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10・ハルフォード侯爵からの正式な謝罪を受け入れますわ
アランが門前で騒ぎ、セシリアの祖父が槍を持って出ていった翌日の朝――。
グランチェスター侯爵家の玄関に、立派な馬車が止まった。
紋章を見れば、ハルフォード侯爵家のものだとすぐにわかる。
「お嬢様、ハルフォード侯爵がいらっしゃいました」
「まぁ……また来られたのね。ハルフォードのおじ様も大変ね……」
ハルフォード侯爵は、結婚式の翌日もバートン伯爵家の噂を聞いて、謝りに来てくれた。
そしてまた本日訪れたのは、昨日のアランの件かもしれない。
「ハルフォードのおじ様は真面目な性格の方だから……。お体を壊されなければいいのだけれど……」
セシリアはジゼルと共に応接間へ向かった。
すでに父アルバートがハルフォード侯爵を迎え入れており、二人は立ち上がってセシリアを待っていた。
「セシリア嬢、この度は……本当に申し訳なかった」
ハルフォード侯爵は深々と頭を下げた。
その姿勢は、昨日アランが見せたものとは比べ物にならないほど誠実で、重みがあった。
「ハルフォードのおじ様、どうか頭をお上げくださいませ。今回の件は、おじ様の責任ではございませんわ。婚約無効になりましたし、昨日は勘違いしてきた方が我が家に押し掛けただけなのですから」
婚約無効になった時点で、ハルフォード侯爵の責任ではないとセシリアは思っていた。
だが、ハルフォード侯爵はまだ責任を感じているようだった。
「いや……責任はある。私が良い縁だと思い込み、君をあの家へ送り出してしまったからだ。君の父上の信頼を裏切る形になってしまったし、本当に、何と言って君たちに詫びればいいか……」
ハルフォード侯爵の声は震えていて、彼の悔しさと申し訳なさが痛いほど伝わってきた。
「ハルフォードのおじ様、あなたが善意で勧めてくださったことは、わたくしも理解しておりますわ。ただ……ただしばらくは、わたくしは婚約や結婚はしたくありません。ただそれだけですわ」
セシリアがそう言うと、ハルフォード侯爵はようやく顔を上げた。
「……ありがとう、セシリア嬢。君のような優しい娘を、あんな家に嫁がせるべきではなかった。別の家の息子を、紹介すれば良かったよ……。あぁ、でもしばらくの間は、こういう話は控えた方がいいんだね」
「えぇ、そうしていただけるとありがたいですわ」
ちらりとセシリアがアルバートへと視線をむけると、アルバートは頷いた。
アルバートが頷くのを確認したセシリアは、ハルフォード侯爵へと向き直った。
「わたくし、セシリア・グランチェスターは、ハルフォード侯爵の謝罪を正式に受け入れます。ですから、今後は気になさらないでくださいまし」
セシリアがそう言うと、ハルフォード侯爵は胸に手を当て、ありがとう、と言った。
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