だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第二章 闇の魔女ミランダ

第1話 暗黒の双子 vs 闇の魔女

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 NPCに転身した魔道拳士アリアナが僕の元を訪れ、そんなアリアナをねらって双子の姉妹キーラ&アディソンが現れた。
 強引にアリアナを我が手に入れようとする双子とそれに抵抗するアリアナの戦いは熾烈しれつを極め、そんな混乱の最中さなかにあってむせ返るような熱気に包まれたやみ洞窟どうくつに、主たるミランダがメンテナンスを終えて戻ってきたんだ。
 それは猛獣同士の戦いに第3の猛獣が飛び込んできたような感覚を僕に抱かせた。

「ミランダ……」

 留守の間に縄張りを荒らされた猛獣のようにミランダは不機嫌そうに僕を見つめると、次に視線を転じて洞窟どうくつの中の状況を見渡した。

「アル。これはどういうことかしら? あいつらは誰?」

 そう言うとミランダはジロリと双子をにらみつけた。
 その刺すような視線に双子の表情が緊張を帯びて殺気立つ。
 ミランダはそれに構うことなく僕がはりつけにされている壁際まで歩み寄ってきて、タリオを壁から引き抜いた。
 僕はようやく体の自由を取り戻したけれど、さっきまで高熱に晒されていたせいで頭がクラクラしてその場にガクンとひざをついてしまった。

「ミランダ。この人たちは……」

 僕がそう説明しようとすると、それまで警戒心から厳しい顔つきでミランダの挙動をじっと見据えていたキーラがその顔に薄笑みを浮かべて口を開いた。

「へぇ~。あんたがミランダか。有名人に会えて嬉しいぜ。アタシはキーラ。こっちは妹のアディソンだ」

 アディソンのほうは警戒を崩さずにじっとミランダを見つめている。
 そんな双子をにらみつけたままミランダは冷然とした声を発した。

「あんたたちの名前なんてどうだっていいわ。何をどう血迷って私の縄張りを荒らしたのか、弁解を聞いてあげるって言ってんのよ。さっさと答えなさい」

 そう言うミランダの体からピリピリとした黒い粒子が溢れ出し、まるで静電気のようにバチバチッと音を立てる。
 な、何かいつにも増して怒ってるぞ。

「おぉ。噂通りおっかねえ女だな。お付きのボンクラ兵士を蒸し焼きにされて、そんなに悔しかったか? あぁ?」

 そう言うキーラの言葉にミランダは憮然ぶぜんとした表情で僕を見下ろした。

「あんた。蒸し焼きにされたの?」
「う、うん、だいぶコンガリと」

 そう言う僕の体をミランダはマジマジと見つめ、呆れたような顔でフンッと鼻を鳴らした。

「そう。で、あそこに倒れてる魔道拳士の女、前に見たことあるけど、このバカ騒ぎに関係してるってことね」

 そう言うミランダの視線の先ではアディソンによってロープで捕縛されたまま地面に横たわるアリアナの姿がある。

「うん。僕、彼女を助けたくて……」

 僕がそう言うとミランダはスッキリしたような表情を見せた。

「ふぅん。なるほどね。だいたい分かった」

 そう言うとミランダは突然、僕の頭をパシッと叩いた。

「イタッ! な、何?」
「うるさい。後でお説教するから、あんたはそこで見てなさい」

 そう言うミランダの顔は穏やかだったけど、目が怖かった。
 お説教決定です。

「……はい。っていうかミランダ。どうするつもり?」
「そんなの決まってる。聞くまでもないでしょ」

 そう言うとミランダは双子の前にツカツカと歩み出た。
 そして自分と双子の間の地面を指差して見せる。

「ジャンピング土下座からのフルスロットル謝罪」

 唐突にそんなことを言うミランダに双子は怪訝けげんな表情を見せた。

「は?」
「何ですか?」

 そんな2人に対してミランダはお行儀の悪いことに中指を立てて言い放った。

「今から私があんた達をボコボコにするけど、その前に謝っておきなさい。そしたら少しだけ手加減してあげるから」

 うはぁ。
 ミ、ミランダかなり怒ってるぞ。
 そんなミランダの様子を見たキーラは呆れまじりに苦笑して腰に片手を当てた。

「あれ~? もしかして今アタシらケンカ売られてんの?」

 軽薄な調子でそうおどけてみせるキーラだけど、ミランダは生来の意地悪な気性を存分に発揮して言葉を返した。
 
「そうよ。あら、分からない? あんたアタマ悪そうだもんねぇ」

 これにはさすがにキーラも顔色を変えて、獣属鞭オヌリスを握り締めながらミランダをにらみつけた。

「チッ。よほど腕に自信があるようだな。けど、あまり自分の力を過信しないほうがいいぜ」
「お姉さまの言う通り。ワタクシ達が何の準備もなしにここを訪れたとでも? あなたが出てくることも想定内なのですよ。ミランダ」

 そう言うとアディソンも吸血杖ラミアーを構えた。
 ミランダも彼女の標準装備である武器・黒鎖杖バーゲストを構えて双子を迎え撃つ。
 そのピリピリとした雰囲気に僕は思わずドキドキしつつ、戦いを見守った。
 そして双子が気合の声とともに地面を蹴る音が戦闘開始の合図となったんだ。

 突進する双子はさっきのアリアナとの戦闘と同様にアディソンが一気に距離を詰めて前衛としてミランダに攻撃をしかけた。
 アディソンは猛然と吸血杖ラミアーを振るってミランダに襲い掛かるけど、ミランダも魔女でありながら接近戦にも決して弱くない。
 アディソンの猛攻にも真っ向から打ち合って互角以上の戦いを見せている。
 だけど後方から妹を支援して獣属鞭オヌリスを振るうキーラの攻撃によってミランダはなかなか攻勢に出られない。
 
 う~ん。
 魔法を使う距離を取れればミランダに分があるはずなんだけど……あれ?
 もしかして……。
 そこで僕はミランダの意図にようやく気が付いた。
 ミランダが敢えて打撃戦で果敢にアディソンを攻め立て、キーラを引き付けて戦い続けてくれるおかげで、アリアナが倒れている場所から双子は徐々に遠ざけられていたんだ。

 今だ!
 僕は躊躇ちゅうちょせずにすぐさまアリアナの元へ駆け出した。
 そして倒れているアリアナの傍に駆け寄ると、彼女の顔をのぞき込んだ。

「アリアナ! しっかりして!」

 アディソンの魔神の吐息サタン・ブレスを浴びたアリアナの道着はところどころ溶けてしまって肌が露出していたため、僕は兵服の上着を脱いでそれを彼女にかぶせた。

「ア、アル君。ごめん……」

 アリアナは悄然しょうぜんとそう言う。
 弱々しい声だったけど、彼女のライフゲージは残り少ないながらも確かに残されていた。

「アリアナは悪くないよ。ちょっとだけ我慢してね」

 僕はそう言ってからアリアナの体を抱え上げた。
 非力な僕だけど女の子ひとりくらいなら助けてあげられるんだ。
 僕は歯を食いしばり、アリアナを抱えたままやみの玉座まで必死に走った。
 そして玉座の裏に隠すようにしてアリアナの体をそっと横たえると、僕は自分のアイテムストックから回復用の服用液を取り出してそれをアリアナの口に含ませた。
 安価な回復ドリンクだから効果はそれ相応だったけれど、それでもアリアナのライフゲージは総量の3分の1ほどまでに回復して、危険水域は脱することが出来た。
 僕はホッと安堵あんどの息をつく。

「よ、よかった。ちょっと待ってて。ロープを切るから」

 そう言うと僕は背中に担いでいた槍の穂先を使ってロープを切っていく。
 アリアナはとりあえず落ち着いたようだったけど、NPCになってから初めての戦闘だったというのと敗北のショックとが大きかったみたいで、疲れ切ったような呆然とした表情を見せていた。

「アル君。色々ごめん。ありがとう」
「僕は何も出来てないよ。今はゆっくり休んで。とりあえずミランダがきっとこの場は収めてくれるから」

 そう言うと僕は玉座の横から顔を出し、ミランダの様子を見つめた。
 僕らがやみの玉座の後ろに退避してからミランダの戦い方が一変した。
 ミランダは激しく黒鎖杖バーゲストを振るい、アディソンの武器である吸血杖ラミアーを弾き飛ばした。

「あうっ!」

 アディソンの声と重なるようにして吸血杖ラミアーが地面をカラカラと転がる音が鳴り響いた。
 そして一瞬のすきをついたミランダはアディソンの胸を足の裏で蹴り飛ばす。

「うあっ!」

 アディソンはうめき声を上げて大きく後方へ飛ばされた。

「あんた。香水くさいのよ。あまり近寄らないでくれる?」

 顔をしかめてそう言うとミランダはこのすきに後方へ下がり、双子と距離をとる。
 これはミランダの魔法攻撃の間合いだ。
 それを警戒したキーラが声を上げる。

「アディソン! 魔法が……黒炎弾ヘル・バレットがくるぞ!」

 ミランダに蹴り飛ばされて地面に転がったアディソンは姉の声にすぐ反応して起き上がる。
 そして地面に落ちている吸血杖ラミアーを素早く拾い上げると身構えた。
 ミランダの下位スキル・黒炎弾ヘル・バレットは彼女を知る人にはおなじみの魔法だ。
 地獄の炎に包まれた火球を高速で撃ち出すミランダお得意の攻撃魔法だけど、双子はアリアナの氷結拳フリーズ・ナックルの時のように事前に対処法を考えてきたみたいだった。
 
 僕はアディソンがアリアナの氷結拳フリーズ・ナックルを防ぐために発生させた不思議な蜃気楼しんきろうを思い返した。
 魔法を跳ね返すジェネットの得意技である『応報の鏡リフレクション』にも似ていたけど、アディソンの蜃気楼しんきろうは魔法を跳ね返すのではなくて、空間をねじ曲げて魔法を無効化するみたいだった。
 おそらく黒炎弾ヘル・バレットもまともには通じないだろう。

 ミランダ大丈夫かな。
 僕は不安になってミランダの背中を見つめた。
 でも彼女は相変わらず背すじをピンと伸ばしてまっすぐに立っていた。
 威風いふう堂々としたその後ろ姿からは不安や恐れは微塵みじんも感じられない。

「来い! 魔獣ども!」

 キーラはそう叫んで多くの魔獣を呼び寄せると自らはアディソンの背後に回り込み、いつでもミランダの魔法攻撃を回避できる態勢を整えた。
 アディソンは吸血杖ラミアーを構え、暗黒蜃気楼ブラック・ミラージュの呪文を唱え始める。
 双子の一連の動きは淀みなく流れるようだった。
 対ミランダの準備をしてきたってのは本当なんだ。
 それでもミランダは構うことなく右手を掲げて自慢の魔法を炸裂させ……えっ?

 その一瞬で何が起きたのか、僕にはまるで分からなかった。
 ミランダの右手の辺りがまばゆい光を放ち、その一瞬後……。

「うああああっ!」

 アディソンが自分の額を両手で押さえ、悲鳴を上げてその場に倒れ込んだんだ。
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