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第二章 天国の丘
第12話 森の戦い
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午前11時55分。
ミランダ、ジェネット、アリアナ、そして僕の4人と大勢の天使たちは、物資到着予定の場所に集合していた。
そこは天樹の塔から天馬の馬車で十数分ほど行った森林地帯だった。
物資を天樹の塔に直接輸送せずわざわざこうした森林地帯に荷車を下ろすのは、空輸だと悪魔たちの格好の的になってしまい、集中砲火を浴びるからだという。
物資を守るために、森の中を隠れるように運ぶという方法を取っているんだって。
背の高い針葉樹の枝葉を上に見上げると、木漏れ日が眩しくて僕は目を細める。
あと数分で予定時刻となり、天使たちの間に緊張が滲んでいるのがよく分かる。
そんな中でもミランダは平然と木の幹に背中を預けて座っていた。
「アル。それ本当に使いこなせるわけ?」
ミランダが疑わしげな視線を僕に送りながら言う。
そんな僕の手にはキャメロン少年から貸与された銃、『Eライフル』が握られていた。
キャメロン少年からこれを手渡された後、部屋に戻った僕らは各々の準備を済ませると4人全員で僕の部屋に集まって作戦を練ったんだ。
その際にこのEライフルのマニュアルを確認しながら性能と使い方を全員で検証してみた。
特にジェネットが熱心にマニュアルを何度も読み込み、その安全性を入念に確認してくれた。
その後、ミシェルさん経由でライアン主任にお願いして闘技場を借り、短時間だけど射撃訓練を行った。
その結果、使っても問題はなさそうだとの結論に至ったんだ。
僕自身も思ったより使いやすそうだと感じている。
「やってみないと分からないけれど、槍一本で戦うよりはだいぶマシだと思う。皆の足手まといにならないようがんばるよ」
「ふーん。ま、誤射はないから気楽にやんなさい」
ミランダは意地の悪い笑みを浮かべなからも、何だか楽しそうだった。
彼女の言う通り、このEライフルで味方を誤って撃ってしまうことはない。
事前に味方の情報をEライフルの回避リストに登録することで、登録された人物には絶対に射撃が当たらないように設計されているからだ。
すごいよね。
そしてキャメロン少年の粋な計らいによって、あらかじめ全ての天使の情報が登録されていて、後は僕ら4人の情報を登録するだけで済んだ。
これでこの銃から放たれる弾丸はこの世界において悪魔にしか当たらなくなったんだ。
本当に至れり尽くせりで、僕はキャメロン少年の根回しの良さに舌を巻いた。
「それにしても天使さん達の数が多いね、やっぱり昨日よりも悪魔たちの数も多いってことなのかな」
近くで緊張をほぐす様にシャドウ・ボクシングをしていたアリアナが、ふと動きを止めてそう言った。
確かにこの作戦に参加する天使たちは全部で数百人以上はいるように思える。
これほどの人数で迎え撃つってことは相手も相応の数をそろえてくるはずだ。
「時間ですよ」
僕のすぐ隣で目を閉じてひざまずきながら神への祈りを捧げていたジェネットがそう言って立ち上がった。
するとどこからか鳴り響く鐘の音と共に、上空の雲間から光が差す。
その光の中に天馬が舞い降りてきた。
それも一頭ではなく数頭……いや、十数頭の群れで。
その天馬の群れはそれぞれ、物資を乗せた荷車を引いている
あれが天界からの物資か。
「あの天馬の群れが天樹の塔に到着するまで、悪魔たちの手から死守しなければなりません」
僕らの案内役として同行してくれたミシェルさんが眩しそうに上を見上げながらそう言う。
彼女自身も最初に会った時と同様に武装していて、悪魔たちを迎え撃つ準備は整っているみたいだ。
その時だった。
遠くの森の中からけたたましい叫び声が上がり、無数の黒い影が上空に向かって一斉に飛び上がり始めた。
それはおびただしい数の悪魔たちであり、彼らは天馬たちの群れに向かって猛然と飛翔していく。
「出たぞ! 悪魔の奴らだ!」
「天からの贈り物を守れ!」
天使たちが武器を手に次々と飛び上がり応戦する。
すぐに上空は白い翼の天使たちと黒い翼の悪魔たちで入り乱れる乱戦となった。
「さぁ~て。いよいよね。暴れ甲斐がありそうな数じゃない」
好戦的な表情で黒鎖杖を握りしめるミランダは上空を見上げた。
その口角がニッと吊り上がる。
「もう何だか悪魔も天使も関係なく全員ぶっ飛ばしたい気分だわ」
コラコラ。
物騒な発言はやめなさい。
「あなたが血迷って天使の皆様にご迷惑をかけるようなら、私が悪魔ともども成敗して差し上げますよ」
諌めるようにそう言うジェネットは、ムッとするミランダを尻目に僕に声をかけてくれる。
「森の奥からも地上部隊がこちらに向かってくるようです。無数の足音が聞こえてきますから。アル様とアリアナはそちらをお願いしますね。くれぐれも無理をなさらないよう」
ジェネットはそう言うとミランダと競うようにして枝の間を抜けて上空へと飛び立っていく。
飛べない僕とアリアナは地上担当だ。
そちらをお願いしますね。
そう言ってくれたジェネットの言葉が僕はちょっと嬉しかった。
僕のことを戦力として見てくれているんだ。
そのことが僕を勇気づけてくれる。
上を見上げると木々の枝葉の間から悪魔たちと交戦するミランダやジェネットの姿が見える。
空を舞う悪魔の数は多かったけれど、昨日の戦いで体がほぐれたのか2人とも縦横無尽に飛び回り、快調に悪魔たちを撃ち落としていた。
そうだ。
あの2人の強さなら一度目より二度目の対戦は慣れてさらに悪魔たちを圧倒できるだろう。
僕なんかが心配する必要はこれっぽっちもない。
「アル君! 前から来たよ!」
アリアナの声に僕はハッとして前方に目を向けた。
枝が折れ、葉が舞い散り、木々がなぎ倒される。
その先から巨体を誇る屈強な悪魔たちが姿を現した。
その姿に僕は息を飲む。
太い腕に丸太のような脚。
顔は馬だったり牛だったり鹿だったりと様々だ。
空を飛ぶ連中と違って翼はないけれど、その筋骨隆々とした体は威圧感たっぷりだった。
悪魔たちは威嚇の声を上げながら必要以上に木々をへし折ってこちらに突き進んでくる。
こ、怖い。
それにマッチョばかりで暑苦しい。
「いくよ! アル君!」
生来気弱なアリアナも心なしか引きつった顔をしていたけれど、それでも決然と悪魔たちに立ち向かっていく。
僕は頷いてEライフルを握りしめた。
それは特殊な銃で、弾丸を込めるための弾倉がない。
なぜならこのライフルは弾丸を使用しないからだ。
弾の代わりに込められるのは別のものだった。
マニュアルを見て練習した通り、左手で銃身を支えながら右手の人差し指を引き金にかけ、銃身に設置された『Eチャージボタン』に親指かける。
するとEチャージボタンの上に設置された『Eゲージ』に淡い光が灯った。
「Eライフル起動」
そう言うと僕は前方で果敢に悪魔たちと戦い始めたアリアナや他の天使たちの後ろ姿をじっと見つめた。
彼女は屈強な悪魔たちにも負けじと拳を繰り出して敵を圧倒していく。
そんな彼女の姿を見つめながら僕は頭の中で念じ続けた。
(アリアナを助けるんだ。天使たちに加勢するんだ)
するとEゲージのメモリがゼロから徐々に増えていく。
そしてそれは十秒ほどでフルチャージされた。
同時にEゲージの中に『感情濃度70%』という文字が浮かび上がった。
「よし! いけっ!」
僕は掛け声とともに引き金を引く。
すると銃口から七色に輝く虹のような光が放出された。
高速で射出されたそれは一瞬で前方数十メートルのところにいる悪魔の胸を貫く。
途端に屈強な悪魔がガックリとヒザをつき、その場に前のめりに倒れた。
そのまま悪魔は黒い粒子となって消えていく。
「や、やった!」
僕は思わず声を上げる。
一撃で相手を倒したぞ!
このくらいの距離でも練習通りに的中させることが出来た。
僕はここに来る前に行った射撃訓練のことを思い返す。
このEライフルで射出するのは弾丸ではなく、僕自身のシステムにプログラムされた『感情の波』だった。
Eチャージボタンに親指をかけると、このライフルに搭載されたコンピューターが僕の感情の波を感じ取って、それを数値化して光エネルギーに変換する。
そうして蓄積されたエネルギーを射出して敵を撃つんだ。
EライフルのEは『Emotion』の頭文字だった。
エネルギーチャージに必要とされるのは強い感情の波で、そしてそれは複雑であるがゆえに七色の光に変わる。
だけどこんなに威力があるなんて驚きだ。
マニュアルによればチャージ時の感情の波の強さによって光エネルギーの濃度が変わり、感情が強いほど威力のある射撃が行えるらしい。
敵を倒そうと僕が興奮しているほど、相手に与えるダメージも大きいってことだ。
僕が使ってこそ、この銃はその真価を発揮できるとキャメロン少年が言っていたのは、僕が妙に感情の起伏が旺盛なNPCだからかもしれない。
だけど悪魔を一発で葬ったその威力の強さと引き換えに、チャージしたエネルギーは空っぽになってしまった。
ま、また十秒間のチャージが必要なのか。
マニュアルを読んだ時には一回のチャージで最大6発まで射出可能って書かれていたけど……。
とにかく僕はすぐ次のチャージに入る。
その時……僕の耳に奇妙な音色の口笛が聞こえてきた。
悲鳴と怒号と喧騒の渦巻く戦場で、その口笛は不自然なほどはっきりと聞こえたんだ。
聞いたことのないような不思議なメロディーだけど、不思議と僕の耳に残ったんだ。
そしてその途端に、騒々しかった上空がほんの束の間、静寂に包まれた。
「……何だ? 上で何があったんだろう」
鬱蒼とした枝葉に阻まれて上空の様子を窺うことは出来ない。
だけど静寂はほんの束の間のことで、すぐに先ほどよりも一層の大音響を伴って上空がとても騒がしくなった。
一体何が起きているんだ?
ミランダとジェネットの状況が気になったけれど、僕の前方からは悪魔たちが押し寄せてくる。
悪魔たちはどんどん迫ってきて、アリアナは常に複数の悪魔に囲まれる状態で戦い続けていた。
そうだ。
今は彼女のアシストをしなきゃ。
僕は感情を込めてEライフルにエネルギーをチャージする。
そして悪魔たちに狙いをつけた。
戦場の真っただ中にいるという緊張と興奮が僕の全身を包み込んでいた。
ミランダ、ジェネット、アリアナ、そして僕の4人と大勢の天使たちは、物資到着予定の場所に集合していた。
そこは天樹の塔から天馬の馬車で十数分ほど行った森林地帯だった。
物資を天樹の塔に直接輸送せずわざわざこうした森林地帯に荷車を下ろすのは、空輸だと悪魔たちの格好の的になってしまい、集中砲火を浴びるからだという。
物資を守るために、森の中を隠れるように運ぶという方法を取っているんだって。
背の高い針葉樹の枝葉を上に見上げると、木漏れ日が眩しくて僕は目を細める。
あと数分で予定時刻となり、天使たちの間に緊張が滲んでいるのがよく分かる。
そんな中でもミランダは平然と木の幹に背中を預けて座っていた。
「アル。それ本当に使いこなせるわけ?」
ミランダが疑わしげな視線を僕に送りながら言う。
そんな僕の手にはキャメロン少年から貸与された銃、『Eライフル』が握られていた。
キャメロン少年からこれを手渡された後、部屋に戻った僕らは各々の準備を済ませると4人全員で僕の部屋に集まって作戦を練ったんだ。
その際にこのEライフルのマニュアルを確認しながら性能と使い方を全員で検証してみた。
特にジェネットが熱心にマニュアルを何度も読み込み、その安全性を入念に確認してくれた。
その後、ミシェルさん経由でライアン主任にお願いして闘技場を借り、短時間だけど射撃訓練を行った。
その結果、使っても問題はなさそうだとの結論に至ったんだ。
僕自身も思ったより使いやすそうだと感じている。
「やってみないと分からないけれど、槍一本で戦うよりはだいぶマシだと思う。皆の足手まといにならないようがんばるよ」
「ふーん。ま、誤射はないから気楽にやんなさい」
ミランダは意地の悪い笑みを浮かべなからも、何だか楽しそうだった。
彼女の言う通り、このEライフルで味方を誤って撃ってしまうことはない。
事前に味方の情報をEライフルの回避リストに登録することで、登録された人物には絶対に射撃が当たらないように設計されているからだ。
すごいよね。
そしてキャメロン少年の粋な計らいによって、あらかじめ全ての天使の情報が登録されていて、後は僕ら4人の情報を登録するだけで済んだ。
これでこの銃から放たれる弾丸はこの世界において悪魔にしか当たらなくなったんだ。
本当に至れり尽くせりで、僕はキャメロン少年の根回しの良さに舌を巻いた。
「それにしても天使さん達の数が多いね、やっぱり昨日よりも悪魔たちの数も多いってことなのかな」
近くで緊張をほぐす様にシャドウ・ボクシングをしていたアリアナが、ふと動きを止めてそう言った。
確かにこの作戦に参加する天使たちは全部で数百人以上はいるように思える。
これほどの人数で迎え撃つってことは相手も相応の数をそろえてくるはずだ。
「時間ですよ」
僕のすぐ隣で目を閉じてひざまずきながら神への祈りを捧げていたジェネットがそう言って立ち上がった。
するとどこからか鳴り響く鐘の音と共に、上空の雲間から光が差す。
その光の中に天馬が舞い降りてきた。
それも一頭ではなく数頭……いや、十数頭の群れで。
その天馬の群れはそれぞれ、物資を乗せた荷車を引いている
あれが天界からの物資か。
「あの天馬の群れが天樹の塔に到着するまで、悪魔たちの手から死守しなければなりません」
僕らの案内役として同行してくれたミシェルさんが眩しそうに上を見上げながらそう言う。
彼女自身も最初に会った時と同様に武装していて、悪魔たちを迎え撃つ準備は整っているみたいだ。
その時だった。
遠くの森の中からけたたましい叫び声が上がり、無数の黒い影が上空に向かって一斉に飛び上がり始めた。
それはおびただしい数の悪魔たちであり、彼らは天馬たちの群れに向かって猛然と飛翔していく。
「出たぞ! 悪魔の奴らだ!」
「天からの贈り物を守れ!」
天使たちが武器を手に次々と飛び上がり応戦する。
すぐに上空は白い翼の天使たちと黒い翼の悪魔たちで入り乱れる乱戦となった。
「さぁ~て。いよいよね。暴れ甲斐がありそうな数じゃない」
好戦的な表情で黒鎖杖を握りしめるミランダは上空を見上げた。
その口角がニッと吊り上がる。
「もう何だか悪魔も天使も関係なく全員ぶっ飛ばしたい気分だわ」
コラコラ。
物騒な発言はやめなさい。
「あなたが血迷って天使の皆様にご迷惑をかけるようなら、私が悪魔ともども成敗して差し上げますよ」
諌めるようにそう言うジェネットは、ムッとするミランダを尻目に僕に声をかけてくれる。
「森の奥からも地上部隊がこちらに向かってくるようです。無数の足音が聞こえてきますから。アル様とアリアナはそちらをお願いしますね。くれぐれも無理をなさらないよう」
ジェネットはそう言うとミランダと競うようにして枝の間を抜けて上空へと飛び立っていく。
飛べない僕とアリアナは地上担当だ。
そちらをお願いしますね。
そう言ってくれたジェネットの言葉が僕はちょっと嬉しかった。
僕のことを戦力として見てくれているんだ。
そのことが僕を勇気づけてくれる。
上を見上げると木々の枝葉の間から悪魔たちと交戦するミランダやジェネットの姿が見える。
空を舞う悪魔の数は多かったけれど、昨日の戦いで体がほぐれたのか2人とも縦横無尽に飛び回り、快調に悪魔たちを撃ち落としていた。
そうだ。
あの2人の強さなら一度目より二度目の対戦は慣れてさらに悪魔たちを圧倒できるだろう。
僕なんかが心配する必要はこれっぽっちもない。
「アル君! 前から来たよ!」
アリアナの声に僕はハッとして前方に目を向けた。
枝が折れ、葉が舞い散り、木々がなぎ倒される。
その先から巨体を誇る屈強な悪魔たちが姿を現した。
その姿に僕は息を飲む。
太い腕に丸太のような脚。
顔は馬だったり牛だったり鹿だったりと様々だ。
空を飛ぶ連中と違って翼はないけれど、その筋骨隆々とした体は威圧感たっぷりだった。
悪魔たちは威嚇の声を上げながら必要以上に木々をへし折ってこちらに突き進んでくる。
こ、怖い。
それにマッチョばかりで暑苦しい。
「いくよ! アル君!」
生来気弱なアリアナも心なしか引きつった顔をしていたけれど、それでも決然と悪魔たちに立ち向かっていく。
僕は頷いてEライフルを握りしめた。
それは特殊な銃で、弾丸を込めるための弾倉がない。
なぜならこのライフルは弾丸を使用しないからだ。
弾の代わりに込められるのは別のものだった。
マニュアルを見て練習した通り、左手で銃身を支えながら右手の人差し指を引き金にかけ、銃身に設置された『Eチャージボタン』に親指かける。
するとEチャージボタンの上に設置された『Eゲージ』に淡い光が灯った。
「Eライフル起動」
そう言うと僕は前方で果敢に悪魔たちと戦い始めたアリアナや他の天使たちの後ろ姿をじっと見つめた。
彼女は屈強な悪魔たちにも負けじと拳を繰り出して敵を圧倒していく。
そんな彼女の姿を見つめながら僕は頭の中で念じ続けた。
(アリアナを助けるんだ。天使たちに加勢するんだ)
するとEゲージのメモリがゼロから徐々に増えていく。
そしてそれは十秒ほどでフルチャージされた。
同時にEゲージの中に『感情濃度70%』という文字が浮かび上がった。
「よし! いけっ!」
僕は掛け声とともに引き金を引く。
すると銃口から七色に輝く虹のような光が放出された。
高速で射出されたそれは一瞬で前方数十メートルのところにいる悪魔の胸を貫く。
途端に屈強な悪魔がガックリとヒザをつき、その場に前のめりに倒れた。
そのまま悪魔は黒い粒子となって消えていく。
「や、やった!」
僕は思わず声を上げる。
一撃で相手を倒したぞ!
このくらいの距離でも練習通りに的中させることが出来た。
僕はここに来る前に行った射撃訓練のことを思い返す。
このEライフルで射出するのは弾丸ではなく、僕自身のシステムにプログラムされた『感情の波』だった。
Eチャージボタンに親指をかけると、このライフルに搭載されたコンピューターが僕の感情の波を感じ取って、それを数値化して光エネルギーに変換する。
そうして蓄積されたエネルギーを射出して敵を撃つんだ。
EライフルのEは『Emotion』の頭文字だった。
エネルギーチャージに必要とされるのは強い感情の波で、そしてそれは複雑であるがゆえに七色の光に変わる。
だけどこんなに威力があるなんて驚きだ。
マニュアルによればチャージ時の感情の波の強さによって光エネルギーの濃度が変わり、感情が強いほど威力のある射撃が行えるらしい。
敵を倒そうと僕が興奮しているほど、相手に与えるダメージも大きいってことだ。
僕が使ってこそ、この銃はその真価を発揮できるとキャメロン少年が言っていたのは、僕が妙に感情の起伏が旺盛なNPCだからかもしれない。
だけど悪魔を一発で葬ったその威力の強さと引き換えに、チャージしたエネルギーは空っぽになってしまった。
ま、また十秒間のチャージが必要なのか。
マニュアルを読んだ時には一回のチャージで最大6発まで射出可能って書かれていたけど……。
とにかく僕はすぐ次のチャージに入る。
その時……僕の耳に奇妙な音色の口笛が聞こえてきた。
悲鳴と怒号と喧騒の渦巻く戦場で、その口笛は不自然なほどはっきりと聞こえたんだ。
聞いたことのないような不思議なメロディーだけど、不思議と僕の耳に残ったんだ。
そしてその途端に、騒々しかった上空がほんの束の間、静寂に包まれた。
「……何だ? 上で何があったんだろう」
鬱蒼とした枝葉に阻まれて上空の様子を窺うことは出来ない。
だけど静寂はほんの束の間のことで、すぐに先ほどよりも一層の大音響を伴って上空がとても騒がしくなった。
一体何が起きているんだ?
ミランダとジェネットの状況が気になったけれど、僕の前方からは悪魔たちが押し寄せてくる。
悪魔たちはどんどん迫ってきて、アリアナは常に複数の悪魔に囲まれる状態で戦い続けていた。
そうだ。
今は彼女のアシストをしなきゃ。
僕は感情を込めてEライフルにエネルギーをチャージする。
そして悪魔たちに狙いをつけた。
戦場の真っただ中にいるという緊張と興奮が僕の全身を包み込んでいた。
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