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第二章:ベル・ガンドール
22・東の森の第一砦
しおりを挟む私が、伯父であるギルベルト・ガンドールから、生まれ育ったこの東の森の第一砦を出て、顔も知らない男と結婚して、王都オフレンドに住むようにと言われたのは、十九歳の誕生日を過ぎて、ほんの数日経った時の事だった。
「お、伯父様? 結婚って、私、まだ十九歳なのよ? 冗談ですよね?」
厨房でみんなの食事の準備をしていた私は、握っていたジャガイモと包丁を置き、伯父様を見つめた。
私は伯父様に、冗談だ、と言ってほしかった。
だけど、私の伯父であるギルベルト・ガンドールは、冗談を言うタイプの人間じゃない。
伯父様は首を横に振り、
「ベル、これは冗談ではない」
と言って、真剣な表情で私の顔を見つめた。
「お前は私にとって、死んだ弟夫婦の忘れ形見だ。この森の砦で子供を育てるなど、無茶苦茶な事だとわかっていながらも、お前のそばに居たくてここで育ててしまった。だけど、ここは戦場だ。日々危険と背中合わせの場所だ。そして私は、そういう場所でしか生きる事ができない男だ。だから、私はお前の今後の安全と幸せを考え、今回の事を決めた」
「き、決めたって何よ! 私の事なのに、私に何も聞かないまま、全部決めたっていうの?」
「あぁ、そうだ」
伯父様は真面目な顔で、深く頷いた。
「信じられない! 私の事なのに、私に何も聞いてもらえないなんて!」
「ベル……」
「確かにここは安全な場所ではないけれど、ここは私の大好きな場所なのに!」
伯父様は悲しそうな、困ったような表情で私を見つめた。
あぁ、多分、本当に困っているんだろうなと思う。
だけど、伯父様が勝手に決めてしまった事で困るのは、自業自得だ。
「ベル、ここは魔物が絶えず湧き出る、魔の森だ。とても危険な場所なんだ……」
「わかってるわ。だって、私はここで生まれて、ここで育ったのだもの」
ここは、オウンドーラ王国の王都オフレンドの南に位置する、魔物が棲み湧き出る危険な魔の森。
そして、この東の森の第一砦に居る者たちは、王都オフレンドを守る傭兵だった。
私の両親はここで出会って愛し合い、二人の間に私が生まれた。
だけどしばらくして、魔物の襲撃があり、二人とも殺されてしまった。
赤ん坊だった私が生き残れたのは、いくら両親が必死に守ったからとはいえ、奇蹟だったと何度も聞かされた。
それから、私はここでずっと暮らしている。
「お前をここで育てたのは私だ……。だが、私はお前に傭兵にするつもりはない。お前には、魔物と戦う力が備わっていないからだ」
「それは……」
私は真剣な表情の伯父様の視線から逃れるように、俯いた。
私には魔物と戦う力が備わっていないーーそれは確かな事だった。
私は力も体力も人並みで、どれだけ鍛えても、幼馴染のタイラーやマディのように、魔物と戦えるだけの力を得る事ができなかった。
魔物と戦う力がない者は、自分の身を守る事ができない。
それはつまり、死を意味している。
「お前には、安全な場所で幸せに暮らしてほしいのだ。頼むから、わかってほしい……」
「た、頼むって言われても……」
「オウンドーラ王には、お前の身の安全と幸せを保証する契約をしてもらった。私はここで、お前が居る王都オフレンドのために戦おう。そして、お前は王都オフレンドで過ごしながら、防御結界でオフレンドと自分の幸せを守るのだ」
「伯父様……」
私には、魔物と戦う力はない。
だけど代わりに、回復魔法と、防御魔法を使う事ができた。
「ベル……結婚式は、一週間後だ……。どうか安全な場所で、幸せに暮らしてほしい……」
伯父様はそう言うと、大きな手で私の頭を撫で、立ち去った。
私はその場に崩れ落ちるように座り込み、声を上げて泣いた。
私の幸せは、どんなに危険な場所であろうとも、ここに居る事なのに。
どうしてわかってもらえないのだろう。
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