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第四章 追跡! 響詩郎 救出 大作戦!
第5話 絶望的状況! 最悪の二択
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「この部屋、時計が無いんだが今は何時なんだ?」
響詩郎の問いかけにも見張りのヨンスは沈黙を守っていた。
恐らく、死が近づいている響詩郎が恐怖心から取り乱して暴れでもすると面倒なのでそうしているのだろう。
両手両足を縛られ体の自由を奪われているため、響詩郎は自らの胸に刻まれた刻印を見ることも出来ず、自分に後どの程度の時間が残されているのかも正確には分からなかった。
体に特に異変はないが、いつ死が訪れてもおかしくはない状況の中でジリジリと迫り来る命の終わりに我を見失わないように感情をコントロールするのは非常に辛いことだった。
どちらかといえばそうした心の制御に長けている響詩郎も、精神を消耗し続けて限界に近づいていた。
何とか心を落ち着かせようと響詩郎は深く息を吐く。
(あと2時間、いやもう1時間を切っているのか?)
つい今しがた大きな揺れを感じた後、船内から騒がしい物音が聞こえてくるようになった。
何者かが船に侵入し、小競り合いが起きている様子だ。
響詩郎はすぐにそれが雷奈であると確信した。
ここがどこであるかも分からないが、雷奈ならば無理を押し通してでもやって来る。
ふいに雷奈のしかめっ面が頭の中に浮かび、響詩郎は思わず苦笑を漏らした。
孤独な死を迎えるかもしれないという恐怖心がわずかに和らぎ、彼の心を慰めてくれた。
その時、カチャリと音がして部屋の中に1人の少女が入ってきた。
響詩郎にも見覚えのあるその少女は結界士の倫だった。
バスハウスから誘拐された際、自分を包み込む結界が閉じられる最後の刹那に見たその少女に、響詩郎は敢えて気安い調子で声をかけた。
「よう。俺をクルージングに誘ってくれたのは嬉しいけど、もう少し優しくエスコートしてもらいたかったぜ」
倫は響詩郎には一瞥もくれずに部屋の中央へと足を進めた。
小さなその手に小さな黒い壷を携えている。
「そろそろ蛇が起きる」
それだけ言うと少女は壷を床にコトリと置いた。
そしてすぐに踵を返すと再び部屋の扉に手をかけたところで、ヨンスに呼び止められる。
「おまえはどこに行く?」
「ここはどうせ誰も入れなくなる。ヒミカのところへ行く。時間稼ぎが必要」
振り向かずにそう告げると、倫は部屋を出て行った。
再び部屋にヨンスと二人で残された響詩郎は頭を捻った。
【死の刻限】による響詩郎の死期はもうすぐそこまで迫っている。
もうすぐ死ぬ自分を人質にする理由がどうしても分からなかった響詩郎は、唐突に置かれたその壷に着目し、倫の言葉を思い返した。
(もうすぐ誰も入れなくなるってことはこの部屋で何かが行われるってことか。俺はその時どうなるんだ)
思考を巡らせる響詩郎の目の前でふいに壷の蓋がわずかに動いた。
「……な、何だ?」
響詩郎は思わず我が目を疑った。
壷の蓋がひとりでにずれ動き、わずかに開いた隙間から黒い瘴気が漏れ出てくる。
そしてそこから黒い触手のようなものがほんのわずかに顔を見せたのだ。
ゾッとするようなおぞましい気配を残して、それは再び壷の中に収まった。
それが自分を吟味するように見ていたことを響詩郎は本能的に感じ取り、これから起こるであろう事態を直感した。
響詩郎は相手が何も答えないのを承知で寡黙なカラスの妖魔に声をかけた。
「なるほど。俺はそいつの餌ってわけか」
そう言う響詩郎に、やはりヨンスは何も答えなかった。
響詩郎は絶望的な気持ちで目の前の壷を見つめ、呻くようにつぶやいた。
「呪術で命が尽きるのが先か。その蛇のバケモノに食われるのが先か。最悪の二択だな」
そう言って響詩郎は唇を噛み締めるのだった。
響詩郎の問いかけにも見張りのヨンスは沈黙を守っていた。
恐らく、死が近づいている響詩郎が恐怖心から取り乱して暴れでもすると面倒なのでそうしているのだろう。
両手両足を縛られ体の自由を奪われているため、響詩郎は自らの胸に刻まれた刻印を見ることも出来ず、自分に後どの程度の時間が残されているのかも正確には分からなかった。
体に特に異変はないが、いつ死が訪れてもおかしくはない状況の中でジリジリと迫り来る命の終わりに我を見失わないように感情をコントロールするのは非常に辛いことだった。
どちらかといえばそうした心の制御に長けている響詩郎も、精神を消耗し続けて限界に近づいていた。
何とか心を落ち着かせようと響詩郎は深く息を吐く。
(あと2時間、いやもう1時間を切っているのか?)
つい今しがた大きな揺れを感じた後、船内から騒がしい物音が聞こえてくるようになった。
何者かが船に侵入し、小競り合いが起きている様子だ。
響詩郎はすぐにそれが雷奈であると確信した。
ここがどこであるかも分からないが、雷奈ならば無理を押し通してでもやって来る。
ふいに雷奈のしかめっ面が頭の中に浮かび、響詩郎は思わず苦笑を漏らした。
孤独な死を迎えるかもしれないという恐怖心がわずかに和らぎ、彼の心を慰めてくれた。
その時、カチャリと音がして部屋の中に1人の少女が入ってきた。
響詩郎にも見覚えのあるその少女は結界士の倫だった。
バスハウスから誘拐された際、自分を包み込む結界が閉じられる最後の刹那に見たその少女に、響詩郎は敢えて気安い調子で声をかけた。
「よう。俺をクルージングに誘ってくれたのは嬉しいけど、もう少し優しくエスコートしてもらいたかったぜ」
倫は響詩郎には一瞥もくれずに部屋の中央へと足を進めた。
小さなその手に小さな黒い壷を携えている。
「そろそろ蛇が起きる」
それだけ言うと少女は壷を床にコトリと置いた。
そしてすぐに踵を返すと再び部屋の扉に手をかけたところで、ヨンスに呼び止められる。
「おまえはどこに行く?」
「ここはどうせ誰も入れなくなる。ヒミカのところへ行く。時間稼ぎが必要」
振り向かずにそう告げると、倫は部屋を出て行った。
再び部屋にヨンスと二人で残された響詩郎は頭を捻った。
【死の刻限】による響詩郎の死期はもうすぐそこまで迫っている。
もうすぐ死ぬ自分を人質にする理由がどうしても分からなかった響詩郎は、唐突に置かれたその壷に着目し、倫の言葉を思い返した。
(もうすぐ誰も入れなくなるってことはこの部屋で何かが行われるってことか。俺はその時どうなるんだ)
思考を巡らせる響詩郎の目の前でふいに壷の蓋がわずかに動いた。
「……な、何だ?」
響詩郎は思わず我が目を疑った。
壷の蓋がひとりでにずれ動き、わずかに開いた隙間から黒い瘴気が漏れ出てくる。
そしてそこから黒い触手のようなものがほんのわずかに顔を見せたのだ。
ゾッとするようなおぞましい気配を残して、それは再び壷の中に収まった。
それが自分を吟味するように見ていたことを響詩郎は本能的に感じ取り、これから起こるであろう事態を直感した。
響詩郎は相手が何も答えないのを承知で寡黙なカラスの妖魔に声をかけた。
「なるほど。俺はそいつの餌ってわけか」
そう言う響詩郎に、やはりヨンスは何も答えなかった。
響詩郎は絶望的な気持ちで目の前の壷を見つめ、呻くようにつぶやいた。
「呪術で命が尽きるのが先か。その蛇のバケモノに食われるのが先か。最悪の二択だな」
そう言って響詩郎は唇を噛み締めるのだった。
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