107 / 137
学園戦争の章《承》
第107話~男の闘い~
しおりを挟む
反逆者の生徒達が学園から忽然と姿を消した。それどころか、反逆者ではなかったはずの弓特の生徒や槍特の生徒達も姿が見えなくなった。
昨日派遣した神髪瞬花もどこを動いているのか行方知れずで報告の一つもない。正直、瞬花からの報告は期待していなかったが、あの女が動けば必ずどこかで騒ぎが起こるはずである。それが全くないのだ。
割天風の執務室には鵜籠だけがいた。鵜籠の働きも悪くはないのだが、頭が良く機転の利いた畦地まりかの方が使い勝手が良かった。
割天風は鵜籠に学園の損害の報告をさせた。
「総帥直轄の暗殺部隊100名が全滅。剣特袖岡、太刀川両師範が行方不明。弓特神々廻師範は負傷し戦線には復帰出来ません」
袖岡、太刀川と言ったら師範勢の中でも老練な猛者だった。割天風が最も信頼を置いていた師範2人が連絡も寄越さず消えるとは思えなかった。反逆者側に就くとも考えられない。つまり死んだ可能性が高いが2人の遺体は見つかっていないという。
「鵜籠、お主の部下はあとどれくらいおる?」
「学園内に20名、学園外に50名です」
「学園内の部下には弓特寮と槍特寮を捜させろ。昨日から動きが分からない弓特、槍特も反逆者側に就いてそこに立て篭もっている可能性が高い」
「と言うと、美濃口鏡子も反逆者側に?」
「恐らくな」
割天風は出されていた茶を啜った。
鵜籠は顎の髭を撫でならがら首を横に振った。
「鵜籠、学園外の部隊は、今誰が仕切っておるのだ?」
「常陸です」
「ほう、まだ彼奴は生きているのか」
割天風はその名を聞くとにやりと笑った。
常陸という男はかつて割天風の教え子であった。
そもそも、鵜籠の学園外の部隊の任務は他勢力の諜報活動である。常陸はまだ15歳の時に学園序列12位として学園で修行を積んでいた。その後割天風が常陸の隠密任務の適性を高く評価し、闇の部隊を結成させ鵜籠の下に就けた。それももう20年以上も前の話になる。過酷な任務故、死んでいてもおかしくはないと思っていたが生きていた。割天風も心から信頼の置ける人物なので満足そうに首を縦に振った。
「学園外の部隊は内部の部隊と違い日々過酷な訓練を課させております。その訓練の途中で死ぬ者も少なくないですが、生き残った50名はこの学園で言うところの序列10位以上の力があるかと思われます。常陸の部隊を学園に入れますか?」
「うむ。そうしろ。今から動かしたらいつ頃こちらに到着する?」
「日没前には」
「結構」
割天風は大きく頷いた。
鵜籠はすぐに部屋を出て常陸を学園に入れる手筈を整えに動いた。
数では劣ってはいるものの、個々の戦闘力はまだまだこちらの方が上だ。しかし、組織として動ける者もいくらかいた方が都合が良い。常陸の部隊は澄川カンナを生け捕りにする際に必ず役に立つ。神髪瞬花が負けるとは思わないが、保険を掛けておく事に越した事はない。
まだ日が出て間もない。
割天風の執務室から見える景色はとても穏やかなものだった。この学園で生死を賭けた戦いが行われているなどとは思えない程、平穏に見えた。
****
畦地まりかからの情報によると、体特の残りの生徒、序列29位七龍陽平、序列36位叢雲甚吾、序列37位石櫃レオの3人はまとまって体特寮にいるという事だった。
蔦浜とキナは早朝から馬を駆けさせ体特寮に向かった。
体特寮の前には3人の男達が馬に乗って屯していた。七龍、叢雲、石櫃の3人である。
「おい、お前達!」
蔦浜が3人に声を掛けると3人は蔦浜とキナに気付いた。
「おやおや蔦浜じゃないか、抱さんまで。あんたら反逆者になってるぞ? 何しに来たんだ? 自首か?」
七龍は黒い髪をオールバックにして厳つい顔で口元だけ笑った。
「そのことでちょっと話がある」
蔦浜が言うと七龍達は顔を見合わせた。
「ああ、もしかして、仲間にならないか? とか言い出すのか?」
七龍はすぐに蔦浜とキナが説得しに来たものだと理解したようだ。
「なんだ、話が早いじゃないか。そうだ。お前達もこっち側に」
「冗談じゃない。行くわけないだろ?」
七龍の返事は蔦浜とキナの予想外のものだった。
叢雲も石櫃も真顔でこちらを睨んでいた。
キナが1歩前へ出た。
「てめーら! 序列21位の私の言う事が聞けないのか? 私達は仲間だろ? なんで断るんだよ!?」
キナはイラつきながら言った。
「あんたらさ、考えてもみろよ? どう考えたって、学園側の戦力の方が上だぜ? 序列1位、師範勢、そして総帥。明らかに負ける方につく馬鹿がどこにいんだよ?」
「いい度胸だな! 私にそんな口の利き方しやがって」
キナが言うと七龍が小さく右手を上げた。
「まあ、俺達の条件を飲んでくれるなら、そちら側につかない事もないが」
「うるせー! 条件だと!? 私がぶちのめしてから無理矢理にでも連れてってやるよ! このクソ野郎ども!」
キナが明らかに怒り狂っているので蔦浜は手で制した。
「無駄な争いはしたくない。ここで争っていたら学園側の連中に見つかる恐れもあるだろ? 条件ってのはなんだ? 七龍」
蔦浜がまともな事を言ったのでキナは怒りを忘れて蔦浜の顔を見ていた。
「この学園にいると困る事がある。それは女だ。村に行けば若いねーちゃん達が出てくる店もあるにはあるが、この学園にいたら外出も制限される。蔦浜、お前も男なら分かるだろ?」
「けっ! 気持ち悪い事言ってんじゃねーよ! 七龍! そんな事考えてんのはお前ら3人だけだばーか!」
「いや、それは分かる」
キナが七龍達3人を罵倒したと同時に蔦浜は七龍達の言い分に頷いた。
「おま……え、ま、そうか、蔦浜だもんな。七龍達と同じか……」
キナが軽蔑した目で蔦浜を見てきたが蔦浜は気にせず七龍達を見た。
「話が分かるじゃねーか! 蔦浜よぉ! だからな、条件ってのは女とやらせろって話だ。そうだな、反逆者筆頭の澄川さんがいいな。お前、仲良いだろ? あの人の太ももたまらねーだろ?」
「は?」
七龍の言葉に蔦浜は眉間に皺を寄せた。
「この変態共!! 調子に乗るんじゃねーぞ! 女とやらせろ? それが条件だってか? だったら私がいくらでもやらせてやるよ! ただし、私を今ここで倒せたらだけどな!!」
キナが激昂してとんでもない事を言い出したので蔦浜は驚いてキナの肩を押さえ付けた。
「あ? いや、あんたはいいや。学園の女子の中でお前が1番ないわ。自惚れんなよ」
七龍がそう言うと、叢雲と石櫃もくすくすと笑っていた。
「てめぇら……!」
蔦浜が3人を睨み付けると隣りから啜り泣く声が聴こえてきた。
キナの方を見ると涙を流して泣いていた。ポロポロと、大粒の涙がキナの頬を伝い流れていくのが見えた。
蔦浜はキナに馬を寄せ泣きじゃくるキナをそっと抱き締めた。
あの強気なキナが泣いている。初めて見た。絶対に泣かないと思っていたキナが、七龍の暴言に簡単に涙を流した。
「やめだ。お前達をこっち側に誘うのはやめだ。お前達はもう仲間じゃない。馬を下りろ。ゴミクズ共」
蔦浜が低いトーンで言うと、七龍、叢雲、石櫃の3人は馬を下りた。
「まさか、お前1人で俺達3人を倒すつもりか? 反逆者が」
「いくら我々より序列が上とはいえ、3人相手なんて無理ですよ蔦浜さん」
「あんまりカッコつけない方がいいっすよ?」
3人はごちゃごちゃと言いたい事を言ってきたがそれには答えず、蔦浜も馬を下り、七龍の目の前に立ち睨み合った。
「3人まとめてかかって来やがれ。ぶっ潰してやる」
「たまたま序列26位にいるってだけなんだからよ、あまり強がらない方がいいぜ? 蔦浜さんよぉ」
言い終わるか終わらないかのところで七龍が仕掛けた。蹴り。咄嗟に蔦浜は身を逸らし躱した。しかし、七龍の蹴りはそれだけでは終わらず回転を加えながら蔦浜を追い詰めていく。蔦浜は蹴りの軌道を読み的確に躱す。一瞬、七龍の蹴りのタイミングが変わる瞬間を見付けた。蔦浜が七龍の軸脚に蹴りを放つ。七龍がバランスを崩し地面に倒れた。と、思ったがすぐに受け身を取り身軽に飛び上がり、その勢いを利用して蔦浜の顎目掛けて蹴り上げる。蔦浜は両腕でそれを防ぎ、また立ち上がっていた七龍の胸に蹴りを入れた。
「ぐっ……」
七龍が呻き声を上げた。しかし、七龍はまた構えた。笑っている。
序列29位。蔦浜より3つ下の序列だが流石に一筋縄ではいかない。
蔦浜も構えた。後ろには心配そうな表情でこちらを見ているキナ。七龍の後ろでは叢雲と石櫃が腕を組んで様子を見ている。
「しゃあぁあ!!」
七龍の掛け声と共にまた蹴りの嵐を浴びせて来た。蔦浜も蹴りで応戦する。脚が何度も何度もぶつかりお互いの蹴りを相殺し続ける。その打音は暫くの間体特寮の敷地に響いていた。
蔦浜が一度距離を取った。七龍も一度攻撃の手を休め後ろに控えていた叢雲と石櫃に手で合図して参戦させた。
叢雲と石櫃は七龍と入れ替わるように蔦浜に蹴りを放ってきた。
「ちっ、俺には休む暇くれねーのかよ」
蔦浜は悪態をつきながら叢雲と石櫃の蹴りを躱し、手で捌いた。
2人同時の連携攻撃にこちらの攻撃の隙が見い出せず蔦浜は防戦一方だった。
「蔦浜! 何やってんだよ! そんな奴らさっさとぶちのめせよ!」
キナの声援が聴こえた。
不思議とその声を聴いた蔦浜は身体中に力が漲るのを感じた。
「殺せ!!」
七龍の命令が聴こえた。叢雲と石櫃の拳が同時に伸びてきた。屈んで2人の腹に同時に左右の拳を打ち込んだ。
「うっ……!?」
叢雲と石櫃は同時に後ろに吹き飛んだ。
「役立たずが!!」
七龍は2人がやられたのを見るや否やまた蔦浜に襲い掛かってきた。
蹴り、蹴り、蹴り、蹴り。先程の闘いでは蹴りのみを使ってきた。しかし、今度は拳も交えた攻撃に変えてきた。
拳と蹴りの連続攻撃を蔦浜は巧みに交わし、いなしていく。
次第に七龍が息を切らせ若干だが攻撃に遅れが出てきた。すかさず蔦浜は七龍の顔目掛けて拳を打ち込んだ。入った。七龍はよろめき後退した。
「この野郎、殺してやる。俺より序列が上なのは奇跡みてーなもんなんだからな!」
七龍は血の混じった唾を吐き捨てると、上着を脱ぎ捨て、その屈強な肉体を露わにした。
「来いよ! 蔦浜!」
蔦浜は両手を横に広げ挑発してきた七龍の身体に何発も拳を打ち込んだ。
しかし、七龍は先程と違いびくともしない。
「今度は本気で殺してやる」
七龍は驚愕している目の前の蔦浜に殴る蹴るの嵐を浴びせ始めた。蔦浜も防御するが先程とのパワーの違いに動揺し上手く躱すことも出来ずただ打ちのめされた。そして、七龍の膝が蔦浜の腹に入ると追い打ちを掛けるかのように七龍の回し蹴りが蔦浜の顔面に炸裂し吹き飛ばされた。
「蔦浜ぁーー!!?」
キナは馬から飛び降り倒れた蔦浜の元に駆け寄り抱き起こした。
「蔦浜ぁーー! 大丈夫かよ? お前、弱いのに無理するから……、私があんなクズすぐにぶっ飛ばしてお前の仇をとってやるから」
キナが言い終わらぬうちに蔦浜はキナの口を手で覆った。
「お前は黙って見てればいい。俺があいつをぶっ倒す。女の子に仇を取ってもらうなんてかっこわりー真似、俺はごめんだ」
蔦浜はまた立ち上がり、口から流れている血を袖で拭いまた構えた。
キナはその様子をただ心配そうに見ていた。
「いいか! 七龍! カンナちゃんとやらせろって発言も許せないが、何より許せないのは、抱を泣かせた事だ!! 俺が序列26位まで上り詰めたのは大切な女の子を自分の力で守れるようになる為! お前みたいなクズ共からな!」
蔦浜は言い切ると七龍に向かい走り出した。
「カッコつけやがって、所詮お前も女の事しか考えてねーんじゃねーかよ」
蔦浜はまた七龍に拳を放つ。七龍も拳を放つ。捌く、そして、蹴り。いつの間にか2人は体特寮を囲う石造りの塀の傍に移動していた。
七龍が塀を蹴り高く飛び上がり蔦浜の頭へ蹴りを放つ。
蔦浜はそれを躱し、七龍が着地しこちらを向いた瞬間に七龍の後頭部へ蹴りを打ち込みそのまま石造りの塀に顔面を叩き付けた。
「うぐぁっ!!?」
七龍はそのまま膝から崩れ落ち、塀に顔を埋めたまま沈黙した。その塀は、ヒビが入る程強烈な衝撃が加わっており、七龍の血がべっとりと広がっていた。
「やれやれ、こんな奴に手間取るとは」
蔦浜は頭を押さえながらキナの方を見た。その瞬間、蔦浜に抱き着いて来てまた泣き始めた。
「蔦浜ぁぁぁ!! 大丈夫かぁあ!? ありがとう!! すごく、かっこよかったぁぁ!!」
キナは涙を溢れさせながら蔦浜の顔を見上げた。
「お前、凄い顔してるな」
蔦浜が苦笑するとキナは蔦浜の唇に自分の唇を重ねてきた。
蔦浜は驚いたがそのまま流れに身を任せる事にした。とても柔らかく、普段勇ましいキナからは想像もつかない程の女性らしさを感じた。そして、とても心地よかった。
ゆっくりとキナは唇を放した。
「ふぁ、ファーストキスだからな」
キナは顔を真っ赤にしながら言った。
「そ、そうなの? あ、ありがとう」
「だから! お前はこれからも私を守れよ! 私のファーストキスは高いんだぞ!!」
「お、お前!? そういう事はキスする前に言えよ! 俺もうしちゃったじゃん!? それにお前の方が俺より強いだろ!?」
「ごちゃごちゃうるさい!!」
キナは蔦浜の尻に蹴りを入れた。
この蹴りの痛みも、これからは毎日なのかな……と、蔦浜は思ったが、それも悪くはないと思い直した。
昨日派遣した神髪瞬花もどこを動いているのか行方知れずで報告の一つもない。正直、瞬花からの報告は期待していなかったが、あの女が動けば必ずどこかで騒ぎが起こるはずである。それが全くないのだ。
割天風の執務室には鵜籠だけがいた。鵜籠の働きも悪くはないのだが、頭が良く機転の利いた畦地まりかの方が使い勝手が良かった。
割天風は鵜籠に学園の損害の報告をさせた。
「総帥直轄の暗殺部隊100名が全滅。剣特袖岡、太刀川両師範が行方不明。弓特神々廻師範は負傷し戦線には復帰出来ません」
袖岡、太刀川と言ったら師範勢の中でも老練な猛者だった。割天風が最も信頼を置いていた師範2人が連絡も寄越さず消えるとは思えなかった。反逆者側に就くとも考えられない。つまり死んだ可能性が高いが2人の遺体は見つかっていないという。
「鵜籠、お主の部下はあとどれくらいおる?」
「学園内に20名、学園外に50名です」
「学園内の部下には弓特寮と槍特寮を捜させろ。昨日から動きが分からない弓特、槍特も反逆者側に就いてそこに立て篭もっている可能性が高い」
「と言うと、美濃口鏡子も反逆者側に?」
「恐らくな」
割天風は出されていた茶を啜った。
鵜籠は顎の髭を撫でならがら首を横に振った。
「鵜籠、学園外の部隊は、今誰が仕切っておるのだ?」
「常陸です」
「ほう、まだ彼奴は生きているのか」
割天風はその名を聞くとにやりと笑った。
常陸という男はかつて割天風の教え子であった。
そもそも、鵜籠の学園外の部隊の任務は他勢力の諜報活動である。常陸はまだ15歳の時に学園序列12位として学園で修行を積んでいた。その後割天風が常陸の隠密任務の適性を高く評価し、闇の部隊を結成させ鵜籠の下に就けた。それももう20年以上も前の話になる。過酷な任務故、死んでいてもおかしくはないと思っていたが生きていた。割天風も心から信頼の置ける人物なので満足そうに首を縦に振った。
「学園外の部隊は内部の部隊と違い日々過酷な訓練を課させております。その訓練の途中で死ぬ者も少なくないですが、生き残った50名はこの学園で言うところの序列10位以上の力があるかと思われます。常陸の部隊を学園に入れますか?」
「うむ。そうしろ。今から動かしたらいつ頃こちらに到着する?」
「日没前には」
「結構」
割天風は大きく頷いた。
鵜籠はすぐに部屋を出て常陸を学園に入れる手筈を整えに動いた。
数では劣ってはいるものの、個々の戦闘力はまだまだこちらの方が上だ。しかし、組織として動ける者もいくらかいた方が都合が良い。常陸の部隊は澄川カンナを生け捕りにする際に必ず役に立つ。神髪瞬花が負けるとは思わないが、保険を掛けておく事に越した事はない。
まだ日が出て間もない。
割天風の執務室から見える景色はとても穏やかなものだった。この学園で生死を賭けた戦いが行われているなどとは思えない程、平穏に見えた。
****
畦地まりかからの情報によると、体特の残りの生徒、序列29位七龍陽平、序列36位叢雲甚吾、序列37位石櫃レオの3人はまとまって体特寮にいるという事だった。
蔦浜とキナは早朝から馬を駆けさせ体特寮に向かった。
体特寮の前には3人の男達が馬に乗って屯していた。七龍、叢雲、石櫃の3人である。
「おい、お前達!」
蔦浜が3人に声を掛けると3人は蔦浜とキナに気付いた。
「おやおや蔦浜じゃないか、抱さんまで。あんたら反逆者になってるぞ? 何しに来たんだ? 自首か?」
七龍は黒い髪をオールバックにして厳つい顔で口元だけ笑った。
「そのことでちょっと話がある」
蔦浜が言うと七龍達は顔を見合わせた。
「ああ、もしかして、仲間にならないか? とか言い出すのか?」
七龍はすぐに蔦浜とキナが説得しに来たものだと理解したようだ。
「なんだ、話が早いじゃないか。そうだ。お前達もこっち側に」
「冗談じゃない。行くわけないだろ?」
七龍の返事は蔦浜とキナの予想外のものだった。
叢雲も石櫃も真顔でこちらを睨んでいた。
キナが1歩前へ出た。
「てめーら! 序列21位の私の言う事が聞けないのか? 私達は仲間だろ? なんで断るんだよ!?」
キナはイラつきながら言った。
「あんたらさ、考えてもみろよ? どう考えたって、学園側の戦力の方が上だぜ? 序列1位、師範勢、そして総帥。明らかに負ける方につく馬鹿がどこにいんだよ?」
「いい度胸だな! 私にそんな口の利き方しやがって」
キナが言うと七龍が小さく右手を上げた。
「まあ、俺達の条件を飲んでくれるなら、そちら側につかない事もないが」
「うるせー! 条件だと!? 私がぶちのめしてから無理矢理にでも連れてってやるよ! このクソ野郎ども!」
キナが明らかに怒り狂っているので蔦浜は手で制した。
「無駄な争いはしたくない。ここで争っていたら学園側の連中に見つかる恐れもあるだろ? 条件ってのはなんだ? 七龍」
蔦浜がまともな事を言ったのでキナは怒りを忘れて蔦浜の顔を見ていた。
「この学園にいると困る事がある。それは女だ。村に行けば若いねーちゃん達が出てくる店もあるにはあるが、この学園にいたら外出も制限される。蔦浜、お前も男なら分かるだろ?」
「けっ! 気持ち悪い事言ってんじゃねーよ! 七龍! そんな事考えてんのはお前ら3人だけだばーか!」
「いや、それは分かる」
キナが七龍達3人を罵倒したと同時に蔦浜は七龍達の言い分に頷いた。
「おま……え、ま、そうか、蔦浜だもんな。七龍達と同じか……」
キナが軽蔑した目で蔦浜を見てきたが蔦浜は気にせず七龍達を見た。
「話が分かるじゃねーか! 蔦浜よぉ! だからな、条件ってのは女とやらせろって話だ。そうだな、反逆者筆頭の澄川さんがいいな。お前、仲良いだろ? あの人の太ももたまらねーだろ?」
「は?」
七龍の言葉に蔦浜は眉間に皺を寄せた。
「この変態共!! 調子に乗るんじゃねーぞ! 女とやらせろ? それが条件だってか? だったら私がいくらでもやらせてやるよ! ただし、私を今ここで倒せたらだけどな!!」
キナが激昂してとんでもない事を言い出したので蔦浜は驚いてキナの肩を押さえ付けた。
「あ? いや、あんたはいいや。学園の女子の中でお前が1番ないわ。自惚れんなよ」
七龍がそう言うと、叢雲と石櫃もくすくすと笑っていた。
「てめぇら……!」
蔦浜が3人を睨み付けると隣りから啜り泣く声が聴こえてきた。
キナの方を見ると涙を流して泣いていた。ポロポロと、大粒の涙がキナの頬を伝い流れていくのが見えた。
蔦浜はキナに馬を寄せ泣きじゃくるキナをそっと抱き締めた。
あの強気なキナが泣いている。初めて見た。絶対に泣かないと思っていたキナが、七龍の暴言に簡単に涙を流した。
「やめだ。お前達をこっち側に誘うのはやめだ。お前達はもう仲間じゃない。馬を下りろ。ゴミクズ共」
蔦浜が低いトーンで言うと、七龍、叢雲、石櫃の3人は馬を下りた。
「まさか、お前1人で俺達3人を倒すつもりか? 反逆者が」
「いくら我々より序列が上とはいえ、3人相手なんて無理ですよ蔦浜さん」
「あんまりカッコつけない方がいいっすよ?」
3人はごちゃごちゃと言いたい事を言ってきたがそれには答えず、蔦浜も馬を下り、七龍の目の前に立ち睨み合った。
「3人まとめてかかって来やがれ。ぶっ潰してやる」
「たまたま序列26位にいるってだけなんだからよ、あまり強がらない方がいいぜ? 蔦浜さんよぉ」
言い終わるか終わらないかのところで七龍が仕掛けた。蹴り。咄嗟に蔦浜は身を逸らし躱した。しかし、七龍の蹴りはそれだけでは終わらず回転を加えながら蔦浜を追い詰めていく。蔦浜は蹴りの軌道を読み的確に躱す。一瞬、七龍の蹴りのタイミングが変わる瞬間を見付けた。蔦浜が七龍の軸脚に蹴りを放つ。七龍がバランスを崩し地面に倒れた。と、思ったがすぐに受け身を取り身軽に飛び上がり、その勢いを利用して蔦浜の顎目掛けて蹴り上げる。蔦浜は両腕でそれを防ぎ、また立ち上がっていた七龍の胸に蹴りを入れた。
「ぐっ……」
七龍が呻き声を上げた。しかし、七龍はまた構えた。笑っている。
序列29位。蔦浜より3つ下の序列だが流石に一筋縄ではいかない。
蔦浜も構えた。後ろには心配そうな表情でこちらを見ているキナ。七龍の後ろでは叢雲と石櫃が腕を組んで様子を見ている。
「しゃあぁあ!!」
七龍の掛け声と共にまた蹴りの嵐を浴びせて来た。蔦浜も蹴りで応戦する。脚が何度も何度もぶつかりお互いの蹴りを相殺し続ける。その打音は暫くの間体特寮の敷地に響いていた。
蔦浜が一度距離を取った。七龍も一度攻撃の手を休め後ろに控えていた叢雲と石櫃に手で合図して参戦させた。
叢雲と石櫃は七龍と入れ替わるように蔦浜に蹴りを放ってきた。
「ちっ、俺には休む暇くれねーのかよ」
蔦浜は悪態をつきながら叢雲と石櫃の蹴りを躱し、手で捌いた。
2人同時の連携攻撃にこちらの攻撃の隙が見い出せず蔦浜は防戦一方だった。
「蔦浜! 何やってんだよ! そんな奴らさっさとぶちのめせよ!」
キナの声援が聴こえた。
不思議とその声を聴いた蔦浜は身体中に力が漲るのを感じた。
「殺せ!!」
七龍の命令が聴こえた。叢雲と石櫃の拳が同時に伸びてきた。屈んで2人の腹に同時に左右の拳を打ち込んだ。
「うっ……!?」
叢雲と石櫃は同時に後ろに吹き飛んだ。
「役立たずが!!」
七龍は2人がやられたのを見るや否やまた蔦浜に襲い掛かってきた。
蹴り、蹴り、蹴り、蹴り。先程の闘いでは蹴りのみを使ってきた。しかし、今度は拳も交えた攻撃に変えてきた。
拳と蹴りの連続攻撃を蔦浜は巧みに交わし、いなしていく。
次第に七龍が息を切らせ若干だが攻撃に遅れが出てきた。すかさず蔦浜は七龍の顔目掛けて拳を打ち込んだ。入った。七龍はよろめき後退した。
「この野郎、殺してやる。俺より序列が上なのは奇跡みてーなもんなんだからな!」
七龍は血の混じった唾を吐き捨てると、上着を脱ぎ捨て、その屈強な肉体を露わにした。
「来いよ! 蔦浜!」
蔦浜は両手を横に広げ挑発してきた七龍の身体に何発も拳を打ち込んだ。
しかし、七龍は先程と違いびくともしない。
「今度は本気で殺してやる」
七龍は驚愕している目の前の蔦浜に殴る蹴るの嵐を浴びせ始めた。蔦浜も防御するが先程とのパワーの違いに動揺し上手く躱すことも出来ずただ打ちのめされた。そして、七龍の膝が蔦浜の腹に入ると追い打ちを掛けるかのように七龍の回し蹴りが蔦浜の顔面に炸裂し吹き飛ばされた。
「蔦浜ぁーー!!?」
キナは馬から飛び降り倒れた蔦浜の元に駆け寄り抱き起こした。
「蔦浜ぁーー! 大丈夫かよ? お前、弱いのに無理するから……、私があんなクズすぐにぶっ飛ばしてお前の仇をとってやるから」
キナが言い終わらぬうちに蔦浜はキナの口を手で覆った。
「お前は黙って見てればいい。俺があいつをぶっ倒す。女の子に仇を取ってもらうなんてかっこわりー真似、俺はごめんだ」
蔦浜はまた立ち上がり、口から流れている血を袖で拭いまた構えた。
キナはその様子をただ心配そうに見ていた。
「いいか! 七龍! カンナちゃんとやらせろって発言も許せないが、何より許せないのは、抱を泣かせた事だ!! 俺が序列26位まで上り詰めたのは大切な女の子を自分の力で守れるようになる為! お前みたいなクズ共からな!」
蔦浜は言い切ると七龍に向かい走り出した。
「カッコつけやがって、所詮お前も女の事しか考えてねーんじゃねーかよ」
蔦浜はまた七龍に拳を放つ。七龍も拳を放つ。捌く、そして、蹴り。いつの間にか2人は体特寮を囲う石造りの塀の傍に移動していた。
七龍が塀を蹴り高く飛び上がり蔦浜の頭へ蹴りを放つ。
蔦浜はそれを躱し、七龍が着地しこちらを向いた瞬間に七龍の後頭部へ蹴りを打ち込みそのまま石造りの塀に顔面を叩き付けた。
「うぐぁっ!!?」
七龍はそのまま膝から崩れ落ち、塀に顔を埋めたまま沈黙した。その塀は、ヒビが入る程強烈な衝撃が加わっており、七龍の血がべっとりと広がっていた。
「やれやれ、こんな奴に手間取るとは」
蔦浜は頭を押さえながらキナの方を見た。その瞬間、蔦浜に抱き着いて来てまた泣き始めた。
「蔦浜ぁぁぁ!! 大丈夫かぁあ!? ありがとう!! すごく、かっこよかったぁぁ!!」
キナは涙を溢れさせながら蔦浜の顔を見上げた。
「お前、凄い顔してるな」
蔦浜が苦笑するとキナは蔦浜の唇に自分の唇を重ねてきた。
蔦浜は驚いたがそのまま流れに身を任せる事にした。とても柔らかく、普段勇ましいキナからは想像もつかない程の女性らしさを感じた。そして、とても心地よかった。
ゆっくりとキナは唇を放した。
「ふぁ、ファーストキスだからな」
キナは顔を真っ赤にしながら言った。
「そ、そうなの? あ、ありがとう」
「だから! お前はこれからも私を守れよ! 私のファーストキスは高いんだぞ!!」
「お、お前!? そういう事はキスする前に言えよ! 俺もうしちゃったじゃん!? それにお前の方が俺より強いだろ!?」
「ごちゃごちゃうるさい!!」
キナは蔦浜の尻に蹴りを入れた。
この蹴りの痛みも、これからは毎日なのかな……と、蔦浜は思ったが、それも悪くはないと思い直した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる