だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
7 / 91
第一章 魔道拳士アリアナ

第6話 ゾンビ穴をふさげ!

しおりを挟む
 廃城の中では冷気が渦巻うずまき、その中心には戦う少女の姿があった。
 アリアナが鋭く拳を振るうとゾンビは一瞬で凍り付いて砕け散る。
 彼女は氷結拳フリーズ・ナックルでゾンビを次々と倒していた。
 さらに彼女の中距離攻撃用スキルである氷刃槍アイス・グラディウスがゾンビ穴周辺のゾンビたちを吹き飛ばしていく。
 アリアナの猛攻でゾンビの数は一気に減っていたけど、相変わらずゾンビ穴からは続々とゾンビが湧き出ていた。

「ああもう! キリがない!」

 アリアナはそう叫びながらもゾンビを倒す手を止めない。
 確かにこのままじゃどうにもならない。
 当初、アリアナはゾンビ穴を彼女の上位スキルである永久凍土パーマ・フロストふさぐつもりだった。
 だけど永久凍土パーマ・フロストはキャラクターのいるマスには展開出来ないんだ。
 彼女がスキルを発動させて穴をふさぐまでのほんの数秒、穴からゾンビが出て来ない瞬間がどうしても必要だった。
 
 どうしたらいい?
 必死に戦うアリアナの背後で僕は懸命に頭をひねった。
 ゾンビ穴をふさぐには?
 僕の頭の中に様々な可能性が浮かんでは消えていく。
 そして僕は策とも呼べないような最低最悪の方法を思いついてしまった。

「……それしかないか。でも嫌だなぁ」

 ああ。
 嫌なことを思いついちゃったよ。
 気が重いなぁ。
 僕は自分の発案に重苦しいため息をつき、アリアナを取り巻くゾンビの輪が途切れたところを狙って彼女の元へ駆け寄った。

「アリアナ!」
「アル君?」
「今から僕が言うことを実行して」

 僕が手短に自分の考えを話すとアリアナは信じられないという顔をする。

「あ、あなた。アタマおかしいんじゃないの?」

 そうですね。
 ひどい言われようだけど自分でもそう思うから反論できないよ。

「とにかく今、説明した通りにして。そうすれば数秒間は穴がふさがるから、そのすき永久凍土パーマ・フロストで穴をふさいで!」

 僕はアリアナの返答を待たずに駆け出した。
 向かう先は玉座だけど、前方には当然のようにゾンビの群れが待ち構えている。
 だけどアリアナが最大出力で氷刃槍アイス・グラディウスを繰り出すおかげで、ゾンビ穴周辺のゾンビたちは一時的に一掃された。
 その間に僕は全速力で玉座前のゾンビ穴に駆け寄っていく。

 うぅ。
 本当は怖くてたまらない。
 でも僕には他に出来ることなんてない。
 だったらやることはひとつだ!

「うおあああああっ!」

 僕は叫び声を上げ、無我夢中でゾンビ穴に飛び込んだ。
 タイミングを合わせてアリアナが氷刃槍アイス・グラディウスの放射をストップする。
 ゾンビ穴はちょうど人1人分の大きさで、僕は頭までズボッと穴にはまった。
 うまい具合にゾンビ穴が僕の体でふさがる。
 僕は決死の思いで絶叫した。

「今だ! アリアナァ!」

 その途端だった。
 穴の奥底から突き上げるようにゾンビが現れ、僕の胴体や腕、足に噛みついた。

 イダダダダっ!
 痛い痛い痛い痛ぃぃぃっ!
 腕やら足やら腰やら尻やらをゾンビに噛みつかれて僕は激痛にもだえ苦しんだ。

「イッギヤァァァァァァァァァァァ!」

 さっきも言ったけどライフゲージを持たない僕は死なないけど痛みは感じるんです!

 ハムハムッ!
 ハムハムッ!
 イダダダダダダッ!
 ハムハムッ!
 痛すぎるっ!
 ゾンビにハムハム咀嚼そしゃくされて超絶イタい!

 でも少しの我慢だ。
 すぐにアリアナがこの穴をふさいでくれる。
 ん? 
 でもふさがれた後、僕どうなっちゃうんだろう?
 激痛にさいなまれながらそんなことを考えた瞬間だった。
 僕のいるゾンビ穴の四方が永久凍土パーマ・フロストに囲まれていく。

 あれっ? 
 打ち合わせと違うぞ? 
 状況を飲み込めない僕をよそに永久凍土パーマ・フロストは上方に次々と積み上がり、まるで煙突のような状態になった。
 そして積み上がりきった後に上から中をのぞき込んできたのはアリアナだった。
 さらに彼女は永久凍土パーマ・フロストの煙突内側の壁面に両手両足をつっかえ棒のようにして、中にいる僕の元へ降りてこようとしている。

「アル君! 今行くから!」
「アリアナ。何してるの? 早く穴をふさいで!」

 そう言う僕の声を無視してアリアナはスルスルっと降りてくると僕に手を差し伸べてくれたんだ。

「私がそうやって穴をふさいだら、一体あなたはどうするつもりだったの?」
「そ、それは……」
「私、あなたをこんな場所に置き去りにするような非人道的プレイヤーにはなりたくないから」

 アリアナはそう言ってくれた。
 僕はそれがとても嬉しかったけど、彼女が気に病む必要なんてないんだ。
 だって僕は……。

「アリアナは何も気にしなくていいんだよ。だって僕はNPCだから」

 プレイヤーはNPCのことなんて気にする必要はないんだ。
 僕はそう言ったけどアリアナは首を横に振る。

「そんな人間みたいなこと言うあなたを放っておけるわけないでしょ」

 そう言うと彼女は僕の手をつかんで上まで一気に引き上げてくれた。
 僕の体がゾンビ穴から抜け出た途端、穴からゾンビが湧き出してきた。
 でも周囲を全部、永久凍土パーマ・フロストに囲まれているから、ゾンビは閉じ込められたまま身動きがとれない。
 アリアナは僕を連れて永久凍土パーマ・フロストの煙突を登り切り、最後にてっぺんを永久凍土パーマ・フロストふたした。
 これでゾンビ穴の真上には吹き出し口をふさがれた煙突が、さながら塔のようにそびえ立った。
 ついにゾンビ穴をふさぐことに成功し、アリアナは見事にミッションコンプリートしたんだ。

「やったぁ!」
「ミッション・クリアーだ!」

 僕らは嬉しくて思わず嬌声きょうせいを上げながらハイタッチを交わした。

「アリアナ。おめでとう。それに助けてくれてありがとう」
「無茶なことするから、こっちが腰抜かすかと思った。ビックリさせないでよ、もう。でも……こっちこそありがとう。アル君のおかげよ」

 アリアナはそう言うと少し神妙な顔になって僕を見た。
 んん?
 何だろう。
 アリアナは少しだけ考え込むようにしていたけど、やがて意を決したようにこう言った。

「アル君。私、あなたに謝らないといけないことがあるの」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...