紹介してもらおうと思っている……」
その言葉に、ヒルデガルドは胸の奥が少しだけ痛んだ。
けれど、もう自分には関係のないことだと、そっと心の中で呟く。
「仲直り……できるといいですね」
「ああ。ありがとう」
ちょうどその時、ヒルデガルドのテリーベ侯爵家の馬車が到着した。
ルドルフは、
「ヒルデガルド嬢、気を付けてな。今までダミアンをありがとう」
とヒルデガルドに礼を言うと、学園内に入って行った。
ヒルデガルドは迎えに来た馬車に乗り込む前に、カーチスへと向き直った。
「カーチス様……あの、さっきはありがとう。止めてくれて」
「当たり前だよ。君が傷つくのを見たくなかったから」
カーチスのその笑顔に、ヒルデガルドは少しだけ救われた気がした。
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