序列学園

あくがりたる

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地獄怪僧の章

第62話 抗う者たち

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 秋の心地良い暖かさが身体を包む。
 学園で見た紅葉こうよう程ではないが大陸側でも少なからず紅葉は楽しめた。
 久壽居くすい宝生ほうしょうに貰った邸宅は無駄に煌びやかで庭先も果てしなく広い。そしてこの庭にも椛が植えてあった。
 久壽居は縁側で茶を啜りながら先刻届いた密書に目を通していた。
 差出人は学園の序列7位斑鳩爽いかるがそうである。久壽居の後輩で良き友だった。
 密書には穏やかではない内容が記載されていた。

『序列34位篁光希たかむらみつき孟秦もうしんに攫われました。こちらで奪還を考えていますが、今の学園は島外への外出が思うように出来ません。』

 内容はこれだけだった。
 何をして欲しいとか何が必要だとか肝心な事は書いていなかった。
 久壽居は茶を啜りながら頷いた。

「なるほど。流石は斑鳩だ。おい!  天西てんせい

 久壽居は従者を呼ぶとすぐに1人の男が現れた。
 男の名は山吹やまぶき天西。久壽居が軍の一部隊を指揮するようになってから宝生に屋敷と共に付けられた従者である。
 その男はシュッとした顔立ちでかなり若い。斑鳩よりも若いが身体付きは勝るとも劣らない。頭も切れるようで度々宝生に助言を求められる程の逸材だ。

「お呼びでしょうか。旦那様」

「宝生将軍のところへ行ってくる。留守は頼んだぞ」

「行ってらっしゃいませ」

 山吹は挨拶だけすると久壽居を見送った。
 山吹のいい所は深く詮索しないところでもある。
 久壽居は帝都軍に入ってから色々な軍人に出会ってきたが宝生以外の軍人とはあまり馬が合わず、家の中では従者の山吹だけが心を許せる存在だった。

 久壽居は宝生の邸宅に来た。
 今は青幻せいげん我羅道邪がらどうじゃの軍は動きを止めており、総司令官である宝生は束の間の休息を自宅で過ごしていた。
 久壽居は宝生の従者に案内され客間に通された。
 宝生は従者に酒と肉を久壽居の分も用意させ歓待した。

「おう!  よく来た久壽居!  ささ、そこに掛けられよ。酒も肉もたんまりあるぞ!  遠慮などするな」

 久壽居は椅子に腰を下ろした。

「突然の訪問にこのようなお気遣いまでして頂き、誠に恐縮でございます」

「なに、お前は帝都軍を強靭な軍に鍛え上げた功労者だ。本来なら将校ではなくすぐにでも将軍にしても良いというのに、欲のない奴だ」

 久壽居は笑いながら、盃に酒を注いでいる従者に会釈をした。

「さあ、先日お前の帝都軍正式入隊の宴をやったばかりだが、今日もこうして来てくれたからな。俺とお前の2人だけでもう一度飲もう!」

 宝生は自分の盃を久壽居の掲げた盃に軽くぶつけると一息に飲み干した。
 久壽居も同時に飲み干した。

「うむ、愉快愉快!  青幻や我羅道邪の軍勢にも屈しない無敵の帝都軍。そして久壽居の入隊。もはや怖いものなしだな!」

「いえいえ油断はなりません。青幻も我羅道邪もこのまま指を加えて見ているとは思えません」

 酒で気分が良さそうな宝生を久壽居は冷静にいさめた。

「して、久壽居。今日は何用だ?」

 宝生は酒を飲みながら言った。

「実は宝生将軍に折り入ってお願いがございます」

 久壽居は盃を机に置き襟を正して言った。

「あー、改まってなんだ?  堅苦しい話か?」

 宝生は肉を貪りながら言った。

「簡潔に申し上げますと、学園で生徒が1人青幻の元へ連れ去られるという事件が発生したようで、その奪還任務を宝生将軍から学園に依頼して欲しいのです」

「ほう。何故俺からの依頼が必要なのだ?  そんな事、割天風かつてんぷうが島外へ生徒達の遠征許可を出してやればいい事だろ?」

「おっしゃる通りでございます。しかし、今学園は何やら不審な動きがあるようで、割天風総帥も島外への外出許可は出さないとの事です」

 宝生は久壽居をちらりと見るとまた肉を貪り出した。

「久壽居よ。お前はその連れ去られた生徒と親しいのか?  帝都軍に入隊するからには学園のいざこざには一切介入しないと言っていたと思うが」

「連れ去られたのは私と同じクラスだった体特の篁光希という女の子だそうです。特に親しいというわけではありません」

「篁光希?  聞かん名だな」

 宝生は肉を酒で流し込みながら言った。

騎士殺人術ロイヤルキリング慈縛殿体術じばくてんたいじゅつの使い手で孟秦が直々に連れ去ったそうです」

「なに?」

 宝生は盃と食べ終わった肉の骨を置き久壽居の目を見た。
 久壽居は軽く頷いた。

「なるほど。分かった。割天風には俺から依頼を出そう」

「ありがとうございます」

「学園の生徒がこちらに渡ってきたら一度俺のところへ顔を出させろ」

「分かりました」

 久壽居は深々と頭を下げた。

「ところで、学園の不審な動きとはなんだ?」

「さあ。それは分かりませんし、私には関係ありません」

 そう言うと久壽居は出されていた肉を食べ始めた。
 宝生もそれを見てまた肉にかぶりついた。




 ある日の放課後。3回目の御影みかげからの召集があった。
 以前集まったメンバーの斉宮いつきつかさ、あかねリリア、火箸燈ひばしあかり祝詩歩ほうりしほ蔦浜祥悟つたはましょうごの姿があった。しかし、斑鳩爽の姿はなかった。
 澄川すみかわカンナは御影の部屋に入った瞬間に斑鳩を見回して探した。

「斑鳩君はね、多分ここには戻って来ないわ」

 カンナの様子を見て御影はカンナの疑問に答えた。

「え?  どういうことですか!?」

 カンナはもちろん驚いたが他のメンバーも初耳だったらしく驚いた様子だった。

「まあ皆座って」

 立ったままだった全員を御影は席に座らせた。

「斑鳩君は先日監視の3人に接触したのよ。そこで2人を殺し、1人は拘束して拷問したらしいわ」

 拷問。その言葉に場は重苦しい雰囲気に包まれた。
 カンナも「斑鳩」と「拷問」という言葉が結び付けられなかった。あの優しい斑鳩がそんな事するとは思えない。

「そこで得た情報を私に託して、そして姿を消したわ。私やあなた達に危害が加わらないように」

「そんな……斑鳩さんはまだ生きてるんですよね?」

 カンナは1人落ち着きなく御影に言った。

「落ち着きなさい、カンナちゃん。大丈夫よ。斑鳩君は序列7位。体特トップの男でしょ?  そう簡単に殺されないわよ」

 カンナは俯いた。

「御影先生、斑鳩さんが託した情報って?」

 リリアが言った。

「落ち着いて聴いてね」

 御影は念を押した。
 その場の全員が息を飲んだ。

「斑鳩君に付いていた監視は学園側が付けたもの。牢番の鵜籠うごもりの部下だそうよ。そして監視を付けられた理由、それは青幻の別働隊を見つけ、接触してしまったこと」

 カンナの予想は当たっていた。やはり孟秦との接触は学園にとってはまずいことだったのだ。

「つまり、どういうことっすか?」

 蔦浜が真剣な顔で言った。話が飲み込めていないようだ。

「つまり、学園と青幻は繋がってるという事ね」

 リリアが目を細めて蔦浜の疑問に答えた。
 蔦浜と燈はそれを聞いて2人で騒ぎ出した。つかさと詩歩は腕を組み深刻な顔をして黙っている。

「牢番の鵜籠?  そんな奴がいるのも知らなかったけど、その牢番と部下が勝手に動いてるってことはないのか?」

 騒いでいた燈が落ち着きを取り戻して御影に言った。

「斑鳩君が聞き出した情報によると、3人の監視は鵜籠からの指示で動いていたそうよ。鵜籠以外の名前は出なかったけど、まあ、個人的なことで鵜籠が斑鳩君を監視する意味はないと思うから恐らく学園の指示だと私は思うわ」

「つまり、鵜籠を捕まえて吐かせればはっきりするんですね」

 つかさが言った。

「斑鳩君も言ってたけど、その件に関しては手出ししないほうがいいわ。斑鳩君はあなた達に平穏な学園生活を送って貰うために危険を冒しているのよ。下手に手出して斑鳩君の計画が狂ってしまう方がまずいわ」

「でも、斑鳩さんだけそんな目に遭わなくてもいいはずです……」

 カンナは膝の上で拳を握り締めながら言った。
 皆頷いている。

「とにかく学園の疑いはこれでさらに強くなったわ。後はまた斑鳩君の連絡を大人しく待ちましょう。まだ私達の関与は学園にはバレていないんだから」

 御影は話を締め括るように言った。
 各々思うところはあるようだが待つしかないと聞くと大人しく部屋を出て行った。

 御影の部屋を出て、カンナ、つかさ、蔦浜、リリア、燈、詩歩の6人は部屋の前で足を止めた。

「待つしかないのか……なんか、もどかしいな」

 蔦浜が言った。

「あたし達がしてあげたいことはあるけど、結局あたし達が手を出しちゃったら逆に斑鳩さんの危険が増すってことも考えられるからな」

 燈が言った。
 カンナは2人の話を聴いて静かに口を開いた。

「私達は斑鳩さんを信じて待つしかない。この後何かしらの動きはきっとあるはず。今がダメならその時出来ることをしよう!」

 カンナの言葉に皆驚いたように目を見開いてカンナを見つめた。

「さすがカンナちゃん!  俺もそうするよ!  力になれる時に精一杯力を貸す!  今はそれしかない!」

 カンナに同調するように蔦浜は皆に言った。

「蔦浜君がいつになくいい事を言ったね」

「ど、どういうことですか!?  つかささん!!」

 つかさがくすりと笑った。
 リリア、燈そして詩歩も頷き自分達の寮へ帰って行った。
 カンナとつかさ、そして蔦浜の3人は水平線に綺麗に輝く夕日をしばらく眺めていた。
 徐々に日も短くなってきた。 
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