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風魔法
しおりを挟むダンジョンの中で質問攻めだ。
魔法が取得できると言われたら、誰でも驚くだろう。
俺も習得時は驚いた。
「神須さん、僕には無理ですか・・・」
「無理だな。魔法の魔も感じないな」
ガクッとうな垂れる鈴木だ。
「そんな事を言って、わたしをだますつもり・・・」
「だましても俺には得にならないよ。だけどそれだけの対価が欲しいな」
「いいわ。わたしの全財産をあげるわ。1億円以上あるから」
え!そんなにあるの・・・見た目は30代なのに・・・
「神須さん、部長は司法試験を最年少でトップ合格して、検事になられた方です。ダンジョン法にも関わった人なので凄い方ですよ」
「鈴木、余計な事まで言わないで」
「部長、ここは売り込む場面ですよ。せっかくのチャンスを無駄してはダメです」
「・・・・・・」
「1億か・・・やってみよう。俺も未経験だから失敗するかも知れないぜ。それでもやるか・・・」
「やるわ。失敗した時は払わないわ」
「確かに・・・失敗して払えって、俺も言わないよ。そうだな、あの真ん中で座ってくれ」
言われるまま大人しく、彼女は座った。
それを男女が見てた。この2人も興味がありありだ。
鈴木はスマホで動画を撮りだした。
彼女の後ろに回って、背中に手を付いた。
「何をするの・・・突然に」
「これも魔法習得のスタートだよ。君自身がまだ魔法を信じてないから、俺がリンクして魔力の存在を教える第一歩って訳だよ」
「分かったわ。やってちょうだい」
そして彼女の魔力を探った。
う、これか・・・感じるぞ。あ!しまった。
彼女の魔力を吸取ってしまった。あ、あ、気分が悪い。
「何か温かいものを感じたわ」
俺の体内では、彼女の魔力がうっすらと循環してた。
あ!又も【風魔法取得】と表示された。
え!習得したの・・・なぜだ!
「つづきは、まだしないの。はやくやってよ」
せかしやがって・・・心の準備が・・・
背中に触れて、習得したての風魔法の魔力を彼女のぼやけた魔力に注ぎ込んだ。
「あ!う、う、う、うずくわ」
彼女の表情がトロンとして目はうつろだ。
魔力入れ過ぎた。しかし魔力の循環が始まった。
今は、魔力がグルグルと回って体を馴染ませている段階だ。
それが手に取るように感じた。
俺は手をそっと離した。
「どうだ魔力を感じるか」
「ええ、感じる・・・これが魔力なのね。なにか懐かしい感じだわ」
「立ってくれ」
彼女はすくっと立った。
「よく見てろ。これが風魔法だ」
俺は手を前に突き出した。
手の平で空気を凝縮しながら回転させるイメージをした。
マスターから聞いた初歩の風魔法だ。
小さな回転が野球ボールぐらいになった。
それは周りの土ぼこりが舞って、人が見える球体になった。
「凄い、これが風魔法なの・・・信じられない」
「部長、近づき過ぎです」
鈴木に抱かれ引き戻された。
「あ!ごめん」それは彼女の女性らしい言葉だった。
俺は、球体を壁に向かって放った。
真直ぐに飛んで壁に当たると「ギュンギュウ」と唸った。
そして消えた跡には、ぽっかりと穴が開いていた。
「壁をえぐるなんて・・・凄いです」
彼女は、自分自身が出来るのかと悩んだ。
「自分が自分を信じてなかったら、誰が自分を信じるんだ。信じる事から始めろ」
彼女は目をつむり集中していた。
時間が刻々と経過した。
彼女は、目を開いた。
目の前に風が舞っていた。
「風が舞ってる。部長、風が舞ってます」
更に強さを増して竜巻になっていた。
「部長、竜巻です」
「そうね、今はこれが限界だわ」
「訓練すれば必ず出来るだろう。時間があれば練習だ。地上よりダンジョンの方が練習になるだろう」
「それは何故ですか」
「今の君は魔力量が少ない。ダンジョンなら魔力を吸収しながら使えるからだ。ただし用量を超えると気絶するから気をつけろ。俺も気絶したからな」
「気絶ですか・・・分かりました」
ちょっとふらついた彼女を、鈴木が抱き止めた。
「大丈夫ですか部長」
「大丈夫よ、ちょっと気が抜けたみたいだわ」
「それでは地上に帰りましょう」
「え!なぜ」
「部長、値段交渉がまだです。上の連中もきっと連絡を待ってるはずです」
「あら!すっかり忘れてたわ。皆さん、帰る事にしましょう」
ツカツカと歩き出した。
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