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第1章・異世界転移と異世界転生

自己中心的聖女②

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「だいたいね、ジュニアスに愛されるとか言ってるけど、あいつには綺麗な奥方がいるでしょ! いい加減にしなよ!」

 ジュニアスはひどい男だが、あの男にはもったいない、信じられないくらい美しい奥方がいるのだ。
 愛人は身の程をわきまえるべきだ。
 だけどジュンは首を横に振り、ナディア様の部屋のドアを睨みつけ、言った。

「ナディア! あの女も、近いうちに殺してやるわ! そして私がジュニアス様の妻に……王妃になるのよ!」

「あんた、なんて事言うの!」

 なんという自己中心的な言い分だ……頭が痛くなる。
 この女は、元の世界でどんな生活をしていたのだろう。
 というか、いくら聖女とはいえ、こんなに殺す殺すと連発している危険な女、王宮で自由にさせておいてもいいの?

「騒がしいわね、何事?」

 部屋の前が騒がしいのが気になったのだろう、ナディア様の部屋のドアが開いて、アニーさんが顔を覗かせた。
 ジュンはアニーさんを睨みつけると、手を振り上げる。
 その手にファイヤーボールが現れたのを見て、私は慌てて叫びながら、ジュンに向かって突進した。

「アニーさん、部屋から出ちゃ駄目!」

「え? は、はいっ!」

「邪魔を、するなぁっ! ぎゃあっ!」

 私がジュンに体当たりしたから、彼女はバランスを崩し、ファイヤーボールはどこかに放たれる事なく消滅した。
 危ないところだった……まぁ、ノートンが居るから、彼がなんとかしたかもしれないけれど、ジュンは本当に何をするかわからない。
 彼女に近づくと私も危ないので、体当たりした後は、すぐにジュンから離れる。
 以前とは違って身が軽いからできる事だ。

「手荒な事をしたくありませんでしたが、少々度が過ぎますね。ジュン様、少しお休みされてはいかがですか?」

 深いため息をついたノートンはそう言うと、指先をジュンへと向け、「サンダー」と唱えた。
 ノートンの指先から放たれた雷の呪文は、ジュンの体に命中し、ジュンはその場に倒れて気を失ってしまった。

「一体、何だったの?」

 騒ぎが収まった事に気付いたのだろう、アニーさんがまたドアから顔を覗かせた。
 そして、倒れているジュンを見て、顔をしかめる。

「アニーさん、ご無事ですか?」

「は、はい、大丈夫です」

 ノートンに声をかけられたアニーさんは、頷いた。
 アニーさんの返事を聞いて、ノートンがほっとしたような表情をしたのは、ナディア様の部屋にジュニアスが居る事を知っていたからなのだろう。
 ノートンはアニーさんに近寄ると、彼女の耳元で何かを言うと、私や兵士たちを振り返った。

「私はジュン様を部屋に運びます。おい、見張りのために、一人ついてこい! もう一人は、こちらの盾の聖女様を部屋へお連れしろ」

「は、はい!」

 ノートンが気を失ったジュンを抱き上げて歩き出すと、ジュンに夢中な方の兵士が、ノートンの後を追いかけて行った。
 あのジュンって女もすごかったけど、ノートンの方もすごい事をするな。
 聖女って、この国にとって何なのだろう。
 必ずしも大切にされているというわけでもないのかもしれない。

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