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第三章 リモート・ミッション・α
第5話 闇の魔女 vs 東将姫
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闇の魔女ミランダと東将姫アナリンの戦いが幕を開けた。
天烈に乗るアナリンの動きは速く、黒狼牙の斬撃は鋭い。
小魔女たちは1人また1人と斬り裂かれて消えていく。
やばいぞ。
「好き勝手してんじゃないわよ!」
ミランダは怒りの声とともに必殺魔法の態勢に入る。
死神の接吻だ。
アナリンの動きは確かに速いけど、一瞬で空気を伝わるこの魔法は避けることや防ぐことは出来ない。
守りの堅い者も動きの速い者も、等しく下される死の審判からは逃れられないんだ。
ジェネットのように精巧な反射魔法の使い手でもない限りは。
「死神達の接吻!」
まだ残っている8人の小魔女たちも、ミランダに合わせて死神の接吻を繰り出していく。
八つの死のドクロが多重奏となってアナリンに襲いかかった。
成功率は3分の1だけど、これなら必ずいずれかのドクロが効いてくれるはずだ。
それを見守る僕の前でアナリンは気合いの声を上げた。
「ハアッ!」
彼女は黒狼牙を目にも止まらぬ速度で幾度も振るった。
すると信じられないことに、刃で斬られたドクロが真っ二つになって次々と霧散していく。
そ、そんな……。
アナリンは瞬く間に八つのドクロをその刀で斬り裂いてしまった。
これには僕だけじゃなく、さすがにミランダも表情を変えた。
「くっ!」
「残念だったなミランダ。この黒狼牙に斬れるものは物質だけではない。この世のあらゆる魔法ですら斬り裂く、無双の刃なのだ。貴様の即死魔法とて例外ではない」
そう言うとアナリンは再び天烈を駆って急降下し、残った8人の小魔女を次々と斬り裂いていく。
ミランダもアナリンの後方から死神の接吻を仕掛けるなど必死に抵抗するけれど、アナリンはドクロがどこから襲って来ようともこれを察知し、黒狼牙でいともたやすく斬り裂いてしまう。
「ムダなことだ!」
だ、だめだ。
アリアナやヴィクトリアがそうだったように、ミランダでもアナリンの強さは手に負えないのか。
死神の接吻まで効かない相手に打つ手なんてあるのか?
僕は必死に頭の中で対策を考える。
そんな中でも小魔女は次々とアナリンに討ち取られていき、もう残り3人しか残っていない。
「いい気になってんじゃないわよ!」
そう声を張り上げると、ミランダはその両手から盛大に黒い霧を吹き出した。
悪魔の囁きだ。
それはミランダや残った小魔女を飲み込んで内包し、アナリンの周囲を取り囲むように展開されていく。
もちろん術者であるミランダには影響はないが、アナリンがこれを浴びればステータス異常を起こすはずだ。
だけどミランダの狙いはそれだけじゃなかった。
霧の中からいくつもの黒炎弾が飛び出してきてアナリンを襲う。
それは彼女を取り囲む霧の各所から波状攻撃となって撃ち出された。
黒い霧が目眩ましの役目を果たしているんだ。
「小細工は見苦しいぞ。それでも名高い闇の魔女か?」
アナリンは冷徹な表情のまま黒炎弾を軽々と斬り捨てる。
そして天烈の鐙に足をかけた状態で立ち上がると、刀を高々と掲げた。
あの構えは……まずい!
「鬼嵐刃!」
剣の舞を繰り出すアナリンの声が響き渡ると同時に、黒狼牙から発生した風が、彼女の周囲の黒い霧を吹き飛ばす。
刃の嵐が周囲のものを容赦なく斬り刻む危険な技だ。
これじゃあ黒い霧の中にいるミランダや小魔女たちはひとたまりもない。
そう危惧した僕だけど、ミランダの対処は迅速だった。
「死神達の接吻!」
ほとんど吹き飛ばされた残りわずかな霧の中から黒い靄の四つのドクロが現れた。
それは一瞬で空気を伝わり、アナリンの巻き起こす風が最高潮に達する前に彼女に襲いかかる。
アナリンはやむなく技をキャンセルして黒狼牙を振るい、4つのドクロを刃で直接斬り払った。
死神の接吻を黒狼牙で直接斬り裂くことは出来ても、刃の風で吹き飛ばすことは出来ないみたいだ。
「こざかしい!」
だけどアナリンが4つ目のドクロを斬り払った時、彼女の両手両足に黒い鎖が巻きついたんだ。
これは……ミランダが魔力で自在に操る黒鎖杖の鎖だ。
これに縛り上げられると、相手はそうそう動けなくなるんだ。
「悪あがきか! この程度で某を封じられると思うな!」
そう言ってアナリンが鎖を断ち切るために刀を持つ手を一閃させようとしたけれど、その手に巻き付いている鎖がその動作を鈍くさせた。
ミランダの魔力がこもった鎖によってアナリンの動きが一瞬止まる。
その瞬間に猛烈な勢いで鎖が縮み、その先にある杖を握るミランダが一瞬にしてアナリンに迫り、体当たりを浴びせた。
「ぐっ!」
「黒炎弾!」
ミランダはそのままの勢いで口を開くと、普段は指から撃ち出す黒炎弾をその口から吐き出したんだ。
近接距離で敵の不意を突くミランダの得意技だ。
ミランダの体当たりを浴びて体勢を崩さないまでも一瞬の硬直状態にあったアナリンの右肩に、至近距離からの黒炎弾が炸裂する。
「くはっ!」
今度はたまらずアナリンがのけ反ったところに、ミランダは間髪入れずに必殺の魔法を放った。
「死神の接吻!」
すごい!
体当たりからの3連コンボだ!
漆黒のドクロが再びアナリンを襲う。
両手両足を封じられたまま体勢を崩したアナリンはこれに対処することが出来ずに今度こそドクロに飲み込まれた。
さあ運命の時だ。
当たりかハズレか。
結果は一瞬で判明した。
ドクロの中から再び現れたアナリンが、右手に握ったままの黒狼牙を器用に逆手に持ち替えて黒い鎖を断ち切ったんだ。
し、失敗だ。
体の自由を得たアナリンは居合いで刀を抜き放ち、鋭い一撃をミランダに浴びせる。
「鬼速刃!」
ミランダは咄嗟に黒鎖杖を構えてこれを受け止めるけれど、アナリンの斬撃の勢いに負けて後方に弾き飛ばされた。
そして直撃型の鬼速刃で生じた衝撃に、ミランダの左肩が斬り裂かれて鮮血が舞い散る。
「くうっ!」
「ミランダ!」
やばい!
アナリンはもう一度素早く刀を鞘に収めると、鞘に巻かれた金鎖を解き放った。
あ、あれは……。
僕の脳裏に王都での戦いが鮮烈に甦る。
彼女があの金鎖を鞘から解き放った後、その体が変化して信じられないほどの強さを発揮したんだ。
それによってアリアナやヴィクトリアは敗北寸前まで追い込まれた。
「見事だ。魔女ミランダ。運がなければ某は敗北していただろう。まさかこのゲームにそこまで某を追い詰める者がいるとはな。貴様の戦いぶりに敬意を表し、この黒狼牙の力の片鱗を見せよう」
そう言うアナリンの口には鋭い牙が見え隠れし、頭から赤く輝く2本の角が生えた。
そして黒かった瞳が薄紅色に染まり、冷静沈着なその顔が好戦的な表情に豹変した。
再び見るその現象に僕は恐怖を感じずにいられない。
や、やばいぞコレ。
僕は思わず叫んでいた。
「ミランダ! 避けて!」
僕がそう叫ぶのと同時に、アナリンが天烈の背に立った。
すると天烈は主の意を汲み取ったかのように、一瞬でミランダと間合いを詰める。
不安定な足場であるにもかかわらず、アナリンは腰を落として居合いの構えから一気に抜刀した。
「鬼道烈斬!」
空中で態勢を立て直したばかりのミランダは、懸命の反応を見せて黒鎖杖でこれを受け止めたんだ。
だけど……。
「甘い!」
そう言ってアナリンが黒狼牙をさらに押し込むと、バキッと鈍い音がした。
そして次の瞬間、刀を受け止めていたミランダの黒鎖杖が真っ二つにへし折れてしまったんだ。
そ、そんな……。
歴戦の激闘にも耐え抜いてきたミランダ自慢の黒鎖杖が……。
そしてアナリンが横一閃に振り払った刀の切っ先がミランダの胸元を切り裂いた。
攻撃を受けて後方に吹き飛ばされたミランダの体から鮮血が舞い散ったのを、信じられない思いで見つめながら、僕は叫び声を上げていた。
「ミランダァァァァァァ!」
天烈に乗るアナリンの動きは速く、黒狼牙の斬撃は鋭い。
小魔女たちは1人また1人と斬り裂かれて消えていく。
やばいぞ。
「好き勝手してんじゃないわよ!」
ミランダは怒りの声とともに必殺魔法の態勢に入る。
死神の接吻だ。
アナリンの動きは確かに速いけど、一瞬で空気を伝わるこの魔法は避けることや防ぐことは出来ない。
守りの堅い者も動きの速い者も、等しく下される死の審判からは逃れられないんだ。
ジェネットのように精巧な反射魔法の使い手でもない限りは。
「死神達の接吻!」
まだ残っている8人の小魔女たちも、ミランダに合わせて死神の接吻を繰り出していく。
八つの死のドクロが多重奏となってアナリンに襲いかかった。
成功率は3分の1だけど、これなら必ずいずれかのドクロが効いてくれるはずだ。
それを見守る僕の前でアナリンは気合いの声を上げた。
「ハアッ!」
彼女は黒狼牙を目にも止まらぬ速度で幾度も振るった。
すると信じられないことに、刃で斬られたドクロが真っ二つになって次々と霧散していく。
そ、そんな……。
アナリンは瞬く間に八つのドクロをその刀で斬り裂いてしまった。
これには僕だけじゃなく、さすがにミランダも表情を変えた。
「くっ!」
「残念だったなミランダ。この黒狼牙に斬れるものは物質だけではない。この世のあらゆる魔法ですら斬り裂く、無双の刃なのだ。貴様の即死魔法とて例外ではない」
そう言うとアナリンは再び天烈を駆って急降下し、残った8人の小魔女を次々と斬り裂いていく。
ミランダもアナリンの後方から死神の接吻を仕掛けるなど必死に抵抗するけれど、アナリンはドクロがどこから襲って来ようともこれを察知し、黒狼牙でいともたやすく斬り裂いてしまう。
「ムダなことだ!」
だ、だめだ。
アリアナやヴィクトリアがそうだったように、ミランダでもアナリンの強さは手に負えないのか。
死神の接吻まで効かない相手に打つ手なんてあるのか?
僕は必死に頭の中で対策を考える。
そんな中でも小魔女は次々とアナリンに討ち取られていき、もう残り3人しか残っていない。
「いい気になってんじゃないわよ!」
そう声を張り上げると、ミランダはその両手から盛大に黒い霧を吹き出した。
悪魔の囁きだ。
それはミランダや残った小魔女を飲み込んで内包し、アナリンの周囲を取り囲むように展開されていく。
もちろん術者であるミランダには影響はないが、アナリンがこれを浴びればステータス異常を起こすはずだ。
だけどミランダの狙いはそれだけじゃなかった。
霧の中からいくつもの黒炎弾が飛び出してきてアナリンを襲う。
それは彼女を取り囲む霧の各所から波状攻撃となって撃ち出された。
黒い霧が目眩ましの役目を果たしているんだ。
「小細工は見苦しいぞ。それでも名高い闇の魔女か?」
アナリンは冷徹な表情のまま黒炎弾を軽々と斬り捨てる。
そして天烈の鐙に足をかけた状態で立ち上がると、刀を高々と掲げた。
あの構えは……まずい!
「鬼嵐刃!」
剣の舞を繰り出すアナリンの声が響き渡ると同時に、黒狼牙から発生した風が、彼女の周囲の黒い霧を吹き飛ばす。
刃の嵐が周囲のものを容赦なく斬り刻む危険な技だ。
これじゃあ黒い霧の中にいるミランダや小魔女たちはひとたまりもない。
そう危惧した僕だけど、ミランダの対処は迅速だった。
「死神達の接吻!」
ほとんど吹き飛ばされた残りわずかな霧の中から黒い靄の四つのドクロが現れた。
それは一瞬で空気を伝わり、アナリンの巻き起こす風が最高潮に達する前に彼女に襲いかかる。
アナリンはやむなく技をキャンセルして黒狼牙を振るい、4つのドクロを刃で直接斬り払った。
死神の接吻を黒狼牙で直接斬り裂くことは出来ても、刃の風で吹き飛ばすことは出来ないみたいだ。
「こざかしい!」
だけどアナリンが4つ目のドクロを斬り払った時、彼女の両手両足に黒い鎖が巻きついたんだ。
これは……ミランダが魔力で自在に操る黒鎖杖の鎖だ。
これに縛り上げられると、相手はそうそう動けなくなるんだ。
「悪あがきか! この程度で某を封じられると思うな!」
そう言ってアナリンが鎖を断ち切るために刀を持つ手を一閃させようとしたけれど、その手に巻き付いている鎖がその動作を鈍くさせた。
ミランダの魔力がこもった鎖によってアナリンの動きが一瞬止まる。
その瞬間に猛烈な勢いで鎖が縮み、その先にある杖を握るミランダが一瞬にしてアナリンに迫り、体当たりを浴びせた。
「ぐっ!」
「黒炎弾!」
ミランダはそのままの勢いで口を開くと、普段は指から撃ち出す黒炎弾をその口から吐き出したんだ。
近接距離で敵の不意を突くミランダの得意技だ。
ミランダの体当たりを浴びて体勢を崩さないまでも一瞬の硬直状態にあったアナリンの右肩に、至近距離からの黒炎弾が炸裂する。
「くはっ!」
今度はたまらずアナリンがのけ反ったところに、ミランダは間髪入れずに必殺の魔法を放った。
「死神の接吻!」
すごい!
体当たりからの3連コンボだ!
漆黒のドクロが再びアナリンを襲う。
両手両足を封じられたまま体勢を崩したアナリンはこれに対処することが出来ずに今度こそドクロに飲み込まれた。
さあ運命の時だ。
当たりかハズレか。
結果は一瞬で判明した。
ドクロの中から再び現れたアナリンが、右手に握ったままの黒狼牙を器用に逆手に持ち替えて黒い鎖を断ち切ったんだ。
し、失敗だ。
体の自由を得たアナリンは居合いで刀を抜き放ち、鋭い一撃をミランダに浴びせる。
「鬼速刃!」
ミランダは咄嗟に黒鎖杖を構えてこれを受け止めるけれど、アナリンの斬撃の勢いに負けて後方に弾き飛ばされた。
そして直撃型の鬼速刃で生じた衝撃に、ミランダの左肩が斬り裂かれて鮮血が舞い散る。
「くうっ!」
「ミランダ!」
やばい!
アナリンはもう一度素早く刀を鞘に収めると、鞘に巻かれた金鎖を解き放った。
あ、あれは……。
僕の脳裏に王都での戦いが鮮烈に甦る。
彼女があの金鎖を鞘から解き放った後、その体が変化して信じられないほどの強さを発揮したんだ。
それによってアリアナやヴィクトリアは敗北寸前まで追い込まれた。
「見事だ。魔女ミランダ。運がなければ某は敗北していただろう。まさかこのゲームにそこまで某を追い詰める者がいるとはな。貴様の戦いぶりに敬意を表し、この黒狼牙の力の片鱗を見せよう」
そう言うアナリンの口には鋭い牙が見え隠れし、頭から赤く輝く2本の角が生えた。
そして黒かった瞳が薄紅色に染まり、冷静沈着なその顔が好戦的な表情に豹変した。
再び見るその現象に僕は恐怖を感じずにいられない。
や、やばいぞコレ。
僕は思わず叫んでいた。
「ミランダ! 避けて!」
僕がそう叫ぶのと同時に、アナリンが天烈の背に立った。
すると天烈は主の意を汲み取ったかのように、一瞬でミランダと間合いを詰める。
不安定な足場であるにもかかわらず、アナリンは腰を落として居合いの構えから一気に抜刀した。
「鬼道烈斬!」
空中で態勢を立て直したばかりのミランダは、懸命の反応を見せて黒鎖杖でこれを受け止めたんだ。
だけど……。
「甘い!」
そう言ってアナリンが黒狼牙をさらに押し込むと、バキッと鈍い音がした。
そして次の瞬間、刀を受け止めていたミランダの黒鎖杖が真っ二つにへし折れてしまったんだ。
そ、そんな……。
歴戦の激闘にも耐え抜いてきたミランダ自慢の黒鎖杖が……。
そしてアナリンが横一閃に振り払った刀の切っ先がミランダの胸元を切り裂いた。
攻撃を受けて後方に吹き飛ばされたミランダの体から鮮血が舞い散ったのを、信じられない思いで見つめながら、僕は叫び声を上げていた。
「ミランダァァァァァァ!」
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