蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】

枕崎 純之助

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第19話 はぐれ者

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「アタシは……プリシラ。統一ダニアの金の女王ブリジットの娘。そこにいるのは弟のエミル」

 自分とエミルを助けてくれた2人組。
 黒髪の青年ジュードと赤毛の女戦士ジャスティーナにプリシラはそう名乗った。
 そしてプリシラはジャスティーナに目を向ける。
 
 燃えるような赤毛と男よりも高い背丈に屈強な体格。
 見慣れたその姿格好はプリシラのささくれ立った心を随分ずいぶんなぐさめてくれる。
 だからこそ身分を早々に明かせば相手が自分たちの助けになってくれると思い、プリシラは同胞相手に嬉しそうに言った。

「あなた……ジャスティーナと言ったわね。もしかして母様……ブリジットの命令でアタシたちを探しに来てくれたの?」

 それを聞いたジャスティーナはいぶかしむような表情で相棒のジュードに目をやる。
 ジュードも困惑の表情を浮かべてそんな彼女を見つめ返し、ジャスティーナは肩をすくめて再びプリシラに目をやった。

「あんた……本当にダニアの御姫様か? プリシラ。名前は聞いたことあるよ」

 彼女の話に今度はプリシラがいぶかしげな表情を浮かべる。
 新都に住むダニアの女ならばプリシラの顔を知らぬ者はいない。
 ジャスティーナはそんなプリシラの様子にフンッと鼻を鳴らすと不躾ぶしつけに言った。

「悪いね。私ははぐれ者なんだ」
「はぐれ者……」
「ああ。新都には住んだことはおろか行ったこともない。だからあんたがもし本当にプリシラだとしても私には分からない」

 はぐれ者。
 その言葉にプリシラは目を丸くしている。
 次期女王としてプリシラは色々な教養を身につけている。
 だから知識としては知っていた。
 この大陸には自分達とは道をたがえた赤毛の女たちが一定数いるということを。
 
 その大多数はかつて罪人として一族を追放された者たちの子孫だ。
 そしてそうした者を実際にその目で見るのはプリシラにとってこれが初めてのことだった。

「私はブリジットにもクローディアにもひざをついたことはない。だから悪いけどあんたにも礼節は尽くせないよ」
 
 そう言うとジャスティーナはプリシラの手を取って引き立たせる。
 手枷てかせ足枷あしかせをされたプリシラは動きにくそうに何とか立ち上がった。
 まだ団長にがされた薬品の影響が抜け切っていない。

 ジャスティーナは先ほど団長が捨てて行ったかぎをプリシラの手枷てかせ鍵穴かぎあなに差し込んだ。
 だがかぎは奥まで入っていかない。
 鍵穴かぎあなと合わないのだ。 
 ジャスティーナは舌打ちをしてかぎを放り捨てた。

「チッ。偽物にせものつかませやがったな。あのタヌキオヤジ。見つけたらぶっ殺してやる」

 そう言うジャスティーナの横に並び立ったジュードはプリシラの手にはめられたかせ鍵穴かぎあなのぞき込んだ。

「ああ。大丈夫だ。粗末なじょうだからこれならすぐに俺が解錠かいじょうできる。とりあえずこの場を離れよう。落ち着いたところでじっくりやる必要がある。さっきの男が仲間を引き連れて戻って来るかもしれないからな」

 そう言うとジュードはエミルに目を向け、ジャスティーナは手枷てかせ足枷あしかせをハメられたままのプリシラを肩に担ぎ上げる。
 プリシラは思わず顔を強張こわばらせた。

「ちょっ……」
「おとなしくしてな。その両足じゃ走れないだろ」

 そう言うとジャスティーナは有無を言わせずにプリシラを抱えたまま天幕を出て駆け出す。
 ジュードはエミルに優しい微笑みを向け、手を差し伸べた。

「俺たちも行こう。安全なところに逃げるんだ」

 父を思わせる優しい微笑みとその声にエミルはわずかばかり警戒心を解き、その手を取るのだった。
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