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第一章:トマス・コールド
10・契約
しおりを挟む「あの……それって、どういう事なの?」
「どうもこうも、アランから聞いていたベルという娘と、お前の妻になったベルのイメージが違い過ぎたんだ。だが、お前はその娘をベルとして連れ帰り、俺たちに紹介した。だから、俺たちはずっとその娘がベル・ガンドールなのだと思い込んでいた。ねぇ、父上」
ウォルト兄さんの言葉に、あぁ、と父さんが頷いた。
父さんは暗い表情で俯いていて、母さんは父さんにしがみついて震えていた。
「父上宛に、ギルベルト殿からは何度も手紙を送って来られていたし、オウンドーラ王からも、ベルは何をしているんだって何度も問い合わせがあった……」
「え?」
まさか、ギルベルト・ガンドールが父さん宛に手紙を書いていたなんて、考えた事もなかった。
そして、オウンドーラ王からの問い合わせって、一体……。
「お前、本当に何も知らなかったんだな。まぁ、ベルが偽物なのだから知らなくても仕方ないかもしれないが、彼女には、この王都オフレンドに防御結界を張り、守るという役目があったんだ」
「え?」
「ギルベルト殿は、姪であるベルに、安全な場所で幸せになってもらいたかった。そして我がオウンドーラ王国は、この国の守りを強化したかった。そこで、両者の利害が一致した。オウンドーラ王国は、この王都オフレンドでのベルの身の安全と幸せを約束する代わりに、ギルベルト殿には命が尽きるまで東の森の砦で戦い続ける事を、ベルには王都オフレンドに防御結界を張り、守り続けるという契約を交わしたんだ」
「そ、そんなの、初耳だ!」
僕は思わず叫んでしまっていた。
だって、そんな事、全く知らなかったんだ。
「そんなの知らない! どうしてそんな大事な事を、僕に黙っていたのさ!」
「お前には、そんな契約の事を知らずに、ベルと愛し合って幸せになってもらいたかったんだ!」
そう叫んだのは、父さんだった。
「何を勝手な事を言っているのさ! 大体、この結婚を決めたのは、父さんじゃないか! 僕にはこのベルという、別に愛する人が居たっていうのに!」
「このベルという、別に愛する人、ね」
「え?」
ウォルト兄さんがため息をつき、呆れたように言ったのを聞いて、僕は我に返った。
もしかして、今僕は、ベルが偽物であるという事を証明するような事を、口にしてしまったのではないだろうか。
「はぁ、もう、本当に甘ちゃんなんだから」
次にため息をつき、呆れたように言ったのは、僕の隣に立つベルだった。
「ベル?」
「気安く名前を呼ばないでよ、この甘ったれのボンクラ……」
そう言ったベルは、冷ややかな目で僕を見つめ、また深いため息をついた。
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