だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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第一章 長身女戦士ヴィクトリア

第16話 そして旅立ちへ

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 このゲームと他ゲームとのコラボ企画への参加者をつのっていた実行委員の商人キャメロンに対し、ミランダは厳しい視線を向けていた。

「聞き間違いかしら。もう一度言ってみなさい。そこの小僧」
うけたまわりましょう。イベントに参加していただく少数精鋭のメンバーにミランダ様、ジェネット様、アリアナ様をワタクシはしました。しかし運営本部の許可はいただけませんでした。このやみ洞窟どうくつに居住される方々のうち唯一、許可が下りたのはそちらのアルフレッド様だったのです」

 穏やかな表情と口調でそう言うとキャメロン少年は僕に微笑みかけてきた。
 ミランダたちの出張許可が下りなかった理由。
 そして僕だけ許可が下りた理由。
 その理由が分からず僕は首をひねった。

 キャメロン少年は言っていた。
 このゲームの中の少数精鋭のメンバーが他ゲームに乗り込んでその実力を披露する。
 それが今回のイベントの趣旨しゅしだと。
 少数精鋭ってのはまさにミランダたちのことであって僕ではない。
 だから運営本部の意図は僕には分からなかった。
 そんな僕の思考をさえぎるようにミランダの怒声が鳴り響く。

「ふざけんな!」

 そう言うとミランダはキャメロンではなくジェネットをにらみつける。

「運営本部は何を考えてるのよ。何でアルだけそのワケの分からないイベントへの出張許可が出るわけ? こいつだって私の家来という大事な仕事があるのよ。まあだいたいアホ面でヒマそうに口開けて突っ立ってるだけの仕事だけど」

 ヒマそうで悪かったな!
 口は閉じてるから!

 でもミランダがキャメロンではなくジェネットに詰問するのは、ジェネットが神様というこのゲームの顧問役をしている偉い人の直轄ちょっかつのNPCだからだ。
 神様の勅命ちょくめいを受けてこのゲーム内で活動する彼女ならば何か知ってるのではないかと勘繰かんぐってのミランダの質問だった。
 だけどジェネットはミランダと同じような怪訝けげんな表情を浮かべて首を横に振る。

「私は何も聞いておりません。我が主に確認を取りますので、少しお待ちを」

 そう言うとジェネットは自らのメイン・システムを操作して運営本部へのアクセスを始める。
 それを見たキャメロンは温和な笑みを絶やさぬまま言った。

「ご確認いただくまでもありませんよ。こちらの運営本部は今回のコラボ企画に対してまだ慎重な姿勢を崩しておりません。このゲームの人気キャラである御三方を他ゲームへの派遣という未知のイベントに参加させることに慎重になっておられるのでしょう」

 よどみない口調でそう言うとキャメロンは僕に視線を向ける。

「一方でアルフレッド様を派遣するというのは、そのイベントの実態がどのようなものであるのか見極めようという運営本部の期待の表れでもあるでしょう。アルフレッド様の洞察力や対応能力をそれほど運営本部も買っているということなのでは?」

 い……いやいやそんな。
 このキャメロンという人。
 子供の容姿とは裏腹に熟練の営業マンみたく人心掌握術じんしんしょうあくじゅつに長けているな。
 められることなんて僕には滅多めったにないから、とても気分がいい。
 彼と話していると、世の中にはこの僕にも色々と出来ることがあるんじゃないかって気にさせられるよ。
 そんな僕のご機嫌をぶち壊す声が再び響き渡った。

「馬鹿言ってんじゃないわよ! アルだけを派遣? そんなことこの私が許すわけないでしょ!」

 そう言うとミランダはアリアナに声をかけた。

「アリアナ。永久凍土パーマ・フロストでアルの四方を固めて閉じ込めなさい。運営本部が迎えに来ても出せないよう永久に氷漬けにするのよ! アル。心配しなくても1万年後くらいに発見されるから大丈夫よ」

 大丈夫なわけあるか!
 永久凍土から1万年後に発見って……マンモスか!

「OKミランダ! 凍土マシマシで!」

 マシマシにしなくていいから!
 ミランダとアリアナのやり取りに僕がアワアワしている間に、ジェネットが神様との連絡を終えたらしく、ミランダの言葉を真に受けて永久凍土パーマ・フロストを出そうとしているアリアナの頭をポカリと叩いて止めた。

「どうやらそこにいるキャメロン氏のおっしゃる通りのようですね。運営本部はアル様のイベント出張を許可する方針です」

 そう言うジェネットにミランダは食ってかかる。

「はっ? あんたそれをハイそうですかって聞いてたわけ?」
「そんなわけないでしょう。我が主は我が願いを聞き届けて下さいます」

 え?
 ってことは?

「主から運営本部に働きかけて下さって、私もアル様とご同行できることとなりました。アル様。私もご一緒いたしますのでご安心下さい」

 そうか。
 ジェネットが一緒に来てくれるなら安心……っていうか、僕まだそのイベントに行くかどうか決めてないんだけど。
 そもそも僕はそのイベントに行く理由がないんだよね。
 運営本部も別に、行けと命令してきているわけじゃないし。
 ってことは僕が行かなくても他の誰かが行けばいいわけで。
 僕自身も特段そのイベントに参加したいわけじゃないし。
 僕がそのことを皆に話そうとしたけれど、それよりも早くミランダとアリアナがジェネットに詰め寄った。

「ちょっとジェネット。私はどうなってるのよ。あんたまさか自分の参加許可だけ取り付けたんじゃないでしょうね!」
「私もアル君と一緒に行くよ! ジェネットだけなんてズルイ!」

 あれ?
 何だこの流れ。
 行きたくないと言い出そうとしたのに、何だか言いにくい雰囲気になってきたぞ。

「私だけがアル様に同行すると言えばあなた達がギャーギャー騒ぐのは分かっていますから、仕方なく2人の分も申請しておきましたよ。ついでですけど」

 ジェネットがやれやれと肩をすくめてそう言うのを聞いて、ミランダは不機嫌そうな顔のままジェネットの肩をガシッとつかむ。

「ついでとは随分ずいぶんじゃないの。で、当然許可は下りたんでしょうね?」
「ええ。ただし、あなたとアル様は元来は定住型のNPCですから、あまりこの洞窟どうくつを空けるわけにもいかないという理由から三日間限定という条件付きですけど。アリアナにも許可が下りましたよ」

 そう言って涼しい顔でミランダの手をシッシッと払いながらジェネットはキャメロンに向き直り、指を四本立てて言う。

「こちらは4名参加します」

 やっぱり参加決定!
 僕は自分の意見を言い出せないままだったけれど、彼女たちの様子を見るうちに参加してもいいかなという気になり始めていた。
 だって3人とも何だかんだ言いながらどこか楽しそうに見えたから。
 まあ、いいか。
 この4人でどこかに出掛けたことなんてないしね。
 これもいい思い出になるんじゃないかな。

 ジェネットの申し出にキャメロンはさすがに驚きの表情を見せた。

「さすがはジェネット様。運営本部への影響力は絶大ですね。ワタクシがいくら交渉しても一向に首を縦に振らなかった人達がこうもあっさりと了承するとは、軽く嫉妬しっとすら覚えます」

 そう言いながら苦笑し、それから彼はジェネットに頭を下げた。

「今回のイベントご参加、感謝いたします。企画関係者の一員として御礼を申しあげますよ」
「いえ。アル様は色々と危なっかしい方ですので、見知らぬ他のゲームに一人でご出張いただくのは少々不安が残りますから」

 そう言うとジェネットは少し心配そうな顔で僕を見た。

「すみません。アル様。そもそもアル様がイベントに参加したいかどうかもお聞きしていないのに、先ほどから勝手に話を進めてしまいまして……」
「え? い、いや。いいんだよ」

 やっぱりジェネットは僕の気持ちに気付いてくれていたんだな。

「正直、最初は気乗りしなかったけど、皆が一緒なら楽しそうだしね」
「よかった。アル様がそうおっしゃってくださって」

 そう言うとジェネットは急に僕の前まで歩み寄って来て、僕の手を取った。
 そして僕の目の前まで顔を寄せる。

「ジェ、ジェネット?」
「少し……気になることがあるのです」

 彼女は僕だけに聞こえるよう小声でそれだけ言うと、僕に笑顔を向けたけれど、その目だけが笑っていなかった。
 それは僕に何かを伝えようとする意図の込められた目だ。
 僕は彼女の意図を察し、すぐにうなづく。
 それ以上の言葉は不要だった……というか、そこで横から伸びてきたミランダの手によって右耳を引っ張られてそれどころではなくなった。

「コラーッ! ジェネット! 私の家来に寄るな触るな!」
「イテテテテッ! 耳が! 耳がちぎれるよミランダ!」

 そして背後からはアリアナが僕のズボンを引っ張る。

「アル君! もうちょっと女子との距離感を考えたほうがいいんじゃないかな」
「ズボンが! ズボンが脱げちゃうよアリアナ!」

 ドタバタの状況にも嫌な顔ひとつ見せずに待ち続けるキャメロン少年を前にあまりモタモタしているわけにもいかず、すぐに僕らは身支度を整えた。
 それから僕らはキャメロン少年の案内で王城へと向かうことになった。
 他のゲームへの出張という初めての出来事に僕は少し緊張しつつ、周りにミランダたちがいてくれることを心強く思ったんだ。
 でも……物見遊山ものみゆさんで参加したこのイベントで、僕らはかなり痛い目をみることになった。
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