33 / 89
第二章 天国の丘
第16話 投獄! 反逆者アルフレッド一行
しおりを挟む
天界からの物資を受け取るという天使たちの作戦は完全に失敗に終わった。
悪魔たちの襲撃を懸命に食い止めた天使たちだったけれど、唐突に現れた巨大竜によって戦況は一変してしまったんだ。
巨大竜が口から吐き出す熱波によって多くの天使が命を落とし、そして十台あった物資運搬の荷馬車は……闇の魔女ミランダによって破壊され失われたという。
僕とジェネットとアリアナは天使たちによって天樹の塔へと連行された。
昨夜、盛大な宴で歓待されたその場所に僕ら3人は再び腰を下ろしていた。
昨夜と違い、客人の身分ではなく容疑者として強固な鎖で拘束されながら。
「以上の容疑にてミランダ、ジェネット、アリアナ、アルフレッドの4名を告発する」
ライアン主任の冷然とした声が鳴り響き、遠巻きに僕らを見ている天使たちの視線は昨日とは打って変わっていた。
動揺、戸惑い、失望、憤怒、そうしたマイナスの感情が彼らの間に渦巻いているのがよく分かる。
今、僕ら4人にはいくつかの嫌疑がかけられていた。
ミランダが天界からの物資を破壊し、ジェネットとアリアナは天使の命を奪い、僕はそれに加担したという容疑だ。
さらにミランダには護衛の天使や荷馬車の天馬を殺害した疑いもかけられている。
だけど当のミランダはこの場所にいなかった。
あの森林での戦いで森の中へと降下して以降、僕らは彼女の姿を見ていない。
だからミランダが荷馬車を攻撃して物資を破壊したというのが本当なのか、彼女の口からは何も聞けていないんだ。
現在、彼女は行方不明ということで天使たちが捜索を続けている。
ミランダ……。
僕は複雑な気持ちだった。
行方不明事件のこともあるから彼女の無事を確認したかったけれど、天使たちに見つかったら僕らのように拘束されてこの場所へ引き立てられるかもしれない。
いや、ミランダのことだから、おとなしく拘束なんてされずに天使たちに抵抗して、さらに罪を重ねることに……ううっ。
ありえるから怖い。
でもいくらミランダが闇の魔女といっても、何の理由もなく天使たちの物資を攻撃するなんてことは僕には考えられなかった。
何かそうせざるを得ない理由があったはずなんだ
僕がそんなことを考えて落ち着きなく身じろぎをしているの見て、隣に座るジェネットが優しく諭してくれた。
「アル様。落ち着いて下さい。今は我慢ですよ」
さすがにジェネットは取り乱すことなく整然としているけれど、アリアナは不安げに表情を曇らせている。
あの時、天使に化けた悪魔たちを取り押さえた現場で、多くの天使たちに囲まれた僕らは懸命に誤解を解こうとした。
だけど疑いを晴らすことは出来ず、僕らは拘束されることとなった。
絶対に誤解なのに……。
僕は辛抱できずにライアン主任に再度訴えようとした。
だけどライアン主任もそんな僕の気配を察し、機先を制するように言う。
「アルフレッド殿。今はおとなしくしているほうが良い。私とてあなた方を頭から疑っているわけではない。公正な裁判で無罪を勝ち取ってもらいたいところだ。ただ今は状況が悪い」
「状況?」
「そうだ。聞けばあの巨大竜はあなた方の世界の住人らしいな」
ライアン主任の言葉に僕は頷いた。
巨大竜と化していたのは僕らと同じゲーム世界から来た竜人ノアだったんだ。
巨大竜から元の姿に戻った彼女は、どこからともなく現れた女の悪魔に連れ去られていった。
「ぼ、僕らも彼女があんな姿になっていることは知りませんでした」
「ふむ。あなた方にも言い分はあるだろう。だが我が同胞たちは不満を募らせている。あなた方のゲームの住人がこの天国の丘のゲームバランスを大きく狂わせてしまったことを。あの巨大竜の規格外の大きさ。そしてダメージ判定までもが限定されている特殊仕様。あれではゲームにならん」
ライアン主任の言いたいことは僕にも分かる。
ノアがどんな経緯で巨大竜となって悪魔たちに与したのか分からないけれど、あれではゲームにならない。
そしてそのノアと同じゲームからやって来た僕らに対する天使たちの感情が明らか悪化しているこの状況で、さらに彼らの反感を買うような態度を取るべきではない。
ライアン主任はそう言っているんだ。
「案ずることはない。裁判といってもあなた方の身を害するようなことはない。仮に有罪判決が出たとしても、追放処分となってこのゲームから追い出されるのが関の山だろう。よくも悪くもあなた方はしょせん部外者だからな」
そう言うとライアン主任はジェネットに目を向けた。
「ジェネット殿も神妙に収監されていただけるか?」
終始口を閉ざしていたジェネットは整然と頷く。
「仕方がないですね。私たちは無実を証明する材料に乏しいですから」
「左様か。あなたが理性的で助かる」
ライアン主任はそう言うと、僕らを牢に移送するよう部下たちに指示を出した。
ちなみに天使長のイザベラさんはこの場にいない。
今回の戦いによって多くの天使たちが命を落としてしまったため、瞑想室という部屋にこもって天使たちの復活作業にかかりきりだということだ。
イザベラさんが瞑想室に入っている間は何人たりとも彼女に接触することは出来ないという。
だけど僕はホッとしていた。
イザベラさんが容疑者となった僕らに対してどんな眼差しを向けてくるのか、考えるだけで少し怖かったからだ。
とにかくこういう状況なので、ライアン主任が主導してこの場を仕切っていた。
こうして僕らは牢に収監されることになってしまったんだ。
僕もジェネットもアリアナも武器はもちろん、すべてのアイテムを没収され、魔力や法力などの力が使えなくなるよう特殊な拘束具を首にはめられた上で、1人ずつ別々の牢屋に入れられることになった。
キャメロン少年から貸与されたEライフルも当然のように没収されているんだけど、事前に確認した銃のマニュアルによって僕は知っていた。
Eライフルには回帰機能があり、どこか離れた場所にあっても所有者として登録された僕の手に呼び寄せることが出来るらしい。
便利な機能だけど、それでも今それを使うわけにはいかない。
そんなことをすれば天使たちに保管されている僕のアイテム・ストックからEライフルが消え、すぐに異変に気付かれてしまうからだ。
不本意ながら囚人の身なので、武器を取ればそれは反逆と見なされ、余計に厳しい処分を受けることとなるだろう。
同じように収監されているジェネットやアリアナにも当然ながら余波が及ぶ。
成す術なく僕はため息をついた。
「今はおとなしくしてるしかないか。はぁ……まさかここで牢に入ることになるなんて」
そう呟くと僕は1人、牢の中に座り込んで膝を抱えた。
うぅ。
ついに僕も前科一犯か。
いや、弱気になっている場合じゃない。
やっていないものはやっていないんだ。
悪魔が偽装していたはずのあの2人の天使を捕まえたのだって、天使たちの物資を守るためなんだし。
「どう考えてもおかしいよな」
結果としてあの2人が認識コードによって天使だと証明されたのだとしたら、あのとき僕らが聞いた2人の会話は何だったんだろう。
取り押さえただけで突然死んじゃうのもおかしいし。
そして悪魔が天使に化けるために使った小さな筒状のアイテムはいつの間にか無くなっていた。
証拠隠滅のために消去されたんだろうか。
念のために今、あの2人の行動ログを解析してもらっているけれど、望みは薄いかもしれない。
ここまで証拠がないと、僕らが作り話をしていると疑われても仕方がない。
だけど……色々と出来過ぎている。
僕らをこういう状態に陥れるための罠としか思えない。
まさか……天使たちが?
そうは思いたくないけれど、疑念は頭の中から離れない。
ジェネットはとうにその疑念を抱いているはずだ。
それでも彼女が落ち着いて収監されたのは何か考えがあるからなんだろう。
くそぉ。
もっとジェネットたちと話し合う時間が欲しかったけれど、森の中からずっと縛られていたし天使たちの監視があったから、ロクに話も出来なかったことが悔やまれる。
この状況から僕に出来ることはない。
座して裁きを待つか、ジェネットが行動を起こしてくれるのを祈るほかない。
「はぁ。ミランダは今どうしてるのかな」
僕は溜息をつくと、行方の分からないミランダに思いを馳せた。
ミランダがこの場にいたら、間違いなく大暴れしていただろうなぁ。
そんなことを思いながら僕は自分が収監されている牢屋を見た。
天樹の塔特有の作り方で、壁も床も天井も、そして僕を閉じ込めるための格子でさえも木で作られている。
そんな格子の外には見張りの若い天使が1人立っていて、格子をじっと見つめる僕を見咎めて言った。
「無駄だぞ。木製だと思って甘く見るなよ。天樹で作られた牢は絶対に破れない」
「そんなこと考えてませんよ」
僕は力なくそう言うと目を閉じた。
まあ、このままだと追放処分だけど、それは元の世界に戻れるってことだ。
ジェネットの言っていた行方不明事件は未解決のままになるけど、それも仕方ないかな。
そんなことを考えながら僕が牢の中で悶々と過ごしていると、ふと気が付いた時には見張りの天使が別の人に交代していた。
あれ?
いつの間に?
どのくらい時間が経ったんだろう。
僕、寝ちゃってたのかな。
その新たな見張りの天使はさっきの若い見張りとは違い、年老いた老天使だった。
僕に背を向けて一切の声に耳を貸さなかった若い天使と違い、格子の間から老天使は僕にジロジロと無遠慮な視線を向けてくる。
ちょ、ちょっと気持ち悪いな。
「な、何でしょうか?」
「どうだ? 囚人になった気分は」
老天使はニンマリと笑顔を見せると、そんなことを聞いてきた。
「は? ど、どうだと言われても……見ての通り落ち込んでますよ」
「天使たちのために戦ったのに何でこんな扱いを受けなきゃならないんだ。ってところか。天使に失望したか?」
老天使はそう言うとヒョッヒョッヒョと不気味な笑い声を上げた。
た、確かにそう思っていたけれど、何でいきなりそんなことを言ってくるんだ?
このおじいさんは。
「あの……からかってるなら、やめてくれませんか」
「天使だからと言って博愛主義者ばかりではない。自分の価値観を脅かす者を排除したがるところは人間や悪魔と何ら変わりないさ」
そう言うと老天使は格子の隙間から何かを投げ入れてきた。
「な、何を……」
床に落ちたそれは何か液体の入った小さなスポイト型の容器と、手のひらサイズほどの一枚の白い板だった。
「差し入れだ。その薬はお前が前にも使ったことのあるやつだぞ。砂漠都市ジェルスレイムでな。板のほうは触れば分かる」
老天使の言葉に僕は思わず目を丸くした。
え?
こ、この人、何でそんな事情を……あれ?
そこで僕は雷に打たれたように立ち上がった。
目の前にいる人物は……。
「あっ! も、もしかして……神様?」
神様。
それは僕らのゲームの運営会社で顧問役をしている偉い人であり、ジェネットを生み出した人物だった。
「ご明答。久しぶりだな。アルフレッド」
老天使の姿をした神様はそう言うと口髭を指でつまみながらニヤリと笑った。
悪魔たちの襲撃を懸命に食い止めた天使たちだったけれど、唐突に現れた巨大竜によって戦況は一変してしまったんだ。
巨大竜が口から吐き出す熱波によって多くの天使が命を落とし、そして十台あった物資運搬の荷馬車は……闇の魔女ミランダによって破壊され失われたという。
僕とジェネットとアリアナは天使たちによって天樹の塔へと連行された。
昨夜、盛大な宴で歓待されたその場所に僕ら3人は再び腰を下ろしていた。
昨夜と違い、客人の身分ではなく容疑者として強固な鎖で拘束されながら。
「以上の容疑にてミランダ、ジェネット、アリアナ、アルフレッドの4名を告発する」
ライアン主任の冷然とした声が鳴り響き、遠巻きに僕らを見ている天使たちの視線は昨日とは打って変わっていた。
動揺、戸惑い、失望、憤怒、そうしたマイナスの感情が彼らの間に渦巻いているのがよく分かる。
今、僕ら4人にはいくつかの嫌疑がかけられていた。
ミランダが天界からの物資を破壊し、ジェネットとアリアナは天使の命を奪い、僕はそれに加担したという容疑だ。
さらにミランダには護衛の天使や荷馬車の天馬を殺害した疑いもかけられている。
だけど当のミランダはこの場所にいなかった。
あの森林での戦いで森の中へと降下して以降、僕らは彼女の姿を見ていない。
だからミランダが荷馬車を攻撃して物資を破壊したというのが本当なのか、彼女の口からは何も聞けていないんだ。
現在、彼女は行方不明ということで天使たちが捜索を続けている。
ミランダ……。
僕は複雑な気持ちだった。
行方不明事件のこともあるから彼女の無事を確認したかったけれど、天使たちに見つかったら僕らのように拘束されてこの場所へ引き立てられるかもしれない。
いや、ミランダのことだから、おとなしく拘束なんてされずに天使たちに抵抗して、さらに罪を重ねることに……ううっ。
ありえるから怖い。
でもいくらミランダが闇の魔女といっても、何の理由もなく天使たちの物資を攻撃するなんてことは僕には考えられなかった。
何かそうせざるを得ない理由があったはずなんだ
僕がそんなことを考えて落ち着きなく身じろぎをしているの見て、隣に座るジェネットが優しく諭してくれた。
「アル様。落ち着いて下さい。今は我慢ですよ」
さすがにジェネットは取り乱すことなく整然としているけれど、アリアナは不安げに表情を曇らせている。
あの時、天使に化けた悪魔たちを取り押さえた現場で、多くの天使たちに囲まれた僕らは懸命に誤解を解こうとした。
だけど疑いを晴らすことは出来ず、僕らは拘束されることとなった。
絶対に誤解なのに……。
僕は辛抱できずにライアン主任に再度訴えようとした。
だけどライアン主任もそんな僕の気配を察し、機先を制するように言う。
「アルフレッド殿。今はおとなしくしているほうが良い。私とてあなた方を頭から疑っているわけではない。公正な裁判で無罪を勝ち取ってもらいたいところだ。ただ今は状況が悪い」
「状況?」
「そうだ。聞けばあの巨大竜はあなた方の世界の住人らしいな」
ライアン主任の言葉に僕は頷いた。
巨大竜と化していたのは僕らと同じゲーム世界から来た竜人ノアだったんだ。
巨大竜から元の姿に戻った彼女は、どこからともなく現れた女の悪魔に連れ去られていった。
「ぼ、僕らも彼女があんな姿になっていることは知りませんでした」
「ふむ。あなた方にも言い分はあるだろう。だが我が同胞たちは不満を募らせている。あなた方のゲームの住人がこの天国の丘のゲームバランスを大きく狂わせてしまったことを。あの巨大竜の規格外の大きさ。そしてダメージ判定までもが限定されている特殊仕様。あれではゲームにならん」
ライアン主任の言いたいことは僕にも分かる。
ノアがどんな経緯で巨大竜となって悪魔たちに与したのか分からないけれど、あれではゲームにならない。
そしてそのノアと同じゲームからやって来た僕らに対する天使たちの感情が明らか悪化しているこの状況で、さらに彼らの反感を買うような態度を取るべきではない。
ライアン主任はそう言っているんだ。
「案ずることはない。裁判といってもあなた方の身を害するようなことはない。仮に有罪判決が出たとしても、追放処分となってこのゲームから追い出されるのが関の山だろう。よくも悪くもあなた方はしょせん部外者だからな」
そう言うとライアン主任はジェネットに目を向けた。
「ジェネット殿も神妙に収監されていただけるか?」
終始口を閉ざしていたジェネットは整然と頷く。
「仕方がないですね。私たちは無実を証明する材料に乏しいですから」
「左様か。あなたが理性的で助かる」
ライアン主任はそう言うと、僕らを牢に移送するよう部下たちに指示を出した。
ちなみに天使長のイザベラさんはこの場にいない。
今回の戦いによって多くの天使たちが命を落としてしまったため、瞑想室という部屋にこもって天使たちの復活作業にかかりきりだということだ。
イザベラさんが瞑想室に入っている間は何人たりとも彼女に接触することは出来ないという。
だけど僕はホッとしていた。
イザベラさんが容疑者となった僕らに対してどんな眼差しを向けてくるのか、考えるだけで少し怖かったからだ。
とにかくこういう状況なので、ライアン主任が主導してこの場を仕切っていた。
こうして僕らは牢に収監されることになってしまったんだ。
僕もジェネットもアリアナも武器はもちろん、すべてのアイテムを没収され、魔力や法力などの力が使えなくなるよう特殊な拘束具を首にはめられた上で、1人ずつ別々の牢屋に入れられることになった。
キャメロン少年から貸与されたEライフルも当然のように没収されているんだけど、事前に確認した銃のマニュアルによって僕は知っていた。
Eライフルには回帰機能があり、どこか離れた場所にあっても所有者として登録された僕の手に呼び寄せることが出来るらしい。
便利な機能だけど、それでも今それを使うわけにはいかない。
そんなことをすれば天使たちに保管されている僕のアイテム・ストックからEライフルが消え、すぐに異変に気付かれてしまうからだ。
不本意ながら囚人の身なので、武器を取ればそれは反逆と見なされ、余計に厳しい処分を受けることとなるだろう。
同じように収監されているジェネットやアリアナにも当然ながら余波が及ぶ。
成す術なく僕はため息をついた。
「今はおとなしくしてるしかないか。はぁ……まさかここで牢に入ることになるなんて」
そう呟くと僕は1人、牢の中に座り込んで膝を抱えた。
うぅ。
ついに僕も前科一犯か。
いや、弱気になっている場合じゃない。
やっていないものはやっていないんだ。
悪魔が偽装していたはずのあの2人の天使を捕まえたのだって、天使たちの物資を守るためなんだし。
「どう考えてもおかしいよな」
結果としてあの2人が認識コードによって天使だと証明されたのだとしたら、あのとき僕らが聞いた2人の会話は何だったんだろう。
取り押さえただけで突然死んじゃうのもおかしいし。
そして悪魔が天使に化けるために使った小さな筒状のアイテムはいつの間にか無くなっていた。
証拠隠滅のために消去されたんだろうか。
念のために今、あの2人の行動ログを解析してもらっているけれど、望みは薄いかもしれない。
ここまで証拠がないと、僕らが作り話をしていると疑われても仕方がない。
だけど……色々と出来過ぎている。
僕らをこういう状態に陥れるための罠としか思えない。
まさか……天使たちが?
そうは思いたくないけれど、疑念は頭の中から離れない。
ジェネットはとうにその疑念を抱いているはずだ。
それでも彼女が落ち着いて収監されたのは何か考えがあるからなんだろう。
くそぉ。
もっとジェネットたちと話し合う時間が欲しかったけれど、森の中からずっと縛られていたし天使たちの監視があったから、ロクに話も出来なかったことが悔やまれる。
この状況から僕に出来ることはない。
座して裁きを待つか、ジェネットが行動を起こしてくれるのを祈るほかない。
「はぁ。ミランダは今どうしてるのかな」
僕は溜息をつくと、行方の分からないミランダに思いを馳せた。
ミランダがこの場にいたら、間違いなく大暴れしていただろうなぁ。
そんなことを思いながら僕は自分が収監されている牢屋を見た。
天樹の塔特有の作り方で、壁も床も天井も、そして僕を閉じ込めるための格子でさえも木で作られている。
そんな格子の外には見張りの若い天使が1人立っていて、格子をじっと見つめる僕を見咎めて言った。
「無駄だぞ。木製だと思って甘く見るなよ。天樹で作られた牢は絶対に破れない」
「そんなこと考えてませんよ」
僕は力なくそう言うと目を閉じた。
まあ、このままだと追放処分だけど、それは元の世界に戻れるってことだ。
ジェネットの言っていた行方不明事件は未解決のままになるけど、それも仕方ないかな。
そんなことを考えながら僕が牢の中で悶々と過ごしていると、ふと気が付いた時には見張りの天使が別の人に交代していた。
あれ?
いつの間に?
どのくらい時間が経ったんだろう。
僕、寝ちゃってたのかな。
その新たな見張りの天使はさっきの若い見張りとは違い、年老いた老天使だった。
僕に背を向けて一切の声に耳を貸さなかった若い天使と違い、格子の間から老天使は僕にジロジロと無遠慮な視線を向けてくる。
ちょ、ちょっと気持ち悪いな。
「な、何でしょうか?」
「どうだ? 囚人になった気分は」
老天使はニンマリと笑顔を見せると、そんなことを聞いてきた。
「は? ど、どうだと言われても……見ての通り落ち込んでますよ」
「天使たちのために戦ったのに何でこんな扱いを受けなきゃならないんだ。ってところか。天使に失望したか?」
老天使はそう言うとヒョッヒョッヒョと不気味な笑い声を上げた。
た、確かにそう思っていたけれど、何でいきなりそんなことを言ってくるんだ?
このおじいさんは。
「あの……からかってるなら、やめてくれませんか」
「天使だからと言って博愛主義者ばかりではない。自分の価値観を脅かす者を排除したがるところは人間や悪魔と何ら変わりないさ」
そう言うと老天使は格子の隙間から何かを投げ入れてきた。
「な、何を……」
床に落ちたそれは何か液体の入った小さなスポイト型の容器と、手のひらサイズほどの一枚の白い板だった。
「差し入れだ。その薬はお前が前にも使ったことのあるやつだぞ。砂漠都市ジェルスレイムでな。板のほうは触れば分かる」
老天使の言葉に僕は思わず目を丸くした。
え?
こ、この人、何でそんな事情を……あれ?
そこで僕は雷に打たれたように立ち上がった。
目の前にいる人物は……。
「あっ! も、もしかして……神様?」
神様。
それは僕らのゲームの運営会社で顧問役をしている偉い人であり、ジェネットを生み出した人物だった。
「ご明答。久しぶりだな。アルフレッド」
老天使の姿をした神様はそう言うと口髭を指でつまみながらニヤリと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる