オニカノ・スプラッシュアウト!

枕崎 純之助

文字の大きさ
48 / 71
第四章 追跡! 響詩郎 救出 大作戦!

第5話 絶望的状況! 最悪の二択

しおりを挟む
「この部屋、時計が無いんだが今は何時なんだ?」

 響詩郎きょうしろうの問いかけにも見張りのヨンスは沈黙を守っていた。
 恐らく、死が近づいている響詩郎きょうしろうが恐怖心から取り乱して暴れでもすると面倒なのでそうしているのだろう。
 両手両足を縛られ体の自由を奪われているため、響詩郎きょうしろうは自らの胸に刻まれた刻印を見ることも出来ず、自分に後どの程度の時間が残されているのかも正確には分からなかった。
 体に特に異変はないが、いつ死が訪れてもおかしくはない状況の中でジリジリと迫り来る命の終わりに我を見失わないように感情をコントロールするのは非常に辛いことだった。
 どちらかといえばそうした心の制御に長けている響詩郎きょうしろうも、精神を消耗し続けて限界に近づいていた。
 何とか心を落ち着かせようと響詩郎きょうしろうは深く息を吐く。

(あと2時間、いやもう1時間を切っているのか?)

 つい今しがた大きな揺れを感じた後、船内から騒がしい物音が聞こえてくるようになった。
 何者かが船に侵入し、小競こぜり合いが起きている様子だ。
 響詩郎きょうしろうはすぐにそれが雷奈らいなであると確信した。
 ここがどこであるかも分からないが、雷奈らいなならば無理を押し通してでもやって来る。
 ふいに雷奈らいなのしかめっ面が頭の中に浮かび、響詩郎きょうしろうは思わず苦笑をらした。
 孤独な死を迎えるかもしれないという恐怖心がわずかにやわらぎ、彼の心をなぐさめてくれた。

 その時、カチャリと音がして部屋の中に1人の少女が入ってきた。
 響詩郎きょうしろうにも見覚えのあるその少女は結界士の倫だった。
 バスハウスから誘拐ゆうかいされた際、自分を包み込む結界が閉じられる最後の刹那に見たその少女に、響詩郎きょうしろうえて気安い調子で声をかけた。

「よう。俺をクルージングに誘ってくれたのは嬉しいけど、もう少し優しくエスコートしてもらいたかったぜ」

 倫は響詩郎きょうしろうには一瞥いちべつもくれずに部屋の中央へと足を進めた。
 小さなその手に小さな黒いつぼを携えている。

「そろそろ蛇が起きる」

 それだけ言うと少女はつぼを床にコトリと置いた。
 そしてすぐにきびすを返すと再び部屋の扉に手をかけたところで、ヨンスに呼び止められる。

「おまえはどこに行く?」
「ここはどうせ誰も入れなくなる。ヒミカのところへ行く。時間稼ぎが必要」

 振り向かずにそう告げると、倫は部屋を出て行った。
 再び部屋にヨンスと二人で残された響詩郎きょうしろうは頭を捻った。
【死の刻限】による響詩郎きょうしろうの死期はもうすぐそこまで迫っている。
 もうすぐ死ぬ自分を人質にする理由がどうしても分からなかった響詩郎きょうしろうは、唐突に置かれたそのつぼに着目し、倫の言葉を思い返した。

(もうすぐ誰も入れなくなるってことはこの部屋で何かが行われるってことか。俺はその時どうなるんだ)

 思考を巡らせる響詩郎きょうしろうの目の前でふいにつぼふたがわずかに動いた。

「……な、何だ?」

 響詩郎きょうしろうは思わず我が目を疑った。
 つぼふたがひとりでにずれ動き、わずかに開いた隙間すきまから黒い瘴気しょうきれ出てくる。
 そしてそこから黒い触手のようなものがほんのわずかに顔を見せたのだ。
 ゾッとするようなおぞましい気配を残して、それは再びつぼの中に収まった。
 それが自分を吟味ぎんみするように見ていたことを響詩郎きょうしろうは本能的に感じ取り、これから起こるであろう事態を直感した。
 響詩郎きょうしろうは相手が何も答えないのを承知で寡黙かもくなカラスの妖魔に声をかけた。

「なるほど。俺はそいつのえさってわけか」

 そう言う響詩郎きょうしろうに、やはりヨンスは何も答えなかった。
 響詩郎きょうしろうは絶望的な気持ちで目の前のつぼを見つめ、うめくようにつぶやいた。

「呪術で命が尽きるのが先か。その蛇のバケモノに食われるのが先か。最悪の二択だな」

 そう言って響詩郎きょうしろうくちびるを噛み締めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...