61 / 89
第四章 竜神ノア
第11話 命の泉
しおりを挟む
サーバーダウンの余波でノアと共に休憩室に閉じ込められた僕は、非常に誤解を受ける場面でタイミング悪く入ってきたミランダに必殺の一撃を食らって昏倒したんだ。
それからミランダにしこたま怒られながら必死に事情を説明し、何とか誤解だということを分かってもらった僕はようやく解放されて休憩室から通路に出ることが出来た。
「そうならそうと早く言いなさいよ。馬鹿ね」
いや、僕が何かを言うよりも早く地獄の殺人エルボーをお見舞いしておいて何て言い草だ。
とは言えない僕は先を行くミランダの背中を恨めしげに見つめた。
そんな僕の隣を歩くノアは、声を潜めて僕に言う。
「そなたの主人は乱暴だな。アルフレッド」
「いや、君の勘違いのせいだからね? 分かってる? ノア」
「そんなことは気にするな。小さい奴め」
ぐぬぬ。
どうしてこう僕の周りは人の話を聞かない人や早合点な人ばかりなのか。
会話のキャッチボールは大事ですよ!
「と、ところでミランダ。さっきのサーバーダウンで僕らは休憩室に飛ばされちゃったけど、君は大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃないわよ。牢の中にいたはずなのに、いきなり別の部屋に飛ばされたと思ったら、デカ女たちもどこか別の場所から同じ部屋に飛ばされてきたわ」
「ヴィクトリアたちも? マジか」
ミランダは苛立って通路の壁を蹴飛ばす。
すると壁があっさり崩れ、壁の向こう側にまた、つい今さっき出てきたばかりの例の休憩室が現れた。
この休憩室から出てもう5分は歩いてきたのに、この部屋がまた目の前にあるのは明らかにおかしい。
位置関係が完全に狂っている。
システム異常としか言いようがなかった。
「この調子で坑道の中のあちこちがバグってんのよ。このゲームもう終わってるでしょ。これは早いところ脱出したほうが良さそうね」
そう言うミランダはふと僕を振り返った。
「ところでアル。さっきのローザとマットの件、あんたはどう思ってんのよ?」
ミランダが睨んだ通り、あの女悪魔はキャメロンの秘書であるローザだった。
そして裏天界で僕らを襲った痩せ悪魔がキャメロンの助手であるマットだということも判明した。
僕はさっき、ノアとの誤解を必死に解いている時に、そうした一件についてもミランダに説明しておいたんだ。
ローザはノアの一撃でゲームオーバーになってしまったから、結局のところあれはマットやローザの独断だったのか、それともキャメロンが裏で糸を引いているのか、この状況では何も分からなかったけれど。
「僕は……正直よく分からない。キャメロン自身が黒幕なのか、別の誰かが黒幕なのか。でも、出来ればキャメロンは潔白であってほしいと思ってる。彼は僕のために武器を与えてくれたし、天樹に囚われたジェネットたちを救出するよう天使たちに訴え出てくれていたらしいし」
キャメロンを疑う気持ちと信じたい気持ちとが僕の心の中で葛藤の渦を生み出していた。
「チッ。相変わらず甘い奴ね。アル。よく覚えておきなさい。本当に悪い奴は本当にいい奴と見分けがつかないもんよ」
「えっ? どういうこと?」
「最低の悪人は最高の善人のフリをするのに長けているってこと。ま、あんたのお人好しは筋金入りだから今さら直らないだろうけど」
そう言って呆れながら少し前を歩くミランダについて行くと、大広間のような広い場所に出る。
そこにヴィクトリアたちやゾーランとその手下たちが集結していた。
よかった。
皆、無事な様子だ。
僕はさっきミランダに説明したローザとの話をあらためて皆にしようとしたけれど、ふいに近寄って来たエマさんに手を引かれた。
「オニーさん。ボロボロじゃない。とりあえず話は後。ちゃんと治療しないと」
そう言うとエマさんは僕の手を引いて大広間の端に向かう。
面倒くさそうに舌打ちをしながらミランダが後からついてきた。
大広間の壁にはいくつかの扉があり、開けるとそこは治療室だった。
ベッドや診察用の椅子が置かれていて、多くの医療用アイテムが戸棚に並んでいる。
僕はエマさんに勧められるままベッドに横たわった。
「オニーサン災難ねぇ。悪魔の女に刺されて引っ掛かれて焼かれた挙げ句、乗り込んできた悪魔のような別の女にトドメを刺されるなんて。まあ災難というより女難か」
そう言いながらエマさんは神聖魔法で僕を治癒してくれる。
確かに僕は閉じ込められた休憩室で悪魔の女(注:某ローザ)にさんざん痛めつけられ、助けに来てくれたはずの悪魔のような女(注:某ミランダ)に強烈な肘打ちを浴びてノックアウトされた。
「誰が悪魔のような女よ。っていうかアンタ、私の家来にあまりベタベタ触るんじゃないわよ。尼僧のくせにちょっと慎みが足りないんじゃないの?」
エマさんが僕を回復する様子を寝台のすぐ傍で睨み付けているミランダがそう文句を言うけれど、エマさんもこればかりは自分の領分だというように平然と肩をすくめる。
「仕方ないでしょぉ。わたしの回復魔法・癒しの手は直接手で触れないと回復できないんだから。誰かさんが暴力的だからオニーサンの回復が必要になるの。ね、オニーサン」
「チッ! さっきのは誤解しても仕方ないでしょ! ドアを開けたら裸のアルが幼女にのしかかろうとしていたんだから」
そ、それ、色々と間違ってますからね。
僕の名誉のために言っておきますけど。
「アル。回復ドリンクあるんだから、それを使いなさいよ」
「う、うん」
頷く僕だけど、それを制してエマさんがピシャリと言う。
「ダメよ。オニーサンは体中、傷だらけなんだから。こっちに来てから結構無茶してきたのが一目瞭然よ。回復ドリンクじゃ見た目のライフは回復しても、体内の細かい痛みまではケアできないの。こういうのが蓄積されると、深刻なデータ・エラーに繋がる恐れもあるのよ。だからその場しのぎで一気に回復するんじゃなくて、じっくり時間をかけて回復しないといけないの。ミランダ。あなたの大事な家来のオニーサンがどうなってもいいわけ?」
め、珍しくエマさんが真剣な話をしている。
その専門的な意見にさすがのミランダも押し黙るほかなかった。
「チッ! 分かったわよ。アル。とりあえず私はアイツらにローザのことを説明してくるわ」
説教されたことが面白くなかったのか、ミランダは寝台を離れて休憩室の外へと出ていった。
それを見送ったエマさんは苦笑しながら僕に視線を落とす。
「モテる男は辛いわねぇ。オニーサン」
「へっ?」
「ん~ん。何でもないわ。それにしても女難よねぇ。まるで、浮気相手の家で別れ話を切り出して逆上した浮気相手に殺されかけていたところ、そうとは知らずに乗り込んできた本妻にトドメを刺される、みたいな面白いシチュエーションよね。うふふ」
それ全然面白くないから!
「か、勘弁してよ。エマさん」
「はいはい」
エマさんはそう言いながら僕の素肌に手を当てる。
美人のエマさんがそのスベスベの手で触れてくれるから、というわけではないけれど、彼女の治癒魔法はゆっくりと体の中に染み込んで癒してくれるような心地よさがあった。
「でもオニーサン。さっきの話は忘れないでね。痛みは確実に蓄積されていくわ。それは無茶しがちなオニーサンだけじゃなくてミランダのような強いキャラクターでも同じだから」
「う、うん。肝に銘じておくよ」
普段はおちゃらけているエマさんだけど、真面目な話をする時はシスターらしく見える。
こういう時ばかりはいつもの妖艶な笑みが慈愛に満ちた優しい笑みに見えるから不思議だ。
「ということでオニーサン。ミランダがいないうちに、わたしのサービス受けてみる?」
エマさんはいきなり艶っぽい表情に変わり、横たわる僕の上に覆い被さろうとする。
い、いや何のサービスですか。
「ちょ、ちょっとエマさん? 一体何を?」
「大丈夫よ。ミランダあっちに行ってるし。見られないって。今のうち今のうち」
「い、いえいえ。こ、これはマズイですよ。だいだいちょっとムフフなことをしていると、ミランダにその場面を目撃されて手痛い一撃を喰らうっていうのが僕の宿命ですから」
「ムフフなことってこんなこと?」
そう言うとエマさんはピョンッと寝台に上に飛び乗り、僕の腰の両脇に左右の膝をつけて膝立ちになった。
間近に迫るエマさんの体からは何だかいいニオイがする。
こ、これが大人の女性の香りなのかな。
そんなことを考えた僕はそこでエマさんに起きた変化に目を見張った。
僕の治療をするための神聖魔法・癒やしの手を使う時はエマさんの手が光を帯びるんだけど、今は彼女の体全体が光を帯びている。
そんなエマさんは僕の心臓の位置に合わせるようにして、僕の胸に両手を重ねた。
そして彼女は高鳴る僕の心臓の鼓動に合わせるように短く呼吸を繰り返す。
その手がどんどん熱くなっていく。
こ、これは……。
「命の泉」
エマさんがそう唱えると彼女の手から伝わる熱さが僕の胸の中へと浸透し、心臓が心地よい温かさに包まれた。
その温かさが体の隅々まで行き渡り、やがて静かに消えていく。
ふ、普通の回復魔法とは違うような気がするけど……。
「こ、これは?」
「ナイショ。困った時にオニーサンを助ける秘密の魔法よ。わたしが一日一回しか使えない特別な魔法だから」
い、一体何なんだろう?
僕が不思議に思ったその時だった。
扉一枚を隔てた大広間に控えていた悪魔たちの中から、突如として悲鳴が上がったんだ。
「うぎゃああああっ!」
ただごとでなはいそのけたたましい叫び声に僕とエマさんは顔を見合わせ、すぐに寝台から跳ね起きた。
そして扉を開いて即座に大広間に飛び込んだんだ。
同時に大広間の中にパッと赤い光が瞬き、何かが焦げるような嫌な臭いが鼻を突く。
見ると大広間の床に1人の悪魔が倒れていたんだけど、その悪魔は体中が炎に包まれてすでに息絶えていた。
そ、そんな……何が起きたんだ?
「敵襲だ!」
大広間の中央にいたゾーランが立ち上がり、傍に控える部下たちが周囲を警戒しながら各々の武器を手に身構えた。
そんな彼の頭上で天井の岩肌が赤く光ったんだ。
僕が声を漏らすよりも早く、ミランダが叫んだ。
「ゾーラン! 上よ!」
その声に反応したゾーランが即座に身を投げ出すようにして地面を転がった。
すると天井をすり抜けていきなり、真っ赤な光を帯びた巨大な長い物体が姿を現したんだ。
「あ、あれは蛇? ……いや」
それは蛇ではなく、赤く燃え盛る岩石で出来た長い体を持ち、無数の足を持つ巨大な百足だった。
それからミランダにしこたま怒られながら必死に事情を説明し、何とか誤解だということを分かってもらった僕はようやく解放されて休憩室から通路に出ることが出来た。
「そうならそうと早く言いなさいよ。馬鹿ね」
いや、僕が何かを言うよりも早く地獄の殺人エルボーをお見舞いしておいて何て言い草だ。
とは言えない僕は先を行くミランダの背中を恨めしげに見つめた。
そんな僕の隣を歩くノアは、声を潜めて僕に言う。
「そなたの主人は乱暴だな。アルフレッド」
「いや、君の勘違いのせいだからね? 分かってる? ノア」
「そんなことは気にするな。小さい奴め」
ぐぬぬ。
どうしてこう僕の周りは人の話を聞かない人や早合点な人ばかりなのか。
会話のキャッチボールは大事ですよ!
「と、ところでミランダ。さっきのサーバーダウンで僕らは休憩室に飛ばされちゃったけど、君は大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃないわよ。牢の中にいたはずなのに、いきなり別の部屋に飛ばされたと思ったら、デカ女たちもどこか別の場所から同じ部屋に飛ばされてきたわ」
「ヴィクトリアたちも? マジか」
ミランダは苛立って通路の壁を蹴飛ばす。
すると壁があっさり崩れ、壁の向こう側にまた、つい今さっき出てきたばかりの例の休憩室が現れた。
この休憩室から出てもう5分は歩いてきたのに、この部屋がまた目の前にあるのは明らかにおかしい。
位置関係が完全に狂っている。
システム異常としか言いようがなかった。
「この調子で坑道の中のあちこちがバグってんのよ。このゲームもう終わってるでしょ。これは早いところ脱出したほうが良さそうね」
そう言うミランダはふと僕を振り返った。
「ところでアル。さっきのローザとマットの件、あんたはどう思ってんのよ?」
ミランダが睨んだ通り、あの女悪魔はキャメロンの秘書であるローザだった。
そして裏天界で僕らを襲った痩せ悪魔がキャメロンの助手であるマットだということも判明した。
僕はさっき、ノアとの誤解を必死に解いている時に、そうした一件についてもミランダに説明しておいたんだ。
ローザはノアの一撃でゲームオーバーになってしまったから、結局のところあれはマットやローザの独断だったのか、それともキャメロンが裏で糸を引いているのか、この状況では何も分からなかったけれど。
「僕は……正直よく分からない。キャメロン自身が黒幕なのか、別の誰かが黒幕なのか。でも、出来ればキャメロンは潔白であってほしいと思ってる。彼は僕のために武器を与えてくれたし、天樹に囚われたジェネットたちを救出するよう天使たちに訴え出てくれていたらしいし」
キャメロンを疑う気持ちと信じたい気持ちとが僕の心の中で葛藤の渦を生み出していた。
「チッ。相変わらず甘い奴ね。アル。よく覚えておきなさい。本当に悪い奴は本当にいい奴と見分けがつかないもんよ」
「えっ? どういうこと?」
「最低の悪人は最高の善人のフリをするのに長けているってこと。ま、あんたのお人好しは筋金入りだから今さら直らないだろうけど」
そう言って呆れながら少し前を歩くミランダについて行くと、大広間のような広い場所に出る。
そこにヴィクトリアたちやゾーランとその手下たちが集結していた。
よかった。
皆、無事な様子だ。
僕はさっきミランダに説明したローザとの話をあらためて皆にしようとしたけれど、ふいに近寄って来たエマさんに手を引かれた。
「オニーさん。ボロボロじゃない。とりあえず話は後。ちゃんと治療しないと」
そう言うとエマさんは僕の手を引いて大広間の端に向かう。
面倒くさそうに舌打ちをしながらミランダが後からついてきた。
大広間の壁にはいくつかの扉があり、開けるとそこは治療室だった。
ベッドや診察用の椅子が置かれていて、多くの医療用アイテムが戸棚に並んでいる。
僕はエマさんに勧められるままベッドに横たわった。
「オニーサン災難ねぇ。悪魔の女に刺されて引っ掛かれて焼かれた挙げ句、乗り込んできた悪魔のような別の女にトドメを刺されるなんて。まあ災難というより女難か」
そう言いながらエマさんは神聖魔法で僕を治癒してくれる。
確かに僕は閉じ込められた休憩室で悪魔の女(注:某ローザ)にさんざん痛めつけられ、助けに来てくれたはずの悪魔のような女(注:某ミランダ)に強烈な肘打ちを浴びてノックアウトされた。
「誰が悪魔のような女よ。っていうかアンタ、私の家来にあまりベタベタ触るんじゃないわよ。尼僧のくせにちょっと慎みが足りないんじゃないの?」
エマさんが僕を回復する様子を寝台のすぐ傍で睨み付けているミランダがそう文句を言うけれど、エマさんもこればかりは自分の領分だというように平然と肩をすくめる。
「仕方ないでしょぉ。わたしの回復魔法・癒しの手は直接手で触れないと回復できないんだから。誰かさんが暴力的だからオニーサンの回復が必要になるの。ね、オニーサン」
「チッ! さっきのは誤解しても仕方ないでしょ! ドアを開けたら裸のアルが幼女にのしかかろうとしていたんだから」
そ、それ、色々と間違ってますからね。
僕の名誉のために言っておきますけど。
「アル。回復ドリンクあるんだから、それを使いなさいよ」
「う、うん」
頷く僕だけど、それを制してエマさんがピシャリと言う。
「ダメよ。オニーサンは体中、傷だらけなんだから。こっちに来てから結構無茶してきたのが一目瞭然よ。回復ドリンクじゃ見た目のライフは回復しても、体内の細かい痛みまではケアできないの。こういうのが蓄積されると、深刻なデータ・エラーに繋がる恐れもあるのよ。だからその場しのぎで一気に回復するんじゃなくて、じっくり時間をかけて回復しないといけないの。ミランダ。あなたの大事な家来のオニーサンがどうなってもいいわけ?」
め、珍しくエマさんが真剣な話をしている。
その専門的な意見にさすがのミランダも押し黙るほかなかった。
「チッ! 分かったわよ。アル。とりあえず私はアイツらにローザのことを説明してくるわ」
説教されたことが面白くなかったのか、ミランダは寝台を離れて休憩室の外へと出ていった。
それを見送ったエマさんは苦笑しながら僕に視線を落とす。
「モテる男は辛いわねぇ。オニーサン」
「へっ?」
「ん~ん。何でもないわ。それにしても女難よねぇ。まるで、浮気相手の家で別れ話を切り出して逆上した浮気相手に殺されかけていたところ、そうとは知らずに乗り込んできた本妻にトドメを刺される、みたいな面白いシチュエーションよね。うふふ」
それ全然面白くないから!
「か、勘弁してよ。エマさん」
「はいはい」
エマさんはそう言いながら僕の素肌に手を当てる。
美人のエマさんがそのスベスベの手で触れてくれるから、というわけではないけれど、彼女の治癒魔法はゆっくりと体の中に染み込んで癒してくれるような心地よさがあった。
「でもオニーサン。さっきの話は忘れないでね。痛みは確実に蓄積されていくわ。それは無茶しがちなオニーサンだけじゃなくてミランダのような強いキャラクターでも同じだから」
「う、うん。肝に銘じておくよ」
普段はおちゃらけているエマさんだけど、真面目な話をする時はシスターらしく見える。
こういう時ばかりはいつもの妖艶な笑みが慈愛に満ちた優しい笑みに見えるから不思議だ。
「ということでオニーサン。ミランダがいないうちに、わたしのサービス受けてみる?」
エマさんはいきなり艶っぽい表情に変わり、横たわる僕の上に覆い被さろうとする。
い、いや何のサービスですか。
「ちょ、ちょっとエマさん? 一体何を?」
「大丈夫よ。ミランダあっちに行ってるし。見られないって。今のうち今のうち」
「い、いえいえ。こ、これはマズイですよ。だいだいちょっとムフフなことをしていると、ミランダにその場面を目撃されて手痛い一撃を喰らうっていうのが僕の宿命ですから」
「ムフフなことってこんなこと?」
そう言うとエマさんはピョンッと寝台に上に飛び乗り、僕の腰の両脇に左右の膝をつけて膝立ちになった。
間近に迫るエマさんの体からは何だかいいニオイがする。
こ、これが大人の女性の香りなのかな。
そんなことを考えた僕はそこでエマさんに起きた変化に目を見張った。
僕の治療をするための神聖魔法・癒やしの手を使う時はエマさんの手が光を帯びるんだけど、今は彼女の体全体が光を帯びている。
そんなエマさんは僕の心臓の位置に合わせるようにして、僕の胸に両手を重ねた。
そして彼女は高鳴る僕の心臓の鼓動に合わせるように短く呼吸を繰り返す。
その手がどんどん熱くなっていく。
こ、これは……。
「命の泉」
エマさんがそう唱えると彼女の手から伝わる熱さが僕の胸の中へと浸透し、心臓が心地よい温かさに包まれた。
その温かさが体の隅々まで行き渡り、やがて静かに消えていく。
ふ、普通の回復魔法とは違うような気がするけど……。
「こ、これは?」
「ナイショ。困った時にオニーサンを助ける秘密の魔法よ。わたしが一日一回しか使えない特別な魔法だから」
い、一体何なんだろう?
僕が不思議に思ったその時だった。
扉一枚を隔てた大広間に控えていた悪魔たちの中から、突如として悲鳴が上がったんだ。
「うぎゃああああっ!」
ただごとでなはいそのけたたましい叫び声に僕とエマさんは顔を見合わせ、すぐに寝台から跳ね起きた。
そして扉を開いて即座に大広間に飛び込んだんだ。
同時に大広間の中にパッと赤い光が瞬き、何かが焦げるような嫌な臭いが鼻を突く。
見ると大広間の床に1人の悪魔が倒れていたんだけど、その悪魔は体中が炎に包まれてすでに息絶えていた。
そ、そんな……何が起きたんだ?
「敵襲だ!」
大広間の中央にいたゾーランが立ち上がり、傍に控える部下たちが周囲を警戒しながら各々の武器を手に身構えた。
そんな彼の頭上で天井の岩肌が赤く光ったんだ。
僕が声を漏らすよりも早く、ミランダが叫んだ。
「ゾーラン! 上よ!」
その声に反応したゾーランが即座に身を投げ出すようにして地面を転がった。
すると天井をすり抜けていきなり、真っ赤な光を帯びた巨大な長い物体が姿を現したんだ。
「あ、あれは蛇? ……いや」
それは蛇ではなく、赤く燃え盛る岩石で出来た長い体を持ち、無数の足を持つ巨大な百足だった。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる