肉汁を浴びる覚悟は出来たか? 

しもたんでんがな

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肉汁を浴びる覚悟は出来たか?

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研究室B。

窓からは朝日が差し込み始め、小鳥の囀りが聞こえる。ビーカーや資料が乱雑に散らばった机は、その結果が失敗に終わったと静かに告げた。コクコクコクと時を刻む音だけが規則的に響く中、発せられたその声は机に突っ伏しているせいか、やけに潜持って聞こえる。

「俺、ハンバーグ嫌いなんだよね」
「え?」

ベベ~~~~ン
徹夜明けのテンションなのか用意していたかのように動画サイトのその部分のみを再生し、ムクっと顔を上げたその目は深いクマを携える。それは、逆さまつ毛のせいかより陰気な雰囲気を醸し出した。

「ハンバーグ」

念押しで呟く優人は、OBの卒論を読むフリをしながらチラチラと聞き返して欲しそうに隣の勝己に視線だけを送る。しかしその願いは勝己が先程付けたばかりのホットアイマスクのせいで届かない。諦めきれず、キャスターチェアを前後にギシギシとしならせ、態とらしい咳払いを連発し、しつこく催促を続ける。

「今の感じだと全然嫌いそうに見えなかったけど。何で?」

はーと深いため息をつきながら勝己は天井に頭を向け訊ねるが、聞く気は全くない為、背もたれを限界まで反らせ、仮眠の体制に入る。朝日に照らされた勝己の髪は、黒染めの影響か光を浴びても不自然に黒のみを発色させた。しかしその姿はアイマスクとマスクをしているせいで最早、勝己の面影がない。

「あれって1回ミンチにするじゃん?それで野菜ペペッて入れるだろ?」
「うん」

勝己の意識がふーと遠くなる。

「それで丸めて、焼いて完成だろ?だから嫌い」
「うん、え?」

正直、面倒臭い。聞き返さないと後が面倒臭いのも面倒臭い。勝己の薄れる意識は面倒臭いで八方塞がりになった。それを横目に、左耳のピアスを弄り回しながら優人は持論という名の子守唄を尚も続ける。

「だから嫌い」

羊が1匹。ハンバーグが2個。羊が3匹。

「ああ、そこにえ?って言ったんじゃなくて、え?何処に嫌い要素あったの?」

温熱効果が切れたのか、ゆっくりとアイマスクを外し、目を差し込む朝日に慣れさせる。温かさのお陰か普段より気持ち凛々しくなった勝己の目は何故か三重になり、付けっぱなしのコンタクトのせいで、赤く充血していた。窓を見ると見事な群青を携えた空が目を刺激する。優人の熱弁は音姫のような安心感を与え、勝己はぼーっと今日の昼食を考え始めた。そうだ、昨日頑張ったしバゲットサンドにしよう。早々に答えを出すと、マスクの隙間へ葛根湯を流し込み喉に張り付く粉末をゴクリと飲み込む。

「だって所詮、肉だろ?」

まだ喋っていたのかと、声の主に緩く視線をやると逆さまつ毛が少し上を向いたのが分かった。やっと勝己と目が合った優人は、それが面倒臭がられる理由だとも気付かず、根拠の無い哲学を振りかざす。

「そうだね?え?ちょっとごめん。もうちょっと語彙力···っ違う。言葉のキャッチボールしようぜ」

勝己は言葉を選び黙れと促す。

「人間とは何故生きるのか。を具現化したものだと思うんだよね」
「うーん、うん?」
「肉の塊を砕くだろ、それをまた形成して塊にして最終的に噛み砕くんだよ。存在意義が分からないだろ」
「ああなるほど。やっと理解出来たわ」

優人は俺ってかしこだろとでも言いたげに、ぐいっと顔を近づけた。勝己の欠伸が染ったのか、すだれまつ毛に涙が触れ、謎の色気を醸し出す。

「じゃあつくねは?」

勝己はおでんだと、つくねは無くてもいい派だ。コンビニで大根買ってくるかーと自身と相談を始めた勝己に対し、脚を組み替えながら文学通のような雰囲気を醸し出す優人はガッチガチの理系脳であり、古本屋で買った檸檬を3秒でギブした口だ。

「あれはもう、別の食べ物として成立してるから良いんだよ。あれは魚に見えないだろ?しかも美味い」

それもう、肉より魚派ってだけだよね。とスマホニュースを見ながら思う。今日は午後から雨が降るらしい。こんなに晴れているのに。勝己の目から欠伸がつくった涙が降り、マスクにうっすらとシミが浮かぶ。

「じゃあ、叩きは?」
「あれは···美味いから良いんだよ」

はいはい、俺もハンバーグより叩き派だわ、鯵とか良いよなーと深く優人に同意しながらノールックでコンタクトを外す。ラップメンタルのペラペラ優人には普段、話す言葉を選んでいる。すぐ病むからだ。しかし今日の勝己はあまりの眠気に思考よりも口が先に動いてしまった。

「お前·····友達居ないだろ」
「え?」

ぽかんと口を開け、間抜けを絵に描いたような顔がこちらを見る。瞬時にマズったと勝己は直感した。ラップメンタルにプスリと針が刺さったのだ。

「え?」
「お前、俺の友達じゃねえの?」

キョロキョロと視線を泳がす優人は、別に何かを探しているのではない。しかし、あえて言うならば身を隠せる場所と言えようか。

「え?俺はお前の友達じゃないだろ」

勝己は振り子のように逃げる優人を視線で追いながら本心のみを伝える。

「え?···そうか·····」

勢い良くキャスターチェアが後へ引かれ、キュキュキュとスニーカーが床と擦り合わさり音を奏でる。優人は鍵が馬鹿になったドアノブを焦ったようにガチャガチャと回しながら、いそいそと部屋から出て行こうとする。しかし、いつまで経っても出て行く気配が無い。引き止めて欲しいのだ。勝己はキャスターチェアに大股を広げ、深く腰をかけ直す。後ろポケットからジッポを取り出すと、自身の腿を膝置きにしながら人工的な黒髪の枝毛をライターで燃やし一連の茶番を鑑賞した。

「どこ行くんだよ?」
「友達じゃなかったららしいから別の場所行こうかと思って」
「は?待てよ」
「え?何で?」
「何でどっか行く必要があるんだよ」
「いや?友達じゃないから」
「何なのお前さっきから」

露骨に怒りを顕にする勝己に優人は困惑した表情をうかべる。コクコクと響く時計の音に何かを急かされているかのような錯覚を起こさせ、優人の焦りを誘う。

「え?何でお前怒ってんの?」
「本気で言ってんの?」
「いや、全然分かんないんだけど。お前が友達じゃないっつったからじゃあ他人ですねってなったんじゃん」
「お前、本当にいい加減にしろよ?良いから早く座れ」

能面のような顔で淡々と怒りを吐く勝己を前に、言いおおせのない感情が湧く。ピンポンダッシュをした帰り道のような安い興奮とその代償としては高くついた罪悪感。はっとし思わず、優人は拒絶の反応を示してしまう。

「嫌だ」
「は?」
「何で怒ってんの本当に嫌だ」
「じゃあ聞くけど、四六時中一緒にいて、プレゼント贈って、セックスして、自分の服着せて、食い物屋でも旅館でも禁煙用選んで、課題手伝って、バイトの上がりに迎えに行って、ゲコのお前に合わせて呑まないようにして、助手席乗せてる奴の事、本当に友達だと思ってんの?」

優斗お決まりの逃げ一択が発動され、勝己は半ばヤケクソで本心を伝える。

「だから!俺はせめてセフレくらいでいられてるのかなと思ってたのにお前がさっき違うって言ったんじゃん」
「お前···絶望的だぞ」

コイツは···優人は直ぐ逃げる。主人公になりたがる。振り返れば必ず誰かが居てくれていると信じ込んでいる。そして、その欲は全て勝己に向かう。勝己に夢を押し付ける。それに毎度答えようと手を伸ばすが、届きそうになる既のとこで、勝己の手は宙を切り裂く。また伸ばす、そして伸ばす。しかしその刃は既にボロボロだ。もう良いか······と勝己は思った。

「本当に嫌だ何これ。何でこんな気持ちになんなきゃいけないの·····ハンバーグの呪いなの?」

頭を乱雑に掻き、見えない答えを探すがこの歳まで克服出来ない逃げ癖のせいで優人はそうそうに事を諦める。癖毛だとより乱れて見えて良い演出になるなと冷めた勝己が視線を送った。

「良いか?俺がハンバーグの呪いを解いてやるから、もう1回よーく聞けよ?四六時中一緒にいて、プレゼント贈って、セックスして、自分の服着せて、食い物屋でも旅館でも禁煙用選んで、課題手伝って、バイトの上がりに迎えに行って、ゲコのお前に合わせて呑まないようにして、助手席乗せてる奴の事、本当にセフレだと思ってんの?もう付き合ってんじゃないの?」

しかし、勝己から発せられる言葉は冷めた心とは真逆の優人の思いに答えようとするものばかりだった。はっ自分に嫌気がさすぜ。

「は?···付き合う?·····いや確かにお前には色々付き合って貰ってるけど?」
「お前···本当に絶望的だぞ。そこまでやると殺意湧いてくるからな?ラノベでも俺、分かっててわざと言って浸ってんだろって主人公殺したくなるんだよな」

勝己は優人に本物の殺意を抱いた。『食べたくなるほど愛しい』等のぬるいモノではなく、勝己が抱いたそれは、紛うことなき憎しみによる殺意だった。優人にその名を与えた人間が酷く憎い。勝己の表情はどんどん固くなってゆく。

「いや」
「"自分にはそんな価値ありません"なんて言われた時には撲殺だぞ。"自分にはそ"の時点で死んでるぞその主人公」
「いや、だってさ」
「だってもクソもねえだろ。俺はお前が好きで、お前は俺が好きで一緒に居るのに、それがセフレな訳がねえだろうが」
「え?お前も俺の事好きなの?いや、お前の好きは···いや、やめた」
「なんだよ?」

教授が新妻の実家から貰ったと自慢していたガラス性の灰皿は勝己の色素の薄い手を美しく魅せた。サスペンスドラマで良く凶器として使われるそれを大きく振りかぶる。白い床に、灰がふわりと雪のように舞ちり、天に近づいたガラスの多角が万華鏡のように日の光を取り込む。キラキラと部屋中が輝き、勝己の右耳のピアスがキラリと光る。優人はそれを酷く美しいと感じてしまった。

「また怒られそうだからやめた。いや、でも有り得ないだろ。お前みたいな格好良い奴が俺と付き合ってくれる訳がないだろ?だってお前は優しいし、気遣い出来るし、賢いし、格好良いし、モテるし···待って!灰皿から手を離して!」
「次、"いや"って言ったら殺す」
「え?"いや"···らしい手をしているねえ」

優人は勝己の手を執拗に擦り、すかさず灰皿を奪い取ると本棚の裏へ逃げ込んだ。勝己から離れた奥の流しからごとっと鈍い音がする。勝己の手は再び虚しく宙を切り裂いた。

「それともお前は、浸りたいが為にお前を好きな俺の気持ちを拒絶すんの?」

勝己は自身の想いをクチャクチャに丸めクズ籠にポーンと放り込んだ。その瞬間、驚いたような表情を浮かべた優人が勢い良く迫り勝己の視界を埋めた。

「そっ!!そんな訳ないじゃないかっ!!俺は例えお前がミドリムシでも好きだよ!!何億何兆の中からお前を見つけ出すよ!!俺の好きをナメるな!!」

パコーン
頭に鈍い痛みが走る。見上げると丸めた書類を握りしめ、肩で呼吸をしている優人が立っていた。普段は愛らしい癖のある髪は怒涛の勢いで巻き上がり、その乱れた息は妙な熱を持ち憤怒と興奮が入り混じる。散々、俺の好きを舐めてたお前がどの面下げて言ってんだ。もう捨ててしまったものはそう簡単には返ってこない。勝己は既に捨てたのだ。

「お前···絶望的だぞ」
「"いや"っさしいよねお前って」

話し掛けるなと思ったが、立ち上がって部屋を出て行く気力も無い。勝己は静かに目を瞑ると体がどろどろと溶け、床に沈みこんでゆく感覚に溺れた。

「まさか、お前に引っぱたかれるとは思わなかった」
「ごめん"いや"っぱり何かあったよなお前?」
「ミドリムシは全然分かんないけど。お前、そんなに俺の事好きだったの?」

遅い。人生はタイミングってドラマの影響で教授が結婚話をしている時に話してくれた。さっきのセンスの悪い灰皿だってタイミングの結晶のようなものだ。俺はそれをつくれなかった。それだけの事だ。堪らず煙草に火を付ける。鼻と口から思い切り汚れた息を吐き出すと、歪んだ人影が視線に入るが拒絶するように再び深く瞳を閉じた。そんな気持ちを無視するように照れ臭そうな瞳は勝己を捉え、微笑む。その目はタイミングを違えた事に全く気が付いていない。

「当たり前だろ!!お前の事、四六時中考えてる俺の気持ちにもなれよ!!全然足りねえんだよ!!何回、お前の夢で朝勃ちしてると思ってんだよ!!俺が!!何回お前の学生証で抜いてると思ってんだよ!!」
「へ~俺、おかずにされちゃってるんだ~」

乾いた笑いに口からぽっぽっと雲のような煙が漏れる。部屋は勝己の煙で充満し、女子生徒が以前貼った禁煙の貼り紙にヤニを擦り付けた。

「そりゃもうギッタンギッタンだぞ!!ギャンギャン鳴き喚いてるぞ!!ゲホッゴホッ」

溢れ出す苛立ちに抗えず、勝己は地面を蹴り上げ優人の前まで一息に近づいた。そして、呼吸する間も無く喰い付くような口付けをする。口を開かせ煙を送り込み、あわよくば死んでくれと願った。舌を絡ませ、ぐじゅぐじゅと喉の奥を舐め回す。苦しそうに咽せる優人は眉間に深いシワを寄せ、耳まで真っ赤に染めあげた。隙間から煙と悶える声が漏れ、優人の口元からは犬のように涎を垂れ流される。

「へ~俺、そんなんになっちゃってるんだ~」
「·····っ"い、や"っぱり帰ろ」
「というか、学生証ってもしかして初代のか?入学3日で失くしたやつ?」
「っ"い、や"っぱり今日もう帰るわー英会話のレッスンあるしー」

いよいよ逃げようとする優人。ここで逃がす訳がないだろ。と視線で優人を静止する。

「おい待て何がレッスンだ。お前、帰国子女だろうが。学生証返せよ」

散々ごねられ渋々渡された学生証を見ると、勝己の写真はやけに薄れ、口の部分が不自然に白くなり、底が顕になっていた。しばらく眺めると、勝己は自身の薄れた口にぐりぐりとタバコを押し付け火を揉み消し、床に投げ捨てた。優人はバツが悪そうに棚の本を数え出し、必要の無い整理を始める。

「お前さー」
「·····嫌いにならないで下さい」
「これで真面目に言ってんだもんなー。もっと色気あるセリフ選べよ」

抱かせろくらい言えねえのかと勝己は脳内で悪態をつく。

「·····だって嫌われたくない」

縋るような、か細い優人の声を捉えた。しかし、床に捨てた自身から視線を離せない。勝己よりも遥かに優人との長い時を過ごした学生証が嘲笑うように、失恋の傷心に塩を塗り込んでゆく。嫉妬に近い感情に思わず勝己は人差し指の関節にがぶりと噛みつき、自身の座っていたキャスターチェアに優人を座らせると、思い切り机に向かって押しやった。

「おら、これじゃなくて目の前の俺でオナニーしてみせろよ」

モヤつく思考に蓋をするように勝己は躊躇なく衣服を脱ぎ、全裸になる。散らばるそれは床の冷たさが浸食し、ひんやりと熱が奪われていた。マスクのみを付けた勝己の姿は、それだけでも瞬く間に優人を勃起させる。

「今日は服、脱いでエロいポーズもしてやるよ。おら、さっさと手動かせ」
「ちょっちょっと待て!落ち着けよ!!」

腕で机に散らばった資料を押しやる。バサバサと紙が床に散ってゆくさまは、2人の関係が拗れてゆくそれを彷彿とさせた。勝己が優人の前を陣取り机に腰掛ける。臀部に伝わる冷たさに意図せず背中がピクリと跳ねるが、遠慮なく両脚を開き自身の臀部を両手で掻き分けると、優人に赤く染まった後孔を見せつけた。

「何でお前そんなに男らしいの」

そんな言葉にシラケた顔で、怯えた表情の優人を見つめる。足先で革靴をすくい上げ履くとその足で、底を優人の陰茎にゴリゴリと押し付けた。靴跡のついたカーゴパンツの中心は瞬く間に色を濃くし、じわりじわりとその範囲を広め優人の絶頂を容易く誘う。

「···ッんぐ」

悶え苦しむ優人を置き去りに、靴底を上下に擦り付け続ける勝己は、退屈なのか先程から欠伸を止められないでいる。寒さで肌が逆立ち、マスクからは煙草の匂いが漏れる。

「はー早くしろ」
「待って!!せめて俺の白衣着て!!窓から見えちゃうからっ!!」
「何言ってんだ?全裸に白衣の俺が見たいだけだろ?」

その言葉通り、マスク姿に白衣の破壊力は凄まじく、普段侵入する側の優人が視姦のみで1度目の絶頂へ容易く追い込まれる。そんな哀れな姿に視線を送る勝己の陰茎は萎え腐り、体は氷のように冷えきっていた。

「····ッ···んん」
「いい加減に始めないと嫌いになるぞ」
「勝己!·····お前ず、るいよ」

何を言ってやがる。勝己はせせら笑うように、はっと鼻を鳴らす。カチャカチャと震える手でベルトがゆっくりと外され、中心から現れた優人の陰茎は太く血管を刻み、どくどくと波打っていた。いつも入れていた優人を捉えた勝己の後孔は、無意識にヒクヒクとそれを欲し、勝己の心を歪ませる。粗雑に床に脱ぎ捨てられたカーゴパンツは既に別物のような色に変わり果てていた。

「ハンバーグに存在意義がないなら、お前と俺の性行為にもなんの意味もねえぞ?」

鋭く冷えた声が部屋に響く。その言葉に優人は目尻を吊り上げ、顔の筋を強張らせながら熱を放出するように叫び訴えた。

「ッそんな事ない!!」
「コレ、子供つくれる奴に持って行ってやろうか?」

革靴の先で優人の鈴口に溜まった粘液をでろりとすくい上げ、脚を天井まで高く掲げる。その姿は優人を酷く酔わし、毒す。

「勝己!!」

何度も必死に叫ぶが勝己の心には全く届かない。コイツ抱く時だけ名前、呼ぶんだよな。もう抱かれるつもりないけど。勝己の胸にずっと留まっていた言葉は、どろどろと溢れ出し優人を窒息させてゆく。

「お前が好きな俺は、お前が嫌いなハンバーグと同価だ。おら?お前にやった万年筆も俺の中に消えてくぞ?このまま使えなくなったら、これもただのゴミだ」

白衣の胸ポケットから去年、誕生日に贈った万年筆と抜き取った。優人の座るキャスターチェアを足先で引き寄せると、ペン先で優人の濁った陰茎から見せつけるように粘液をこそぎ取り、そのまま自身の後孔にずぶりと差し込んだ。投げやりに刺し込まれたそれは、蓋が開いていたのか、粘液を黒く染めあげ勝己を虚無感で犯してゆく。自身の宝物が同時に犯され、ゴミと言われた事に優人は酷く傷付いた顔をするが、背徳と罪悪が即座に欲と変わり、自身の手を陰茎へと導いた。ぐぷぐぷと卑猥な音を立て、萎える事を知らないそれを懸命に扱きながら、はあはあと盛りのついた雄犬に成り果てた優人の本性を観た勝己は、心がじわりと満たされている事を感じた。

「何でっ···そんな意地の悪い事、言うんだよ!!」
「お前が言った事だろ?手え止めるな」

勝己に見られながら、直線的な扱きをゆっくりと繰り返す。親指と人差し指に力を加え、優人は時に早く終わってくれと乞うた。冷酷な瞳を見れば見るほど、体が電流を浴びたようにビクビクと痙攣し醜い快楽に溺れる。そんな自身に侮蔑し痴態に顔が歪むが、それを軽蔑した瞳が再び捕らえ、更に溺れた。この場は正に負のループと化している。

「···何なんだよ」
「お前が俺に言ったのはそういう事だ」

吐き捨てるように勝己は言葉を発し、優人の陰茎を軽く蹴りあげる。真一文字にキツく結ばれた口からは篭った悲鳴が漏れた。

「ッゔう」
「いけ」

言われるがまま、無心で扱く速度を上げ、片方では鈴口に手の平を押し付けグリグリと弄り回し、両手で自身を懸命に追い込む。そんな優人を口角を限界まで吊り上げ、見下す勝己の喉が上下に震えた。まるで時よ戻れと懇願するように。

「ッか、つ···きいいい」
「早くいけ」

一方的とも思える非道な命令に優人の既に出来上がった身体は抗える筈もなく、愛する人間を呼ぶ事しか自由は与えられなかった。

「かつ、きい、かつき···はああ、かつき、かつ、きいい···かつ、き」
「潰されたくなかったら死ぬ気で扱け」

その瞬間、嚢袋にギシギシと鋭い圧がかかる。瞬時に優人の視界にチカチカと火花が弾け、腿が激しい痙攣を起こし、ギコギコとキャスターチェアを揺らした。自力では閉じられなくなってしまった口からは壊れた玩具のように同じ言葉が吐き捨てられる。

「っん···か、かあ、ああああつ···イクからイクからイクからイクからああ」

視点が揺れる中、勝己の黒く染まった後孔が目に入る。ふと記憶にある、偶にしか笑わない柔らかい表情の勝己が脳裏に浮かんでは消えた。それを欲するように視線を上へ向けると氷のように冷たい瞳がじっと優人を見つめている。瞬時に背筋が氷上がり、深く後悔した。しかし、止めどなく押し寄せる快楽にあたたかい思い出はいとも簡単に握り潰される。ジリジリと焼けつくような快感に喉はヒクヒクと悲鳴を上げ、優人を限界へと導いた。

「ああ、イくッ···でるッ、か、ああああ!」

勝己に懇願するかのような奇声を上げ、腹部の奥で散々溜め込んだ快感が弾ける。痙攣を止められない優人の陰茎はビクビクとのたうち回り、熱と欲を無様に放出していく。

「か、つき、い···ぃ···」

水気の多い透明な粘液が勢いよく噴射され、勝己がイラストを描いたサークルTシャツに新たな模様をつくる。激しい絶頂の後、ぼやける思考の中、視界を捉えたのは、今にも泣き出しそうな、顔を歪めた勝己だった。優人の体は悲哀と憂鬱でぎゅうぎゅうに押さえ付けられ勝己を泣き止ませたいのに身動き一つ取る事も叶わない。

「ああ、っかつ、きいい···」

室内には生臭い臭いが漂い、ぜえぜえと全身で発せられる呼吸音と、どぷどぷとキャスターチェアから垂れ流れる水音のみが卑猥に響いた。溢れ出した飛沫は勝己の青白くなった体まで届き、白い模様をつける。

「はあ···か、つう···」

蹲り、小刻みに震える優人の顎に足先を添え、グイッと持ち上げると、革靴が優人の収まりの効かない涎で汚れてゆく。勝己は無言で視線を逸らすなと要求した。勝己が好きよく撫でていた癖毛の髪は汗と粘液で見る影もなかった。

「っは···はあ·····」

限界まで舌を出した勝己は中指の腹でねとりと自身の体から優人の子種をすくい上げ、熱のない舌へ見せつけるように運び入れ、紅に白を塗りつける。目の前で繰り広げられる愛する人間のストリップショーのような挑発に、優人の目からは大粒の涙が溢れ、子供のように泣きじゃくった。

「無様だな」

優人はやっと全てを理解したのだ。







「泣かないで」
「泣いてんのはお前だろ」
「傷付けてごめん」
「自惚れてんな」
「自分に浸っててごめん」
「·····」
「ブッ殺して良いよ」
「·····」
「俺の事、細切れにして」
「·····」
「俺の事、ミンチにして」
「·····」
「塊にして焼いてそれで·····捨ててくれ」
「·····」
「でもその前に抱き締めさせて」
「····ッ」
「っ頼むから···俺に存在意義をくれ」


「お前···絶望的だぞ」











ちゃんちゃん
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