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【番外編2】食堂イベ〜その時の副会長〜
しおりを挟む「…遅い」
読んでいた本を閉じながら顔を上げ、零斗はポツリと零した。その相手は言うまでもない、未だ階下にいるであろう己の仕事仲間達だ。
柱に掛かっている振り子時計の針は、1時30分を指していた。つまり、零斗達が食堂に来て別れてから20分程経ったということだ。そのことを表すかのように、温かかったはずの紅茶は現在では湯気のゆの字もなく、すっかりと冷め切っていた。
零斗はカップに残るそれを飲み干し、テーブル上に置いていたスマホを手に取った。
ロックを解除してホーム画面に現れたのは、結成当初に生徒会室前で撮った生徒会メンバー全員での集合写真。意外と写真に撮られることを好まない“彼”が写っているのは、たったこの1枚しかなかった。
それを見て無意識に頬を緩めながらも、LIMEを開き“Ryuga”のアイコンをタップする。即座に表示された会話履歴は、そのほとんどが事務的なもので埋め尽くされていた。
そこへと新たなメッセージを加える。
それは、先程零れ落ちた言葉と同じ内容の極々短い一言。酷く素っ気無く感じられる一言だけのメッセージは、忙しかった頃の彼が効率を求めた結果の産物だった。
もちろん、普段の彼ならこのような一言のみを送るようなことなどしない。相手が分かりやすい文を考えて送っている。
しかしそんな中、このようなもので送るということはつまり、その一文だけでこちらの言いたい事の意図を察して返信をくれるであろうという、分かりにくい零斗なりの相手への信頼の表れだった。
いつもなら送信してから5分以内に既読が付くのだが、今回は真夜中でもないのにも関わらず、一向に付く気配がない。
どこか呆れたように小さく息をつき、龍雅の次に返信が早い相手に送ることにした。LIMEではなくメールであるため、既読機能がないのが少し不便だが仕方ない。
2分ぐらい考えてから、たった一言から10行以上になったメッセージを打って送信する。その中には、“後から全員で生徒会室に来い”というのも付け加えられていた。
「(水無月は…あれなら遂行してから返信してくるでしょうから、それまで此処で待っていますかね)」
そう思考しながら、役目の終えたスマホをテーブルの上に置き直す。それから膝の上に乗せていた本を再び手に取ってページを開き、1人静かな読書へと戻っていった。
~~~ッ!♪~~♪
更に約5分後、決して大きくはないメールの着信音が、水底を揺蕩うかのように穏やかな静寂を壊した。
「……あぁ、彼ですか。…しかし、思っていたよりも熟すのが早かったですね」
届いた返信を確認しながら、零斗は誰ともなくそう呟く。
画面を更に下へスクロールさせると、ついでとばかりに下で起こったらしい当時の様子が、相変わらずのチャラチャラとした文面で綴られていた。
「(…へぇ、あの引きこもりの風紀トップ1、2が現れたのですか。長月には大変な役割を1人でさせてしまいましたね…。代表として今度、彼にお礼をしなくては…)」
さて渡すのは何がいいかと、もう少しだけ続く文をサラッと読みながら思案する。
「お待たせ致しました、お持ち帰り用の軽食セット5人前です」
突然影が刺したかと思うと、頭上からハスキーな声が降ってきた。零斗がそちらに顔を向けると、比較的顔の整った男性が立っていた。白シャツと黒のギャルソンエプロン、同じく黒のパンツを身に着け、手には少し大きめのキャリータイプの箱が握られていた。恐らく…というか絶対、この男性は食堂のウェイターだろう。
しかし。
「(この人、全く足音や気配がしませんでした…!)」
零斗だって、伊達に【soleil】の副総長をしてない。力こそ他のメンバーよりは劣るが、何かと察知する能力は族の誰よりもずば抜けて優れていた。
また、この場の床はよく磨かれた大理石であるため、たとえどんなに気を付けていても必ず足音はしてしまう。ウェイターは皆革靴を履いているので、余計に足音を立ててしまうのは避けられない。そもそも気配などというものを、一般人が容易に隠せるわけがない。
それにも関わらず、このウェイターはそれら全てを見事にやり遂げていた。明らかにただの一般人ではない。
事実、雇い主である理事長1人しか知らないが、このウェイターはもちろん一般人ではない。
万が一にも招かざる者が現れた際に、学園生を守り、可能なら排除する事を第1の役目とした立派な戦闘要員である。因みに、学園で雇われている者の4割弱がそれに当たる。
「有難う御座います。すいません、急に無理を言ってしまって」
零斗は内心かなり警戒しながらもウェイターが運んで来たキャリータイプの箱を受け取り、表面上は友好的な笑みを浮かべてにこやかに告げる。
「お気になさらず、これが私共の仕事ですので」
愛想の”あ"の字もなく、ただ淡々と述べるウェイターは「では、失礼します」とだけ言い残し、さっさと持ち場に戻っていった。終ぞ最後まで、足音と気配はしなかった。
「何だったのでしょうか、あのウェイターは…」
ポツリと、どこか呆気にとられたような声が洩れた。
しかし、すぐさま正気に戻り小さく頭を振る。
そう、このような事をしている暇など無いのだ。早く此処から出なくては、自分が呼んだにも関わらず彼等より遅く着くことになってしまう。
何より、自分が彼等のことを思って軽食を準備させて持って来たなどと知られたくない。あくまでスマートに、さり気なく出したいのだ。
だって、恥ずかしすぎるでしょう?
そんなことがバレたら、まるで私が彼等のことを人として、かなり好ましく思っているみたいではないですか。
そう内心で誰に向けてでもなく言い訳をしながら、零斗は心なしか速歩きで生徒会室へと向かった。
今から約15分後に、己がツンデレのような言葉を吐くことになるとは露ほども知らずに。
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