コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

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第二章:ベル・ガンドール

43・東と西の砦

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 フェンリルさんと想いを通わせてからは、私は記憶を取り戻す事に怯える事なく、毎日を過ごしていた。
 西の砦のみなさんは私とフェンリルさんが恋人同士になった事を祝福してくれたし、時には魔物の襲撃に遭うなどして、危険な目に遭う事もあったけれど、私は幸せだった。
 
 そんなある日の事。
 私はフェンリルさんに、この西の砦を出たら、どこか行きたいところはあるかと、聞かれた。
 どこか行きたいところーー私は考えてもすぐには思い浮かばなかった。
 だって私はこの砦が好きだったし、フェンリルさんのそばに居られれば、それで良かったからだ。

「何か、あったんですか?」

 そう尋ねると、答えてくれたのは、チェスターさんだった。

「実はね、オウンドーラ王国との契約が、二ヶ月ほど前に終わってた事に、気づいちゃったんだよねぇ」

「契約?」

「そう。俺たち傭兵と、オウンドーラ王国の契約……俺たちはオウンドーラ王国と二年契約で、この西の森の砦を守っていたんだけどさ、それが二か月ほど前に切れてて、簡単に言うと、二か月間、タダ働きしてたんだよねぇ」

 チェスターさんは笑いながら言ったけれど、フェンリルさんや他のみなさんは、呆れたような表情でチェスターさんを見ていた。

「オウンドーラとの契約関係は、チェスターが担当していたんだけどな、こいつ、ころっと忘れていたらしい」

「そうそう、俺、ころっと忘れてたんだよねぇ。ほら、この魔の森にずっと居ると、日にちの感覚がどんどん薄れていくからさぁ」

 そう言ったチェスターさんの頭に、フェンリルさんが軽く拳骨を落とす。

「まぁ、向こうからこちらの様子を見にきたり、契約更新を言って来ない事を考えると、もうここに居る必要もないかと思っているんだが」

 つまり、フェンリルさんたちは近いうちに、この西の砦を出ようとしているらしい。

「どこに行っても、ベルは俺と一緒に来てくれるよな?」

 とフェンリルさんに聞かれた私は、もちろんと頷いた。
 フェンリルさんが私を望んでくれる限り、私はどこだって彼についていく。

「元々さ、オウンドーラ側は、俺たちの事をあんまり信用していないんだよね。東の森の砦にも、同じように傭兵たちが居るんだけどさ、そっちと比べると、待遇が悪いの」

「まぁ待遇の事は、オウンドーラとの付き合いの長さの差かもしれないが、契約更新の話もしに来ない現状を考えると、俺たちの事は気にも留めていないんだろうな」

「そうだね。もしくは、傭兵を雇う必要がなくなったのかも」

「じゃあ、オウンドーラ王に話を通したら、俺たちはさっさとここを出るか。あ、でも、一応、東の砦の方にも話を通した方がいいか?」

「そういえば、あっちの砦には、ちゃんとした医者が居たっけ? だいぶ良くなったみたいだけど、ベルちゃんの体、一回見てもらおうか?」

 ちらりとチェスターさんが私へと視線を向けた。
 私の体は目覚めた時に比べてだいぶ動くようにはなってはいたけれど、まだゆっくりとしか動かす事ができなかった。
 多分、完全に元通りにはならないのではないかと思う。

「じゃあ俺、明日にでも東の砦に行って来ようかな。オウンドーラ王国の情報も聞けるかもしれないし、もしかすると、こっちの砦にも、あっちの人間に入ってもらう事にもなるかもしれないしさ。ギルベルトさんやダンカンさんと、話をしてくるよ」

「ギルベルト?」

 その名前を聞いた瞬間、どくん、と胸が大きく鳴った。
 私はこの名前を知っているような気ががーーいや、絶対に知っていると思った。

「あぁ、東の砦を仕切ってる男が、ギルベルト・ガンドールっていう男なんだが……ベル? どうした? お前、顔色が……」

「ギルベルト・ガンドールッ……」

 そう、私は、この名前を知っていた。
 この名前の人は、私にとって掛け替えのない人で、その姿を鮮明に思い出させた。

「ベル?」

 突然頭が割れるように痛み、一人で立っていられなくなった私は、その場に崩れ落ちるように倒れてしまった。

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