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第三章 天地をあざむく者たち
第17話 絶叫! 崩落! また絶叫!
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堕天使に連れていかれてしまったはずのブレイディを背負って現れたその悪魔は、ミランダのことを姐御と呼び、片膝をついて頭を下げ、ミランダへの敬意を示したんだ。
「姉御。さっきの堕天使は片付けましたぜ。このお嬢さんはどうされますか?」
「ご苦労だったわね。ゾーラン。その女はこっちで預かるわ。アル。背負いなさい」
「う、うん」
姐御?
このゾーランとかいう悪魔、ミランダのことを姐御と呼んだぞ。
「ニイさん。お嬢さんを頼みますぜ」
「は、はい。ど、どうも」
戸惑いながら僕は言われるままに悪魔に手伝ってもらい、ブレイディを背負った。
幸いにして彼女は気絶しているだけで、その口から漏れる吐息が僕の首すじをくすぐる。
それにしても僕と離れている間にミランダには一体何があったんだろう。
呆気にとられている僕らを見てミランダは言う。
「後で事情は話すけど、こいつも上にいる悪魔たちも私らには敵対しないから心配は無用よ」
そう言うミランダに、僕はあらためて悪魔ゾーランを見た。
ゾーランは顔は強面で悪魔特有の鋭い目付きをしているけれど、痩せ悪魔のような陰鬱さはなく、精悍な顔付きだった。
でも怖いけどね。
彼は僕を見ると口の端をニッと吊り上げて鋭い牙を見せた。
あ、あれは彼なりの笑顔なのかな。
意外と友好的な人なのかもしれない。
怖いけど。
「それにしてもミランダ。どうして彼らと?」
「ま、簡単に言うとこいつらがケンカ売ってきたからボコボコにしたら勝手に子分になった。そういう話よ」
随分と簡略化されたミランダの話にゾーランが付け加える。
「完璧に叩きのめされて身の程を思い知らされやした。あっしらはミランダの姐御の悪魔的な強さに感服して、姐御に絶対の忠誠を誓うことに決めましたんで」
そ、そうなのか。
すごいなミランダ。
悪魔たちを手下にしちゃうなんて。
僕が半分呆れながら感嘆して溜息を漏らしていると、頭上で繰り広げられる戦いが激しさを増したようで大きな音と地響きが続く。
堕天使と悪魔の中には当然、魔法を使うキャラも少なくない。
さまざまな魔法が流れ弾となって無人の街を破壊し始めた。
息を飲んでその様子を見つめる僕の腕をミランダが引っ張る。
「巻き込まれる前に早く行くわよ。町外れにこの科学者女と同じジェネットの仲間たちがいるから。そこから脱出するの」
仲間たち……エマさんとアビーだな。
それからミランダはゾーランに指示を出す。
「ゾーラン。この女悪魔を地上に運ばせて適当な場所に監禁しなさい。こいつはあんたたち悪魔にとっての裏切者だから絶対に逃がすんじゃないわよ」
「見たことねえ奴ですね。とにかく指示通りにしやすぜ。姐御。手はず通り下界の焼けた森で落ち合いましょうや。道中お気をつけて」
そう言うとゾーランは素早く女悪魔を抱えて飛び去っていった。
そして僕らがそこから歩き出そうとしたその時、奇妙な音色の口笛が聞こえてきたんだ。
「……何だ?」
それは堕天使と悪魔が争う喧騒の中でも耳にハッキリと聞こえた。
僕だけじゃなくミランダやヴィクトリアにも聞こえたようで、2人ともその顔に警戒の色を浮かべる。
この口笛……どこかで聞いたことがあるぞ。
それもつい最近のことだ。
「そ、そうだ。あの森で巨大竜が現れる前に……」
森での戦いの時に現場にいたミランダも僕と顔を見合わせる。
僕らはハッとして背後を振り返った。
そこには1人だけ事情を知らないヴィクトリアが僕らの表情を見て怪訝な顔をしている。
「何だ? 変な顔して……うおっ!」
肩に担いでいたノアの体に唐突な変化が現れたために、ヴィクトリアは驚いて声を上げた。
ノアの小さな体はどんどん大きくなり、翼は長く、鱗は輝きを失って灰色に変色していく。
あれは……まずいっ!
「ヴィクトリア! ノアから離れて!」
巨大化していくノアの体は人のそれから竜のそれへと変化していく。
すでに抱えていられないほど大きくなったノアの体を放り出し、ヴィクトリアは懸命に駆け出した。
ノアの巨大化は止まらず、周囲の建物を押しつぶしながら破壊してしまう。
「くそっ! 何なんだこれはっ!」
ヴィクトリアの叫び声が響く中、僕らは一目散にその場から逃げ出した。
さっきまで気を失っていたノアの意識が覚醒し、巨大竜と化した彼女の咆哮が空気をビリビリと震わせる。
そして街の中は狭すぎるとばかりに空に向かって上昇していく間もその体は巨大化していき、森で見た時と同様にその全長は軽く100メートルを超えていく。
ノアが長い翼をはためかせる度に突風が巻き起こるから、本来なら飛ぶことの出来るミランダも風に巻かれるのを嫌って低い姿勢で走り続けていた。
上空で激突していた堕天使と悪魔の両軍も、突然現れた規格外の存在に大混乱に陥った。
ノアは間近にいる者をその巨体で次々と弾き飛ばしていく。
堕天使も悪魔もお構いなしだ。
僕の後ろを走り続けるヴィクトリアが困惑して声を上げた。
「ノアの奴、一体どうなってんだ?」
「よく分からないけれど、こっちの世界に来てから様子がおかしくなったみたいなんだ。この前もあの姿で大暴れして大変だったんだよ」
「あらかじめ言っておくと、魔法も物理攻撃も効かない反則竜よ」
ミランダは忌々しげにそう吐き捨てた。
堕天使や悪魔が魔法や弓矢で攻撃しているけれど、ノアにはまるで意味を成さない。
逆にノアは大きな口を開けて、猛烈な熱波を空中に向けて吐き出した。
陽炎のような空気の揺らぎが瞬時に空間を伝わり、堕天使や悪魔たちが次々と高熱に焼かれて撃ち落とされていく。
あまりにも理不尽なノアの横やりに、もう堕天使も悪魔も戦闘状態を維持できなくなり、潰走を始めた。
「チッ! あのクソガキ! アル。あんたたちはこのまま街外れに向かいなさい」
「き、君はどうするの?」
「あのトチ狂った竜人娘の横っ面をひっぱたいてやるのよ」
「ちょ、ちょっと待って。それなら僕がやるよ。僕の武器なら……」
そう言う僕の頭の中に一つの疑問が浮かぶ。
アイテム・ストックの中に収めたEガトリングがはたして今のノアに効果があるだろうか。
確かにEライフルは森での戦いの時には彼女に有効だった。
だけどこの銃は痩せ悪魔にも女悪魔にも効かなかった。
もしかしたらすでに何らかの対策をされているのかもしれない。
だとしたら明らかに彼らの操り人形と化しているノアにも対策を施されている恐れがある。
でも……。
「……考えていても仕方ない。ミランダ。僕をあの建物の上に運んでくれないか?」
「アル? もしかして例の銃を使うの? 私も森で見たけど」
そう言うミランダに力強く頷くと、僕はヴィクトリアに視線を移す。
「ヴィクトリア。ブレイディをお願いしてもいいかな?」
「ああ。任せろ」
僕は背負っていたブレイディをヴィクトリアに引き受けてもらうと、ミランダが僕を背後から抱えて魔力で空中に浮上する。
ミランダはこの辺りで最も高い建物の屋上に僕を運んでくれ、2人でそこに陣取ると僕はアイテム・ストックからEガトリングを取り出した。
それを見たミランダが目を丸くする。
「ライフルじゃなくなってるじゃない。何よ。その銃は」
「うん。何かいつもの調子で僕の変な力が発動されたみたいで、銃が変形したんだ」
「ハッ。なるほどね。あんたらしいわ」
苦笑するミランダの隣で僕は頭上を見上げた。
ノアは相変わらず暴れ狂い、逃げ惑う堕天使や悪魔を蹴散らしている。
僕はEガトリングを起動すると、まずは登録された除外リストを見てみる。
この除外リストにはあらかじめキャメロン少年が登録しておいてくれた全ての天使、それから僕が登録した自分自身とミランダ、ジェネット、アリアナ、そしてここに来てから登録したヴィクトリアとブレイディの名前が載っていた。
当然、ノアの名前は登録していない。
そりゃそうだ。
この銃をもらった時にはノアがこっちの世界に来ているなんて知らなかったからね。
念のため、リストの検索機能を使ってノアの名前を調べたけれど、やっぱりノアは登録されていなかった。
これならこの銃はノアに通じるのが道理だ。
だけど痩せ悪魔と女悪魔だって当たり前だけど、ここに登録されていない。
それなのにこの銃が効かなかったのには何らかの理由があるはずだから、ノアに必ず効くと思うべきではないだろう。
それでも僕がやることは一つだ。
「色々と考えても仕方ない。とにかくやるぞ」
僕は決然と上空を睨み、Eガトリングを構えて銃口をノアに向ける。
そして【Prompt】ボタンに左右の親指をかけて虹色の光弾を次々と反射した。
「いけえええええっ!」
上空のノアまで軽く200メートル以上の距離があったけれど、それでも減衰することなく光弾は宙を飛んで次々とノアの体に吸い込まれていく。
「グォォォォォォォッ!」
や、やった!
この銃の効果は失われていない。
撃たれたノアは巨体を大きくのけぞらせ、明らかに苦しんでいる。
彼女は同じゲーム世界から来た同僚だから撃つのは気が引けるけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
感情を利用した射撃を続けたために起きる鈍い頭痛を堪え、僕は射撃を続けた。
無数の光弾を浴びたノアは自制を失い、墜落していく。
そして巨体を誇るノアはそのまま、この裏天界の中心部に建つ白亜の城に突っ込んだ。
物凄い衝撃と瓦解する建物から響く音に僕は歯を食いしばる。
僕の隣でミランダが歓声を上げた。
「よくやったわ! アル!」
建物に突っ込んだノアは悶え苦しんで暴れ、白亜の城はガラガラと音を立てて崩れていく。
その周囲を成す術なく取り囲む堕天使たちに対して、悪魔たちが再び攻撃を仕掛けた。
ノアという戦場をかき乱すジョーカーが動きを止めたことで、2つの集団の争いがまた始まろうしていた。
だけどその時……。
「……ん?」
地面と空気がわずかに震えていた。
それはすぐにゴゴゴゴゴゴという地響きに変わり……。
「うわっ!」
ガタンという大きな縦揺れが一つ、二つ……続く。
それは立っていられないほどの揺れで、僕はその場でひっくり返ってしまった。
「アル! しっかりしなさい!」
転倒した勢いで建物から落ちそうになる僕をミランダが支えてくれたけれど、揺れは収まらない。
僕らは必死に屋上に這いつくばって揺れに耐える。
だけどそれがただの一時的な揺れじゃないことを僕は悟った。
ビルの上から見える景色があまりにも異常だったからだ。
ピシッという音を立てて地面に亀裂が入る。
すぐにメキメキッと嫌な音を伴って地面が裂けていく。
そして周囲に立つ建物が次々と陥没していく。
それがそこかしこで起こり、都市がバラバラに壊れていく。
まるで組み立てられたパズルがバラバラになるかのように。
「ど、どうなってんだ! う、うおっ!」
僕らのいる建物の下の地面に立つヴィクトリアは、ブレイディを抱えて必死に揺れに耐えていたけれど、そんな彼女の足場が裂けて崩落する。
すると地面の裂け目からは恐ろしいことに空中が見えたんだ。
ヴィクトリアはブレイディを抱えたままそこに吸い込まれ、空中に放り出されてしまった。
「ヴィ、ヴィクトリアァァァァッ!」
叫び声を上げた僕のいるビルも大きく傾いて倒れ始め、僕はそこから宙に身を投げ出されてしまった。
「おわあっ!」
「アルッ!」
僕を助けようとミランダは宙に身を躍らせるけれど、崩れ落ちる瓦礫に彼女は巻き込まれてしまう。
「ミ、ミランダァァァァッ!」
どうすることも出来ずに僕は地面に落下していくけれど、僕が叩きつけられるはずの地面はもう崩れ落ちて無くなっていた。
そう。
空中に浮かんでいた城塞都市である裏天界は完全に崩壊してしまったんだ。
僕を待ち受けていたのは延々と続く無慈悲な空中落下だった。
「おわあああああああっ!」
砕けた建物の残骸が次々と落ちて行く。
白亜の城に落下したノアや戦い続けていた堕天使と悪魔たち。
そして空中に投げ出されたヴィクトリアとブレイディ。
僕を助けようとして瓦礫に巻き込まれたミランダ。
皆の姿をこの目で見ることも出来ず、どうなったのかを確かめる術もない。
拠り所にしていた足場が崩れ去ったことで、無力な僕は超高度の世界から真っ逆さまに転落していったんだ。
「姉御。さっきの堕天使は片付けましたぜ。このお嬢さんはどうされますか?」
「ご苦労だったわね。ゾーラン。その女はこっちで預かるわ。アル。背負いなさい」
「う、うん」
姐御?
このゾーランとかいう悪魔、ミランダのことを姐御と呼んだぞ。
「ニイさん。お嬢さんを頼みますぜ」
「は、はい。ど、どうも」
戸惑いながら僕は言われるままに悪魔に手伝ってもらい、ブレイディを背負った。
幸いにして彼女は気絶しているだけで、その口から漏れる吐息が僕の首すじをくすぐる。
それにしても僕と離れている間にミランダには一体何があったんだろう。
呆気にとられている僕らを見てミランダは言う。
「後で事情は話すけど、こいつも上にいる悪魔たちも私らには敵対しないから心配は無用よ」
そう言うミランダに、僕はあらためて悪魔ゾーランを見た。
ゾーランは顔は強面で悪魔特有の鋭い目付きをしているけれど、痩せ悪魔のような陰鬱さはなく、精悍な顔付きだった。
でも怖いけどね。
彼は僕を見ると口の端をニッと吊り上げて鋭い牙を見せた。
あ、あれは彼なりの笑顔なのかな。
意外と友好的な人なのかもしれない。
怖いけど。
「それにしてもミランダ。どうして彼らと?」
「ま、簡単に言うとこいつらがケンカ売ってきたからボコボコにしたら勝手に子分になった。そういう話よ」
随分と簡略化されたミランダの話にゾーランが付け加える。
「完璧に叩きのめされて身の程を思い知らされやした。あっしらはミランダの姐御の悪魔的な強さに感服して、姐御に絶対の忠誠を誓うことに決めましたんで」
そ、そうなのか。
すごいなミランダ。
悪魔たちを手下にしちゃうなんて。
僕が半分呆れながら感嘆して溜息を漏らしていると、頭上で繰り広げられる戦いが激しさを増したようで大きな音と地響きが続く。
堕天使と悪魔の中には当然、魔法を使うキャラも少なくない。
さまざまな魔法が流れ弾となって無人の街を破壊し始めた。
息を飲んでその様子を見つめる僕の腕をミランダが引っ張る。
「巻き込まれる前に早く行くわよ。町外れにこの科学者女と同じジェネットの仲間たちがいるから。そこから脱出するの」
仲間たち……エマさんとアビーだな。
それからミランダはゾーランに指示を出す。
「ゾーラン。この女悪魔を地上に運ばせて適当な場所に監禁しなさい。こいつはあんたたち悪魔にとっての裏切者だから絶対に逃がすんじゃないわよ」
「見たことねえ奴ですね。とにかく指示通りにしやすぜ。姐御。手はず通り下界の焼けた森で落ち合いましょうや。道中お気をつけて」
そう言うとゾーランは素早く女悪魔を抱えて飛び去っていった。
そして僕らがそこから歩き出そうとしたその時、奇妙な音色の口笛が聞こえてきたんだ。
「……何だ?」
それは堕天使と悪魔が争う喧騒の中でも耳にハッキリと聞こえた。
僕だけじゃなくミランダやヴィクトリアにも聞こえたようで、2人ともその顔に警戒の色を浮かべる。
この口笛……どこかで聞いたことがあるぞ。
それもつい最近のことだ。
「そ、そうだ。あの森で巨大竜が現れる前に……」
森での戦いの時に現場にいたミランダも僕と顔を見合わせる。
僕らはハッとして背後を振り返った。
そこには1人だけ事情を知らないヴィクトリアが僕らの表情を見て怪訝な顔をしている。
「何だ? 変な顔して……うおっ!」
肩に担いでいたノアの体に唐突な変化が現れたために、ヴィクトリアは驚いて声を上げた。
ノアの小さな体はどんどん大きくなり、翼は長く、鱗は輝きを失って灰色に変色していく。
あれは……まずいっ!
「ヴィクトリア! ノアから離れて!」
巨大化していくノアの体は人のそれから竜のそれへと変化していく。
すでに抱えていられないほど大きくなったノアの体を放り出し、ヴィクトリアは懸命に駆け出した。
ノアの巨大化は止まらず、周囲の建物を押しつぶしながら破壊してしまう。
「くそっ! 何なんだこれはっ!」
ヴィクトリアの叫び声が響く中、僕らは一目散にその場から逃げ出した。
さっきまで気を失っていたノアの意識が覚醒し、巨大竜と化した彼女の咆哮が空気をビリビリと震わせる。
そして街の中は狭すぎるとばかりに空に向かって上昇していく間もその体は巨大化していき、森で見た時と同様にその全長は軽く100メートルを超えていく。
ノアが長い翼をはためかせる度に突風が巻き起こるから、本来なら飛ぶことの出来るミランダも風に巻かれるのを嫌って低い姿勢で走り続けていた。
上空で激突していた堕天使と悪魔の両軍も、突然現れた規格外の存在に大混乱に陥った。
ノアは間近にいる者をその巨体で次々と弾き飛ばしていく。
堕天使も悪魔もお構いなしだ。
僕の後ろを走り続けるヴィクトリアが困惑して声を上げた。
「ノアの奴、一体どうなってんだ?」
「よく分からないけれど、こっちの世界に来てから様子がおかしくなったみたいなんだ。この前もあの姿で大暴れして大変だったんだよ」
「あらかじめ言っておくと、魔法も物理攻撃も効かない反則竜よ」
ミランダは忌々しげにそう吐き捨てた。
堕天使や悪魔が魔法や弓矢で攻撃しているけれど、ノアにはまるで意味を成さない。
逆にノアは大きな口を開けて、猛烈な熱波を空中に向けて吐き出した。
陽炎のような空気の揺らぎが瞬時に空間を伝わり、堕天使や悪魔たちが次々と高熱に焼かれて撃ち落とされていく。
あまりにも理不尽なノアの横やりに、もう堕天使も悪魔も戦闘状態を維持できなくなり、潰走を始めた。
「チッ! あのクソガキ! アル。あんたたちはこのまま街外れに向かいなさい」
「き、君はどうするの?」
「あのトチ狂った竜人娘の横っ面をひっぱたいてやるのよ」
「ちょ、ちょっと待って。それなら僕がやるよ。僕の武器なら……」
そう言う僕の頭の中に一つの疑問が浮かぶ。
アイテム・ストックの中に収めたEガトリングがはたして今のノアに効果があるだろうか。
確かにEライフルは森での戦いの時には彼女に有効だった。
だけどこの銃は痩せ悪魔にも女悪魔にも効かなかった。
もしかしたらすでに何らかの対策をされているのかもしれない。
だとしたら明らかに彼らの操り人形と化しているノアにも対策を施されている恐れがある。
でも……。
「……考えていても仕方ない。ミランダ。僕をあの建物の上に運んでくれないか?」
「アル? もしかして例の銃を使うの? 私も森で見たけど」
そう言うミランダに力強く頷くと、僕はヴィクトリアに視線を移す。
「ヴィクトリア。ブレイディをお願いしてもいいかな?」
「ああ。任せろ」
僕は背負っていたブレイディをヴィクトリアに引き受けてもらうと、ミランダが僕を背後から抱えて魔力で空中に浮上する。
ミランダはこの辺りで最も高い建物の屋上に僕を運んでくれ、2人でそこに陣取ると僕はアイテム・ストックからEガトリングを取り出した。
それを見たミランダが目を丸くする。
「ライフルじゃなくなってるじゃない。何よ。その銃は」
「うん。何かいつもの調子で僕の変な力が発動されたみたいで、銃が変形したんだ」
「ハッ。なるほどね。あんたらしいわ」
苦笑するミランダの隣で僕は頭上を見上げた。
ノアは相変わらず暴れ狂い、逃げ惑う堕天使や悪魔を蹴散らしている。
僕はEガトリングを起動すると、まずは登録された除外リストを見てみる。
この除外リストにはあらかじめキャメロン少年が登録しておいてくれた全ての天使、それから僕が登録した自分自身とミランダ、ジェネット、アリアナ、そしてここに来てから登録したヴィクトリアとブレイディの名前が載っていた。
当然、ノアの名前は登録していない。
そりゃそうだ。
この銃をもらった時にはノアがこっちの世界に来ているなんて知らなかったからね。
念のため、リストの検索機能を使ってノアの名前を調べたけれど、やっぱりノアは登録されていなかった。
これならこの銃はノアに通じるのが道理だ。
だけど痩せ悪魔と女悪魔だって当たり前だけど、ここに登録されていない。
それなのにこの銃が効かなかったのには何らかの理由があるはずだから、ノアに必ず効くと思うべきではないだろう。
それでも僕がやることは一つだ。
「色々と考えても仕方ない。とにかくやるぞ」
僕は決然と上空を睨み、Eガトリングを構えて銃口をノアに向ける。
そして【Prompt】ボタンに左右の親指をかけて虹色の光弾を次々と反射した。
「いけえええええっ!」
上空のノアまで軽く200メートル以上の距離があったけれど、それでも減衰することなく光弾は宙を飛んで次々とノアの体に吸い込まれていく。
「グォォォォォォォッ!」
や、やった!
この銃の効果は失われていない。
撃たれたノアは巨体を大きくのけぞらせ、明らかに苦しんでいる。
彼女は同じゲーム世界から来た同僚だから撃つのは気が引けるけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
感情を利用した射撃を続けたために起きる鈍い頭痛を堪え、僕は射撃を続けた。
無数の光弾を浴びたノアは自制を失い、墜落していく。
そして巨体を誇るノアはそのまま、この裏天界の中心部に建つ白亜の城に突っ込んだ。
物凄い衝撃と瓦解する建物から響く音に僕は歯を食いしばる。
僕の隣でミランダが歓声を上げた。
「よくやったわ! アル!」
建物に突っ込んだノアは悶え苦しんで暴れ、白亜の城はガラガラと音を立てて崩れていく。
その周囲を成す術なく取り囲む堕天使たちに対して、悪魔たちが再び攻撃を仕掛けた。
ノアという戦場をかき乱すジョーカーが動きを止めたことで、2つの集団の争いがまた始まろうしていた。
だけどその時……。
「……ん?」
地面と空気がわずかに震えていた。
それはすぐにゴゴゴゴゴゴという地響きに変わり……。
「うわっ!」
ガタンという大きな縦揺れが一つ、二つ……続く。
それは立っていられないほどの揺れで、僕はその場でひっくり返ってしまった。
「アル! しっかりしなさい!」
転倒した勢いで建物から落ちそうになる僕をミランダが支えてくれたけれど、揺れは収まらない。
僕らは必死に屋上に這いつくばって揺れに耐える。
だけどそれがただの一時的な揺れじゃないことを僕は悟った。
ビルの上から見える景色があまりにも異常だったからだ。
ピシッという音を立てて地面に亀裂が入る。
すぐにメキメキッと嫌な音を伴って地面が裂けていく。
そして周囲に立つ建物が次々と陥没していく。
それがそこかしこで起こり、都市がバラバラに壊れていく。
まるで組み立てられたパズルがバラバラになるかのように。
「ど、どうなってんだ! う、うおっ!」
僕らのいる建物の下の地面に立つヴィクトリアは、ブレイディを抱えて必死に揺れに耐えていたけれど、そんな彼女の足場が裂けて崩落する。
すると地面の裂け目からは恐ろしいことに空中が見えたんだ。
ヴィクトリアはブレイディを抱えたままそこに吸い込まれ、空中に放り出されてしまった。
「ヴィ、ヴィクトリアァァァァッ!」
叫び声を上げた僕のいるビルも大きく傾いて倒れ始め、僕はそこから宙に身を投げ出されてしまった。
「おわあっ!」
「アルッ!」
僕を助けようとミランダは宙に身を躍らせるけれど、崩れ落ちる瓦礫に彼女は巻き込まれてしまう。
「ミ、ミランダァァァァッ!」
どうすることも出来ずに僕は地面に落下していくけれど、僕が叩きつけられるはずの地面はもう崩れ落ちて無くなっていた。
そう。
空中に浮かんでいた城塞都市である裏天界は完全に崩壊してしまったんだ。
僕を待ち受けていたのは延々と続く無慈悲な空中落下だった。
「おわあああああああっ!」
砕けた建物の残骸が次々と落ちて行く。
白亜の城に落下したノアや戦い続けていた堕天使と悪魔たち。
そして空中に投げ出されたヴィクトリアとブレイディ。
僕を助けようとして瓦礫に巻き込まれたミランダ。
皆の姿をこの目で見ることも出来ず、どうなったのかを確かめる術もない。
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