蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

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第298話 怪人 vs 若き女戦士たち

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(エミルの気配が消えている……ヤブランが失敗した?)

 黒帯隊ダーク・ベルトの隊長室で待機していたショーナは自身の黒髪術者ダークネスの力で王城内の様子をうかがっていた。
 彼女の策によって天空ろうに忍び込んだヤブランが、とらわれのエミルを連れ出しているはずだった。
 だが同様にショーナの意を受けて動いているラモーナと共にいるはずの黒帯隊ダーク・ベルト補佐員のアニーが作戦成功を伝えに来るはずだというのに、一向に吉報は届いていない。
 それでもショーナはあわてなかった。
 なぜなら彼女にとっての切り札となる者たちがついにこの王城に到着したからだ。

(……来ている。このなつかしい感じ……間違いない)

 ラモーナを頼ってダニアの都に送った手紙にショーナは念を込めていた。
 ある人物ならば読み取れるであろう念を。
 ショーナよりも経験豊かな黒髪術者ダークネスがあちらの陣営にはいるのだ。
 ショーナは今、この王城に到着したであろうその人物に向けて黒髪術者ダークネスの力で呼びかける。

【私の呼び掛けにこたえて下さい……】

 ショーナは力を最低限に抑えて、ある人物にそう呼びかけた。
 なぜならば強い力を使えば、副隊長のヴィンスなど他の黒髪術者ダークネスに気付かれてしまうからだ。  
 弱い力では十分にこちらの意思が相手に伝わらない恐れがある。
 しかし呼びかける相手は歴戦の黒髪術者ダークネスだ。
 必ずこちらの呼び掛けに気付いてくれるはずだった。

【応《こた》えて下さい……アーシュラさん】

 ショーナは相手の応答を信じて、そう呼びかけ続けるのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

「このぉぉぉぉぉ!」

 ドロノキは怒りの声を上げて鉄棍てっこんを振り回す。
 ネル、エリカ、ハリエットの3人はそれを身軽にかわすが、決して余裕があるわけではない。
 ドロノキの腕力はすさまじく、鉄棍てっこんの速度も速いため少しも油断は出来ない。
 万が一、当たれば即死してしまうかもしれない。
 エリカの槍やハリエットの斧でも受け止めることは出来ないだろう。

 そして厄介やっかいなのはドロノキの全身を包み込む鉄のよろいだ。
 よろいおおわれた箇所に攻撃を加えても効果はないだろう。
 しかし3人ともあせりはなかった。
 敵は銃弾が尽きて弾倉を交換する前にネルの挑発に乗って攻撃を仕掛けてきた。
 すなわち現在は弾切れを起こしている状況なのだ。

 そしてこちらは5人いる。
 そのうちの1人であるエステルはジュードを守るために戦闘には参加しないが、プリシラを塀の上へ押し上げたオリアーナもむちを手に戦闘に参加してきた。 
 4対1だ。
 そして彼女らはここまで旅を共にしてきて、すでにたがいに呼吸を合わせて連携れんけいすることにも慣れてきていた。

「行くわよ!」
「ええ!」

 ハリエットとエリカが前衛でドロノキに突っ込んでいく。
 そしてドロノキの振るう鉄棍てっこんをかいくぐってそのふところに入り込む。
 エリカが鋭く槍を突き出してドロノキの目をねらった。
 しかしドロノキはその槍を左腕の破裂した大砲の残骸ざんがいで払いのける。

「ウガッ!」
「フンッ!」

 ハリエットはその大砲と腕のぎ目をねらっておのを下段から振り上げた。
 しかしドロノキは鉄のよろいで守られた左のすねでこれを受け止めた。
 鉄のよろいは厚めに作られており、ハリエットのおのでも断ち切ることは出来ない。
 しかもドロノキは体幹が強く、片足で受け止めてもその身はグラリとも揺らがない。

「チッ! 固いわね!」

 舌打ちを響かせるハリエットの後方では、ネルが弓に矢をつがえたままドロノキがすきを見せるのをうかがっている。  
 矢の数には限りがあり、効果的な一撃のために温存しておきたい。
 しかしネルはドロノキがすきだらけに見えて、それほどすきが無いことを感じ取った。

(あのデカブツ。実戦慣れしていやがる。しかもメチャクチャな振る舞いをしているように見えて戦闘の基礎はきっちりと身に着いている。元は何をやっていたのか知らねえが、戦闘訓練をみっちり受けてきた野郎だ)

 5人は知るよしも無かった。
 かつて精神を病む前のドロノキは、ココノエの軍でも随一ずいいちの強さを持つ戦士であり、同時に国を震撼させた凶悪な殺人鬼だったことを。
 エリカとハリエット、そしてネルの3人を同時に相手しながら一歩も引かぬ戦いを見せるドロノキの姿に、後方でジュードを守りながら戦況を見守るエステルは戦慄せんりつを覚えた。

(あの男……本当に強い。銃を使わなくてもあれほど強いなんて)

 だが今、オリアーナが得意武器のむちを手に加勢した。
 この5人の中で最も体が大きく力も強いオリアーナのむちならばあるいは、よろいの上からドロノキをぐらつかせることが出来るかもしれない。
 いくらよろいを着ていたところで、大きな衝撃が加われば中の人体にも影響はある。
 オリアーナのむちは重く固く、剛腕の彼女が振るうそれはまさに殺人武器と化す。
 並みの人間が浴びれば皮膚ひふどころか肉が裂かれて骨すら断たれるのだ。

「エリカ……ハリエット……」

 寡黙かもくな彼女がそう言って前に出ると、エリカもハリエットも心得ているというように両脇に飛び退いてオリアーナに道をける。
 そこにオリアーナの振り上げたむちが宙を鋭く舞った。
 それは強烈な勢いでドロノキの体を鉄鎧てつよろいの上から叩きまくる。

「うおおおおおおっ!」

 オリアーナの気合いの声と共にむち猛威もういを振るい、まるであらしのようにドロノキを打った。
 そのすさまじい勢いにドロノキは前に足が出せなくなり、ジリジリと下がっていく。
 その口から苦しげな声がれた。

「う、うぐぐ……」

 そしてオリアーナのむちはドロノキの右手の打ち、その衝撃でドロノキは鉄棍てっこんを落としてしまう。
 それを見たエリカとハリエットが歓喜の声を上げた。

「いけー! オリアーナ!」
「そのまま押し切れ!」
 
 オリアーナはドロノキの鉄仮面を狙ってむちを放つ。
 頭部さえ露出させれば戦況は完全に5人に傾くだろう。
 それをねらってのむちだったが、状況はそう簡単ではなかった。

「んあああっ!」

 信じられないことにドロノキはそのむちの一撃を右手でつかみ取ってしまったのだ。
 オリアーナはドロノキの目を見て、相手が顔への一撃を待っていたことを悟った。
 
「なっ……」
「ぐぐぐ……捕まえた~」

 オリアーナは自慢の腕力でむちを引っ張るが、逆にドロノキの腕力によって一気に前に引き寄せられてつんのめってしまった。
 そしてドロノキの膝蹴ひざげりの一撃を顔面に受けて昏倒こんとうする。

「うぐっ……」
「まずいぞ! モロに浴びた!」

 ネルが声を上げた通り、オリアーナは強烈な一撃を受けて一瞬で気を失ってしまった。
 ドロノキは嬉々として鉄棍てっこんを拾い上げると、それを振り上げた。 

「まず1人目~!」 

 オリアーナの頭部をねらって鉄棍てっこんが振り下ろされる。
 だが、エリカが咄嗟とっさに飛び込んで来て、背負っていた大盾おおたてかかげてこれを受け止める。
 鉄棍てっこん大盾おおたて、金属同士がぶつかる凄まじい音と衝撃に、思わずエリカは苦痛の声をらした。
 猛烈な衝撃で大盾おおたては表面が陥没し、それを持つ両腕がしびれ、足腰に痛みが走る。

「くうっ!」
「エリカ!」

 鉄棍てっこんの勢いをエリカは受け止め切れず、地面に仰向あおむけに倒れてしまう。
 それを見たハリエットが決死の表情でおのを手にドロノキの背後からその後頭部をねらった。
 だが、ドロノキは振り向きざま左腕の大砲の残骸ざんがいでハリエットの胴をなぎぎ払う。
 脇腹に強烈な一撃を受けたハリエットは大きく吹き飛ばされた。

「きゃあっ!」
「ハリエット!」

 エステルは苦しい戦況を目の当たりにしてくちびるんだ。
 オリアーナ、エリカ、ハリエットの3人が地面に倒されている。
 その向こう側でネルは弓に矢をつがえたまま、動けずにいた。
 その顔が怒りに染まり、ネルは仲間たちを叱咤しったする。

「おい! しっかりしろオマエら! やられてんじゃねえ!」

 数的有利にあるはずのこちら側が圧倒されている。
 ドロノキのすさまじい戦闘能力にエステルは戦慄せんりつを覚えた。

(あ、あんな敵を相手にプリシラは1人で戦っていたなんて……どうする? 悔しいけど正攻法で真正面からぶつかったら勝ち目がない。それどころかネルとアタシだけじゃまともな戦いにもならない)

 エステルはすぐ脇で気を失ったまま倒れているジュードの姿を横目で見た。
 プリシラから託された男だ。
 何としても守らなければならない。
 だというのに……。

「これは……自分の身すら危ういです。あなたを守れないかもしれません」

 エステルは苦渋くじゅうに満ちた声をそうしぼり出した。
 ドロノキは鉄棍てっこんを手に意気揚いきようよう々と3人の倒れた女たちを順に見やっている。

「さ~て。誰から殺そうかな~」 

 オリアーナは失神し、エリカは仰向あおむけに倒れたまま、ハリエットも脇腹を強く打たれて痛めたらしく、地面から起き上がれずにいる。 
 前方ではネルがエステルに向かってわめき声を上げた。

「おい! ガリ勉女! どうすんだ! 何か手はねえのか!」
「い、今考えている最中なんですよ!」
 
 エステルはあせりに思わず声を荒げたが、ドロノキは今にも仲間たちに襲いかかろうとしている。
 悠長ゆうちょうに考えている時間はない。
 強大な敵を前に若きダニアの女戦士らはがけっぷちの危機的状況へと追い詰められるのだった。
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