蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】

枕崎 純之助

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第24話 物々しい行列

 公国領アリアドは国境に近く、交易の中継点となる街のため、行きう人は多い。
 そのため夜も遅くまで営業している店はめずらしくない。
 街に戻ったジュードは食料と水を買い付け、その他の雑多ざったな品を手早く買い込んだ後、最後に衣料店へと足を運んでいた。
 そこはすでに仕立てられた出来合いの服が並んでいて、ジュードは店の主人にすぐさま声をかける。

「急ぎで旅装を見繕みつくろって欲しいんだ。10歳くらいの男の子用を2着分と、13歳……」

 そう言いかけたジュードはプリシラの背格好を思い返して言い直した。

「いや、大人の女性用の旅装2着分。動きやすいもので頼むよ」

 プリシラは13歳の女性としてはかなり背が高く、大人の女性用の服でなければ入らないだろうと思った。
 主人はジュードから注文を受けると、店の中に並ぶ多くの衣服の中から適当なものを選びにかかる。
 その様子をながめながらジュードは窓の外を見つめた。
 すっかり暗くなった夜の路地は大通りではないものの、人の往来が絶えることはない。

 昼の仕事を終えた住民たちが、煌々こうこうとしたかりに誘われて次々と酒場や売春宿に吸い込まれていく。
 そんな中、ジュードはそうした住民らとは様子の異なる一団を目にした。
 それは大勢の男たちが徒党を組んで歩く姿だった。
 街行く人々はその一団を見るとギョッとした顔で脇に寄り、彼らに道をゆずる。

 それもそのはずだ。
 物々しい雰囲気ふんいきのその男たちは全員が様々な刃物を持って武装している。
 ジュードは窓枠の陰に身を隠し、そこから外の様子をうかがった。

(まるで討ち入りだな……ん?)

 そこでジュードは見た。
 一団の先頭に立っているのは、先ほどジャスティーナに襲われて天幕から逃げ出した曲芸団サーカスの団長だった。
 その顔をジュードはしっかり覚えている。

(あの男……報復のために人を集めたのか)

 ジュードは内心で舌打ちをする。
 団長を先頭にした一団はジュードのいる衣料店の前を通り過ぎて、街の入口の方角へと向かっている様子だ。
 ジュードは団長の後ろを歩く男たちの数を数えた。
 その数24人。
 皆が慣れた手つきで武器を持つその様子から、彼らが日頃から暴力を商売にするたぐいやからだと分かる。

「まだ遠くへは逃げていないはずだ! 赤毛の女は見つけ次第殺せ! 金髪の小娘と黒髮の小僧は絶対に傷付けるな! 報酬が大幅に減ることになるぞ!」

 そうわめき散らす団長の声が聞こえてきて、ジュードは顔をしかめた。

(まずいな……あの人数ではさすがにジャスティーナも1人ではキツイ)

 ジュードはすぐさま目を閉じ、感覚をませる。
 すると自分の体からたましいが抜けるような感覚を覚え、それが壁をすり抜けて宙を舞い、街の入口へと飛んでいく。
 やがてそれはジャスティーナらが隠れている街の外の街道脇に広がる林へと到達した。

 それは今、現実に見えているものではない。
 ジュードが記憶の中からイメージした光景だ。
 林の茂みにはジャスティーナとプリシラ、そしてエミルが隠れていた。
 ジュードはすぐさまエミルに語り掛ける。

(エミル……エミル……そちらに大勢の男たちが向かっている。今すぐその場からもっと遠くへ逃げるんだ。今すぐに)

 ジュードは強い思念を飛ばした。
 するとエミルがそれに気付いたように思念を飛ばして来るのを感じた。
 だが、それはハッキリとは言語化できないような不安な感情そのものだ。

 まだエミルは幼く力の制御が難しいのだとジュードも分かっている。
 かつての自分もそうだったから。
 だが、エミルがこちらの意思を感じ取ってくれたのは分かった。

旦那だんな……旦那だんな? 用意できましたよ」

 その声にハッとして目を開けると、ジュードの目の前に店の主人が立っていた。
 注文した衣服を詰めたふくろを手に立つ主人は、立ったまま目を閉じているジュードを不思議ふしぎそうに見つめている。
 ジュードはあわてて取りつくろうように笑顔を見せた。 

「あ、ああ。申し訳ない。少し考え事をしていてね」

 そう言うとジュードは主人に代金を支払い、ふくろを受け取って足早に店を出るのだった。
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