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第二章:ベル・ガンドール
30・ベルの戦い
しおりを挟む逃げなきゃいけない。逃げて、お父さんのところに戻らなくっちゃ。
そう思いながら、私は西の魔の森の中を、必死に走る。
森の奥に行っては駄目だ。街道側に出なくちゃいけない。
だけど、今の私にはもう、どちらに行けば二つの森の間にある街道に出られるのかが、わからなくなっていた。
「助けて……誰かっ……お父さんっ! ギルベルトお父さんっ!」
お父さん、お父さん、と何度も呼ぶ。
だけど、ギルベルトお父さんは、今私がこんな目に遭っているなんて、知らない。
結婚式を終えて安全な王都オフレンドに向かったはずの娘が、西の森で殺されそうになっているなんて、夢にも思わないだろう。
幸せになれ、と言われて、住み慣れた東の森の第一砦を出たというのに、その数時間後にどうしてこんな事になっているのだろう。
「あいつ、許せないっ」
私とお父さんを騙したトマスが、許せなかった。
騙されているという事を、お父さんに知らせなくてはいけない。
だから、この西の森を抜けて、街道に出なくちゃいけない。
魔物たちから必ず逃げて、お父さんの元へ帰らなくちゃいけない。
だけど、それはやはり無理なのかもしれなかった。
迫りくる魔物たちから必死に逃げていたけれど、とうとう周りを囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまったのだ。
今私をぐるりと囲んでいるのは、魔狼と呼ばれる狼の魔物たちだった。
魔法を使うというような特殊な能力はなかったはずだが、顎の力が強く、噛まれたらひとたまりもないだろう。
私には魔物たちと戦う力なんてない上、今はナイフの一本すら持っていない。
私にできるのは、回復と防御の魔法だけだ。
それも不器用だから、落ち着いた場所で、落ち着いてやらないと使えないレベルのものだ。
だけど、周りに助けてくれる人が居ない今、使えなければ死ぬだけだった。
「で、きたっ……」
周りを魔物に囲まれながらも、防御魔法を使った私は、ひとまず身の安全を確保する事ができた。
私の体を中心に、半径二メートルくらいの円を描くように展開された防御魔法は、魔狼たちを光の壁の外へと弾き飛ばした。
いつもなら焦って上手くいかなかったけれど、自分しかいない状況下で魔物たちに囲まれ、逆に冷静になれたのかもしれなかった。
「これから、どうしよう……」
この防御魔法を使ったまま、街道まで移動する事はできないだろうか。
そんな事を考えて少し体を動かすと、転んだ時に打ち付けた膝が痛んで集中力が途切れ、防御魔法が消えてしまった。
すかさず魔狼たちが襲い掛かって来たが、間一髪、再び防御魔法を発動する事ができた。
飛びかかってきた魔狼は再び光の壁に弾き飛ばされたが、私はもうここから移動する事は無理なのだと理解した。
防御魔法を使い続けたままの移動は、できそうにない。
だけど、防御魔法を解除して走ったとしても、魔狼相手に逃げ切る事は無理だろう。
今はこの防御魔法で、魔狼の攻撃から逃れているけれど、これも私の体力と精神力がいつまで続くかわからない。
つまり、私の命は、この防御魔法が途切れた時に終わってしまうという事だった。
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