コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

文字の大きさ
22 / 75
第二章:ベル・ガンドール

22・東の森の第一砦

しおりを挟む


 私が、伯父であるギルベルト・ガンドールから、生まれ育ったこの東の森の第一砦を出て、顔も知らない男と結婚して、王都オフレンドに住むようにと言われたのは、十九歳の誕生日を過ぎて、ほんの数日経った時の事だった。

「お、伯父様? 結婚って、私、まだ十九歳なのよ? 冗談ですよね?」

 厨房でみんなの食事の準備をしていた私は、握っていたジャガイモと包丁を置き、伯父様を見つめた。
 私は伯父様に、冗談だ、と言ってほしかった。
 だけど、私の伯父であるギルベルト・ガンドールは、冗談を言うタイプの人間じゃない。
 伯父様は首を横に振り、

「ベル、これは冗談ではない」

 と言って、真剣な表情で私の顔を見つめた。

「お前は私にとって、死んだ弟夫婦の忘れ形見だ。この森の砦で子供を育てるなど、無茶苦茶な事だとわかっていながらも、お前のそばに居たくてここで育ててしまった。だけど、ここは戦場だ。日々危険と背中合わせの場所だ。そして私は、そういう場所でしか生きる事ができない男だ。だから、私はお前の今後の安全と幸せを考え、今回の事を決めた」

「き、決めたって何よ! 私の事なのに、私に何も聞かないまま、全部決めたっていうの?」

「あぁ、そうだ」

 伯父様は真面目な顔で、深く頷いた。

「信じられない! 私の事なのに、私に何も聞いてもらえないなんて!」

「ベル……」

「確かにここは安全な場所ではないけれど、ここは私の大好きな場所なのに!」

 伯父様は悲しそうな、困ったような表情で私を見つめた。
 あぁ、多分、本当に困っているんだろうなと思う。
 だけど、伯父様が勝手に決めてしまった事で困るのは、自業自得だ。

「ベル、ここは魔物が絶えず湧き出る、魔の森だ。とても危険な場所なんだ……」

「わかってるわ。だって、私はここで生まれて、ここで育ったのだもの」

 ここは、オウンドーラ王国の王都オフレンドの南に位置する、魔物が棲み湧き出る危険な魔の森。
 そして、この東の森の第一砦に居る者たちは、王都オフレンドを守る傭兵だった。
 私の両親はここで出会って愛し合い、二人の間に私が生まれた。
 だけどしばらくして、魔物の襲撃があり、二人とも殺されてしまった。
 赤ん坊だった私が生き残れたのは、いくら両親が必死に守ったからとはいえ、奇蹟だったと何度も聞かされた。
 それから、私はここでずっと暮らしている。

「お前をここで育てたのは私だ……。だが、私はお前に傭兵にするつもりはない。お前には、魔物と戦う力が備わっていないからだ」

「それは……」

 私は真剣な表情の伯父様の視線から逃れるように、俯いた。
 私には魔物と戦う力が備わっていないーーそれは確かな事だった。
 私は力も体力も人並みで、どれだけ鍛えても、幼馴染のタイラーやマディのように、魔物と戦えるだけの力を得る事ができなかった。
 魔物と戦う力がない者は、自分の身を守る事ができない。
 それはつまり、死を意味している。

「お前には、安全な場所で幸せに暮らしてほしいのだ。頼むから、わかってほしい……」

「た、頼むって言われても……」

「オウンドーラ王には、お前の身の安全と幸せを保証する契約をしてもらった。私はここで、お前が居る王都オフレンドのために戦おう。そして、お前は王都オフレンドで過ごしながら、防御結界でオフレンドと自分の幸せを守るのだ」

「伯父様……」

 私には、魔物と戦う力はない。
 だけど代わりに、回復魔法と、防御魔法を使う事ができた。

「ベル……結婚式は、一週間後だ……。どうか安全な場所で、幸せに暮らしてほしい……」

 伯父様はそう言うと、大きな手で私の頭を撫で、立ち去った。
 私はその場に崩れ落ちるように座り込み、声を上げて泣いた。

 私の幸せは、どんなに危険な場所であろうとも、ここに居る事なのに。
 どうしてわかってもらえないのだろう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...