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第三章 迫り来る命の終わり
第9話 忍び寄る黒い影
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「始まったな」
外から聞こえてくる轟音に、雷奈が戦闘を行っていることが響詩郎にもすぐに察知できた。
横倒しになったバスハウスの中で、乱雑に散らかった家具を掻き分け乗り越えながら、響詩郎は何とか2階部分に足を踏み入れる。
「弥生! 無事か? 返事をしてくれ!」
だが、響詩郎の呼びかけに応える声は聞こえてこない。
響詩郎は唇を噛んで、さらに奥へと足を踏み入れる。
そこで彼は弥生の姿を発見した。
彼女は横倒しになったベッドと壁との間に出来た隙間に横たわっている。
「弥生!」
足場の悪さも気にせず、響詩郎はあちこちに体をぶつけながらも弥生のもとへと駆け寄った。
「よかった。息をしてる」
少女の顔に血の気があるのを見て、ひとまず響詩郎は安堵のため息混じりにそう呟いた。
見たところ出血もなく大きなケガはしていないようだが、彼女は車体横転のショックで意識を失っていた。
だが、響詩郎の安堵も束の間のことだった。
ふいに背筋が寒くなるような嫌悪感を伴う気配を感じ取り、彼は口を引き結ぶ。
弥生と違って特別に鼻が利くわけでもない響詩郎でさえも感じ取れるほどの強い気配だ。
本能的に身の危険を感じ取った響詩郎はベッドと壁の間に出来た隙間に弥生を横たえると、彼女の姿を隠すように毛布をベッドからずり下ろして隙間の入り口にかけた。
顔を上げて周囲を窺いながら静かに立ち上がり、2、3歩歩いたところで響詩郎は思わず足を止めた。
いつからそこにいたのか、人と同じ大きさほどもある黒いカラスの妖魔が、物が散乱した室内に黙然と立っていた。
足音もなく接近した敵の姿に響詩郎は肌が粟立つのを感じながら、静かに声を発した。
「俺を殺しにきたのか?」
そう言って背後に後ずさろうとする響詩郎の背に、刃物のような冷たい感触が押し当てられた。
いつの間にか敵に背後をとられた響詩郎はすぐに悟った。
目の前に見ているのは幻で、本物の敵は自分のすぐ背後に回り込んでいたことを。
「ゆうべの亡者の群れはあんたがやったことだな。あんたの持っていた物騒な刃物のおかげでもう俺の命はあと数時間だ。それなのにわざわざトドメを刺しに来たのか?」
そう皮肉りながらも緊張感から身じろぎ一つ出来ずにいる響詩郎に、相手は整然と告げた。
「おまえを確保する」
その言葉を聞き終えるやいなや、異質な感覚が自分自身を包み込むのを感じて響詩郎はハッとした。
(しまった! 結界か!)
そう思った時にはすでに遅く、何も見えず何も聞こえず何のニオイもしない結界の中に響詩郎は取り込まれようとしていた。
視界の中にほんのわずかに残った部屋の風景に、見覚えの無い少女の姿を響詩郎は見た。
彼女がこの結界を作り出していることは響詩郎には知りようもなかったが、すべてが闇に包まれる前に藁にもすがる思いで彼は少女に向かって手を伸ばした。
少女がチラリとだけ自分を見たような気がしたが、狭まる視界の中ですぐに彼女の姿は消えてしまった。
「くっ!」
響詩郎の指先が何かを掴んだが、それは紙切れのようなものですぐに千切れてしまう。
指先ほどの細かな紙片は響詩郎の指からこぼれ落ちると、倒れている家具の隙間に入り込んで見えなくなった。
そして響詩郎は閉鎖された結界内に閉じ込められ、完全な闇の中で視界を失ったところで首の後ろに針のようなものを刺され、チクリとした痛みを感じると同時に意識を失った。
(ら、雷奈……)
外から聞こえてくる轟音に、雷奈が戦闘を行っていることが響詩郎にもすぐに察知できた。
横倒しになったバスハウスの中で、乱雑に散らかった家具を掻き分け乗り越えながら、響詩郎は何とか2階部分に足を踏み入れる。
「弥生! 無事か? 返事をしてくれ!」
だが、響詩郎の呼びかけに応える声は聞こえてこない。
響詩郎は唇を噛んで、さらに奥へと足を踏み入れる。
そこで彼は弥生の姿を発見した。
彼女は横倒しになったベッドと壁との間に出来た隙間に横たわっている。
「弥生!」
足場の悪さも気にせず、響詩郎はあちこちに体をぶつけながらも弥生のもとへと駆け寄った。
「よかった。息をしてる」
少女の顔に血の気があるのを見て、ひとまず響詩郎は安堵のため息混じりにそう呟いた。
見たところ出血もなく大きなケガはしていないようだが、彼女は車体横転のショックで意識を失っていた。
だが、響詩郎の安堵も束の間のことだった。
ふいに背筋が寒くなるような嫌悪感を伴う気配を感じ取り、彼は口を引き結ぶ。
弥生と違って特別に鼻が利くわけでもない響詩郎でさえも感じ取れるほどの強い気配だ。
本能的に身の危険を感じ取った響詩郎はベッドと壁の間に出来た隙間に弥生を横たえると、彼女の姿を隠すように毛布をベッドからずり下ろして隙間の入り口にかけた。
顔を上げて周囲を窺いながら静かに立ち上がり、2、3歩歩いたところで響詩郎は思わず足を止めた。
いつからそこにいたのか、人と同じ大きさほどもある黒いカラスの妖魔が、物が散乱した室内に黙然と立っていた。
足音もなく接近した敵の姿に響詩郎は肌が粟立つのを感じながら、静かに声を発した。
「俺を殺しにきたのか?」
そう言って背後に後ずさろうとする響詩郎の背に、刃物のような冷たい感触が押し当てられた。
いつの間にか敵に背後をとられた響詩郎はすぐに悟った。
目の前に見ているのは幻で、本物の敵は自分のすぐ背後に回り込んでいたことを。
「ゆうべの亡者の群れはあんたがやったことだな。あんたの持っていた物騒な刃物のおかげでもう俺の命はあと数時間だ。それなのにわざわざトドメを刺しに来たのか?」
そう皮肉りながらも緊張感から身じろぎ一つ出来ずにいる響詩郎に、相手は整然と告げた。
「おまえを確保する」
その言葉を聞き終えるやいなや、異質な感覚が自分自身を包み込むのを感じて響詩郎はハッとした。
(しまった! 結界か!)
そう思った時にはすでに遅く、何も見えず何も聞こえず何のニオイもしない結界の中に響詩郎は取り込まれようとしていた。
視界の中にほんのわずかに残った部屋の風景に、見覚えの無い少女の姿を響詩郎は見た。
彼女がこの結界を作り出していることは響詩郎には知りようもなかったが、すべてが闇に包まれる前に藁にもすがる思いで彼は少女に向かって手を伸ばした。
少女がチラリとだけ自分を見たような気がしたが、狭まる視界の中ですぐに彼女の姿は消えてしまった。
「くっ!」
響詩郎の指先が何かを掴んだが、それは紙切れのようなものですぐに千切れてしまう。
指先ほどの細かな紙片は響詩郎の指からこぼれ落ちると、倒れている家具の隙間に入り込んで見えなくなった。
そして響詩郎は閉鎖された結界内に閉じ込められ、完全な闇の中で視界を失ったところで首の後ろに針のようなものを刺され、チクリとした痛みを感じると同時に意識を失った。
(ら、雷奈……)
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