甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第三章 トロピカル・カタストロフィー

第11話 暗黒の塔へ

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 この国の感染者らの感染経路についての甘太郎あまたろうの仮説を恋華れんかから聞いたイクリシアは、興味きょうみ深そうに答えを返してきた。

『それは十分に考えられるな。ブレイン・クラッキングの施術せじゅつ方法は今のところ相手に直接れる、もしくは近距離から視線を送るの二通りのみ確認されているが、どちらにせよ相手に対して何らかの電気信号のたぐいを送っていることは間違いない。甘太郎あまたろうの言うように高所から電波に乗せて不正アクセスを行う場合、相手にとどくまでに微弱となってしまう可能性があるが、毎日それを積み重ねれば、ある一定期間で相手ののうをクラッキングするに足るプラグラム量を蓄積ちくせきすることは可能かもしれん』

 イクリシアの言うことによれば、それはパソコンのファイルの転送速度が速いか遅いかの違いにているという。
 すなわちれる、見るという直接的なクラッキング方法が高速で大容量のプログラムを送る手段だとすれば、電波を通す方法は低速で時間をかけて少しずつプログラムを送るという手段と見なせるということなのだ。

恋華れんか。彼の言うダーク・タワーのある場所をより特定的にこちらで調べてみる。少し待っていてくれ』
 
 そう言って電話は切れた。
 甘太郎あまたろうの仮説に対するイクリシアの話を彼自身に説明しながら、自分も納得するように幾度いくどうなづき、恋華れんかは運転手に問いかけた。

『おじさん。ダーク・タワーまで行くことはできる?』

 恋華れんかの言葉に運転手は顔をしかめた。

『本気で言ってるのか? あそこは人が多すぎる。きっと連中がウヨウヨいるぞ』

 そんなところに行くのは正気の沙汰さたではない。
 運転手の表情がそう物語っている。
 運転手の言葉に恋華れんかくちびるんだ。
 そのとなり甘太郎あまたろうはパンフレットをパラパラとめくって食い入るように中身を見ている。

「なんとかあのビルに近づく方法は……」

 そう言いながら甘太郎あまたろうのページをめくる手が止まった。

「アマタローくん? どうしたの?」

 恋華れんかはそんな甘太郎あまたろうの様子に首をかしげた。

「これだ!」

 そう言って甘太郎あまたろうはパンフレットの中の1ページを恋華れんかに広げて見せた。

地下街ちかがい?」

 恋華れんかがそうつぶやきをらした通り、そこに掲載けいさいされているのは超高層ビルとならぶもう一つの目玉である巨大な地下街ちかがいだった。
 ビルの地下に作られている巨大な地下施設しせつは街のあちこちに伸びる地下道を持っており、街のいたるところから中に入れるようになっていた。

「この地下街ちかがいつながる地下道の入口が街のあちこちに作られてるみたいなんです」

 それを聞くと恋華れんかは思わず身を乗り出した。

「街の下にクモのみたいに地下道があるってことか。じゃあそれを辿たどっていけば……でもアマタローくん。地下にもし感染者が大勢いたら、私は力を使えない」

 新宮しんぐう総合病院の時と同様、正常化した感染者が他の感染者におそわれる危険性がある。
 そう指摘する恋華れんか甘太郎あまたろううなづいた。

「確かにその通りです。けど、ここを見てください。恋華れんかさん」

 そう言って甘太郎あまたろうはパンフレットに掲載けいさいされている写真の上の文字を指差した。
 そこには甘太郎あまたろうにも分かる程度の英語でこう書かれている。

【20XX年 グランドオープン! 地下鉄ラインは完成済み】
 
 それを見た恋華れんかは目を見張った。
 そこに記されていた日付はまだ半年先のものだったからだ。

「まだ完成してないんだ?」
「そうです。一般人は入れないようになってます。ということは、感染者はせいぜい作業員とか関係者だけ。数はそう多くないはず」
「でも、本当にちゃんとつながってるのかしら?」

 地下道がビルの地下街ちかがいつながっているかどうかを恋華れんかは運転手にたずねた。
 工事が済んでいなければ、どちらにせよ地下街ちかがいへは入れない。

『地下道はもう開通してるって話だぞ。あとは内装とテナントの整備だけだそうだ』
 
 運転手の話を甘太郎あまたろうげると、恋華れんかは再び運転手に声をかけた。

『おじさん。街外まちはずれに逃げる途中に地下道の入口があるから……』

 そう言うと恋華れんかはパンフレットの地図にある入口のおおまかな所在地をげる。

『このC‐22っていう出入り口で私たちをろしてくれない?』

 運転手は怪訝けげんな顔をして、バックミラーに映る恋華れんかを見つめた。

『あんたたち何をやろうとしてるんだ? このまま街外まちはずれまで一緒いっしょに逃げるべきだ』

 そう言う運転手に恋華れんかは自分が持っているカントルムの身分証を示した。
 そこには【国際捜査官そうさかん】という文字が英語で記されている。

『私たちは今回の事件を起こした犯人を追っているの』

 運転手は一瞬、おどろいた顔を見せたが、すぐにうなづいた。

『……なるほど。そういうことならそこで降ろそう。どうせ俺も逃げる道の途中だ』

 そう言う運転手に恋華れんかは笑顔で礼を述べた。
 その時、彼女の手元でケータイがバイブレートする。
 恋華れんかはすぐに電話に出た。

『もしもし。はい。そうですか。了解しました。解析かいせき感謝します。イクリシア先生。私達、これから地下道に潜入します。ですから連絡がつかなくなるかと思いますが心配しないで下さい』
 
 イクリシアからの叱責しっせきを覚悟の上で恋華れんかはそう言い切った。
 だが、恋華れんかの恩師は叱責しっせきではなく賞賛しょうさんの声を送った。

『それでこそ私の弟子だ。必ず敵の親玉をぶちのめせ』

 豪快にそう言うとイクリシアは電話を切った。
 呆気あっけに取られる恋華れんか甘太郎あまたろうは声をかける。

「どうでした?」

 そう聞かれ、恋華れんかは思わず苦笑を浮かべてかたをすくめる。

「思い切りやれって。私の杞憂きゆうだったみたい」
「それなら何も気後きおくれすることなく思い切りやれますね。いい先生じゃないですか」

 そう言って笑う甘太郎あまたろう恋華れんかはイクリシアからの報告の内容をげる。

甘太郎あまたろうくんの読み通りだわ。ダーク・タワーの最上階から、微弱だけど特徴的な魔気まき波動はどうが発生してるって。この国の魔気まき濃度のうどの高さはそのせいみたい」

 恋華れんかの言葉に甘太郎あまたろうも確信を持ってうなづいた。

「ようやく尻尾しっぽをつかめましたね」
「地下の感染者数は数十名程度。おそらく作業員じゃないかって」
「それくらいなら何とか出来そうですけど、問題はそのビルですね」
 
 ビル最上階に上って不正プログラムの発生源をつぶす。
 それは困難こんなんな作業になるだろう。
 なぜなら、ダーク・タワー自体はすでに完成しており、オフィス、ホテル、住宅をね備えたそのビルの中には常に無数の人間がいる。
 すなわち、ビルの中にも多くの感染者がいるであろうことが想像にかたくない。

「とにかく地下から潜入して、内部の状況によって戦略を組み直すようにしましょうか」
 
 甘太郎あまたろうの言葉に恋華れんかうなづいた。

「そうね。本当ならきちんと本部の応援を待ったほうがいいんでしょうけど、事は一刻いっこくを争うわ。こんな状況になってもこの国の政府から何の発表もないし、軍隊も出動している様子がない。おそらく国の中枢ちゅうすう機関がおかしくなってるんだと思う。ぐずぐずしてたら死傷者はさらに増えるわ」
 
 そう言って恋華れんかは空を見上げた。
 そこにはこの国の空港に向けて降下していく海外からの航空機のかりが見える。
 この国の現在の状況を知らぬまま入国者が増えれば、それは犠牲者ぎせいしゃの数が増えるのと同義である。

「一人でも多くの人を救いたい」

 そう言って甘太郎あまたろうをまっすぐに見つめる恋華れんかの目には一点のくもりもない。
 その信念の強さにかれるように甘太郎あまたろうも彼女の目をじっと見つめてうなづいた。
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