ヒモのヒモ

しもたんでんがな

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ヒモのヒモ

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寄生虫の寄生虫に名などない。


六本木、高層マンション、38階。ドン!ドン!ドンッ!と効果音が聞こえてきそうな程の圧倒的成金ワールド。

名無しを出迎えたのは、一見普通の少年。メンテナンスが行き届いたグレイッシュの髪、きめの細かい綺麗な肌。毛が生えていない白い腕。同い年か少し年下だろうか、しかし段々と垣間見れる、メシが不味そうになるくらいの香水の臭い、遠慮を知らないブランドのホログラム、大理石の床の上の角張った素足。そんな胡散臭さの煮込んだような奴が募集主だった。

「やあ」

いそいそとついて行くとリビングへ案内される。実家よりも遥かに広い空間に開いた口が塞がらない。マンションに戸建てが負けた事への敗北感で名無しは片膝が折れそうになる。フカフカのスリッパが「お前には釣り合わない」とばかりにパカパカと音を鳴らした。入り口にはガジュマルを20倍進化させたような観葉植物が名無しを出迎え嘲笑い、1畳程ある液晶テレビが視界に入ると俺、このスペースだけで生活出来るわと確信する。ガラステーブルの上には突飛由もない日本刀のレプリカが煌々と飾られていた。IKEAの家具しか見た事のない名無しでも並べられた家具が高価だという事は容易に想像出来る。

「それオーナーの趣味なーそっちはレプリカだから安心しなよー」

視線に気が付いたのか、自身の趣味だと思われたくないのか即座に否定の言葉が投げられる。そっちは????あーなるほどねーそっち系の人のそっちな持ち物なのねー。しかし、名無しが聞きたいのはそんな情報では無く"そっち"で自身に危険が及ばないかである。触らぬ神に祟りなし。先人の言葉を奥歯で噛み締め、取り敢えずコクコクと頷いて見せた。

黒がギラつく革張りのソファーを指差す線の細い指に、オーバーサイズのセーターの袖口が生地を持て余すかのように溜まり、男を更に華奢に見せる。名無しは静かにそして遠慮がちに浅く腰掛け、一応即座に逃げられるよう画策する。そんな名無しを歯牙にもかけないかのように、それは体重をかけても全く沈まず、名無しの腿を湾曲させ濃、紺のスラックスのシワを綺麗に伸ばした。

高いソファーは沈まないものなのかと新たな知識を得ている中、一息つく間もなく契約書らしき紙を前に出される。しかし読む間は与えられず促され、クタクタのリクルートバッグから履歴書をおずおずと取り出し、差し出した。学歴、職歴、がんばってきた事、志望動機。馬鹿正直につらつらと書き埋めたが、これに意味の無い事は明白だった。履歴書を見ると2つ年上なんだねーと乾いたように呟き、最新機種のカメラが4つ付いたスマホを取り出す。画面に爪をカチカチと当てながらいじりだすと、いよいよ面接が始まった。


「自己紹介をお願い」
「志望動機は?」
「長所と短所を教えて」
「君にとって仕事って何?」
「将来の夢は?」


空気清浄機のみが忙しなく働く中、テンプレートのような質問にテンプレートのような答えを返してゆく。

「まあ、色々聞いたけど結局は相性なんだよねーこれもやってみたかっただけだし。試験採用とかお試し期間ってあるでしょ?だから体験って感じで1回抱かせて貰える?今日の分は出すし」

ようやく名無しが待っていた言葉を男が投げかける。男はニカッと笑いながらスマホの画面を見せた。そこに映されていたのはリクルートサイトの面接質問例一覧だった。いや本当しょうもない。

男が求めているのは顔と相性、名無しは金。それだけだ。

リクルートスーツの子、犯してみたかったんだよねーと男が愉しそうに近づいて来る。だからスーツ指定だったのか、AVの見過ぎだろ。そんな、名無しの虚しい悪態は口の中に入ってきた舌によってかき混ぜられ消滅していった。キツめのメンソールが喉の奥を冷やす。朝、手間取りながら結んだネクタイをいとも簡単に奪われ、ボスンとそのまま押し倒された。

シャツの上から4番目のボタンだけを外し、間隔の広くなったボタンとボタンの間から不健康そうな線の細い手を滑り込ませる。蛇のように這う手は氷のように冷たく、思わず名無しの体がピクりと跳た。入れられた手は迷いも無く胸の尖りへ向かい、中指を右往左往させ執拗に弄ぶ。その冷たさとは対照的に名無しの顔は段々と熱くなってゆく。歯の羅列を舌でなぞられ、舌の裏を乱雑に掻き回され続ける事に反応するかのように、耳が赤く染まってゆく。自身の変化を感じ、いたたまれない。上から名無しを見下ろす吊り目でも垂れ目でもない平行な目尻は、笑っていても平行なままだった。サラリと降ってきたグレイッシュの髪が頬を擽る。唇と唇が銀糸で繋がれ、再び触れそうな距離で問いかけられた。

「男とした事は?」
「ないです」
「口を使った事は?」
「ないです」
「女とヤった事は?」
「ありまっあ···」

まだ面接の続きなんだろうか、俺は何かに期待しているのだろうか、徐々に声色が高くなる自身とは対照的に何故か思考は冴えていくを感じた。スラックスの上から執拗に撫であげられ、無意識に腰が逃げてしまい一気に肌が逆立つ。戸惑いと高揚が込み上がり、自身から聞いた事のない雌の声が漏れる。それを聞き逃さなかったのか、せせら笑うように男は手の速度を上げ、それに反応した、体は自然と抱え込むようにして内へと入ってゆく。名無しは瞳を強く瞑った。

「愉しくなっちゃうね?」

勤めていた会社を退職した後、次の仕事の繋ぎとしてバイト募集アプリを見漁っていた。深夜4時、パソコンの冷めた明かりのみが部屋を照らす中、パサパサになった目を擦りながらこの募集内容を見つけた時はなんの冗談かと思った。"ヒモのヒモ大募集" 部屋あり、日当5万、長期間契約、賄い付き。こんな胡散臭い広告に飛びついた俺も俺だが。何か新しい事がしたいと思った。この歳でもまだ冒険出来るかもと思った。そのザマが今である。後悔など微塵も無いが、初めて見たコイツの顔を見てストンッと腑に落ちた。


コイツは楽しそうな事を愉しみたいのだ。


気が付くとベルトが外され、ファスナーが下ろされていた。緩く立ち上がった性器を直接、乾いた手でいたぶられ普段、名無し自身が扱うよりも強い圧に眉間に深いシワが刻まれる。

「痛かった?」

男は愉しそうに名無しに問いかけるが、返答を求めている訳ではない。それを証拠に、竿を握った手は緩められる事はなく、上下に扱き続け、男のセーターの袖口が先走りで妙な光沢を作り出す。手の平を濡れ始めた鈴口に当て、名無しに見せつけるようにくるくると撫で回す。水音が徐々に大きくなる中、名無しはどこに視線を逃がすかで思考をいっぱいにした。

「·····ッ···」
「声出してみせてよ」
「···っん···ああ」

抵抗と罪悪が脳内でチラつく。真っ当な仕事をせねば、正社員にならなければ、9時17時で働かなければ、汗みずかいて働かなければ。しかし意地の悪い名無しが囁く『今、汗だくじゃ~ん』確かになと思うと同時に、名無しの中で何かが弾けた。両手で男の耳を塞ぎ、口を繋げる。戸惑いで一瞬引いた舌に噛み付き、乱暴に引き戻す。足で乱雑にスウェットをずり下ろし、露になった性器にそれを擦り付けると、上下に動かした靴下は湿り気を帯びる。次第に腕の中の男はピクピクと体を跳ねらせ、繋がれた口内には男の荒い息が入り込んで熱がどくどくと浸食してゆく。しかし名無しが、口角を片方だけ上げた事が、余程悔しかったのか、両手を男の耳から剥がされ、片手でぎちりと拘束された。

「焦るな焦るなっ」
「····はあ、ああ···」

焦ってんのはお前だろと思うが言ってやらない。リードしたがりは嫌われるぞとも思ったがこれも言ってやらない。幾分シラケたので男をまじまじと見つめる。底が透けて見えるくらい色素の薄い茶色い瞳。まつ毛も茶色い。もしかしたらこの髪も地毛なのかもしれない。

「···っんふぁ」

大人しくなった名無しを確認すると、男は両手を解放し、男の粘液で白く汚れたスラックスを下着ごと右脚だけ剥ぎ取る。そのまま両脚を持ち上げられ昼の日に名無しの恥部が全て露になった。ジャケットとシャツはそのままに、下半身のみ露出してる現状に、名無しの脳裏に背徳感が押し寄せ、鳥肌が立つと共に体温が一気に上がる。

「ちょ、っ···っこ、れは····」

羞恥に耐えられず横向きになり隠そうとするが脚を上に掛けられ強制的に開脚させられる。無理矢理開かれているせいかギシギシと関節が泣いた。シャツの裾で隠そうとするも、僅かに届かない。どうせだったら全部脱がしてしまってくれと心が叫ぶ。男はそんな名無しを酔わせるように内腿を触れるか触れないかで撫であげ、自身の反り返った陰茎を名無しの中心に擦り合わせる。思わず名無しの背筋が波打ち、くぐもった声が漏れた。

「····ッ」
「舐めて?」

下唇を指の腹で捲り、血色の良い歯茎をゆっくりとなぞり催促をする。片方では、自身と名無しの竿を握り込み不規則に扱き続け、4本の指の腹がぐちぐちと鈴口を這う。溢れ混ざり合う粘液にセーターの繊維が絡み、妙なコントラストを生み出す。突如訪れた圧倒的な光景に耐えられなくなり名無しは堪らず声を張り上げた。

「ちょ、っと待っ、てええ···エロすぎてな、んが駄ッ···!!」
「ん?」
「···ぁあ、んッ」

猶予を与えず、指を口内に突っ込まれぐりぐりと右頬を削られる。達する前に止められた事を根に持っているのか、男は熱を帯びた訝しげな表情で名無しを見つめ、腹部に散らばった粘液を塗り込むかのようにさすり続ける。

「どういうこと?」
「なんがあっ···エロすぎで、いいっ、ぱいになる···酔いい そううッ」
「本当にどういうこと??」

この目は駄目だ。胸が苦しくなる。指の圧迫感で、舌がもつれ口の中に唾液が溜まる。ぐじゅぐじゅと脳に響く音に脳がぼやけ、伝えたいのに適した言葉がなかなか見つけられない。こそばゆさで名無しの腰が微かに揺れる。

「多分!この、まま···ねっ、だぁら好···になっぢゃ、う気がするッ···」

ようやく適した言葉を見つけ咄嗟に言ってしまったが、これよく考えたら告白じゃね?と一気に血の気が引き、指を咥えたまま口を真一文字にきつく結ぶ。男が目を大きく開いた事を視線が捉えてしまい、言ってしまった言葉に名無しは後悔してしまう。

「·······」

無言で見つめられ、なんだか急に距離が遠くなってしまったかのようだ。いたたまれなくなり名無しが謝ろうとすると、予想外の言葉をかけられた。

「キヨって言って?」
「···んんっ、え?」
「俺の名前、キヨっていうの。呼んでみて?」
「···っ、キ、ッヨ」

名前を呼ばれた事が嬉しいのか、優しく目尻を下げ名無しを見つめる。その目に、これがキヨの笑顔なんだと名無しは胸を熱くさせた。視線が絡め合い互いの生温かかい吐息が混ざり合う。名無しの口から引き抜いたふやけた指をそっと割れ目に滑らせたキヨはそのまま後孔の周りをくーるくると愛撫。

「うん」
「···キヨおお」
「うん」

キヨの愉を楽に替えたいと思ってしまった。さっき会ったばかりのキヨが堪らなく欲しくなってしまった。全部この目のせいだ。火照り続ける自身に戸惑い、名無しはキュッと下唇を噛み締めた。

「んんっ、キ、ヨ···欲し、いっ」

ずっと同じ場所をなぞられていた所為で、名無しの腰はくねくねと悶えるように動き、指先を自身の中心へ押し付ける。湧き上がる気恥しさを隠すようにキヨへ触れるだけのキスをした。

「ん、んッ···」
「あげるよ」
「···ッん」

ゆっくりとゆっくりと粘膜の壁をこじ開けるかのように、ぬぷぬぷと細い指が奥へ潜り込んでくる。しかし、いとも簡単に呑み込んでしまった事に小さく驚いたキヨは腕の中の名無しへ問いかける。

「颯くん、自分で準備してきたの?」
「···ぅ、んんッ」
「どエロやん」

颯の言葉を聞き、喉を上下に鳴らす。歯止めが効かなくなったキヨは、容赦なく指を増やし粘膜を繰り返し撫で上げ、異なる動きでぐにぐにとある一点を探すように中を広げ始める。キヨの陰茎はパンパンに膨れ上がり、脈が波打ち既に獲物を捕らえている。それと同意で颯の体は名前を呼ばれ喜んでいるのか、ビクビクと震えが止まらない。濡れない筈のそこは、鈴口から垂れ流れた粘液によってぐぷぐぷと卑猥な音が漏れ、無意識にキュッと中を締め付けてしまう。

「指無くなるから、ちゃんと息して」
「わかっ、て···けどッ」

颯の中で目当ての場所を見つけたキヨは、体内の全ての指をその一点へ向け、ごりごりと押し潰すかのように早急に指の腹でなぞってゆく。チカチカと視界が弾けるような快楽に、颯は怯んで逃げようとするが腰を肌に指がくい込むほど強く捕まれ引き戻された。力がこもった颯の足は靴下を履いてはいるものの、爪を起てた事でギギギと革のソファーを泣かせる。

「ほら、キヨって呼んで」
「···っああ、きいっ、だっ」
「キヨって、いっぱい呼んでよ···颯」

子供をあやすような話し方に思わず愚図りそうになる。硬く反り返った陰茎が視界に入ると、過分な期待で後孔がヒクヒクと催促した。乱れた息が上から絶え間なく降り注がれる。早く欲しいと2人の思考が重なった。キヨはテカリを帯びた先を颯の後孔へ擦りつける。それだけで颯の下腹部は締め付けられた。先程よりも、ゆっくりと颯の反応を愉ように、キヨの熱をもった先端がギチギチと後孔をこじ開け、奥へ奥へと容赦なく突き進んでくる。熱い息が颯の口元にかかり、堪らず舌で舐め上げキスを催促した。

「···っはあ··きぃ」

舌同士が水音と共に乱れ絡み合い、重なっている事を実感させる。ぬちぬちと下腹部に圧が掛けられ、奥へ段々と侵食してくる陰茎を懸命に迎え入れようとする颯の喉の奥はねばりと張り付き、漏れる呼吸が段々と速く、浅くなる。視界がぼやける中でも、キヨの顔を見ると必ず視線をおくってくれた。こんなの恋人じゃんか!と思うと自然に後孔がヒクつき、無意識にきゅううと体内を締め付けてしまう。

「っんん···っ···はあ、きいいぃ」
「締めんなおい」
「···だっ··ッて、ええ」

キヨは顔を歪ませながら、ずっと子供をあやすように颯の頭を優しく撫でる。ようやく根元までねじ込むと、汗で湿った髪を耳に掛け、汗と先走りで汚れ透けた颯のシャツの上から、指の腹で胸の尖りに粘液を塗り込み、厭らしく透けたそこをギュッと摘まみあげる。その瞬間、颯に痺れるような痛みが襲い、背中を仰け反らせ、鈴口から精液がどくどくと溢れ出した。

「いッ、きい、ぃ···」

黒革のソファーに白く模様が刻まれ、ロボット掃除機が颯の垂れ下がった脚に右往左往する。腰を前後にずぼずぼと刺し込まれ、突かれる度、肉同士が重なる音が規則的に部屋中に響きわたり、脳が麻痺しそうになる。キヨに触れられる箇所、全てが熱をもちビクビクと小刻みな振動を起こす。

「···颯?気持ち?」

気持ち良くなかったらこんなになってないと脳内では悪態をつくが、最早まともな言葉を発する事は叶わない。

「っあ···ああっ、そこ、だめッ、きい···いっ」
「ここ?」
「だめッ···て、いッ」

キヨの首に腕をかけ抱きつく。濃紺のジャケットは既にシワと粘液で見るも無惨な状態に成り果ててしまった。

「キヨ、キッ···よおお···っき、ああ、ッあ」

限界が近いのか、キヨは先走りでどろどろに濁った颯の竿を直線的に上下に扱く。颯はビクッと背中を仰け反らせ、堪らず手を止めようとするが、いとも簡単に拒絶され力なくキヨの頬に触れた。苦しそうな顔で眉を下げたキヨは、颯の手の平に口付けし、指の付け根に舌を這わせ自身の腰と同じ動きをしてみせる。その舌は自我があるかの様に滑り落ちる。胸の尖りを咥えコロコロと転がし、這い上がる様に首筋を舐め上げ耳朶をギチりと噛み付き歯形を舐め回す。

「ああ、ッあ、きい···っい、ああああ」
「···颯、一緒にイこう」
「きい、い···ああ、ッあ」
「···ごめん後で綺麗にするから中に出させてっ」
「あ、ああ、ッい、くっ」

余裕のないキヨの声が降ってくる。熱い視線に脳まで痺れそうになった。再び頭を撫でられ、無性に泣きたくなってしまう。ゆっくり深く潜っては切なくなるを繰り返され、もうこれが終われば一生会わないかもしれない。そう思えば思うほど形を覚えた粘膜がきゅうきゅうとキヨの陰茎に縋り付く。唇を噛みつかれ、歯が当たりカチカチと音を鳴らし、切羽詰まった荒い息が颯の喉を刺激したと同時に下腹部に鋭い熱が広がった。腿がガクガクと痙攣して言う事をきかず視界が一瞬、真っ白になる。

「ッああ、あ···」
「はやてっ」




キヨは繋がったままソファーの前のガラステーブルへ腕をぐぐっと伸ばし、置いてある契約書に手を取る。途端にべとりとガラスが濁った。

「うご、っか···ない、でぇ···」
「どうする契約する?」

目の前で契約書をぶーらぶらと見せられるが、息が乱れて全く読めまい。そもそも読ませる気が無いのかもしれない。

「···ぁあ、っ全、然読、めませっ···」
「俺は颯の事すげー気に入ったよ?飼い犬に噛まれる感じって言うの?」
「終わっ、てから···話しま、しょ···」

一向に抜く気配のないキヨを宥めるように、湿ったグレイッシュの髪をすくい上げるが、途端に不機嫌そうに口を尖らせる。それは可愛くないわと思いつつ、腹部の圧の所為で呂律が上手く回らない。

「なんで敬語に戻んの」
「もう···っん、いっかいっ、抜、て」

キヨは渋々、上半身をゆっくり起こし颯の中から自身の陰茎を引き抜く。すると不意に、親指にどっちの子種か分からないの粘液をでろりとつけられ嫌な予感が走る。

「···っんん」
「もう良いよね?」
「···ちょ、ちょっと待って!っちょ!」
「男は度!胸!ほらドーンと!」
「いや、ちょっそれじゃなくてもっ!精子はないわ!せめて血判で!」

それを聞いて、ニヤリと口角を上げる。夕日に照らされたキヨの髪がキラキラと透け、悔しいが思わず見入ってしまった。

「今、血なら良いっつったな?」

そう言うと、キヨはソファーの間にボスっと手を突っ込み、まさぐるとボイスレコーダーを取り出し停止ボタンを押してみせた。

「いや!!いやっ!」
「良いっつったな?」

『いや、ちょっそれじゃなくてもっ!精子はないわ!せめて血判で!』『いや、ちょっそれじゃなくてもっ!精子はないわ!せめて血判で!』『いや、ちょっそれじゃなくてもっ!精子はないわ!せめて血判で!』

「何度も流すなっ!!」
「良いっつったな?」
「いやいやいやいや」
「お前は知らないかもしれないが血も精子も同じもんだからな?」

真面目に言っているのか、茶化しているのか、わざとらしく目を細め諭してくるキヨに、颯は細目を限界まで開け苛立ちを露わにする。しかし、颯のそれはキヨの通常よりもはるかに細い。

「いや!知ってるわ!俺が話してるのはモラルの話だッ!!」
「モラルもクソも無いの分かってる癖にー冒険しにきたんでしょ?」

キヨは面接の内容を持ち出し憎たらしく微笑む。痛いところを突かれた颯だが、そういう事言うんだーと口をへの字に曲げ即座に反撃を開始する。

「···俺で何人目なの?」
「颯が初めてだよ」
「はいっ!ダウトー!」

叫んだ勢いで契約書を取り上げようとするが顔に手を押さえ付けられ防がれる。キヨと颯の間をブンブンと腕が周り、正に颯はアホの化身と化した。室内のこもった臭いに反応したのか空気清浄機が稼働を始め、更にその場を滑稽にする。

「まじで何人目よ?俺」
「···6人目」
「お前···全員面接してやれよー?あんな茶番でも履歴書って書くのも大変なんだぞ?写真撮ったり、間違えて最初っから書いたりしてさー皆今頃、せこせこ書いてるぞ?あと何人いんの?」
「···37人」
「っげーお前、37人とヤンの」

信じられないと片眉上げて見つめると、ヘラヘラ笑っていたキヨが眉を歪め、ぐいっと顔を近づけてくる。重心が傾いた白く濁ったままの黒革のソファーがギシりと音を立て、颯をキヨの方へ押しやった。

「俺、お前が良いって言ってんじゃん」
「んーん」
「お前、俺の事好きになっちゃうって言ってたじゃん」
「~~~ッ」
「好きになっちゃたでしょ?」
「~~~~ッ」
「好きになっちゃたんでしょ?」
「···じゃあ、ちゃんと皆にお詫びの連絡して、本名教えてくれたら良いよ」
「わかった·····ろうだ」
「え?」
「きよ····うだ···」
「ああ?」
「清史郎」
「え?」
「清史郎つったんだよ!!」
「キヨ···あははははははは!似合わなっ、CD借り行こうぜっー!」

グゥー~ーー

「···っ」
「あはははっ···ああああっ!!」

笑い転げている間に親指を契約書に押し付けられる。慌てて手を引っ込めるが時すでに遅し。しかし、そんな事がどうでも良くなるくらい、そっぽを向いたキヨが意地らしく思えた。

「清史郎くん怒ったの?いじけたの?さっきのお腹の音はいじけた合図だったの??」
「執拗い!お前!」
「美味しいご飯作ってやるから機嫌、直してくれる?何食べたい?」
「·····オムライス」
「じゃあ卵3つ使ったオムライス作ってやるよ?機嫌直る?」
「···お前、本気でムカつく」



世の中にはえ?どうやって生きてんの?と言いたくなるような胡散臭い人種が一定数いる。
コンサルタント、占い師、トレーダー、インフルエンサー、クリエイター、ネズミ講、アフィリエイター、付き人、ヒモ。颯はそのどれにも属さないヒモのヒモとなった。しかし、怪しいと思っていたそれは、数時間前に想像したよりもずっと人間くさいくて、あったかくて、楽しいものなのかもしれない。


「キヨっ!!冷蔵庫ん中エナジードリンクしかねえじゃねえかっ!!」
「えーー」








ちゃんちゃん
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