蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

文字の大きさ
58 / 129

第258話 意地の張り合い

しおりを挟む
まぶしいっ!」 

 プリシラは思わずそう言って手の平で太陽の光をさえぎる。
 そのとなりでガイは燦然さんぜんと降り注ぐ陽光にも平然としていた。

 山岳都市イグリッドの手前から続いた地下水路は実に十数キロメートルに渡って続いており、2人は丸一日以上をかけてそれを踏破とうはした。
 途中、角山羊つのやぎ族の小集団に二度ほど遭遇そうぐうしたが、2人は持ち前の剣技で協力し合って敵を撃退し、進み続けたのだ。
 そしてついに2人は地上に出た。
 そこはすでに平原が目の前に広がっており、山岳都市イグリッドははるか後方に小さく見えている程度だ。

「ようやく日の光の下を歩けるわね」
「こっちだ」

 ガイは太陽の位置から方角を見定め進んでいく。
 平原ではあるがところどころに林が群生しており、2人は目立たぬよう木々の間を歩いた。
 ここまで一日半ほど共に行動してきたが、ガイはほとんどしゃべらない。
 初めは自分の事が気に食わないのかとプリシラは気分を害したが、単に無口な男なのだと分かった。

 しかし口もきかずに進み続けるのも精神的に苦痛なので、プリシラは彼が無愛想なのも構わずに一方的に色々と話しかけてきた。
 これまで1人旅であり、話し相手にえていたのだ。
 ガイもごく端的ではあるが聞かれたことには答えており、彼が2つ年上の15歳であることや普段は共和国首都で暮らしていることなどが分かった。
 もちろん重要なことはもくして語らないが、彼の職務上、言えないこともあるのだと理解しているためプリシラは意に介さない。

 それでも今、プリシラはガイにどうしても聞いてみたくてたまらないことがあった。
 この一日半ほどですでに三度もそのことをたずねているが、ガイは無視するか適当にかわすばかりで一向にこたえてくれない。
 それでもプリシラはあきらめずにその話をする。
 しつこいと思われようと今、これを聞かずしてプリシラは平静ではいられないのだ。

「あなたの剣って不思議ふしぎ太刀筋たちすじよね。斬った衝撃はほどんとないのに相手を簡単にスパッと斬るの。色々な人の剣を見てきたけれど、あなたみたいな剣を使う人は初めてよ。誰に教わったの?」
「またその話か……そんなこと聞いてどうする? あんたにはあんたの太刀筋たちすじがあるだろう」
「どうしても知りたいのよ。悪い? 剣に生きる者として、剣についての知らない技術や知識を得たいというのは自然な欲求でしょ?」

 プリシラは無遠慮ぶえんりょにそうたずねる。
 ガイのような男を相手に遠慮えんりょしていたら会話すらままならないと思ったからだ。
 だがガイもなかなかに揺るがない男だった。

「俺は他人の剣には興味ない」
「あなたが興味無くてもアタシが興味あるのよ。あなた、戦いの際にわざとゆっくり動いて、斬る時だけ急に速く動くわよね。相手を幻惑させるためかと思っていたけれど、一瞬の速さを高めるための予備動作としてゆっくり動き続けているんでしょ?」 

 剣で敵を斬る時に、その剣速が速ければ速いほど相手の体を鋭く切断できる。
 人が速く走ろうと思ったら助走が必要になる。
 ガイがゆるやかに動いているのは、斬撃の一瞬を最大速度にするための助走のような役割を果たしているのだとプリシラは思ったのだ。

「その剣……アタシにも教えて」
「そんなことは俺の任務にない」

 にべもなくそう言うとガイはサッサと森の中を進んでいく。
 だがプリシラはあきらめずに追いすがった。
 力強い手でガイの肩をつかんで引き留める。

「エミルを救うために絶対に倒さなければならない相手がいる。アタシが弟を助けようとすると必ず目の前に立ちはだかってくる相手が。その相手はアタシよりも強くて経験も豊富。そんな相手に勝つために一つでも多くの引き出しが欲しいの」

 そう言うプリシラの目に揺るぎない勝利への渇望かつぼうが宿っているのを見てもなお、ガイはプリシラの手を払い落す。

「俺の剣を見様見真似みようみまね模倣もほうして引き出しに出来るつもりか? そんな程度で勝てる相手なら安いものだな」
「何ですって!」
「剣に生きるとか言うなら、剣を軽く見るな。あんたがチェルシーに勝てないのは、あんたの剣が軽いからだ」

 ガイの冷たい口ぶりにプリシラは怒りを覚え、足を止める。
 彼がチェルシーとプリシラの戦いについても聞き及んでいるのだろうと思い、プリシラは悔しくてガイをにらみつけた。
 だが彼は構わずにサッサと先へ進んで行ってしまう。
 十数メートル先へと遠ざかるその背中を見て、プリシラはくちびるとがらせた。

「何よアイツ……アタシの剣が軽い? だったら……軽いかどうかその目で確かめてみなさいよ」 

 そう言うとプリシラはさやから長剣を抜き放った。

 ☆☆☆☆☆☆

(何なんだ。まったく……)
 
 ガイは少々苛立いらだっていた。
 ダニアの女王ブリジットの娘であるプリシラとの突然の出会いから行動を共にしている。
 プリシラのことは任務外ではあったが、同盟国であるダニアの王女プリンセスだ。
 放っておくわけにはいかなかった。

 それにプリシラは単なる王女プリンセスではない。
 勇猛なるブリジットの娘であり、13歳にしてその剣の腕は抜きん出ていると言われている。
 実際、昨日の地下水路で角山羊つのやぎ族の集団に襲われた際は、プリシラの加勢によってガイは難を逃れることが出来た。

 彼女の強さは本物だった。
 ガイから見てプリシラの剣技はあらいものだったが、そもそも彼女は持っている馬力が常人とは大きく違う。
 共に行動すれば確かに戦力的には大きな味方だった。
 だが、無遠慮ぶえんりょに色々と質問をしてきたり、しつこく話しかけてくるその性格がガイは苦手だった。

 高貴な身分の相手だが、直属の上官でもないのにへりくだる必要はないと思い、ガイは冷たく彼女をあしらっていた。
 そうしていればプリシラもさすがにガイという人間性に失望して話しかけてこなくなるだろうと思ったのだ。
 だがプリシラはあきらめなかった。
 そして今、後方でさやから剣を抜くさや走りの音が聞こえた。

(やれやれ……俺はとんでもないお荷物を拾ってしまったのかもな)

 ガイは振り返ると同時にほんの半歩後方に下がる。
 そんな彼の目の前にプリシラの剣が突きつけられた。
 ガイは臆することなく、剣の切っ先の向こう側にプリシラの顔を見る。

「何のつもりだ?」
「あなたともっと色々おしゃべりしたいのに、どうもあなたは口下手みたいだから、それならこっちでお話ししようと思ってね」

 そう言うとプリシラは剣を鋭く突き出した。
 そこに殺気はないことから、ガイは剣を抜かずにすばやく動いてプリシラの剣の切っ先をかわした。
 プリシラの思惑は見え見えだった。
 剣で強引にでもガイを刺激して彼の剣を披露ひろうさせ、その技術を盗もうと思っているのだろう。
 だがそんな見えいた手に乗るガイではない。

「フンッ」

 ガイは本来の動きを見せず、ただ速く動いてプリシラの剣をかわし続ける。
 だがプリシラは強情だった。
 ガイにその気がないと分かっても、徐々に剣の速度を上げていく。
 次第にガイはその速度に付いていくのが辛くなってきた。

(くっ! こいつ!)

 プリシラはニヤリとしてさらに速度を上げる。

「ほら! いつまでそうやってましていられるかしらね!」

 ガイは意地で剣を抜かずにそれを避け続けるが、そこでプリシラはドンと一歩、それまでにない強い踏み込みを見せた。
 その足音がガイを突き動かしたのだ。
 ガイは反射的に剣を抜いていた。
 そしてプリシラの剣を受け止めた。

「やっとその気になった?」
「あんた……どういうつもりだ!」
「こういうつもりよ!」

 そう言うとプリシラは息つく間もなく次々と剣を打ち込んでくる。
 ガイは懸命けんめいに彼女の剣をおのれの剣で受け止めながら気が付いた。
 プリシラがガイの持つ剣をじっくりと観察していることに。

「その剣。ただの湾曲刀じゃないわよね。片刃で異様に刃が細く鋭くいである。刀身の妙な模様は飾りとは違うみたいね」

 そう言うとプリシラはガイをグンッと押し込んだ。
 ガイは無理せず後方に大きく飛んだ。
 それを追撃せずにプリシラはじっとガイの剣を見据みすえる。

「刀身の幅や厚みの割に耐久性も高い。刃も刃こぼれしていない。本当にめずらしい剣だわ。そしてその剣を何年も何年も数え切れないほど振ってきて今のあなたの剣術があるわけか」
「いい加減にしろ。こんなことをしている間にもエミル殿の救出が遅れるぞ」
「言ったでしょ。エミルの前にはチェルシーが立ちはだかっている。彼女に勝てなければエミルは救えない。だからアタシは勝利のためにギリギリまで自分を高めたいの。あなたの剣術をアタシに見せて」

 傲慢ごうまんにすら感じられるその言葉に自分が思わず圧倒されるのは、彼女が切実に強さを欲しがっているからだとガイは痛感した。 
 プリシラは武勇を誇るダニアの女王の娘として生まれ、最強になることを義務付けられているのだ。
 いずれ女王となる彼女は、自分の刃に多くの民の命がかかるようになることを、わずか13歳の身でありながらすでに理解し覚悟しているのだとガイは知った。
 だがガイとて剣に生涯をかけると決めた身だ。
 ゆえに彼はプリシラの視線を真っ向から受けて言った。

「盗めるものなら盗んでみな」

 そう言うとガイは初めて剣先をプリシラに向けて正対するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...