蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

文字の大きさ
65 / 129

第265話 かつての地下道

しおりを挟む
 王国領に入ったジャスティーナはジュードの導きで、ある廃村を訪れている。
 そこはかつて鉱山の村として出稼でかせぎ労働者らでにぎわった場所だった。
 しかし鉱脈がれて鉱物が採れなくなってからは人がいなくなり、もう20年も前に廃村となった村だ。
 かつて人が住んでいた木造家屋は風雨にさらされ続けて、今ではくずれかかっている。
 わずかに残った石造りの建物だけが乾いた風にさらされていた。

「まさかモグラのあなを使うことになるとはな」

 ジャスティーナはそう言うと嘆息たんそくした。
 ここを訪れた理由はジュードから事前に聞かされている。

「俺がかつて王国から脱走した時にここのモグラのあなを使ったんだよ。ここからなら一気に王都の側まで行ける」
「おまえが脱走したのは子供の頃だろう。大人になった今も通れるのか? 土の中でつかえて生きめになるのはごめんだぞ」

 ジュードよりも体の大きなジャスティーナはそう言って顔をしかめる。
 相棒のそんな様子にジュードは思わず笑った。

めずらしく不安そうだな。せまい場所は嫌いなのか? 大丈夫だよ。モグラの中には君に負けないくらい大男もいる。そんな彼らが立って歩けるくらいだから心配ないさ」

 そう言うとジュードはジャスティーナをともない、今も残る石造りの小さな教会に入っていく。
 中は乱雑としており、かつて使われていた木造の椅子いすたな、机などが半壊して倒れ、床に横たわっていた。

「ジャスティーナ。ちょっと手伝ってくれ」

 そう言うとジュードは壁際に寄せられている祭壇さいだんの真横に立つ。
 そしてジャスティーナと共に力を込めてそれを押し込み、横にずらした。
 すると祭壇の下の床に大きなあなが姿を現す。
 ななめに掘られたそのあなには、歩きやすいようかしの木版が階段状に打ち付けられていた。

「子供の頃、俺は王都からモグラの案内でここまで逃げてきたんだ」

 そう言うとジュードはあなの中に向かって大きな声で呼びかけた。

「おーい! モクラ! 客だ!」

 モグラ。
 それは通称であり、もちろん彼らは人間だ。
 彼らはこの大陸の地下に無数のあなを張りめぐらせて掘り、そこで暮らしている地下の民だった。
 どこの国にも属しておらず、その存在を知る者も多くない。
 ジャスティーナもジュードにその話を聞くまではその存在すら知らなかった。

「おーい!」

 しかしジュードの呼びかけにもあなの中から反応はない。

「おかしいな。モグラはあなの中をひっきりなしに行き交っているはずなんだけど……」

 地下に掘られたあなは複雑に枝分かれしており、モグラの案内なしに入れば迷ってしまうだろう。
 あなのぞき込んだまま首をひねるジュードだが、不意に近付いて来る者の気配を感じて顔を上げた。
 ジャスティーナもいち早くそれに気付いて振り返ると、持っていた短槍を教会の入口に向ける。
 そこに現れたのは、鹿革しかがわの服を身に着けた中年の男だった。
 彼はじっと2人を見つめている。

「……どこに行きたい?」

 その言葉にジュードはハッとした。
 モグラには地下から出ずに暮らす地下のモグラと、彼らと地上の民との橋渡しをする役目の地上のモグラがいることを思い出したのだ。

「あんた地上のモグラか。行き先は王都だ。頼めるか?」

 ジュードの言葉にモグラは2本の指を立てる。

「王都までなら1人銀貨2枚だ」

 そう言うモグラにジュードはこころよく銀貨を支払った。
 2人で銀貨4枚。
 決して安くはないが、支払いをしぶって仕事を断られては困るからだ。
 それを受け取るとモグラはジュードらの脇を通り抜けてあなの中に首を突っ込む。
 そして何やらあなの中に大声で呼びかけた。

 それは聞いたことのない言語だ。
 途端とたんに同じような言語があなの中から響き渡り、あなの中に1人の男が姿を現した。
 それは銀貨を受け取った男よりも年嵩としかさであり、すでに初老に差し掛かって頭髪も白いものが多くなっている男だ、
 その男を見た途端とたん、ジュードは思わず声を上げる。

「あ、あんたは!」

 ジュードはその男の顔をよく覚えていた。
 子供の頃、王都の黒帯隊ダーク・ベルトから脱走して王国から抜け出す際、この男が助けてくれたのだ。
 13歳で国から出奔しゅっぽんしたジュードが追手におびえて逃げ続けていた時に手を差し伸べてくれた男だからこそ、時をて老いた人相になっていてもすぐに思い出すことが出来たのだ。
 ジュードの脳裏のうりに当時の記憶が鮮明によみがえった。

 ☆☆☆☆☆☆

「ハァ……ハァ……」

 ジュードは森の中を懸命に走っていた。
 後方からは猟犬りょうけんえる声が近付いてくる。
 王都から脱走した13歳のジュードはすぐに自分に追手がかけられたことを知った。
 それでも持ち前の黒髪術者ダークネスの能力で危機を察知し、逃げ続けたのだ。

 だが猟犬りょうけんが放たれたと知り、ジュードは恐怖を覚えた。
 訓練された猟犬りょうけんえ声は後方近くまで迫り、ジュードは恐慌きょうこう状態におちいって必死に走り続ける。
 だがあわてたせいか足がもつれ、張り出した木の根に引っ掛かって転倒し、その勢いで茂みの中へと突っ込んでしまったのだ。
 ジュードは土の香りにむせ返りながら自身の死を覚悟した。

 猟犬りょうけんに食いつかれ、追手の兵士に捕らえられ、王都に連れ戻されれば待っているのは厳しい拷問ごうもんと処刑台だ。
 せっかくショーナに見逃してもらったというのに、全ては無に帰してしまう。
 それどころかショーナにも迷惑がかかってしまうかもしれない。
 ジュードは悔しくてくちびるんだ。

 だが次の瞬間、ジュードが予想もしなかったことが起きたのだ。
 彼の倒れている木の根元。
 その木の幹の表面にいきなり丸い大あなが空いたのだ。
 何が起きたのか分からなかった。

 木の幹の中に空洞があり、そこから樹皮がふたのようにパカッと開いて1人の中年の男が出てきたのだ。
 彼はジュードを見るとすぐにその体を抱え上げ、木の幹の空洞の中へと戻ってふたをした。
 その先は視界が暗転してよく分からなかったが、すぐに猟犬りょうけんの声が遠くなっていく。

 しばらくして気が付くとジュードは地下とおぼしき空洞の中に座り込んでいた。
 そこからは中年の男の導きに従って、ひたすら地下道の中を歩き続けたのだ。
 どれくらい時間がったか分からないが廃村の教会に出て、ここからは自由に行けと男に言われた時にジュードは初めて自分が助かったと知ったのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

 初老の男はジュードをじっと見つめている。
 ジュードは思わず過去の記憶を思い返してうめくように言った。

「あ、あの時の……」

 おどろくジュードの顔を一瞥いちべつすると、初老の男はまるでジュードのことなど覚えていないとばかりにきびすを返してあなの奥へと進んでいく。
 ついて来いということだと知り、ジュードは気を取り直すとジャスティーナと顔を見合わせ、共にあなの中へと足を踏み入れていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...