どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第四章 『魔神領域』

第15話 三度目の対戦

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「オラァァァァァッ!」
「ぬぅぅぅぅぅぅっ!」

 俺は最初から全力で飛ばしてロドリックと打ち合った。
 そうしなければあっという間に打ち負けてしまいそうなほどロドリックの攻撃は圧が強い。

 こいつはもう下級種の強さを超越していた。
 かつての力をはるかに凌駕りょうがする実力を手に入れるために、こいつが死ぬほど血ヘドを吐いてきたことが分かる。
 一朝一夕いっちょういっせきでは手に入らない力の厚みのようなものを感じる。
 かつて俺と同じ山のふもとにいた男は、山のいただきに向けていつの間にか俺の何歩も先を歩いていた。

 けどな、それならこの手を伸ばして、奴の後ろ髪を引っつかんでやる。
 俺はグッと息を吸い込んで最大速度で左右の拳を連打する。
 ロドリックは防御に徹して氷撃魔旋棍フレーズヴェルグでそれを着実に防ぎやがった。

「チッ! かたいじゃねえか。相変わらずだな」
「フンッ。攻撃ばかりに意識がいきがちなおまえの悪癖あくへきも相変わらずだ」

 昔から俺とロドリックの戦闘の組み立て方は異なる。
 俺は足でフットワークを使って動き回り、両拳で相手を攻撃して連続技につなげる。
 対するロドリックは拳よりも蹴り技が主体となるため、フットワークは俺ほど使わない。
 ドッシリと構えて相手の攻撃を両腕で防御し、そこから足技でカウンターをかける戦法だ。
 そして俺が距離を取れば氷風隼フロスト・ファルコンを飛ばして激しく攻撃してくる。

 場を支配する戦いの方式メソッドが奴の体にはしっかりと刻み込まれているんだ。
 まずは奴のペースをくずさねえとならねえ。
 俺は魔力のギアを一段上げて果敢かかんに攻撃を仕掛けた。

噴熱間欠泉ヒートガイザー!」

 俺が右足を振り上げて地面を踏むとロドリックの足元から炎が立ち上る。
 ロドリックはわずかに後方に下がってこれを避け、カウンターで氷風隼フロスト・ファルコンを打ち出してくる。
 俺はそれを灼焔鉄甲カグツチなぐり付けて跳ね飛ばすと、灼熱鴉バーン・クロウを放ちながら直進する。
 ロドリック相手には数フレーム分の防御行動がもったいない。

 攻撃ばかりに意識がいきがちな俺の悪癖あくへき、などと奴は言っていたが、最短距離で攻撃の手をつらねれば、それだけロドリックは対応に追われることになる。
 その中であいつの防御のほころびを見つけ、確実にダメージを与えるんだ。
 俺が放った灼熱鴉バーン・クロウをロドリックは氷撃魔旋棍フレーズヴェルグで打ち払った。

 だが、その時点で奴の間合いに踏み込んでいた俺は頭に思い描く連撃を繰り出した。
 左右のワンツー・パンチからの下段回し蹴り。
 ロドリックはそれをガードしつつ、足を払おうとする下段回し蹴りを軽くジャンプしてかわした。
 そして俺の頭の上からかかと落としを放ってきた。

 最初の対戦で俺はロドリックのかかと落としを食らって戦闘不能におちいった。
 だがこの一撃は魔力の込められていないただのかかと落としだった。
 俺は両腕を頭上に上げ、灼焔鉄甲カグツチでこれを受け止める。

「ぐっ!」

 スキルではないただのかかと落としだが、その一撃は相当に重い。
 そしてロドリックは右足のかかと落としを俺に受け止められた刹那せつな、体をひねって器用に回転し、左足で俺の右側頭部に回し蹴りを浴びせやがった。

「くうっ!」

 右側頭部に衝撃が走る。
 だが俺はダメージと引き換えに奴の左足首を右手でつかんだ。
 そのまま俺は体をねじって回転する。
 そして体ごと倒れ込むようにして奴の左足首をひねってやった。

「うぐっ!」

 ロドリックは苦痛の声を上げて倒れ込みながらも同じく倒れ込んだ俺に手を伸ばしてくる。
 俺は反射的にその手を振り払って後方に跳ね起きた。
 こいつは蹴りの他に組み技や投げ技が得意なんだ。
 俺は訓練時代を思い返して舌打ちした。
 こいつにはよく関節技を決められて苦しめられた。

「フンッ。そうはいくか。男同士の寝技は気持ち悪いんだよ」

 そう言う俺にロドリックはわずかに顔をしかめて立ち上がる。
 俺がひねってやった右の足首が痛むようだな。
 ざまぁ見やがれ。
 俺は奴に回復の間を与えないために即座に攻撃を再開した。

噴熱間欠泉ヒート・ガイザー!」

 ロドリックの足元から火柱が立ち上がる。
 そこから左右の拳と両足の蹴り、灼熱鴉バーン・クロウ魔刃脚デビル・ブレードの乱れ打ちで俺はロドリックを攻め続ける。
 ロドリックはそれらを全て的確に防御しやがるが、足が痛むせいかカウンター攻撃を仕掛けて来ない。
 だが、このままで終わる野郎じゃない。
 俺は90%の意識を攻撃に傾けながら、10%の意識で不測の事態に備えた。

 俺はロドリックよりもわずかに上回るスピードを駆使くしして、奴に反撃のすきを与えない。
 だが、その状況に変化が起きたのは戦い始めて数分が経過した頃だった。

「ウォォォォン!」

 いきなり腹に響く強烈な大音声に俺もロドリックも動きを止める。
 3本のくさりによって身動きを封じられている魔神アルシエルが大きくえやがったんだ。
 そしてその右腕にからみ付いている漆黒しっこくくさりがバキッという大きな音を立ててくずれ去った。
 そこで俺はさっき金弓男アーチマンが言っていた言葉を思い返す。

 アルシエルの身動きを封じる漆黒しっこくくさりは10分ごとに右腕、左腕、胴の順で外れるんだ。
 戦いに夢中で気付かなかったが、もう10分が経過したのか。
 右腕の自由を取り戻したアルシエルは、その長い腕を俺たちに向かって振り下ろして来やがった。

「うおっ!」

 ロドリックに攻撃を仕掛けようとしていた俺は即座に後方に下がり、そんな俺のすぐ手前をアルシエルの巨大な手が通り過ぎて行く。
 俺の体を軽く包み込めるであろうその巨大な手の動きは速く、その鋭い鉤爪かぎづめに刺されれば俺の体はいとも容易たやすく引き裂かれてしまうだろう。
 ロドリックもこの手に餌食えじきにされてしまえばひとたまりもないとばかりに、警戒して後方に下がっている。

 くそっ!
 アルシエルの手をかいくぐりながらロドリックの野郎とやり合わねえとならねえのか。
 忌々いまいましいことにハードルが一つ上がったぜ。
 さらにアルシエルの巨大な手が振り下ろされるたびにその腕から針のようにとがった黒い毛が飛び散る。
 鬱陶うっとうしいしいことこの上ねえが、条件はロドリックも同じだ。

 飛んでくるアルシエルの剛毛を俺は灼焔鉄甲カグツチで、ロドリックは氷撃魔旋棍フレーズヴェルグでそれぞれ叩き落とす。
 だが、そこで俺たちに向けてアルシエルの振るった手が勢い余って城壁の一部を破壊した。
 あの野郎……縄張なわばりを荒らされた怒りで自分の城まで破壊し始めやがった。
 すると城壁のかげに隠れてやり過ごしていた金弓男アーチマンが声を上げ、あわ食ってそこから逃げ出してきた。

「うおわああああっ!」

 ティナを抱えた金弓男アーチマンは降り注ぐ黒い毛に逃げ惑い、まだ破壊されていない城壁のかげへと逃げ込もうとする。
 だが、アルシエルはその金弓男アーチマンねらって腕を振るい、さらに城壁を破壊する。
 それを見たロドリックが金弓男アーチマンに向かって声を張り上げた。

「城の地下に隠れていろ!」
「む、無理です! 中は亀の魔神どもであふれ返ってやす!」

 金切り声でそう叫ぶ金弓男アーチマンの言葉通り、ここからでも城の中に眷属けんぞくの亀どもがチラホラと見える。
 おそらく城に近付く金弓男アーチマンを襲うつもりなんだろう。
 ロドリックは舌打ちをして上空をわずかに見上げた。

 アルシエルの頭上に展開する空間の揺らぎは心なしか先ほどよりも小さくなっているように思える。
 脱出口がせばまってやがるのか?
 ロドリックの顔が苛立いらだちにゆがむ。

「チッ……時間がない。バレット。俺は絶対に果たさねばならない任務がある。俺を徴用ちょうようして下さった御方のためにな。そのためにこの命をかける!」

 めずらしく気色けしきばんでそう叫んだロドリックは何やら呪文のようなものをとなえ始めやがった。
 何をするつもりか分からねえが、それを悠長ゆうちょうに待ってやる義理はねえ。

「悪魔のくせに馬鹿みてえに任務に忠実なのは、どこに行っても変わらねえな!」

 そう叫ぶと俺は灼熱鴉バーン・クロウを放ち、ショット&ゴーでロドリックに襲いかかる。
 だが俺の灼熱鴉バーン・クロウはロドリックにあと2メートルほどのところでかき消されちまった。
 俺は思わず足を止める。

「チッ! 例のやつかよ」
氷嵐ブリザード・ガスト

 ロドリックの体からまたしても超低温の氷のあらしが吹き付けてくる。
 そしてロドリックの装備する氷撃魔旋棍フレーズヴェルグが奴の血を吸って赤く染まっていく。
 色付いていく武器とは反対にロドリックの藍色あいいろの目が色を失い白くなっていく。
 チッ……相変わらず気持ち悪い面構つらがまえだぜ。

 氷嵐ブリザード・ガスト
 製鉄所で見せたやつだ。
 あれをすると奴の能力が格段にアップするんだ。
 その代償として奴のライフが徐々に減っていく。
 ロドリックの野郎、勝負をかけてきやがった。

「てめえ。自分が断絶凶刃コンティニュー・キャンセラーに刺されていることを忘れてるんじゃねえだろうな」

 そうだ。
 ロドリックはヒルダの姑息こそくわなにかかり、断絶凶刃コンティニュー・キャンセラーで傷つけられた。
 すなわち、奴は今、コンティニュー不可の呪いにかかっているんだ。
 その状態でライフが尽きれば、ゲームオーバーもコンティニューにもならず、バグッた状態でそのむくろを地にさらすことになる。
 だがロドリックはそんなことはまったく問題にならないとばかりに言った。

「おまえが案ずるべきは、この状態の俺を相手に何分生きていられるかだ」

 そう言った瞬間、ロドリックの奴が信じられないほどの踏み込みで一瞬にして俺の間合いに入って来た。
 速いっ!

「くっ!」

 俺は即座に反応して目の前のロドリックにひじ打ちを放った。
 だが俺が全力の速度で繰り出したそれはあっけなく空を切る。
 その瞬間、俺は右の脇腹に強烈な痛みを覚えて真横に吹っ飛ばされた。

「ぐうっ!」

 必死に受け身を取って地面に転がった俺は、自分が一瞬でロドリックの反撃を腹に喰らったことを悟った。
 俺のひじ打ちを瞬時にかがんでかわしたロドリックが、氷撃魔旋棍フレーズヴェルグで一撃を喰らわせやがったんだ。
 一発でダウンを奪われるほどの衝撃であり、俺のライフが総量の20%近くもけずり取られた。
 
 激痛ですぐには立ち上がれないほどだったが、寝転んでいるひまはない。
 ロドリックの奴がすでに俺の真上からかかと落としを喰らわせようとしていたからだ。
 しかも今度は魔力の込められた必殺のスキルだ。
 
凍塊魔鎚フローズン・ハンマー
「くそったれ!」

 俺は脇腹の痛みをこらえて必死に左側へと転がった。
 すぐ近くの地面にロドリックのかかとが落ちて、その衝撃で地面がえぐられる。
 ロドリックの体が一瞬見えなくなるほど盛大に土煙が舞い上がった。
 俺は必死に転がり続けながら跳ね起きた。
 
 あんな一撃を喰らったら致命傷だ。
 ノンキに寝転んでる場合じゃねえ。
 さらにそこで上からアルシエルが俺をねらって腕を振り下ろしてきた。
 
「チッ!」

 俺は飛び上がってそれを懸命にかわすが、ロドリックが地上から撃ち出した氷風隼フロスト・ファルコンが俺を襲う。
 避け切れねえ!
 咄嗟とっさに両手の灼焔鉄甲カグツチを交差させて身を守るが、氷風隼フロスト・ファルコンが衝突した衝撃で俺は後方に吹っ飛ばされた。

「くそっ!」

 ロドリックの飛び道具は速度だけじゃなく威力そのものが上がってやがる。
 そしてそこからロドリックは俺に休む間を与えずに次々と攻撃を繰り出してきた。
 その重い一撃と苛烈な連続攻撃に俺は防戦をいられる。 
 しかも攻撃を防ぎ切れずに俺は次々とダメージを負い、ライフも残り半分を切った。
 このままじゃ押し切られていずれ負ける。

 俺は歯を食いしばるが、今は耐え忍ぶことしか出来ない。
 だがロドリックの熾烈しれつな攻撃を前にして俺の感覚はいつもより鋭敏えいびんになっていた。
 おそらく俺の命そのものが敏感に感じ取っているんだろう。
 相手の攻撃が俺を即座に死に至らしめる危険なものであり、全神経を死に物狂いでフル稼働させなければ殺されてしまうという生存本能がそうさせるのかもしれない。

 俺はロドリックの攻撃でダメージを蓄積ちくせきさせながらもギリギリのところでしのいでいた。
 ロドリックは確かに鬼気迫る強さだ。
 だが俺はもっと強い奴らを知っている。
 俺の上司だった上級悪魔ゾーラン。
 NPCの墓場で出会った魔王ドレイクと天使長イザベラ。
 そしてさっきまで行動を共にしていた魔神シャンゴ。

 あいつらはこんなもんじゃなかった。
 死ぬ気でかかっていっても絶対に勝てないと肌で感じさせた。
 その時の肌の感覚が今こうして俺をまだ生かしてくれている。
 あの強さを知らなければ、俺はとっくにロドリックに打ち負かされていただろう。
 ロドリックの野郎がどこでどうして今の強さを身に着けたのか俺が知らねえように、あいつだって俺のここまでの道のりを知らねえんだ。
 ロドリックの猛攻を耐えながら自分の感覚を慣らしていった俺は、奴の一手先の攻撃を読んだ。
 右の下段、太ももをねらった氷撃魔旋棍フレーズヴェルグの一撃が来る。
 俺の読みは的中した。
 俺は腰を低くして灼焔鉄甲カグツチで奴の一撃を受け止めると同時に、ガード・キャンセルで攻撃を繰り出す。

「オラアッ!」
「ぐっ!」

 俺の前蹴りがロドリックの腹にヒットし、奴が痛みに顔をゆがめた。
 さあ、反撃開始の時間だぜ。
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