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第三章 天地をあざむく者たち
第13話 絵画の中に隠された秘密
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堕天使たちを全て撃退してから10分ほどが経過していた。
僕ら3人は礼拝堂から出て建物の裏にある庭園に移動していた。
そこは草木に囲まれた緑豊かな庭園で、地面にはよく手入れされた芝が敷かれている。
その中で休憩用に作られたスペースに置かれたガーデンチェアに僕らは腰を落ち着けていた。
教会は地下から地上に戻されたけれど、いつまた地下に落ちるか分からないから、危険を避けるために僕らは念のため外に出ていることにしたんだ。
激しい戦いで満身創痍となっていたヴィクトリアは、ブレイディの持っていた回復ドリンクをしこたま飲んでライフが半分以上に回復していた。
体力自慢のヴィクトリアはライフの総量が多く、半分回復しただけで相当な量なんだ。
そして彼女は休憩しているだけで緩やかにライフが回復し、睡眠中にはさらにその回復量が上がるらしい。
それが常に最前線で長く戦うことを想定してプログラムされた彼女の身体的特性だった。
そして今、僕とヴィクトリアは長椅子に腰をかけ、向かい側の椅子に浅く腰かけて熱弁を振るうブレイディの話に聞き入っていた。
「あの絵の中は堕天使を生み出す工場になっていたんだ。それもかなり大きな規模の工場さ」
ブレイディは興奮を抑えられないといった表情と口調でそう言った。
ブレイディの話によれば、絵に吸い込まれた後、彼女はその工場の中にあるガラス張りの装置の中に入れられていたらしい。
それは透明の棺桶を立てたような形で、その場には同じものが何十個と置かれていたという。
「んで、その装置の中に天使たちがたくさん入ってたってことか」
ヴィクトリアの言葉にブレイディは嬉々として頷く。
「ああ。ワタシと同じように透明の棺桶に入れられてね。でも彼らはワタシと違ってみんな眠っていたけれど、装置が動き出すと隣に置かれた空っぽの棺桶から堕天使が現れるんだ。天使を元のプログラムとして堕天使を産み出しているんだと思う」
ブレイディは絵の中の出来事を全て視覚録画で保存したと得意げに言った。
やばいな。
彼女のスイッチが入っちゃったみたいでマシンガンのように喋り出したぞ。
「その工場の壁一面には大きな画面が設置されていてね。堕天使たちはその画面に触れてそこから外に出撃していくんだ。その画面越しに絵の中から外の様子はずっと見えていたから、君たちが堕天使に苦しめられているのも見ていたよ。何も出来ずにすまなかったね」
熱っぽくそう語るブレイディに対してヴィクトリアはイマイチ興味なさそうだ。
「ふーん。何でもいいけどおまえ、話長いよ。絵の中の様子はどうでもいいけどよ、おまえは何であそこから脱出できたんだ? それを聞かせろよ」
い、一応ヴィクトリアとブレイディは初対面なんだけど、そんな相手にも遠慮のないヴィクトリアの態度はどこかミランダを思い出させる。
場の空気を読まずにぞんざいな発言をするあたりはそっくりだ。
僕がヴィクトリアの手助けをしてあげたくなったのは、彼女がどことなくミランダに似ていたからなのかもしれない。
「まったく君は話し甲斐のない御婦人だなぁ」
自分の話にまったく興味を示してくれないヴィクトリアにブレイディは肩を落とす。
僕はそんな2人の間をとりなすべく割って入った。
「ま、まあまあ。でもブレイディ。僕もどうやって君をあの絵の中から助け出そうか困っていたから、君が自分から出てきてくれた時は驚いたよ。どうやって脱出したの?」
僕の言葉にブレイディは機嫌を直してくれたみたいで、笑顔を浮かべると僕の肩をポンポンと叩く。
「半分は君のおかげなんだよ。アルフレッド君」
「僕の?」
「ああ。君がEライフルで絵の中の天使を撃つと、何と画面越しに虹色の光線がその工場の中まで届いて棺桶の中の天使を貫いたんだ」
「そ、そうだったのか……」
「撃たれた天使たちは消えて行った。光の粒子を放ちながらまるで昇天するみたいにね。みんな安らかな顔で逝ったよ。君は囚われの天使たちをゲームオーバーという形で解き放ったんだ。アルフレッド君」
あの時、誤って絵の中を撃たなければ僕はとてもそんなことを思いつかなかっただろう。
偶然と言う名の幸運に感謝しないといけないな。
「それが続いて天使たちが全員消えた時にね、ワタシの棺桶がパカッと開いたんだよ。装置のパネルにエラーメッセージが出ていたんだけど、どうやらワタシが天使じゃないと分かって装置に排出されたみたいなんだ。どうやらあの装置は天使や悪魔専用なんだろうね。んで、自由を得たワタシはこの好機を逃すまいと絵の中を色々と調べて回り、それから堕天使たちのように画面に触れて外に飛び出したってわけさ」
なるほど。
ブレイディが出て来られたのは偶然なんかじゃなかったんだ。
彼女は絵の中での出来事をすべて視覚録画で保存したと得意げに言った。
「どうやら絵の中にあったあの装置は天使と悪魔の成分を抽出してブレンドし、天使や悪魔を堕天使に変えてしまう機能があるようだ。誰が何のためにあんなものを作ったのか分からないけれど、堕天使を恣意的に作り出すことで何かを企んでいるんだろう」
そこまで一気に喋り終えたブレイディは満足したといったように上気した顔でムフーッと鼻息を吐いた。
僕はヴィクトリアがブレイディの話の長さにイライラしているんじゃないかと心配して隣に目をやったけれど……彼女は居眠りをしていた。
気持ち良さそうな彼女の寝顔に僕は苦笑しつつ、安堵した。
今は寝ていてもらったほうがいいな。
ヴィクトリアには退屈すぎたんだろう。
そもそも彼女にはあまり関係のない話だしね。
それに睡眠状態に入っていることで彼女のライフは徐々に回復をしているから、ちょうどいいかもしれない。
そんなヴィクトリアを見てブレイディは溜息まじりに言う。
「ヴィクトリア嬢にはワタシの情熱がイマイチ伝わらないようだね」
「そんなことないと思うけど……彼女は話し合うより刃を向け合う方が性に合ってるんだと思うよ」
「まあ戦士殿は見るからに体育会系だしね。仕方ない。文化系同士、話をしようじゃないか。アルフレッド君」
ま、まだ続くのか。
僕は内心で溜息をつきながら頷いた。
そんな僕にブレイディは珍しくマジメな面持ちで言う。
「実はここからが本当に大事な話なんだ。まずはこれを見てくれ」
そう言うとブレイディはメガネを外した。
あれ?
メガネのないブレイディの顔は砂漠都市ジェルスレイムの喫茶店で初対面だった時に見たことがあったけれど、こうしてあらためて見ると普通の女の子って感じで意外とかわいいな。
メガネの有無で人の顔ってこうも印象が変わるのか。
「今ワタシのことをエロイ目で見てたね?」
僕の心を見透かすようにジロリと目を向けてくるブレイディに、僕は思わず目をそらした。
「み、見てません」
「君は分かりやすいなぁ。アルフレッド君。その目をジェネットに向けてあげればいいのに」
「え? な、何でジェネットに? というかそんなことしたら僕、正義の鉄槌を下されるから」
気高き聖女であるジェネットにそんないやらしい目を向けたりしたら天罰と称して手痛いお仕置きをされるに決まってる。
い、今までもそういうことがあったしね。
その場面が頭に浮かび、思わず身震いする僕に、ブレイディはハァ~っとため息をつきながらメガネを差し出してきた。
「やれやれ。哀れな聖女に神の御加護を」
「えっ? どういう意味?」
「別に。そんなことより、とにかくこのメガネをかけたまえ」
何だかよく分からないけれど、僕は彼女に言われるがままにメガネをかけてみた。
するとそこには先ほどブレイディが彼女のスキルである視覚録画で記録したと思しき映像が映っている。
どうやらブレイディのメガネは彼女が視覚録画で撮影した映像を見ることが出来る仕様になっているらしい。
「ワタシが吸い込まれた絵の中はそんな感じだ。そして棺桶型の装置の他にそれらを統括する装置が置いてあった」
ブレイディの言う通り、メガネに映る映像の中には部屋の中央部に置かれた一際大きな装置が映し出されている。
ブレイディはその装置を調べていたんだ。
彼女が何やら装置の操作をしている様子がメガネの中に映っていた。
「その装置には以前に堕天使化した者たちのリストが残されていたんだ。顔写真付きでね。アルフレッド君。3番目に映る男の顔を覚えていないかい?」
「3番目?」
映像の中ではリストを上から眺めて、3番目の男のところでブレイディが目を止める様子が映っていた。
それはある天使の男で、顔写真の横に堕天使化された日時などの各種データが記載されている……あれ?
確かにこの人、最近見たぞ。
一体どこで……あっ!
僕はその正体に気付いて声を上げた。
「ああっ。この人、あの2人組のうちの1人だ。悪魔から天使に化けてジェネットとアリアナに取り押さえられた男だよ」
そう。
確かにその男は森の中で天使に化けて天界からの物資をかすめ取ろうとしていた人物だった。
ジェネットに組み伏せられて不自然な死を遂げた男の表情をよく覚えている。
それにしても……。
「本当に天使だったのか……」
「元は天使だったようだね」
「この人もここで堕天使に?」
「ああ。ここで作られた堕天使たちには共通した特徴があるんだ。そのまま映像を見続ければ分かる」
ブレイディの言葉に従って僕は映像の続きを注視する。
映像の中でブレイディは装置のパネルに手を置いて操作していた。
するとリスト3番目の男についての表示がパパッと切り替わっていき、天使の姿だった男の顔が悪魔のそれに変化したんだ。
「こ、これは……」
「見たかい? ここで生まれた堕天使は天使にもなれるし、悪魔にも化けることが出来るんだ。変幻自在だよ」
「ということは、あの2人組は森にいた時点ではすでにここで堕天使にされた後だったってことなんだね」
「ああ。天国の丘だけじゃなく恐らく地獄の谷にもこんな奴らが紛れ込んでいると見て間違いないだろう。密入国パラダイスだよ」
ブレイディが記録していたリストの中には2人組のもう1人の情報も残されていた。
僕はそうした記録映像を見終えて彼女にメガネを返す。
「これは動かぬ証拠だね」
「ああ。そうさ。天国と地獄。天使と悪魔の両方を欺いている奴がどこかにいる。そいつはこのゲーム世界を自分の手の平の上に乗せたつもりで薄笑いを浮かべているんだろうさ。そういう奴の顔から余裕の笑みを消し去って、ひと泡吹かせてやるんだ。ワタシたちがね。ワクワクするじゃないか。そうは思わないか? アルフレッド君」
僕から受け取ったメガネをかけると、ブレイディはそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
彼女の言う通り、僕らは少しずつだけど近づいている。
この世界を裏から操ろうとしているその人物に。
ここまで来たら真実を明らかにするまで元の世界には戻らないぞ。
僕は覚悟を新たにしてブレイディの言葉に頷いた。
僕ら3人は礼拝堂から出て建物の裏にある庭園に移動していた。
そこは草木に囲まれた緑豊かな庭園で、地面にはよく手入れされた芝が敷かれている。
その中で休憩用に作られたスペースに置かれたガーデンチェアに僕らは腰を落ち着けていた。
教会は地下から地上に戻されたけれど、いつまた地下に落ちるか分からないから、危険を避けるために僕らは念のため外に出ていることにしたんだ。
激しい戦いで満身創痍となっていたヴィクトリアは、ブレイディの持っていた回復ドリンクをしこたま飲んでライフが半分以上に回復していた。
体力自慢のヴィクトリアはライフの総量が多く、半分回復しただけで相当な量なんだ。
そして彼女は休憩しているだけで緩やかにライフが回復し、睡眠中にはさらにその回復量が上がるらしい。
それが常に最前線で長く戦うことを想定してプログラムされた彼女の身体的特性だった。
そして今、僕とヴィクトリアは長椅子に腰をかけ、向かい側の椅子に浅く腰かけて熱弁を振るうブレイディの話に聞き入っていた。
「あの絵の中は堕天使を生み出す工場になっていたんだ。それもかなり大きな規模の工場さ」
ブレイディは興奮を抑えられないといった表情と口調でそう言った。
ブレイディの話によれば、絵に吸い込まれた後、彼女はその工場の中にあるガラス張りの装置の中に入れられていたらしい。
それは透明の棺桶を立てたような形で、その場には同じものが何十個と置かれていたという。
「んで、その装置の中に天使たちがたくさん入ってたってことか」
ヴィクトリアの言葉にブレイディは嬉々として頷く。
「ああ。ワタシと同じように透明の棺桶に入れられてね。でも彼らはワタシと違ってみんな眠っていたけれど、装置が動き出すと隣に置かれた空っぽの棺桶から堕天使が現れるんだ。天使を元のプログラムとして堕天使を産み出しているんだと思う」
ブレイディは絵の中の出来事を全て視覚録画で保存したと得意げに言った。
やばいな。
彼女のスイッチが入っちゃったみたいでマシンガンのように喋り出したぞ。
「その工場の壁一面には大きな画面が設置されていてね。堕天使たちはその画面に触れてそこから外に出撃していくんだ。その画面越しに絵の中から外の様子はずっと見えていたから、君たちが堕天使に苦しめられているのも見ていたよ。何も出来ずにすまなかったね」
熱っぽくそう語るブレイディに対してヴィクトリアはイマイチ興味なさそうだ。
「ふーん。何でもいいけどおまえ、話長いよ。絵の中の様子はどうでもいいけどよ、おまえは何であそこから脱出できたんだ? それを聞かせろよ」
い、一応ヴィクトリアとブレイディは初対面なんだけど、そんな相手にも遠慮のないヴィクトリアの態度はどこかミランダを思い出させる。
場の空気を読まずにぞんざいな発言をするあたりはそっくりだ。
僕がヴィクトリアの手助けをしてあげたくなったのは、彼女がどことなくミランダに似ていたからなのかもしれない。
「まったく君は話し甲斐のない御婦人だなぁ」
自分の話にまったく興味を示してくれないヴィクトリアにブレイディは肩を落とす。
僕はそんな2人の間をとりなすべく割って入った。
「ま、まあまあ。でもブレイディ。僕もどうやって君をあの絵の中から助け出そうか困っていたから、君が自分から出てきてくれた時は驚いたよ。どうやって脱出したの?」
僕の言葉にブレイディは機嫌を直してくれたみたいで、笑顔を浮かべると僕の肩をポンポンと叩く。
「半分は君のおかげなんだよ。アルフレッド君」
「僕の?」
「ああ。君がEライフルで絵の中の天使を撃つと、何と画面越しに虹色の光線がその工場の中まで届いて棺桶の中の天使を貫いたんだ」
「そ、そうだったのか……」
「撃たれた天使たちは消えて行った。光の粒子を放ちながらまるで昇天するみたいにね。みんな安らかな顔で逝ったよ。君は囚われの天使たちをゲームオーバーという形で解き放ったんだ。アルフレッド君」
あの時、誤って絵の中を撃たなければ僕はとてもそんなことを思いつかなかっただろう。
偶然と言う名の幸運に感謝しないといけないな。
「それが続いて天使たちが全員消えた時にね、ワタシの棺桶がパカッと開いたんだよ。装置のパネルにエラーメッセージが出ていたんだけど、どうやらワタシが天使じゃないと分かって装置に排出されたみたいなんだ。どうやらあの装置は天使や悪魔専用なんだろうね。んで、自由を得たワタシはこの好機を逃すまいと絵の中を色々と調べて回り、それから堕天使たちのように画面に触れて外に飛び出したってわけさ」
なるほど。
ブレイディが出て来られたのは偶然なんかじゃなかったんだ。
彼女は絵の中での出来事をすべて視覚録画で保存したと得意げに言った。
「どうやら絵の中にあったあの装置は天使と悪魔の成分を抽出してブレンドし、天使や悪魔を堕天使に変えてしまう機能があるようだ。誰が何のためにあんなものを作ったのか分からないけれど、堕天使を恣意的に作り出すことで何かを企んでいるんだろう」
そこまで一気に喋り終えたブレイディは満足したといったように上気した顔でムフーッと鼻息を吐いた。
僕はヴィクトリアがブレイディの話の長さにイライラしているんじゃないかと心配して隣に目をやったけれど……彼女は居眠りをしていた。
気持ち良さそうな彼女の寝顔に僕は苦笑しつつ、安堵した。
今は寝ていてもらったほうがいいな。
ヴィクトリアには退屈すぎたんだろう。
そもそも彼女にはあまり関係のない話だしね。
それに睡眠状態に入っていることで彼女のライフは徐々に回復をしているから、ちょうどいいかもしれない。
そんなヴィクトリアを見てブレイディは溜息まじりに言う。
「ヴィクトリア嬢にはワタシの情熱がイマイチ伝わらないようだね」
「そんなことないと思うけど……彼女は話し合うより刃を向け合う方が性に合ってるんだと思うよ」
「まあ戦士殿は見るからに体育会系だしね。仕方ない。文化系同士、話をしようじゃないか。アルフレッド君」
ま、まだ続くのか。
僕は内心で溜息をつきながら頷いた。
そんな僕にブレイディは珍しくマジメな面持ちで言う。
「実はここからが本当に大事な話なんだ。まずはこれを見てくれ」
そう言うとブレイディはメガネを外した。
あれ?
メガネのないブレイディの顔は砂漠都市ジェルスレイムの喫茶店で初対面だった時に見たことがあったけれど、こうしてあらためて見ると普通の女の子って感じで意外とかわいいな。
メガネの有無で人の顔ってこうも印象が変わるのか。
「今ワタシのことをエロイ目で見てたね?」
僕の心を見透かすようにジロリと目を向けてくるブレイディに、僕は思わず目をそらした。
「み、見てません」
「君は分かりやすいなぁ。アルフレッド君。その目をジェネットに向けてあげればいいのに」
「え? な、何でジェネットに? というかそんなことしたら僕、正義の鉄槌を下されるから」
気高き聖女であるジェネットにそんないやらしい目を向けたりしたら天罰と称して手痛いお仕置きをされるに決まってる。
い、今までもそういうことがあったしね。
その場面が頭に浮かび、思わず身震いする僕に、ブレイディはハァ~っとため息をつきながらメガネを差し出してきた。
「やれやれ。哀れな聖女に神の御加護を」
「えっ? どういう意味?」
「別に。そんなことより、とにかくこのメガネをかけたまえ」
何だかよく分からないけれど、僕は彼女に言われるがままにメガネをかけてみた。
するとそこには先ほどブレイディが彼女のスキルである視覚録画で記録したと思しき映像が映っている。
どうやらブレイディのメガネは彼女が視覚録画で撮影した映像を見ることが出来る仕様になっているらしい。
「ワタシが吸い込まれた絵の中はそんな感じだ。そして棺桶型の装置の他にそれらを統括する装置が置いてあった」
ブレイディの言う通り、メガネに映る映像の中には部屋の中央部に置かれた一際大きな装置が映し出されている。
ブレイディはその装置を調べていたんだ。
彼女が何やら装置の操作をしている様子がメガネの中に映っていた。
「その装置には以前に堕天使化した者たちのリストが残されていたんだ。顔写真付きでね。アルフレッド君。3番目に映る男の顔を覚えていないかい?」
「3番目?」
映像の中ではリストを上から眺めて、3番目の男のところでブレイディが目を止める様子が映っていた。
それはある天使の男で、顔写真の横に堕天使化された日時などの各種データが記載されている……あれ?
確かにこの人、最近見たぞ。
一体どこで……あっ!
僕はその正体に気付いて声を上げた。
「ああっ。この人、あの2人組のうちの1人だ。悪魔から天使に化けてジェネットとアリアナに取り押さえられた男だよ」
そう。
確かにその男は森の中で天使に化けて天界からの物資をかすめ取ろうとしていた人物だった。
ジェネットに組み伏せられて不自然な死を遂げた男の表情をよく覚えている。
それにしても……。
「本当に天使だったのか……」
「元は天使だったようだね」
「この人もここで堕天使に?」
「ああ。ここで作られた堕天使たちには共通した特徴があるんだ。そのまま映像を見続ければ分かる」
ブレイディの言葉に従って僕は映像の続きを注視する。
映像の中でブレイディは装置のパネルに手を置いて操作していた。
するとリスト3番目の男についての表示がパパッと切り替わっていき、天使の姿だった男の顔が悪魔のそれに変化したんだ。
「こ、これは……」
「見たかい? ここで生まれた堕天使は天使にもなれるし、悪魔にも化けることが出来るんだ。変幻自在だよ」
「ということは、あの2人組は森にいた時点ではすでにここで堕天使にされた後だったってことなんだね」
「ああ。天国の丘だけじゃなく恐らく地獄の谷にもこんな奴らが紛れ込んでいると見て間違いないだろう。密入国パラダイスだよ」
ブレイディが記録していたリストの中には2人組のもう1人の情報も残されていた。
僕はそうした記録映像を見終えて彼女にメガネを返す。
「これは動かぬ証拠だね」
「ああ。そうさ。天国と地獄。天使と悪魔の両方を欺いている奴がどこかにいる。そいつはこのゲーム世界を自分の手の平の上に乗せたつもりで薄笑いを浮かべているんだろうさ。そういう奴の顔から余裕の笑みを消し去って、ひと泡吹かせてやるんだ。ワタシたちがね。ワクワクするじゃないか。そうは思わないか? アルフレッド君」
僕から受け取ったメガネをかけると、ブレイディはそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
彼女の言う通り、僕らは少しずつだけど近づいている。
この世界を裏から操ろうとしているその人物に。
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僕は覚悟を新たにしてブレイディの言葉に頷いた。
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