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神眼の女の章
第87話 罠
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叔父の獅攸が去った翌日の昼休み。
カンナはつかさを呼び出して昼食を済ませると校舎の横の林の中の拓けた所で、氣の中心である”氣門”に正確に自分の氣を注入する練習をしていた。
解寧の時のように、相手を固定できれば氣門に氣を注入する事は容易い。しかし、相手が動く生き物である以上それは格段に難易度が増した。例えるなら、逃げ回る針穴に糸を通すようなものなのだ。
それにカンナは獅攸のように相手に触れずに氣を注入する事が出来ない。解寧の時も光希の身体に直接触れて氣を打ち込んだ。
カンナは逃げ回るつかさを捕まえて左胸を抑える修業から始めた。
カンナの素早い身のこなしは明らかにつかさを上回っておりすぐにつかさを捕まえる事が出来た。そしてつかさの左胸に右手を当てる。
「……ちょっ」
カンナの手には温かくてとても柔らかいが張りのある究極と言ってもいいくらいの感触が伝わってきた。
「ちょっと待って!!」
つかさはカンナを手で押しのけた。
カンナは突然の事に困惑した。
つかさの顔が心なしか赤い。
「あ、ごめん、具合悪かったの? つかさ」
「違うよ! いくらカンナでも胸触られるのはちょっと恥ずかしいのよ!」
「あ、そうなんだ……ごめん」
カンナは女同士なんだからいいじゃないかと思ったが、つかさが嫌だと言ったので素直に謝った。
「カンナだって、私に胸触られたらなんか嫌でしょ??」
「いや、別に」
「え……そ、そう」
カンナのあまり関心がなさそうな態度に今度はつかさが困惑した。
つかさは胸が大きいから人一倍敏感なのかもしれない。と、カンナは勝手に解釈した。
「それじゃあ、別の人にお願いするよ、なんか付き合わせちゃってごめんね」
カンナがそう言い立ち去ろうとするとつかさが呼び止めてきた。
「あ、いや、大丈夫。私がやる。ほ、ほら他の人に頼むのも悪いでしょ?? それに今から探すと昼休み終わっちゃうし……」
「ううん、大丈夫! 手が空いてそうな人探して」
「私がやる!!」
カンナが立ち去ろうとするのをつかさは必死に止めた。
つかさは少し寂しそうな顔をしていた。
「わかった、それじゃあ宜しくね! つかさ」
カンナが微笑むとつかさも微笑んだ。
そして昼休みの間中、カンナはつかさの氣門に氣を注入する練習を続けた。
畦地まりかはカンナが一向に地下牢に現れないので苛立っていた。
「あーあ、あの子。なんで来ないのかしらね? 斑鳩君?」
まりかは拘束されぐったりしている斑鳩のすぐ隣りに座り、斑鳩の血や泥で汚れた顔を撫でながらボヤいた。
「来るわけがない」
「ふふふ、斑鳩君。あなた本当に綺麗な顔よね。こんなに薄汚れてもまだ私の心を魅了しているわよ」
まりかが微笑みながら言った。
「気持ち悪い事言うな」
斑鳩が言った瞬間、頬を張り飛ばす音が地下牢に響いた。
「あぁ、忘れられないわぁ……周防水音を殺した時の感覚。柊舞冬を殺した時の感覚。今度は澄川カンナを殺したらどれだけ気持ちがいいのかしらね?」
「やってみろ? その前に今ここでお前の眉間に風穴を開けてやる」
斑鳩の瞳は殺意に満ちていた。それだけでまりかを殺さんばかりの強い視線。
まりかはまた微笑んだ。
「おもしろーい。私に手も足も出せなかった弱い男の子なのに、私を殺せるつもりなの? よし! 決めた! 作戦変更!カンナちゃんをここに強制連行してきまーす!」
まりかが立ち上がり右手を上げて楽しそうに宣言した。
「殺すぞ!! クソ女ぁぁぁ!!!」
斑鳩はまりかの知っている面影がもはや微塵も無いほどに殺意を剥き出しにしていた。
「落ち着いて! 斑鳩君! すぐに連れて来てあげるから! ね?」
まりかは不気味に微笑むと牢から出て石造りの階段を上って行った。
牢の外には鵜籠が1人、煙草を吹かしていた。それ以外にも姿は見えないが5人の気配がある。
斑鳩は下を向きぐったりとし、やがて意識を失った。
次の日もカンナはつかさと修行を続けた。修行を始めてからつかさといる時間がいつもよりも長くなった。つかさはいつも優しいが時に厳しく叱る時はしっかりと叱ってくれた。
修行を続けたがやはり動く針穴に糸を通す事は難しくなかなか思うようにはいかなかった。むしろ不可能とさえ思えた。
それでも、つかさとの修行は楽しいし、全く苦痛だと思った事はなかった。
ただ斑鳩の事だけは一度も忘れた事はなかった。会いたい。助けたい。そして頭を撫でてもらいたい。抱き締めてもらいたい。その想いだけはずっと心の片隅に生きていた。しかし今は御影の作戦を実行するのが得策。 カンナは我慢するしかなかった。
この日も2人で寮までの道を歩いて帰った。
「いつもありがとね、つかさ」
「何よ改まって気持ち悪い」
2人は微笑んだ。
「あのさ、例の作戦の件なんだけど、本当に大丈夫かな? 私、あの人だけはどうしても苦手で」
カンナが笑顔を消して言った。
「へぇ、カンナにも苦手とかあるんだね。大丈夫よ。こっちは精鋭だよ? 影清さんの時だってみんなの力で倒せたじゃない? だからさ、そんなに縮こまらないの!」
つかさはカンナの背中をぽんと叩いた。
カンナは嬉しくなりにニヤリと笑った。
「な、何なのよ!? その顔!? 気持ち悪いってば!!」
「なっ!!? つかさは私の事気持ち悪いって言い過ぎだよ!? 私はつかさの事悪く言ったことないのに!」
カンナは少しむっとしてつかさに抗議した。
「褒め言葉よ。冗談が通じないんだね、まったく」
つかさはけらけらと笑ってカンナの頬を指で突いた。
「もお!! 馬鹿にしてるでしょ!?」
カンナは口を尖らせていたが、つかさが声を出して笑うとカンナも連られて笑い声を上げた。
そしてその翌日。
この日もつかさとの修行を終えたカンナは、つかさと別れ、1人で体特寮に帰るところだった。
嫌いな氣が近付いてくる。
「畦地さん」
カンナは振り返りもしないでカンナの後ろから近付いてきた畦地まりかの名を呼んだ。
「あら、さすが。気配は消したのに、私の氣で分かったのね?」
カンナがゆっくり振り返ると”殺意に満ちた笑顔”を浮かべたまりかが夕日を背に佇んでいた。
「何か用ですか?」
カンナは気持ちを抑えて聞いた。
「うん。カンナちゃん斑鳩君になかなか会いに来ないからさ、私が無理やりにでも連れて来ようと思って! ねぇ? 叔父さんはどうしたの?」
まりかは唇に人差し指を添えてかわいこぶって聞いてきた。
「叔父ならとっくに帰りましたけど?」
その返答にまりかは驚いた様子だった。
「ちっ、あのクソ女。満足に監視も出来ないのか」
まりかが何かイラついた様子で呟いたがカンナには何の事だか分からなかった。
「私は、斑鳩さんには会いません! 畦地さん、何か企んでいるんじゃないですか?」
カンナは喧嘩腰で強く言った。
すると、まりかの作り笑顔がすっと解け、恐怖を感じる程の真顔になった。
「それはあんたでしょ? 何でそんなに頑なに斑鳩君に会いに来ないのよ? あんたさ、弱いくせに生意気なのよね? 私の言う事を素直に聞いてればいいのに……こいつのどこが月希ちゃんに似てるっていうのよ」
まりかの表情、言葉、氣の全てにカンナに対する殺意が表れていた。
「もう、この場であんたをぶち殺したいけど、総帥には殺すなって言われてるし、斑鳩君の所に生きたまま連れて行かないといけないし……ああ!! ムカつくわね!! ホント!!」
まりかは大きな声を出して左右の腰に佩いていた刀を抜き放った。
「あんたの脚、1本斬るくらいなら大丈夫よね?」
まりかはそう言うとカンナに向かい真っ直ぐ突っ込んで来た。
カンナが攻撃を見極めようとした瞬間、蒼い髪の女が飛び込んできてまりかの2本の刀を蒼い刀で受け止めた。
「リリアさん!!」
「リリア!? なんで……ここに」
まりかはリリアの登場に驚き一度刀を引いて後ろに下がった。
「まりかさん、掛かりましたね」
リリアが言うとまりかの後ろから、豪天棒を持ったつかさと、戒紅灼を持った燈がゆっくりと現れた。
「なるほどね、解ったわ。裏切り者はあんた達だったのね」
まりかの眼が不気味に蒼く光り始めた。
カンナはつかさを呼び出して昼食を済ませると校舎の横の林の中の拓けた所で、氣の中心である”氣門”に正確に自分の氣を注入する練習をしていた。
解寧の時のように、相手を固定できれば氣門に氣を注入する事は容易い。しかし、相手が動く生き物である以上それは格段に難易度が増した。例えるなら、逃げ回る針穴に糸を通すようなものなのだ。
それにカンナは獅攸のように相手に触れずに氣を注入する事が出来ない。解寧の時も光希の身体に直接触れて氣を打ち込んだ。
カンナは逃げ回るつかさを捕まえて左胸を抑える修業から始めた。
カンナの素早い身のこなしは明らかにつかさを上回っておりすぐにつかさを捕まえる事が出来た。そしてつかさの左胸に右手を当てる。
「……ちょっ」
カンナの手には温かくてとても柔らかいが張りのある究極と言ってもいいくらいの感触が伝わってきた。
「ちょっと待って!!」
つかさはカンナを手で押しのけた。
カンナは突然の事に困惑した。
つかさの顔が心なしか赤い。
「あ、ごめん、具合悪かったの? つかさ」
「違うよ! いくらカンナでも胸触られるのはちょっと恥ずかしいのよ!」
「あ、そうなんだ……ごめん」
カンナは女同士なんだからいいじゃないかと思ったが、つかさが嫌だと言ったので素直に謝った。
「カンナだって、私に胸触られたらなんか嫌でしょ??」
「いや、別に」
「え……そ、そう」
カンナのあまり関心がなさそうな態度に今度はつかさが困惑した。
つかさは胸が大きいから人一倍敏感なのかもしれない。と、カンナは勝手に解釈した。
「それじゃあ、別の人にお願いするよ、なんか付き合わせちゃってごめんね」
カンナがそう言い立ち去ろうとするとつかさが呼び止めてきた。
「あ、いや、大丈夫。私がやる。ほ、ほら他の人に頼むのも悪いでしょ?? それに今から探すと昼休み終わっちゃうし……」
「ううん、大丈夫! 手が空いてそうな人探して」
「私がやる!!」
カンナが立ち去ろうとするのをつかさは必死に止めた。
つかさは少し寂しそうな顔をしていた。
「わかった、それじゃあ宜しくね! つかさ」
カンナが微笑むとつかさも微笑んだ。
そして昼休みの間中、カンナはつかさの氣門に氣を注入する練習を続けた。
畦地まりかはカンナが一向に地下牢に現れないので苛立っていた。
「あーあ、あの子。なんで来ないのかしらね? 斑鳩君?」
まりかは拘束されぐったりしている斑鳩のすぐ隣りに座り、斑鳩の血や泥で汚れた顔を撫でながらボヤいた。
「来るわけがない」
「ふふふ、斑鳩君。あなた本当に綺麗な顔よね。こんなに薄汚れてもまだ私の心を魅了しているわよ」
まりかが微笑みながら言った。
「気持ち悪い事言うな」
斑鳩が言った瞬間、頬を張り飛ばす音が地下牢に響いた。
「あぁ、忘れられないわぁ……周防水音を殺した時の感覚。柊舞冬を殺した時の感覚。今度は澄川カンナを殺したらどれだけ気持ちがいいのかしらね?」
「やってみろ? その前に今ここでお前の眉間に風穴を開けてやる」
斑鳩の瞳は殺意に満ちていた。それだけでまりかを殺さんばかりの強い視線。
まりかはまた微笑んだ。
「おもしろーい。私に手も足も出せなかった弱い男の子なのに、私を殺せるつもりなの? よし! 決めた! 作戦変更!カンナちゃんをここに強制連行してきまーす!」
まりかが立ち上がり右手を上げて楽しそうに宣言した。
「殺すぞ!! クソ女ぁぁぁ!!!」
斑鳩はまりかの知っている面影がもはや微塵も無いほどに殺意を剥き出しにしていた。
「落ち着いて! 斑鳩君! すぐに連れて来てあげるから! ね?」
まりかは不気味に微笑むと牢から出て石造りの階段を上って行った。
牢の外には鵜籠が1人、煙草を吹かしていた。それ以外にも姿は見えないが5人の気配がある。
斑鳩は下を向きぐったりとし、やがて意識を失った。
次の日もカンナはつかさと修行を続けた。修行を始めてからつかさといる時間がいつもよりも長くなった。つかさはいつも優しいが時に厳しく叱る時はしっかりと叱ってくれた。
修行を続けたがやはり動く針穴に糸を通す事は難しくなかなか思うようにはいかなかった。むしろ不可能とさえ思えた。
それでも、つかさとの修行は楽しいし、全く苦痛だと思った事はなかった。
ただ斑鳩の事だけは一度も忘れた事はなかった。会いたい。助けたい。そして頭を撫でてもらいたい。抱き締めてもらいたい。その想いだけはずっと心の片隅に生きていた。しかし今は御影の作戦を実行するのが得策。 カンナは我慢するしかなかった。
この日も2人で寮までの道を歩いて帰った。
「いつもありがとね、つかさ」
「何よ改まって気持ち悪い」
2人は微笑んだ。
「あのさ、例の作戦の件なんだけど、本当に大丈夫かな? 私、あの人だけはどうしても苦手で」
カンナが笑顔を消して言った。
「へぇ、カンナにも苦手とかあるんだね。大丈夫よ。こっちは精鋭だよ? 影清さんの時だってみんなの力で倒せたじゃない? だからさ、そんなに縮こまらないの!」
つかさはカンナの背中をぽんと叩いた。
カンナは嬉しくなりにニヤリと笑った。
「な、何なのよ!? その顔!? 気持ち悪いってば!!」
「なっ!!? つかさは私の事気持ち悪いって言い過ぎだよ!? 私はつかさの事悪く言ったことないのに!」
カンナは少しむっとしてつかさに抗議した。
「褒め言葉よ。冗談が通じないんだね、まったく」
つかさはけらけらと笑ってカンナの頬を指で突いた。
「もお!! 馬鹿にしてるでしょ!?」
カンナは口を尖らせていたが、つかさが声を出して笑うとカンナも連られて笑い声を上げた。
そしてその翌日。
この日もつかさとの修行を終えたカンナは、つかさと別れ、1人で体特寮に帰るところだった。
嫌いな氣が近付いてくる。
「畦地さん」
カンナは振り返りもしないでカンナの後ろから近付いてきた畦地まりかの名を呼んだ。
「あら、さすが。気配は消したのに、私の氣で分かったのね?」
カンナがゆっくり振り返ると”殺意に満ちた笑顔”を浮かべたまりかが夕日を背に佇んでいた。
「何か用ですか?」
カンナは気持ちを抑えて聞いた。
「うん。カンナちゃん斑鳩君になかなか会いに来ないからさ、私が無理やりにでも連れて来ようと思って! ねぇ? 叔父さんはどうしたの?」
まりかは唇に人差し指を添えてかわいこぶって聞いてきた。
「叔父ならとっくに帰りましたけど?」
その返答にまりかは驚いた様子だった。
「ちっ、あのクソ女。満足に監視も出来ないのか」
まりかが何かイラついた様子で呟いたがカンナには何の事だか分からなかった。
「私は、斑鳩さんには会いません! 畦地さん、何か企んでいるんじゃないですか?」
カンナは喧嘩腰で強く言った。
すると、まりかの作り笑顔がすっと解け、恐怖を感じる程の真顔になった。
「それはあんたでしょ? 何でそんなに頑なに斑鳩君に会いに来ないのよ? あんたさ、弱いくせに生意気なのよね? 私の言う事を素直に聞いてればいいのに……こいつのどこが月希ちゃんに似てるっていうのよ」
まりかの表情、言葉、氣の全てにカンナに対する殺意が表れていた。
「もう、この場であんたをぶち殺したいけど、総帥には殺すなって言われてるし、斑鳩君の所に生きたまま連れて行かないといけないし……ああ!! ムカつくわね!! ホント!!」
まりかは大きな声を出して左右の腰に佩いていた刀を抜き放った。
「あんたの脚、1本斬るくらいなら大丈夫よね?」
まりかはそう言うとカンナに向かい真っ直ぐ突っ込んで来た。
カンナが攻撃を見極めようとした瞬間、蒼い髪の女が飛び込んできてまりかの2本の刀を蒼い刀で受け止めた。
「リリアさん!!」
「リリア!? なんで……ここに」
まりかはリリアの登場に驚き一度刀を引いて後ろに下がった。
「まりかさん、掛かりましたね」
リリアが言うとまりかの後ろから、豪天棒を持ったつかさと、戒紅灼を持った燈がゆっくりと現れた。
「なるほどね、解ったわ。裏切り者はあんた達だったのね」
まりかの眼が不気味に蒼く光り始めた。
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