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卒業パーティーの前日――テリーベ侯爵家に、来客があった。
「カーチス・ペースと申します。明日の卒業パーティーで、ヒルデガルド嬢をエスコートさせていただきたく、ご挨拶に参りました」
玄関ホールで深く頭を下げるカーチスは、いつもより少し緊張しているように見えた。
ヒルデガルドは、階段の上からその様子をそっと見守る。
「ペース伯爵令息、わざわざ挨拶に来てくださってありがとう」
礼儀正しいカーチスに、ヒルデガルドの父であるレオポルトが穏やかに応じた。
「カーチス様、娘をよろしくお願いしますね」
母であるフィリナも、柔らかく微笑んだ。
その光景を見て、ヒルデガルドの胸はふわりと温かくなる。
自分のために、こんなふうに丁寧に挨拶に来てくれる人がいる―― それがとても嬉しかった。
「ヒルデガルド嬢……では明日、パーティー前に迎えに参ります」
「はい、お待ちしております」
「その前に、卒業式だね」
「そうね」
「じゃあ、また明日」
「はい、また明日」
明日の約束をして帰っていくカーチスの背中を、ヒルデガルドは見えなくなるまで見送った。
そんな彼女を、レオポルト、フィリナ、そして弟のユーリスが、温かく見守っていた。
そして翌日――昼の卒業式は、穏やかに終わった。
ダミアンとは「おはよう」と「卒業おめでとう」と言葉を交わしただけで終わり、夕方からのパーティーをどうするのかは聞かなかった。
夕方――ヒルデガルドはメイクをし、ドレスに着替え、髪を整え、鏡の前に立つ。
ヒルデガルドのドレスは薄い水色で、真珠のネックレスとイヤリング、そして髪にパールピンを差していた。
おかしなところはないだろうかと、角度を変えて鏡に映る自分を見ていると、
「大丈夫、とても素敵よ」
と、くすくす笑いながらフィリナが言った。
「ヒルデガルドが元気になって嬉しいわ。これも、あの彼のおかげかしら?」
そう言ったフィリナに、ヒルデガルドは微笑みを返すだけで、何も答えなかった。
だけどフィリナは娘の微笑みを見るだけで、満足したように頷いた。
玄関の方から馬車の音が聞こえた。
窓の外を見ると、ペース伯爵家の馬車が止まっていた。
ヒルデガルドがフィリナと共に階段を下りて行くと、レオポルトとユーリスと話していたカーチスが、ヒルデガルドを見上げた。
「……ヒルデガルド嬢、お迎えに上がりました」
一瞬驚いたようなカーチスが、ヒルデガルドを見つめ、ふわりと笑う。
ヒルデガルドも、カーチスを見つめた。
白いタキシードを着て、胸元に水色のチーフを差したカーチスは、学園で見ていた彼とは違い、とても大人びていた。
「……お待たせしました、カーチス様」
「いえ……あの、ヒルデガルド嬢……」
「はい……」
「……とても、お綺麗です」
カーチスのその一言に、ヒルデガルドの頬がほんのり熱くなる。
「カーチス様も……とても素敵です……」
「あ……ありがとう……」
ヒルデガルドが褒めると、カーチスも頬をほんのりと染めた。
そして互いに見つめ合い、微笑み合う。
「それじゃあ、あまり遅くならないようにな」
「行ってらっしゃい。カーチス様、ヒルデガルドをよろしくお願いしますね」
「姉様、カーチス様、楽しんできてね!」
「えぇ、ありがとう」
カーチスが手を差し出し、ヒルデガルドは彼の手を取った。
そして優しい家族に見送られながら、ヒルデガルドはカーチスにエスコートされて、ペース伯爵家の馬車に乗り込んだ。
馬車が静かに動き出す。
窓の外の夕暮れが、二人の未来をそっと照らしていた――。
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