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第60話 迎撃
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村人の陳情を受けたジャスティーナは山賊を迎え撃つための作戦を村人たちに説明し、それから淡々と自分の準備を始めた。
そんなジャスティーナの傍にはプリシラがついている。
「ジャスティーナ。村の人達のために戦うんだね」
「そんな格好いいものじゃない。この村には幾度か世話になっているし、この先も世話になりたいからね。恩を売っておいて損はないさ。ここが無くなると私にも不便だし、この辺りを山賊どもに横行されるのも迷惑だからね」
ジャスティーナは決して無償で人助けをする性分ではない。
そのことはプリシラにも分かっていた。
だが村人から頼まれた時に嫌な顔一つせずに、即座にそれを引き受けた彼女の態度にプリシラは好感を得ていた。
あれこれと理由を並べ立てるその性格も嫌いではない。
「アタシも戦うからね」
「あんたはエミルとジュードを守っていな……と言いたいところだけど、ちょうどいい機会だ。実戦に慣れておきな」
そう言いながらジャスティーナは手持ちの長剣を2本、短槍1本に刃こぼれなどがないか確認し、それから村人から1本借り受けた大振りな斧を手に持って感触を確かめていた。
「この戦いは敵の頭のズレイタとかいう男をいかに早く討ち取るかが肝だ。話に聞くと他の山賊どもは村人たちでも十分に対処可能なようだからね。私は一直線にズレイタに向かい、奴を倒すことに集中する。プリシラ。あんたはこの村長の家の前で、ここを守るんだ。敵はあんたに群がって来る」
「アタシに?」
「そりゃそうさ。山賊は飢えた狼みたいなもんだ。あんたみたいな若い女を放っておくはずがない。そうして向かって来る奴らを斬りまくれ。そうすることで敵の数が減って必然的に私はズレイタとの勝負に集中できるし、他の村人も助かる」
ジャスティーナの言葉にプリシラは拳を握り締めた。
「ええ。分かったわ。あなたが集中して戦えるよう、他の奴らはアタシが引き受ける」
そう言うプリシラに対し、ジャスティーナは短剣の刃をギラリと見せて言った。
「今回は集団戦だ。あんたが敵を討ち漏らせば、その敵が村人の誰かを殺すかもしれない。躊躇するなよ。プリシラ。戦場では敵を確実に殺すんだ。あんたが躊躇すれば、村の誰かが死ぬ。そのことを肝に銘じておきな」
ジャスティーナの言葉にプリシラは息を飲み、それでも拳を握りしめて緊張の面持ちで頷くのだった。
☆☆☆☆☆☆
「兄貴。奴ら、相当警戒していますぜ。石垣全部にグルリと男衆を配置していますよ」
セグ村から数百メートル離れた高台の草原に陣取るズレイタは、その手下の報告を鼻で笑った。
「フンッ。無駄なことだ。チンケな村のくせしやがって。生意気に自警団なんぞを組織して一端の兵隊気取りとは笑わせやがる。奴らの大半は多少訓練を受けただけの農夫どもだぞ。大したことはねえ」
そう言うとズレイタは立ち上がる。
その身の丈は2メートル近くあり、体重も130キロを越え、その体躯はまるで熊のようだ。
「アリアドが王国軍に占領されたらしい。今なら小うるさいアリアド兵どもも助けには来られねえ。あの村をぶっ潰せば、この辺りで俺たちに逆らえる村はなくなる。俺たちの天下だぜ。金も食い物も女も好き放題に出来るぞ」
そう言うズレイタに、手下らの間から卑しい笑い声が上がる。
そんな手下らの顔を見渡すと、ズレイタは気合いのこもった号令を上げた。
「行くぞオマエら! 好きなだけ殺して好きなだけ奪え!」
「オオオオオオオ!」
興奮した山賊たちが大声で吠える。
50人を超える山賊の集団が雪崩を打って坂を駆け下り、セグ村へと襲い掛かっていった。
☆☆☆☆☆☆☆
「来たぞ! 敵襲だ!」
物見櫓の上から見張り役の村人が叫び声を上げた。
そして警鐘が打ち鳴らされ、その甲高い音が村中に響き渡る。
村人たちは2メートルほど積み上げられた石垣の裏側に置かれた台に上がり、そこから弓矢を構えた。
農作業の合間の訓練で鍛えた腕を持つ村人らが一斉に矢を放ち、夜の闇の中、山賊たちを襲う。
「うぎゃあ!」
運の無い山賊は夜の闇の中を飛んでくる矢に刺さって、地面に倒れ込む。
しかし大多数の山賊が矢の命中を免れて石垣まで辿り着いた。
村人らは石垣の上から長槍を突き下ろして、山賊らを突き殺す。
しかしそれを盾で防ぎながら、何人もの山賊が石垣を乗り越えて村の中に侵入を果たした。
「オラァ! 死ねぇ!」
「農民ふぜいがぁ!」
山賊たちは荒々しく武器を振るって村人たちに襲いかかる。
訓練された自警団の村人たちは必死にこれに応戦した。
村のそこかしこで小競り合いが起きる中、村の入口である門が轟音とともに大きく揺らいだ。
二度三度と続けて大きく揺れ、四度目の揺れと同時に巨大な斧の刃が門を破って閂にミシミシと亀裂が入る。
そして……。
「オラァ!」
粗暴な怒声と共に門が蹴り破られ、そこに姿を現したのは2メートル近い巨漢だった。
村人たちが口々に声を上げ青ざめた顔で息を飲む。
「ズ、ズレイタだ……」
「あ、あの門を破りやがった。バケモノだ」
悠然たる足取りで村に足を踏み入れたズレイタは大斧を肩に担いで意気揚々と村を見回す。
「よう。邪魔するぜ。殺しに来てやったから、おとなしく全員死んでくれや」
そう言うとズレイタは大股で突進し、大斧を振り上げる。
自警団の村人たちは必死に後ろに下がった。
だが下がる村人たちとは反対に、ズレイタに向かっていく人影があった。
赤い髪を靡かせたその筋骨たくましい女はズレイタの前に立ちはだかると、振り下ろされる大斧を自らも手にした斧で受け止めてみせた。
ガツンという重い音が響き渡る。
ズレイタの一撃を受け止めて見せたのは、赤毛の女戦士・ジャスティーナだった。
自分の斧を受け止めたのが女だと知ると、ズレイタは驚きに思わず目を丸くする。
だが、その女が赤毛で鍛え上げられた戦士だと分かるとニヤリと笑う。
「てめえ。ダニアの女だなぁ? ハッ。この村の男どもはフヌケぞろいだぜ。自分の手で村を守ることも出来ず、女に用心棒を頼むとはなぁ」
そう言うとズレイタは嘲りの視線を村人らに向けた。
「おい! 恥ずかしくねえのか! 女に守ってもらおうだなんて、それでも男か? 情けねえクズどもだぜ!」
だが、そんなズレイタの斧をジャスティーナは押し返し、その腹に蹴りを入れた。
「うぐっ!」
ズレイタは思わず背後に下がったが、それほどの痛手は負っていないようだ。
自分の腹を手でさすりながらニヤリと笑う。
そんなズレイタをジャスティーナは睨みつけた。
「女、女ってうるさいんだよ。偉そうな口を叩くのは私を倒してからにしな」
そう言うとジャスティーナは斧を構えて腰を落とす。
そんな彼女にズレイタは好戦的な笑みを浮かべた。
「面白え。ダニアの女の腕前がどんなもんか味わわせてもらおうか。そしておまえを打ち倒した後は、女としての味を楽しませてもらうぜ」
そう言うとズレイタは下劣な光をその目に宿す。
だがジャスティーナはまったく動じることなく冷たい顔で言い放つ。
「やりたきゃやりなよ。やれるもんならね」
そう言うジャスティーナに、ズレイタは獣のように吠えて襲いかかった。
そんなジャスティーナの傍にはプリシラがついている。
「ジャスティーナ。村の人達のために戦うんだね」
「そんな格好いいものじゃない。この村には幾度か世話になっているし、この先も世話になりたいからね。恩を売っておいて損はないさ。ここが無くなると私にも不便だし、この辺りを山賊どもに横行されるのも迷惑だからね」
ジャスティーナは決して無償で人助けをする性分ではない。
そのことはプリシラにも分かっていた。
だが村人から頼まれた時に嫌な顔一つせずに、即座にそれを引き受けた彼女の態度にプリシラは好感を得ていた。
あれこれと理由を並べ立てるその性格も嫌いではない。
「アタシも戦うからね」
「あんたはエミルとジュードを守っていな……と言いたいところだけど、ちょうどいい機会だ。実戦に慣れておきな」
そう言いながらジャスティーナは手持ちの長剣を2本、短槍1本に刃こぼれなどがないか確認し、それから村人から1本借り受けた大振りな斧を手に持って感触を確かめていた。
「この戦いは敵の頭のズレイタとかいう男をいかに早く討ち取るかが肝だ。話に聞くと他の山賊どもは村人たちでも十分に対処可能なようだからね。私は一直線にズレイタに向かい、奴を倒すことに集中する。プリシラ。あんたはこの村長の家の前で、ここを守るんだ。敵はあんたに群がって来る」
「アタシに?」
「そりゃそうさ。山賊は飢えた狼みたいなもんだ。あんたみたいな若い女を放っておくはずがない。そうして向かって来る奴らを斬りまくれ。そうすることで敵の数が減って必然的に私はズレイタとの勝負に集中できるし、他の村人も助かる」
ジャスティーナの言葉にプリシラは拳を握り締めた。
「ええ。分かったわ。あなたが集中して戦えるよう、他の奴らはアタシが引き受ける」
そう言うプリシラに対し、ジャスティーナは短剣の刃をギラリと見せて言った。
「今回は集団戦だ。あんたが敵を討ち漏らせば、その敵が村人の誰かを殺すかもしれない。躊躇するなよ。プリシラ。戦場では敵を確実に殺すんだ。あんたが躊躇すれば、村の誰かが死ぬ。そのことを肝に銘じておきな」
ジャスティーナの言葉にプリシラは息を飲み、それでも拳を握りしめて緊張の面持ちで頷くのだった。
☆☆☆☆☆☆
「兄貴。奴ら、相当警戒していますぜ。石垣全部にグルリと男衆を配置していますよ」
セグ村から数百メートル離れた高台の草原に陣取るズレイタは、その手下の報告を鼻で笑った。
「フンッ。無駄なことだ。チンケな村のくせしやがって。生意気に自警団なんぞを組織して一端の兵隊気取りとは笑わせやがる。奴らの大半は多少訓練を受けただけの農夫どもだぞ。大したことはねえ」
そう言うとズレイタは立ち上がる。
その身の丈は2メートル近くあり、体重も130キロを越え、その体躯はまるで熊のようだ。
「アリアドが王国軍に占領されたらしい。今なら小うるさいアリアド兵どもも助けには来られねえ。あの村をぶっ潰せば、この辺りで俺たちに逆らえる村はなくなる。俺たちの天下だぜ。金も食い物も女も好き放題に出来るぞ」
そう言うズレイタに、手下らの間から卑しい笑い声が上がる。
そんな手下らの顔を見渡すと、ズレイタは気合いのこもった号令を上げた。
「行くぞオマエら! 好きなだけ殺して好きなだけ奪え!」
「オオオオオオオ!」
興奮した山賊たちが大声で吠える。
50人を超える山賊の集団が雪崩を打って坂を駆け下り、セグ村へと襲い掛かっていった。
☆☆☆☆☆☆☆
「来たぞ! 敵襲だ!」
物見櫓の上から見張り役の村人が叫び声を上げた。
そして警鐘が打ち鳴らされ、その甲高い音が村中に響き渡る。
村人たちは2メートルほど積み上げられた石垣の裏側に置かれた台に上がり、そこから弓矢を構えた。
農作業の合間の訓練で鍛えた腕を持つ村人らが一斉に矢を放ち、夜の闇の中、山賊たちを襲う。
「うぎゃあ!」
運の無い山賊は夜の闇の中を飛んでくる矢に刺さって、地面に倒れ込む。
しかし大多数の山賊が矢の命中を免れて石垣まで辿り着いた。
村人らは石垣の上から長槍を突き下ろして、山賊らを突き殺す。
しかしそれを盾で防ぎながら、何人もの山賊が石垣を乗り越えて村の中に侵入を果たした。
「オラァ! 死ねぇ!」
「農民ふぜいがぁ!」
山賊たちは荒々しく武器を振るって村人たちに襲いかかる。
訓練された自警団の村人たちは必死にこれに応戦した。
村のそこかしこで小競り合いが起きる中、村の入口である門が轟音とともに大きく揺らいだ。
二度三度と続けて大きく揺れ、四度目の揺れと同時に巨大な斧の刃が門を破って閂にミシミシと亀裂が入る。
そして……。
「オラァ!」
粗暴な怒声と共に門が蹴り破られ、そこに姿を現したのは2メートル近い巨漢だった。
村人たちが口々に声を上げ青ざめた顔で息を飲む。
「ズ、ズレイタだ……」
「あ、あの門を破りやがった。バケモノだ」
悠然たる足取りで村に足を踏み入れたズレイタは大斧を肩に担いで意気揚々と村を見回す。
「よう。邪魔するぜ。殺しに来てやったから、おとなしく全員死んでくれや」
そう言うとズレイタは大股で突進し、大斧を振り上げる。
自警団の村人たちは必死に後ろに下がった。
だが下がる村人たちとは反対に、ズレイタに向かっていく人影があった。
赤い髪を靡かせたその筋骨たくましい女はズレイタの前に立ちはだかると、振り下ろされる大斧を自らも手にした斧で受け止めてみせた。
ガツンという重い音が響き渡る。
ズレイタの一撃を受け止めて見せたのは、赤毛の女戦士・ジャスティーナだった。
自分の斧を受け止めたのが女だと知ると、ズレイタは驚きに思わず目を丸くする。
だが、その女が赤毛で鍛え上げられた戦士だと分かるとニヤリと笑う。
「てめえ。ダニアの女だなぁ? ハッ。この村の男どもはフヌケぞろいだぜ。自分の手で村を守ることも出来ず、女に用心棒を頼むとはなぁ」
そう言うとズレイタは嘲りの視線を村人らに向けた。
「おい! 恥ずかしくねえのか! 女に守ってもらおうだなんて、それでも男か? 情けねえクズどもだぜ!」
だが、そんなズレイタの斧をジャスティーナは押し返し、その腹に蹴りを入れた。
「うぐっ!」
ズレイタは思わず背後に下がったが、それほどの痛手は負っていないようだ。
自分の腹を手でさすりながらニヤリと笑う。
そんなズレイタをジャスティーナは睨みつけた。
「女、女ってうるさいんだよ。偉そうな口を叩くのは私を倒してからにしな」
そう言うとジャスティーナは斧を構えて腰を落とす。
そんな彼女にズレイタは好戦的な笑みを浮かべた。
「面白え。ダニアの女の腕前がどんなもんか味わわせてもらおうか。そしておまえを打ち倒した後は、女としての味を楽しませてもらうぜ」
そう言うとズレイタは下劣な光をその目に宿す。
だがジャスティーナはまったく動じることなく冷たい顔で言い放つ。
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