どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第四章 『魔神領域』

第10話 追跡

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「もうそろそろマンガラ一味の縄張なわばりを抜けるだよ」

 そう言って森の中を軽快に走り続けるシャンゴの先に、森の終わりが見えてきた。
 鬱蒼うっそうと生い茂る木々が途切れ、その先には広大な砂漠が広がっていた。

 奇妙な道案内役となった雷魔神のシャンゴと並走して俺は走り続けていた。
 気持ち悪いほど人懐ひとなつっこいこの男はやたらとおしゃべりで、しきりに俺に話しかけてくる。

「しかしバレットくん。どうやってここまで来たんだか? ここは5年前から閉鎖されたままの世界だべ」

 シャンゴの話によれば、この魔神領域は5年ほど前に一ヶ月限定で公開されていたエリアたったらしい。
 だがそれは一般公開ではなく、人数限定のテスト公開だった。
 どうりでそんな話は聞いたことがねえと思ったぜ。

 どうやらドレイクはその時期にここへ来てシャンゴと知り合ったとのことだ。
 テスト公開終了後は微調整されてリニューアルする予定だったんだが、諸般の事情で頓挫とんざして、その後は閉ざされたまま放置されていた。
 その間、当然のように外部から入ってくる者はいなかったという。

「システム・エラーで空いた穴から、ここに落ちてきたんだ。今、ここに迷い込んだ部外者は全員、俺と同じだろう」
「そうだっただか。ということはオラが見た3人の他にもバレットくんみたいなのがいるってことだべな。逆にオラが外の世界に出ていくことも可能なんだべか?」

 確かに顎傷男ジョー・スカーはエンダルシュアにある忘れ去られた街・ネフレシアの製鉄所に開いた不正プログラムのあなから、腕だけとはいえい上がってきた。
 だからそういうことも可能なんだろうが、こんな野郎が外に出ていったりしたら大騒ぎになっちまって面倒なことになりかねない。
 今、こっちに手間を取らされるわけにはいかねえ。
 俺はとぼけてその問いには答えなかった。

「さあな。というかあな自体がもう閉じちまって元の場所にはねえから、戻り方なんて分からねえよ」

 俺の答えにも不満げな顔ひとつ見せることなくシャンゴはさらに問いを重ねる。

「そっがぁ。ところでドレイクの次の魔王は誰なんだべ?」
「まだ決まってねえよ。魔王になるには厳しい条件をクリアしなきゃならん。実力だけじゃなく時の運も必要だ。おそらくは長い間、魔王は生まれねえだろう」

 魔王になるのは自分の力だけでは無理だ。
 どんな実力者であっても自分の実力だけで魔王になることは出来ない。
 地獄の谷ヘル・バレーで最大派閥はばつを築き、その頭首リーダーとなって派閥はばつを一年間維持することが出来て初めて魔王になれる。
 当然、一大派閥はばつを形成するために多くの人員が必要で、そうした人員を集めるためには人心を掌握しょうあくできる人的魅力が求められるだろう。

 いくら強くても魅力のない奴には誰も付いていかないからだ。
 ドレイクはそうした全てがそろい、仲間や部下に恵まれて魔王になることが出来た。
 同じことを出来る人物が今の地獄の谷ヘル・バレーにいるとは思えねえ。
 かつて俺の上司だった上級悪魔のゾーランは魔王の座に最も近い位置にいるが、そのゾーランをもってしても、数年に渡って空位となったままのその玉座をいまだに手に出来ていない。

 他に適任がいるかと問われても、俺にはまったく思い当たらないぜ。
 魔王ってのはそのくらい雲の上の存在なんだ。
 そんなことを考えながら走る俺に、シャンゴは気楽な調子で言った。

「ならバレットくんが魔王になればいいだよ」
「馬鹿言え」
「うんにゃ。オラ本気だよ。バレットくんなら魔王になれる資質があると思うだよ」

 そんなわけねえだろ。
 悪魔の頂点たる玉座は、俺には最も縁遠いものだ。
 あまりに遠過ぎで、そこに辿たどり着きたいという発想すらねえ。
 というか仲間とつるむのを嫌う俺には魔王の座を希望する気持ち自体がねえ。
 他の悪魔どもをたばねて面倒を見るなんて、俺の性分に合わねえんだよ。
 
「魔王なんてなれるとも思わねえし、なろうとも思わねえんだよ。俺がなりたいのは一番強い悪魔だ。誰も寄せ付けないくらいのな。魔王よりも強い男になってやるぜ」
「ハハハッ! 魔王よりも強い悪魔がいたら、魔王が困っちまうべな。けど、そりゃいいや。面白おもしれえなぁ」
「おい。そんなことよりちゃんと足跡追えてるのかこれ……ん?」

 俺はそこで足を止めた。
 最初に顎傷男ジョー・スカーと出会ったあの森からだいぶ走り、そこには新たな森が広がっていたが、その入口の木の根元に1体の赤肌男レッド・スキンが倒れていやがったんだ。
 その様子に俺は舌打ちした。
 赤肌男レッド・スキンはその下半身がバグッて木と結合しちまっている。
 不正プログラムだ。

「ありゃっ? 何だこりゃ。こいつ一体どうしちまったんだべか」

 赤肌男レッド・スキンはまだ意識があるようで、俺たちを見ると身じろぎするが、シャンゴの姿を見た途端とたんおびえた面を見せる。
 だが、ヒルダによってやられた奴のように、ライフゲージまではバグッていない。
 シャンゴは構わずに赤肌男レッド・スキンのすぐそばにしゃがみ込んだ。

「オイおめえ。何がどうしてこうなったんだべか?」
「グルルルル……」

 シャンゴの問いにも赤肌男レッド・スキンは警戒のうなり声を上げるばかりだ。
 事情を知らないシャンゴは赤肌男レッド・スキンの奇態に目を白黒させているが、俺にとっちゃそれは明確なシグナルだった。

 ロドリックだ。
 あいつがここにいた。
 ヒルダ亡き後、不正プログラムを使うのはあいつだけだ。
 奇妙なナックル・ガードを使ってな。

 赤肌男レッドスキンの体は一部がバグッてやがるが、ライフゲージは正常な状態のままだった。
 ヒルダに作り出された感染者とは様子が異なるな。
 
 ロドリックはヒルダの耳から線虫をあのナックル・ガードに吸い込みやがった。
 あの線虫こそが不正プログラムの保持者だったんだ。
 もしそのことでロドリックの奴が自在に不正プログラムを操れるようになっていたとしたら、ここから抜け出るあなを作り出せるかもしれねえ。
 ってことはティナを連れてもうとっくにここからオサラバしている可能性もある。

 もし今そうでなかったとしても、時間が経過するほどにそのリスクは高まるんだ。
 そうなる前にあの野郎を見つけ出さねえといかん。

「そいつは俺が追っている悪魔にやられたんだろうよ。間違いねえ」

 そう言うと俺はメイン・システムを操作してティナとロドリックの姿を映した画像を表示した。
 シャンゴがそれをヒョイとのぞき込んでくる。

「こいつらが例の天使と悪魔だべか」
「ああ。見習い天使のティナと、俺と同じ悪魔のロドリックだ。こいつより先にティナを見つけて確保しなきゃならねえ」
「なるほど。そんならオラも協力するだよ」

 そう言うとシャンゴは鋭く口笛を吹いた。
 すると空に雷鳴が響き渡り、ピカッと稲光がまたたく。
 そして暗雲立ち込める空に十数羽の鳥の群れが現れた。
 それらは金色にかがやく羽を持つ大型の鳥であり、空中を優雅に旋回している。
 その様子を満足げに見上げながらシャンゴは言った。

雷光鳥ライトニング・バードだべ。オラの眷属けんぞくだ。あいつらに周辺をさがさせるだよ」

 その鳥たちは目からまばゆい光を放って地上を照らす。 
 なるほど。
 ああして地上を索敵さくてきするわけか。
 さらにはどこからか近付いて来る無数の足音に、俺は思わず身構える。

「ああ。警戒しないでいいだよ。地上の眷属けんぞくを呼んだだけだべ」

 現れたのは全身の黄色い毛を電気でバチバチと逆立たせた大型犬どもだ。
 雷光鳥ライトニング・バードと同じく十数頭はいる。

雷鳴犬サンダー・ドッグだべ。こいつらは地上を索敵さくてきするだよ。オメーたち。悪魔か天使を探すだよ! 行けっ!」

 シャンゴの号令を受けて雷鳴犬サンダー・ドッグたちは素早く散り散りになって駆けていく。
 その動きは速く、あっという間に遠ざかって見えなくなった。

「あいつら追跡が得意だから、すぐに目標を見つけてくれるだよ」

 そう言うとシャンゴは赤肌男レッド・スキンを見下ろす。

「おめえはこのままじゃ生き地獄だべな。介錯かいしゃくしてやるべ」

 シャンゴはそう言うと足を振り上げ、その頭を踏みつぶした。
 激しい稲妻が発生し発火する。
 巻き上がる火で、赤肌男レッド・スキンの体が結合した木と共に燃え上がっていく。

 ライフゲージまではバグッていなかったため、赤肌男レッド・スキンは光の粒子と化して昇天していった。
 ゲームオーバーだ。
 それを見送るとシャンゴは前方を指差す。
 その先には森の終わりがあり、背の低い草が茂る草原が広がっていた。
 
「この先の草原はもう別の奴の縄張なわばりだもんで、マンガラどももここで追跡をあきらめたみたいだよ。足跡がこの辺で終わってるだ。相手が悪魔ならここから空を飛んでいっちまったんだと思う」

 森の上を飛べば赤肌男レッド・スキンらに投石攻撃を受ける恐れがあるが、そういうことならあの草原の上空を飛んで行く方が手っ取り早いだろう。
 だが、奴はどこに向かったんだ?
 
雷光鳥ライトニング・バードどもは鼻が利くから、異質な悪魔のニオイはすぐに嗅ぎつけるだよ。それを追っていけば間違いねえ」

 そう言うとシャンゴは森を抜けるべく足を踏み出す。

「さあ、オラたちも行くべ。バレットくん。ちょっと本気で走るだが、オラの速度に付いて来られるだか?」

 そう言うとシャンゴは鳥どもの後を追って駆け出した。
 チッ。
 馬鹿にしやがって。

 俺はすぐにシャンゴの後を追うが、その速さは相当なもので、見る見るうちに距離が開いていく。
 くっ!
 速い!

 俺は全力で奴を追うが、まったく追い付けずにジリジリと差は開いていく。
 森の中の木々を避けながらだというのに、シャンゴはスイスイと駆け抜けていく。
 それだけでなくシャンゴはケタケタと笑いながら余裕でこちらを振り返った。

「遅いだよバレットくん。オラの友達になりたかったらもっと速く走らねえとダメだべ」

 くそっ! 
 俺は歯を食いしばって懸命に森の中を駆けた。
 友達なんぞにはこれっぽっちもなりたくねえが、こうして差を見せつけられるのはムチャクチャ腹が立つ。

「くそったれぇぇぇ! 絶対に追い抜かしてやるからなぁぁぁぁ!」

 森を抜けて草原に足を踏み入れた俺は、柔らかな草を踏みしめながら跳躍ちょうやくするとそのまま羽を広げて宙を舞った。
 はるか先を行くシャンゴの背中を追って。
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